まいづる肉じゃが(仮題)   作:まいちん

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第31話

舞鶴鎮守府第一艦隊は、単縦陣の横腹を急襲され、艦隊を分断される形となってしまった。

 

「敵は巡洋艦2隻、駆逐艦2隻……ううん、まだまだいるみたいダヨ。駆逐艦4隻! どーしようテートク! 」

なんとか敵の艦種とその内訳を伝えようとするが、声がうわずる。

 

モニタに映し出された艦影の上にポップアップされるウィンドウを注視する。

 

軽巡ヘ級    2

 

駆逐イ級elite 1

 

駆逐ロ級  3

 

まずいな……。艦種を見て最初に思ったのはそれだ。さきほどの艦隊とはレベルがまるで違う。そしてさらに奇襲を受けている。

さて、どうすればいいのか。

 

気づかないうちに縦長になってしまっていた艦列の土手っ腹を付かれてしまい、大井・扶桑・祥鳳・高雄と冷泉のいる金剛・神通の二手に分断されてしまっていた。しかも、大井と神通は索敵のため相当な距離を開けて索敵を行っていたため、全速力で戻ったとしてもすぐには合流することはできないだろう。

 

戦艦二隻、軽空母一隻、重巡洋艦一隻を擁するこの艦隊も、たとえ偶然とはいえ、分断されているため、いつの間にか数的不利な状況に追いやられてしまっている。

それだけではなく予想外のタイミングでの敵との遭遇のため、艦娘たちには動揺し混乱している。

雨、霧、風。

冷泉の艦隊にとっては、ただただ不利な条件でしかない。艦載機が出せない為に巡洋艦に索敵を任せざるをえず、兵力を分散させてしまった。気象条件だけで空母および軽巡洋艦の三隻が戦力計算できない状況にされてしまったのだ。

 

しかし、すぐに気持を立て直そうとする。現状から苦戦は必至だが、嘆いても仕方がない。とにかく味方と速やかに合流し、体制を立て直すこと。それが完了しなければ勝敗を論ずることさえできやしない。

 

「金剛、心配するな。俺たちはまずは神通と合流する。そして扶桑たちと連携し、反撃する。扶桑たちにも伝えてくれ。大井と合流しつつ、敵を挟撃すると。」

と言ったものの、状況は芳しくない。

合流するにしても時間が掛かかりそうだが、それを口に出せば金剛が不安になるだろう。

 

「しかし、どうやら敵は時間を与えてくれないようだな」

モニタを見ながら冷泉は呟いた。

 

「テートク、敵艦隊は二手に分かれて攻撃してくるみたい」

と遅れて金剛が状況を伝えてくる。

 

軽巡ヘ級1隻、駆逐イ級elite1隻 駆逐ロ級1隻が高速でこちらに接近して来ている。

それ以外の艦は扶桑たちと交戦するつもりらしい。

 

好むと好まざるとに関わらず、

①金剛VS巡洋艦1駆逐艦2

②扶桑空母重巡VS巡洋艦1駆逐艦2

で艦隊戦が始まることとなる。

 

戦力的にはこちらが優位であることに変わりはない。しかし、奇襲をかけられたため、いつの間にかこちらが数的不利な状況に追いやられてしまっている。

 

雨は未だ降り止まず、霧も先ほどよりはわずかにましになった程度でしかない風は未だ強く波も高いままだ。艦は波に上下に揺られている。

 

現状のままでは、とても艦載機の発艦は不可能だ。

 

「空母の航空戦力は計算できないか……」

思わず呟く。

金剛は、不利な状況で3隻を相手にしなければならないわけだ。

 

「テートク、私に任せて下サーイ! 敵をぶっ飛ばしてやるネー」

考え事をしていた冷泉が不安げに見えたのだろうか。自らを鼓舞するかのような口調で金剛が答えた。

 

確かに現状は劣勢となっているが、扶桑たちチームがに大井が合流すれば数的能力的にも上回る。扶桑たちが敵をなぎ払い、こちらに援護に駆けつけることができれば、形成は逆転するだろう。

 

しかし、奇襲による混戦のため、戦力的には互角以上に戦えるはずであっても扶桑たちも苦戦は避けられないだろう。

 

金剛はさらに状況が悪い。

3つの敵を相手にしなければならない上に、初戦の敵より格が上の艦船が襲撃して来ている。軽巡洋艦に駆逐艦。その中には能力的には一般駆逐艦を遙かに凌駕するeliteまでいるのだから。

 

まだ射程外でありながらも敵は砲撃を始めながらこちらへと向かってくる。

金剛の近くに水柱が複数立ち上がる。

先の艦隊戦の敵と比べ明らかに着弾する精度が高い!

