まいづる肉じゃが(仮題)   作:まいちん

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第55話

高雄に連れられて、横須賀鎮守府から来た駆逐艦娘たちは来客用の施設へと案内されていった。

 

どうやらこの後、有志で懇親会をやるらしく、冷泉も誘われたので仕事が終わり次第、顔を出す約束をしている。

 

しかし、どう見ても横須賀の駆逐艦娘たちは未成年にしか見えないのだけれど……。特に電なんてどうみたって小学生くらいにしか見えないんだけれど。アルコールなんて飲んで大丈夫なのだろうか。法的にも健康的にも問題ありそうなんだけれど。……まあ、艦娘と人間では体の構造が違うのだろうかもしれないし、そもそもアルコールとか飲むのかどうかも分からないし。

 

一人になった執務室で、冷泉は考え込んでいる。

 

どうしても考えてしまうのは、……加賀の事だ。

しかし、せっかく鎮守府に迎え入れることができた、待望の正規空母なのに、何でこんなことになっているんだろう?

本当なら、加賀を第一艦隊に編入し、航空戦力を大幅にアップできたことで、前回撤退した領域もおそらくは開放できる目処がたったというのに……。

なかなかうまくはいかないものだと、思わずため息が出てしまう。

 

それにしても――。

 

いきなり、慣れない環境に来た上にあの性格だから、ここの雰囲気に溶け込むまでは結構大変かもしれないんじゃないかと心配になる。先ほどの彼女の対応から見ても明らかだが、自分から他の艦娘に話しかけるようなタイプじゃなさそうだ。おまけに、あの横須賀鎮守府正規空母オーラを発散しているから、艦娘たちも近寄りがたいようだし。

ここは司令官として、加賀とうちの子達が交流できる、そういった機会を作ってあげないといけないだろう。

コミュニケーションはどこの職場でも必須だ。そして、鎮守府は深海棲艦と命がけで戦うために存在する組織だ。コミュニケーションの重要性は通常の会社との比ではない。一人でも浮いた存在がいたら、それは即、チーム全体の致命傷となる。

戦う前になさなければならない事は、お互いが相手をよく知り理解することだ。

本当なら、訓練の場や宿舎にいる時、艦娘同士が交流すればいいんだろうけど、今回の場合、相手が加賀だけにどうも自発的にはいかない可能性が高い。

ならば、その為に手っ取り早いのは仕事を離れた場での交流の場を設けることだ。それが上司としての権限を利用し、冷泉が作ってあげる。それが、上司として、まずなすべき事だ。

 

そうだ! 

少しベタではあるが、歓迎会でもやるのが一番簡単なんではないか。

いきなり飲み会というのは、冷泉のいた職場でもパワハラに近いものがあり、題になっていたが、冷泉にはそれしか浮かばないから仕方ない。そもそもそれ以外に何か方法あるのか?

いろいろ賛否はあるけれど、お酒はコミュニケーションの潤滑油になる事が多い。本来は楽しい会話にお酒が入るとより人間関係の潤滑油となるんだろうけど、この際、順番が逆でも、それはそれで真なりである。

それに艦娘たちは冷泉の事をよく知っていることになっているけれど、突然この鎮守府に放り込まれた冷泉は艦娘の全員と話してるわけではない。この機会にそれぞれの艦娘がどんな子かを知るチャンスでもある。

 

「ただいま戻りました」

いろいろ考えている時に、ドアが開き、高雄が帰ってきた。

 

「あ、高雄、ちょっといいか? 」

 

「はい何でしょうか」

何事か依頼があると思ったのか、彼女は早足でやってくる。

 

