まいづる肉じゃが(仮題)   作:まいちん

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第28話

唐突に―――

艦隊戦は始まった。

 

敵艦体の編成は、どうやら駆逐艦のみの編成で、……その数4。

ノイズまみれのモニタ越しに見えるそいつらの敵影は、冷泉が普段見慣れていた船の形をしていなかった。

「艦これ」をやったことのある人ならそれについてあまり違和感を感じない? かは分からない。いや、現実にあの形をしたものを見てしまったら、違和感を感じないわけがないけれど。

当然ながら、冷泉にとってもその姿を見たときは圧倒的な違和感を先に感じた。違和感? いやそうじゃないな。感じたそれは明らかに恐怖感。握りしめた両手は、いやな汗をかいている。

明らかな非現実を突きつけられて、僅かながらもパニックに陥りかけてるのかもしれない。

 

今は、とにかく冷静になるしかない。

 

再びモニタを見る。

映し出された深海棲艦。パソコン画面で見るのモノと現実に見るのモノとではその迫力が違いすぎる。……外見からはどう見たって船ではなく、B級のSF映画に出てくるようなクリーチャーしか見えないのだ。

 

海面にのぞいた姿は黒に近い灰色で、頭だけを水面に突き出した亀をクリーチャー化させたモノにしか見えない。眼らしきものがふたつ、遠くからでも碧色に光っている。歯もあるようで時折、むき出しになったそれをパクパクさせている。その辺が亀とは違うところか。水面下の体はどうなっているかはモニタから判別はできない。しかし、ゲームと同じなら体は存在せず涙滴形状をしていんだろう。

見える範囲で確認しても武器を装備しているようには見えない。どこから砲撃や雷撃をするのだろうか。

 

何かの合図があったのか唐突に4隻の敵艦がこちらに向けて進み始める。

敵艦の頭上にポップアップ画面が表示されている。

 

【駆逐イ級】

4隻とも同じ名前が表示されている。ゲームでいうと一番の雑魚だ。

一つの艦の上に表示された画面を無意識にタッチすると、隠れていた詳細画面が表示される。

 

艦名   駆逐イ級

レベル  2

火力   5  

雷装   15

対空   6

装甲   5

耐久   20

射程   短

装備   5inchi単装砲

 

対空装備は無さそうなのに対空が5あるのか。……つまり対空5程度では意味がないということかな。

 

さらに思考。

少し安堵する冷泉。

どう考えてもこちらの戦力が敵を圧倒している。

そして結論。

負ける要素は無いね。

 

「敵艦隊接近ネー。全艦砲撃準備。……派手にやってやるネー!! 」

考え事をする冷泉を置いてきぼりにして、金剛が勝手に指示を出し始める。

「私に続いて全艦、進撃開始-」

 

言うより早く戦艦金剛のエンジンがうなりを上げ、ゆっくりと進撃を始める。他の艦も同じように動き始めた。

陣形とかそんなもの全く無視した、てんでばらばら無秩序な隊列で進み始める。

「おい、おいおい、金剛ちょっと待った」

 

「No! デスよ。今は戦闘中ダヨ。……そして敵艦、急速接近中ぅ。モタモタしてたら狙い撃ちされちゃうよ、テートク! 」

やや興奮気味に捲し立てる金剛。完全に瞳が戦闘モードだ。

 

しかし、……いつもこんな感じで艦隊戦が始まるのだろうか? 何の戦略もなく勢いだけで戦端を開くなんて。少し呆れ気味に少女の横顔を見つめた。

「敵艦、まもなく射程内。全艦、砲撃準備。合図を待って……」

金剛が各艦へ指示をしている途中で、先に深海棲艦の砲撃が始まった。

 

ぽん、ぽん。

 

さすがに小型の駆逐艦からの砲撃であり轟音をとどろかすことなく、なんというか……とても軽い炸裂音だ。

おまけに射程外だからこちらに届くこともない。さらには照準もまともにとれていないのか見当違いの方向に着水し、ぽしゃぽしゃ水柱を立てられる。

 

モニタに映し出された敵艦に視線を戻すと、拡大表示された深海棲艦の頭部が少し持ち上がり、そこから砲門がせり出していた。魚雷発射管も同様なのだろう。なるほど、普段は隠しておいて水や空気の抵抗を極力減らしているのだ。

その砲門は固定式にしか見えず、どうやら回転することはなさそうだ。魚雷も同じだろうな。つまり、側面もしくは背面を取ることができれば、敵の攻撃を受けることなく撃破できそうだ。もちろん背面に武器が隠されている可能性も否定はできないけれど、敵のステータス画面に表示された武装からして他に武器は装備していない。

 

これは結構楽勝かも……。

たいした根拠も無く、そんなことを冷泉は考えてしまう。自身がうまいこと指揮をすれば思ったより楽勝かもしれない。

 

