まいづる肉じゃが(仮題)   作:まいちん

24 / 255
第24話

舞鶴鎮守府第一艦隊は佐渡島に到着した。

 

島は現在、陸軍の工作部隊(旧陸上自衛隊東部方面隊第12旅団)と民間建設会社の混成部隊により復興作業が行われている。港には部隊を輸送してきた輸送船や工作船が停泊し、それらを護衛するために巡洋艦・駆逐艦等が警備にあたっている。

 

警備については大湊警備府と舞鶴鎮守府の艦隊が交代で行っているらしい。本来なら舞鶴鎮守府が行うべき業務であるが、海域解放を行ったのが大湊警備府艦隊であることと、舞鶴鎮守府にすべての警備を行うほどの艦船が無いということが原因でこの状態になっているとのことだった。

 

積み卸し作業の間に冷泉は島に上陸を行った。

それは重大な目的を果たすためだった。

ちなみに金剛と扶桑は荷物の積み卸し作業の立会があるためどうしても抜けられないということらしく同行はできないとのことだった。そこで冷泉は神通に同行を命じた。

陸軍の現場司令部を訪れ、食料の調達と仮設トイレを一基借りる交渉を上手くとりまとめることができた冷泉は両手一杯に保存食と水を抱え、ご機嫌で歩いていた。

斜め後ろを橙色のセーラー服を着た神通が歩いている。黒のミニスカートから伸びた生足に目が吸い付けられる。

出会った当初からずっとなのだが、いつも何か自信なげで怯えたような目で冷泉を見ている。同じような態度を示すタイプで羽黒もいるが、少しタイプが違うかな。どちらもとっても気になる艦娘ではあるのだが。艦これにおいても結構使っていたこともあるし、史実においても興味深い艦であったからね。

彼女はレジ袋に詰め込んだペットボトルの水を軽々と持っている。6本は入っているから艦娘はみんな怪力だな。

 

「なあ、神通」

 

「は、はいっ! 」

冷泉の問いかけに驚いたように反応する神通。

 

「いや、そんなに緊張しなくていいんだよ。もっと自然に話してくれたらいいよ」

 

「い、いえ。司令官に気軽に話しかけることなんてとんでもないです……」

 

川内型 2番艦 軽巡洋艦 神通(じんつう) LV20。

彼女の頭の上にポップアップした画面を見る。改造可能レベルになっているのに彼女も強化されていない。

大井もそうだし、どうして前の提督は改造をしていないのだろう。艦隊が更に強くなるし、そうなれば勝率、艦娘の生還率もアップするというのに。

それは怠慢? それとも別の理由があるというのか。

そんな詮無きことを考えてしまったのかしばらく黙り込んでしまった。それを冷泉が怒ってしまったと思ったのか神通が申し訳なさそうに声を上げた。

「す、すみません。私、提督のお気に障るようなことをしたのでしょうか? でしたらどんな罰でも受けます」

 

えへへ。どんな罰でも受けるのぅ~??

なんかドMな性癖に目覚めてしまいそうな神通の態度に妙な反応をしてしまいそうになるが、今はそんな時ではないのですぐに軌道修正を行う。

「もっと自然な感じで俺に話してくれ。立場上、死地にお前たちを駆り立てることしかできない俺だ。だからせめてお前たちの気持を知っておきたい。お前たちが何を思い、何を考え、何を欲しているか隠し立てすることなくすべてを俺に話しておいて欲しいんだ。お前たちがどういう状態でいるのかを知ることで少しでもお前たちが生き残ることができる戦略を立てられる事ができれば……。戦いはどうしようもない避けられない事だけど、少しでもお前たちが生き残ることが俺の最大の望みだから。……何を甘いことを言っていると思うかもしれない。けれどこれは俺の本音だ。これはみんなに知っておいて欲しいんだけど、なかなか話す機会が無くてね」

話している間に自分の言っていることのクサさに照れてしまう。

 

神通はじっと冷泉を見つめている。

なんだか目が潤んでいるようにさえ見える。

 

「て、提督。そこまで私達の事を考えてくださっていたんですね。嬉しいです。こんな私のことさえも気遣っていただいて。本当に嬉しいです。ありがとうございます」

 

「だめだめ、そんな話し方。あまりに他人行儀だぞ。もっとくだけた話し方で構わないよ。もう一回やり直しだよ」

 

「はい。……あり、ありがとう、提督。……でいい? 」

少しはにかみながら言い直す神通になんか来た。

 

「お、おう。それでいい。それでいい・良い感じだ」

なんとなく、満足感。

「それから、歩くときはもっと俺の横を歩けばいい。こっちへおいで」

 

命じられるまま、神通は少し離れてはいるが冷泉の横へと来た。

「そうだなあ。これくらいの位置関係じゃないかな」

そう言って冷泉は肩が触れるくらいまで近づく。

 

「え? 」

少し驚く神通。

 