「今回、新しい仲間が増えたわけだから、ここは歓迎会みたいなものをやろうと思うんだけど、どうだろうか? 」

冷泉としては、とっておきのアイデアを示したつもりなのに、秘書艦の反応は何故だか、いまいちだ。

話が唐突すぎたのだろうか? すぐに補足説明を入れる。

「どうも加賀は自分から輪の中に入っていくタイプじゃなさそうだし、それ以前に、前の鎮守府で彼女は辛いことがあったから、ふさぎ込んでいる。そして、まだ克服できていないようだ。ここは気分転換っていくかどうかは分からないけれど、そういった懇親の場を設けて、何かきっかけを作ってあげるべきじゃないかと思うんだ。辛いことも誰かに話せば、そして聞いて貰えば少しは気持ちが楽になるだろうし、もしかしたら、それがきっかけで心を開いてくれるかもしれないだろう。もちろん、そうなればベストなんだけどな」

 

「ええ、提督の仰る事はおおむね正しいと私も思います。……けれどそんなにうまく行くのでしょうか」

何故だか心配そうに答える。

「どうやら、加賀さんにとっての赤城さんの存在は、私達が想像する以上に大きかったようですし。大切な存在を失った、その傷が癒えるのは提督が思うほど簡単なことではないかもしれませんよ。あの横須賀鎮守府を離れたいとまで思わせるくらいの出来事だったなのですから」

エリート艦娘のみが集まる鎮守府。そこにいた、しかもエース級として戦っていた加賀のことだ。あそこに愛着や誇りをもっていたはず。そして、自分に与えられた責任も。けれど、それらすべてを捨ててでも逃げ出したくなるほど辛い事があったということだろう。

そんな凄い所にいた事はないが、加賀の気持ちについては、想像する事だけなら冷泉にもできる。

 

「分かっている。簡単にはいかないってことくらいはね。けれど、人は後ろばかり向いては生きていけないものだろう? どんなに辛くたって、好む好まざるに関係なく、前に進まなければならないのだから。それでも辛くて耐えられないって言うのだったら、その時は俺や仲間が彼女の手を取り、支えてあげればいいんだ。一人では無理でも、みんなと一緒なら克服できる。乗り越えられない悲しみなんて無いと俺は信じる。人の意識は過去にあってはいけない。今を見、そして未来に向けられるべきなんだと思う。過去は変わらないし、変えられない。人が変えられるのは、未来だけなんだから」

 

「提督、ずいぶんと大きな話を言いますが、まあ否定はしません。私たち艦娘が過去にとらわれていたら、戦うことなどできませんからね。過去の重さに耐えきれないなら、艦娘として生きていられません。すべてを乗り越え、前を向くと言うことには賛同します」

胸に両手を当て、決意するように高雄が言う。この時、思い詰めたような表情をしたのは、何故だろう。

少し疑問を感じたが、それ以上、高雄が何も言わなかったので、冷泉は話を続けた。

「そう思うだろ? で、そのきっかけとして、懇親会なわけなんだよ。ちょうど第一艦隊はドック入りの子もいるから、出撃はできない。遠征中の第二艦隊が明後日だったかな、遠征から帰って来る予定だから、それにあわせてやろうじゃないか。層と決まれば善は急げだ。早速、みんなに回覧を回して、店も抑えておいてくれ」

そこで思いついて、言葉を続ける。

「まずは加賀に話さないといけないよな。すぐ宿舎に行こうか? 」

 

「いいえ、提督がわざわざ出向くなんてあり得ません。特別扱いなんかしてしまったら、外の子に示しがつきません。そもそも用事があるのなら、加賀さんを呼ぶべきです」

そう言うと高雄は受話器を持った。

「あ、加賀さんですか? 高雄です。……提督からお話があるそうなので、お取り込み中、申し訳ないのですが、こちらまで来ていただけますでしょうか」

なにやら一言二言やりとりの後、高雄は受話器を置く。

「まもなく来るとのことです」

 

―――そして数分後。

ドアがノックされて、加賀が入ってきた。

彼女は、入って来るなり冷泉をじっと見る。

気のせいか睨まれているような気がするが、たぶん気のせいだろう。

黙ったままで、何も言わず挨拶すらしてくれない。せめて何で呼ばれたかぐらいは聞きそうなものだけれど。

 

「忙しいところ済まなかったな」

 