 

「回避運動を取りつつ敵との距離を保つんだ。……神通と合流するまでむやみに戦火を交える必要は無い」

と冷泉が指示する。

しかし、金剛には聞こえなかったのか、正面から接近する巡洋艦と駆逐艦に対し、金剛の主砲が轟音とともに火を噴く。

 

―――まだ距離が遠い。この距離で命中するはずがない。

 

「何をやってる、金剛。こんな距離から当たるはずがない。無駄に弾薬を消耗するんじゃない」

 

しかし、冷泉の予想に反し駆逐艦から爆発音と共に火柱が立ち上る。

「ひゃっほうー!! 命中!! テートク、やったヨー」

横で飛び上がり歓声を上げる金剛。

 

冷泉の視界に表示された敵艦のステータス表示。

攻撃が命中したのは駆逐イ級のはず。

 

駆逐イ級elite 耐久値 34/35

 

今、砲弾が命中したはずの敵艦のHPバーはほとんど減っていない。

 

睡眠不足のために、頭にもやがかかったようで、ぼんやりしていていまいち思考がうまくいかないが直撃ではないことが分かった。しかし、たとえ掠めただけだとしてもあの火柱。戦艦の主砲を受けてあの程度のダメージの筈がない。なのに……。

「気を抜いちゃだめだ、金剛。弾は擦っただけだ……」

 

「うっそー! でも火柱が上がっているよ。黒煙もモクモク出てるしー」

駆逐イ級からは、激しい火花と黒煙が立ち昇っている。その黒煙は風に乗り横へとたなびき、濃密な黒のままそして広がっていく。

風下になっているこちらの方へと黒煙が流れてきている状態だ。

肉眼での見た限りでは敵の運が良くても中破状態、普通に考えれば大破状態と判断して間違いない状態だ。しかし、冷泉の視界に表示されるステータス画面ではほとんどダメージを受けていない。

 

巡洋艦が金剛の砲撃エリアから逃れるように蛇行しながら砲撃を繰り返しながら高速移動している。あともう一隻は……。

黒煙の中、もう一隻の駆逐艦がいないことに気づく冷泉。

 

ステータス画面も消えている?

 

「金剛、気をつけろ、もう一隻の駆逐艦がいない」

 

「え? 」

 

「金剛! 右だ」

視界の隅にステータス画面をとらえた冷泉が警告する。

いつの間にかもう一隻の駆逐艦が黒煙の中、冷泉たちに気づかれることなく接近していたのだ。

敵艦から立ち昇った黒煙は金剛の攻撃により被弾したためではなく、金剛の攻撃に合わせて敵が使用した煙幕のだったのだ……。巡洋艦の砲撃もこのための陽動なのだ。

「クソ! なんで」

こんな単純な手に引っかかってしまうとは。

 

しかし、冷泉の思考などお構いなしに駆逐艦が砲撃を始める。さらには反対側からは巡洋艦が砲撃をしてくる。

そして黒煙を上げていたはずのもう一隻の駆逐艦がその黒煙の中から飛び出して来ながら砲撃を始める。全くの無傷で。

金剛は何を攻撃していいかが瞬時に判断できず、砲撃をするだけだ。

 

「もう! どこ撃てばいいのぅ! 」

 

そして側面から肉薄するロ級が魚雷を放った。さらに前方の駆逐イ級、そして軽巡ヘ級が続けて雷撃を開始する。……三方向より白い軌跡がこちらに高速で向かってくるのが見える。

 

「金剛、魚雷が来る。回避運動を取るんだ」

付近に砲弾が着弾し水柱を立て、金剛の移動範囲を狭めようとする。敵艦三隻は、意図的に回避ルートを狙って砲撃を加えてくる。

金剛は弾幕の中、必死で回避運動を行い、二本の魚雷はなんとか回避する。しかし、回避した先に最後の一本の魚雷が直進してきていたのだ。

 

「oh no! ダメー、回避不能!! テートク、駄目デース。衝撃来るネー。伏せてぇー」

金剛が冷泉を庇うようにして抱きしめる。

 

ドーン!

 

激しい爆発音が聞こえる。しかし続いて来るはずの衝撃が無かった。

 

「誤爆か? 」

 

思い閉じた目を開くと、戦艦金剛を庇うように一隻の船が駆逐イ級と金剛の間に立ちふさがっていたのだった。

 

「神通! 」

 

「神通!! 」

 

二人同時に叫んでいた。

 

なんと、あの距離を全速力で帰ってきた神通が金剛を庇って盾となり、敵魚雷の直撃を受けたのだった。

たとえ移動に全エネルギーを費やしたとしてもこの短時間では到達不能だったはずなのに、彼女は金剛と合流した。さらには金剛を直撃する筈の魚雷を身を挺して防いだのだ。

 

神通の左側面から黒煙と火焔が巻き起こる。

続けて敵の砲撃が神通に降り注ぐ。


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