「本当は腰を抱くんだけど、荷物が一杯で無理だから今日はこのくらいで勘弁な」

直ぐ側に彼女の顔がある。驚いたような照れたような顔をしている。

これで少しは彼女と自分の距離が近づいたかなと一人納得する冷泉だった。この調子で他の艦娘たちとも距離を縮めていきたいと願う。

 

艦娘たちに戦いを強いる立場の自分が何をやっているんだ? と疑問を呈する自分がいる。彼女たちを人間と同じように扱ってどうするつもりだ? 自分に対する偽善か? と批判する自分がいる。

そもそもどうして艦娘と戦地に赴く必要があるのか。自らの命を危険にさらしてどうするつもりなのか? 一緒に死線をかいくぐることで少しでも自分の罪の意識を減らそうとでもいうのか。

すべてが偽善でしかないぞ、それは。

お前は「艦これ」というゲームのように安全なディスプレイの前で艦娘たちを効率的に殺し、戦いに勝利すればいいだけなのだ。感傷的になるくらいならゲームなどやめてしまえばいい。

 

違う。降りられるくらいならこんなゲーム降りてやるさ。けれどそれはできない。まだこの世界の一端すら垣間見られていない状況であるけれど、自分がこの立場を放り出して逃げたところで誰かがこのポストに据え付けられるだけだ。彼女たちが戦わざるをえない立場であることに変わりはない。

ならば自分自身がやるしかないんだ。

舞鶴鎮守府の艦娘たちと出会ってしまった以上、彼女たちの命運を預かる立場に据えられてしまった以上、引き下がるわけにはいかない。何の能力もない自分ではあるけれど、絶対に彼女たちを守ってみせる。そうせざるをえないのだから。それは義務ではないけれども、やらなければならないことなんだから。

 

「提督、ど、どうしたの? 」

まだぎこちない言葉ながらも神通が問いかけてくる。

 

「いや少し考え事をしてしまった。ごめんな。なあ……神通」

 

「はい? 」

 

「この戦い、きっと勝利してみんな一緒に帰ろうな」

 

神通はニコリと微笑んで答えた。

「もちろんです。私は、いえ、私達はみんな提督の事を信じていますから」

 

その言葉の重さを感じながら、彼女が寄せる信頼に必ず応えてみせると冷泉は誓った。

 

「帰ったら、もっと提督とお話がしたいです。だ……だめですか? 」

 

「そんなことないさ。もちろんOKだよ。俺もお前ともっと話してみたいからな。……さあ、みんなが待っているから行こうか」

 

「はい」

 

肩を寄せ合いながら冷泉と軽巡洋艦神通は艦隊が停泊している港へと急いだ。

 

 

 

 

―――そして。

 

帰るなり金剛に怒られた。

 

「ちょっとー、テートクー!! 何ですか、あれ!! 」

金剛はプンスカしながら戦艦金剛の艦橋の少し後ろに設置された長細い長方形の物体を指さした。

 

「いや、見れば分かるだろ? 仮設トイレだよ」

 

「ムキー!! あんな不格好なものを乗っけられたら私の格好良さが台無しデース」

 

「いや、だって仕方ないじゃん。金剛にはトイレが無いんだから。トイレ無しで何日も俺が生活できるわけないし。まあ、なんというか、こればかりは我慢してくれないか」

 

「テートクには美的感覚が無いんデスカー。美しいシルエットが台無しじゃない。ぷんぷん」

そうは言っても生理現象は我慢できるはずがないし、船内で漏らすわけにもいかない。これだけは譲れないよな。

 

「金剛、提督の命令だから我慢しなさい」

扶桑が助け船を出してくれた。

「提督がお漏らししたら可哀相じゃない。生理現象は人は我慢できないものなのよ」

 

「でもあんなの乗っけられたら格好悪いヨー。艦隊の旗艦なんだヨ」

 

「だったら船内で大きいのを漏らされてもいいの? よくは知らないけれど、データベースによると、その臭いはとても臭いものらしく、事案が発生すれば、清掃しても簡単には臭いとかは落ちないらしいわよ」

 

何かデータのやりとりがあったのか、金剛の顔がみるみる青ざめる。

「オーノォー!! こんなにカタストロフィ! こんなことって」

 

「あ、でも提督の○○○なら正妻である金剛なら我慢できるかしら? 」

クスクス笑いながら扶桑が問いかける。

 

「親しき仲にも礼儀あり。たとえ夫であっても越えられない受け入れられない物があるデース。もう……提督、仕方ないデスネ。あれの設置は我慢しますデス」

 

「……ヤレヤレだ」

一つ問題が解決したわけで、まあかなり大きな問題なのだが、これで戦いに挑める。

「さて、いろいろあったが出撃というわけだな」

ほっとした冷泉を冷たく見つめる視線あり。

それは金剛のものだった。

直ぐ側で冷泉に寄り添うように神通が立っている。

 

「なんか知らない間に神通と仲良くなってるワケだけど、それについては帰還してから尋問シマス。次から次へとなんたらかんたら……」

金剛がぼそりと呟いているが聞こえないふりをした。

 

とにかく、いよいよ、やっと深海棲艦の領域へと艦隊は侵入する。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。