「いえ、問題ありません。それに提督のご命令ですから」

仕方なく来てやった、と続きそうな雰囲気。相変わらず抑揚のないしゃべり方。けれども怒っているのか笑っているのか読み取ることができない、その表情。

特に威圧するつもりなど無いのかもしれないけれど、結構迫力がある。

これが正規空母の迫力かと、何故か感心してしまった。

 

「いや、来てもらったのは外でもないんだけどね……」

そう言いながら、椅子から腰を上げる。

「実は明日、君の歓迎会をやろうと思っているんだ。ちょうど遠征中の第二艦隊も明日帰ってくるからね。だから、時間を空けておいて欲しいのだが」

ニッコリと微笑んでみせるが、すこし引きつった笑いになってしまう。

 

彼女は無言のまま冷泉をしばらく見つめると、ため息をついた。

本人はそんなつもりは無かったかもしれないが、話を聞いた瞬間、明らかに失望に満ちた表情をした。

「ごめんなさい」

いきなりの謝罪から加賀の言葉が始まる。

「……歓迎会とかそんなセレモニー的なものは苦手なので、ご遠慮させてもらえますか。わざわざ私なんかのために、他の皆さんの貴重な時間を割いていただくなんて心苦しいです。それに提督……そもそも私などためにそんな気を遣っていただかなくても結構です」

 

「いや、遠慮なんかいらないよ。それに、もう、みんなに回覧回させたし、店も押さえたんだよ。だから……」

と、半分嘘を言う。とりあえず既成事実としてしまえば、加賀もなかなか断りにくいだろうと考えた。遠慮してるなら、もう決まったことだから今更断れない的な雰囲気にしてしまえば、嫌がっている彼女も少しは気が楽だろう。確かに自分一人のために、全体が集まるなんて照れくさいし恥ずかしいし面倒くさい。それは分かる。

 

「そうですか。それなら、仕方ありませんね。……せっかく準備してもらったなら、皆さんで楽しんでください」

と、加賀。

 

「は? 」

冷泉は何か言おうとしたが、彼女の冷たい目で睨まれたような気がして、次の言葉が出てこなかった。

それにしてもあっさりと加賀に断られた。考えたような振りだけは一応したみたいだが。

 

「ええ、そんなあ」

思いがけず、冷泉の口から情けない声が出てしまう。

これには秘書艦高雄も苦笑いをしてしまう。

 

「せっかく誘ってもらったのに、ごめんなさいね。けれど、私の事なんか気にせずに、どうか皆さんで楽しんでください。……ところで提督、用事はそれだけかしら? 」

 

「う……うん」

と、答えるしかなかった。

何か他の用事はないか一生懸命考えたが、何も出てこなかった。そもそも、懇親会に誘うことしか考えてなかった。その他のことはノープランだ。

 

「そう。……だったら、これで失礼しますね」

そう言い残すと、彼女は出て行ってしまった。思いの外ドアが強めに閉められたのは気のせいだろうか。

 

「うわっ。本当に断られた」

頭を抱えるとへたり込むように椅子に倒れ込む。

 

「ふられちゃいましたね。まあ、確かに誘い方がスマートでは無かったかもしれませんね。……それに提督は気づいていなかったかもしれませんが、少しスケベな目で加賀さんを見ていたのもいけませんね。けれども、たとえエッチな気持ちで誘ったとしても……あの物言いは提督に対してあまりにも失礼だと思います」

と、少し怒ったような口調になっている。

「いくらなんでも、ちょっと問題です」

 

「まあまあ。お酒が苦手とか、体調が悪いとか、人前に立たされるが嫌だとか、そういうのがあるのかもしれないから」

いつの間にか秘書艦の怒りをなだめる役目になっている。

 

「ふう、そんなものなんですかね。よくは分かりませんが……彼女の態度を見る限りでは、たしかに、今はそっとしておくしか無いのかもしれませんね。それが正しいかどうかは分かりませんが……」

少し呆れたように秘書艦が呟く。

 

「けれど、せっかく着任したっていうのに、何も無しっていうのも寂しいだろ。飲み会だけじゃなくて、加賀の件はこのままにしておく訳にはいかないからな。まあもう少しいろいろ考えて粘ってみるよ」