現在のこちらの陣形を確認する。

確認するには補助モニターに自艦隊の状況を写されているのを確認すればいい。……そして、それを見て少し呆れた。

基本、横陣形で進んでいたらしいが、艦のそれぞれの最高速度が異なるのは分かっているのに、艦娘たちは、めいめい好き勝手に進撃を始めている。このため、船速の違いにより、でこぼこで無秩序な陣形になってしまったいた。

速度の速い巡洋艦が前に突出してしまい、金剛、祥鳳、重巡高雄が続く。足の遅い扶桑だけがだいぶ遅れてしまっている。

 

そして、何の指示もないままに大井、神通が砲撃を始める。

 

「おい、まだ射程に入っていないじゃないのか」

冷泉が止めようとするまもなく、

「全砲門ファイヤー!! 」

どこかで聞いたような台詞がすぐそばで発せられたと思うと、耳を劈く轟音と視界が消し飛ぶような閃光!! 全身を揺さぶる振動が前方より襲ってきた。

旗艦金剛の砲撃と時を同じくして他の艦も砲撃を始めたようだ。……当然ながら好き勝手に。

 

心臓が止まるかと思うほどの戦艦の砲撃の衝撃で、気を失っていたのかもしれない。なぜなら、冷泉が気づいた時にはすぐ近くを灰色がかった黒いクリーチャーかと思うような巨大な物体が猛スピードですれ違っていったからだった。

 

遠目には小さいと思ったが駆逐艦というだけに全長は100メートルはある。近くでみると、やはりデカイ!! おまけに見たこともない不気味な形状だからさらに異様な迫力に圧倒されてしまう。

おまけにすれ違いざまに緑色に光る目のようなものと目が合ったような気がしたし。

結構寒気が走った。わりとマジで怖い。

 

形は涙滴形状だ。正確には魚雷みたいな形というべきか。跳ね上げる波ではっきりとは認識できなかったが、後部には白い足らしきものもあるようだ。そしてバックリと開いた口には巨大な歯が生えている。

時折、海水をはき出すようなそぶりも見せる。

しかし、口があるということは何かを食べるのだろうが、あの巨大さでいったい何を食べるのか。仮に食べるためでないなら、武器として使うつもりなのだろうか。

何にしても、その使用方法に思いをはせると、とても気持ち悪い。

 

どうやらこちら側も敵側にも損傷は無かったようだ。射程外から好き勝手に発砲したってなかなか当たるもんじゃない。このままでは、すれ違った後、素早く回頭反転して再び戦火を交えるのだろう。

だけど、こんなのを続けていたら、それはただの消耗戦でしかないネー。

 

「金剛! 金剛!! 」

 

「はい、何です? テートク」

 

「ちょっと待ってくれないか。今から艦隊の指揮は俺が執る。だからお前は他のみんなに俺の指示を伝えてくれ」

 

「わお。……それはカマイマセンが、そういった事は初めての事なのでうまく行くかワカリマセンよ」

 

「おいおい、今までの艦隊戦ってやつは、どうやってたんだ? 」

驚いて問い返してしまう。

 

「基本的な戦術については、鎮守府会議室でテートクが前もって指示してくれてて、その後の戦場においての行動は臨機応変やるように私たちに判断は任されていたデスね。領域に入ってからのテートクの仕事は、撤退か進軍かの判断をしてたくらいかなあ。だって、こちらからの映像は向こうには届かないからねー」

何故か自慢げに答える金剛。

 

そういやゲーム世界でも提督ができることって編成および進軍撤退くらいだったよな。戦闘においては好き勝手に砲撃をやらかし、てんでばらばらの攻撃で沈めるべき敵を沈めず、どうでもいい敵を集中攻撃したりしてたよなぁ。

 

「まあいいや。とりあえずこのままで、あと1キロは前進してくれ。その間に陣形を組み直す。大井を先頭。次に金剛、扶桑、高雄。その後に祥鳳。殿は神通の順に単縦陣を組む」

 

「オーケー。了解ネー」

直ぐさま、秘書艦らしくてきぱきとした口調で金剛が伝達しているようだ。

指示のもとに速度を落としたり早めたりして艦船の並びが入れ替わっていく。そして冷泉の指示通りの並びとなった。旗艦を先頭とするのが正式なのかもしれないけれど、ここは攻撃に即した並びとしている。

 

「よーし。このまま一列の単縦陣を維持し、1分後に逐次回頭を行う。速度は扶桑に合わせろ」

 

「了解ネー」

金剛が各艦に指示をする。指示をする際は言葉には出さないようだ。テレパシーかなんかなのだろう。

モニターを見ると敵艦隊は単横陣のままこちらを追撃してくる。


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