 

「提督は、加賀さんにご執心ですね」

と皮肉られる。

少し、加賀にこだわりすぎているのだろうか。

 

「違うよ。せっかくここの一員になったんだから、みんなと仲良くしてもらいたいし、そうでないと、これからやっていけないだろう。あのままでは、彼女はここで孤立してしまうだけだ。確かに、加賀は優秀な正規空母だと思う。けれどどんなに優秀だろうと、空母だけでは戦いに勝つことなど不可能だ。圧倒的と言える航空戦力だって、みんなと連携して初めてその力を発揮できるのだから。……それにそんなことよりも、どんな理由があるにせよ、拒絶されたままだと俺たちも寂しいし、そして加賀も悲しすぎるだろう。このままじゃいけないんだ。……こんな事言っていいのか分からないけれど、俺たちは常に死と隣り合わせの戦場にいるんだ。そこでは、いつ自分が命を落とす事になるかもしれないし、逆に誰かの死を看取る事もあるだろう。そんなと時、なさねばならないことをなしていなかったら、きっと後悔してしまう。それだけは避けなきゃいけないんだ。あの時、ああしてたら良かったとか、ああ言ってたら良かったなんて思い後悔するなんて悲しすぎるだろう? 失ってからいくら後悔したって、何もかも遅すぎるんだ。だから、できることはやっておきたいんだよ。やらなきゃいけないんだ。たとえ、拒否されたとしてもね」

 

「提督のお考えに私も賛成です。後悔したまま死んでしまうとか、誰かを看取ることは、それはとても、……とても辛いことでした。だから提督のお気持ちは、私にもよくわかります」

何故だかその時、高雄の瞳が潤んでいるように思えた。

艦娘として、戦場で戦ったときの事を思い出したのだろうか。それとも、彼女が本当の重巡洋艦だったころのことを思い出したのだろうか?

艦娘に前世の記憶があるのか? それを一度聞きたいと冷泉は思っていたが、聞けずにいた。もしその記憶があったとしたら、悲しい思い出しかないだろう。そんなことを聞いてどうするのか。

「だから、加賀さんに心を開いて欲しいのは私も同じですよ」

 

「……もちろん、俺は誰一人として、死なせるつもりなんてないけどな」

そこで言葉を切ったけれど、本当は、お前たち誰一人として、もう二度と悲しい思いをさせるつもりなんか無い、と言いたかった。けれども、言えなかった。

この先、戦いはずっと続くだろう。

まだ冷泉は実戦経験が乏しい。だから、未来のことは想像するしかないのだが、仮にこれから先ずっと勝ち続けることができたとしても、戦いは苛烈さを増していくのは間違いない。領域を開放し続ければ、当然、より強い敵のいる領域へと進出していかなければならない。そうなれば、より強い敵、困難な任務となり、冷泉の艦隊が全くの無傷で勝利し続けることなど不可能となっていくのだろう。

そして、時に誰かを犠牲にしてでも勝利しなければならないような選択を迫られる場面もあるだろう。それどころか、戦いに敗れ、この前の領域解放戦の撤退時のように、誰かを見捨てなければならない場面に直面することもあるかもしれない。

果たしてその時、今のこの気持ちを維持し、自分は彼女たちを守りきれると断言できるのだろうか。

そう思うと、「絶対に」という言葉を口に出せなかった。

 

今の戦力では、そう遠くない未来に、そのような選択を迫られることになるだろう。

 

このままではいけないのだ。

 

戦力を増やすことは、舞鶴鎮守府にとっては必須。そして、新たな仲間となった加賀を今のまま放っておくことはできない。彼女には立ち直ってもらい、戦力として活躍してもらうようにならなければ、加賀だけでなく、他の艦娘もどうなるかわからないのだ。

そして、思い知らされる。

 

―――自分の無力さを。

 

艦娘たちに頼らなければ、何一つできない自分を。

 

「提督? 提督大丈夫ですか? 」

突然、何か思い詰めたように黙り込んでしまった冷泉を心配してか、不安げな表情で高雄が見つめる。

 

「ん? ああ済まない。少し考え事をしてしまった」

努めて何事もなかったように笑顔を作る。はたして、上手くごまかせただろうか?

 

秘書艦は、安心したように笑顔を見せた。

「いきなり黙り込んだので驚きました。で、さっきの話なんですけどね……」

そう言って少しいたずらっぽい笑みを浮かべる。

「懇親会っていうのはいいんですけど、この前の島風の歓迎会の二の舞になりそうな予感がして、私は不安なんです」

 

「うわ、……いや、あれはね、あれ何だよ。そう、そうなんだよ。……はい。もうあんまり言わないでください。反省してますから。もうしません」

まるで記憶のないことを、さも自分の失敗のように認識し、照れて反省する演技をしなければならないのは辛かった。どうしても不自然になってしまうが、秘書艦は気づかなかったようだ。

ほっと胸をなで下ろすが、この演技をずっと続けられるのか不安になる。

 

「私が秘書艦である期間は、二度とあんな事が無いように、しっかりとセーブさせていただきますからね。あ、そういえば、提督がふらふらしないように金剛さんががっちりマークするとか言ってましたし。私も秘書艦として、負けないようがんばります」

妙に力を込めて高雄が宣言をする。

何を頑張るのか、冷泉には分からないけれど。

 

「まあ、それはともかくですね……歓迎会も大事かもしれませんが、次の領域解放戦に向けた準備も必要なので、そのことはお忘れにならないようにしてくださいね」

と、釘を刺される。

 

「心配しなくても、大丈夫。当然、考えているよ。だからこそ、次の戦いで必要となる加賀のことが気になるわけなんだよ。そのためにも加賀には来てもらわないとね」

領域解放戦には、ノルマ的なものがあるのだ。

開放のノルマというものは無いが、出撃ノルマはあるのだ。出撃回数や開放エリア数、撃破数、味方損失、勝率、情報収集……などなど。そういったものが数値化されて鎮守府として採点されることになるのだ。それにより鎮守府としての成績判定が行われ、それに応じて資材などの配給量が変化する。個人の話になると、あまり最下位が続くようだとと、能力無しということで、提督の座を追われることもありうるのだ。そして、成績の優れた者はさらに上のポストへと進むことができるようになっている。

もっとも、鎮守府提督は、海軍の中でもかなり上位のポストなのだけれど。

当然ながら、艦娘も鎮守府の成績に応じて、評価される。何事においても成果主義成績主義となっているのだ。

とにかく、そういった事情もあり、いつまでも第一艦隊を編成せずにいるわけにもいかないのだった。

それに、放っておけば領域は通常海域を浸食してくる。領域解放までは行かないまでも、出撃することにより敵戦力を削り、これ以上の浸食を抑える意味もあるのだった。

 

「そうだ。そろそろ時間だし、横須賀の駆逐艦娘たちの親睦会に行くとするかな」

 

「そうですね。いろいろありましたが、今日の業務は終了しましょう。でも、提督、飲み過ぎにはくれぐれも注意してくださいね」

何故か釘を刺される。

 

「信用がないなあ。大丈夫だよ、顔を出すだけなんだから……」

冷泉は心配そうにこちらを見る秘書艦に、自信たっぷりな笑顔を見せると、親指を立てて見せた。

 

 

そして、話は翌日の午後に飛ぶ……のだが。

 

「はあ……頭痛い。気持ち悪い……」

冷泉は、水が半分入ったガラスコップを両手で握りしめ、グラスの縁を見つめながら苦しげに呟いた。

頭がガンガン痛いし、のどが異常に乾いている。

 

昨日は飲み過ぎた。本当に飲み過ぎた。調子に乗りすぎた。

おまけに途中からの記憶が無いし……。

 

朝だって高雄に起こされなかったら、ずっと寝ていたかもしれない。

 

そして、頭が、猛烈に痛い。

何もする気にならないし、できそうもない。

 

最悪だ……。

 


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