まいづる肉じゃが(仮題)   作:まいちん

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第22話

「周辺海域に異常、なーし!! 」

 先に港から出た駆逐艦の2隻、島風と叢雲が周辺の海域の艦船の存在を探査していたのだった。

 

ここでいう艦船とは、深海棲艦の勢力の、小型魚雷艇とか小型潜水艦のことである。こいつらは、艦娘の活躍で彼らの支配海域でなくなったところに密かに侵入し、ちょろちょろと動き回って、隙あらば輸送船などの民間船を襲撃したりする。この被害は結構馬鹿にできないほどのものとなっていれ、そのため、鎮守府艦隊は民間船の護衛や海上での工事の警備等を行わなくてはならなくなっているのだ。小型魚雷艇や小型潜水艦は使い捨てのようで、航続距離の限界を超えて活動しているらしい。たまに燃料切れとなり海上を漂っている船が捕獲されることがある。完全武装の特殊部隊が突入をかけたが、船内には人や知的生命体は存在せず、かといって遠隔操作ができるような機器も積まれていなかった。これらの艦船がどういう構造で動かされているかは深海棲艦と同様、現在も謎のままらしい。

……らしいというのは、この話は冷泉が扶桑から聞いた話であるからである。

 

ちなみに2隻の駆逐艦が出ると、すぐにゲートは閉じられていた。

「あれ、なんで閉めちゃうんだろ? 」

冷泉のつぶやきにすぐさま金剛が反応した。

 

「うっ! すぐに閉めないと、隠れていた敵の小型潜水艦が港に潜り込んだりするからネ。注意するにこしたことないデス。あいつらは卑怯なんだもん。ダイッキライね。ふんすっ!! 」

不快そうな顔で金剛が呟いた。何故かかなり怒っている。よくは分からないけれど、何度か痛い目に遭ってるのかもしれない。

 

「潜水艦……嫌いなんだ、金剛は」

 

「うん、だーいっきらい。見えないところから魚雷撃ってくるし、こっちには反撃する武器ないし、すぐ隠れるしで卑怯なんだもん。あー、艦爆や艦攻も嫌いだよ。正々堂々と大砲で打ち合わないとネー」

 

さすが大艦巨砲主義時代の申し子、悪く言えば、まっすぐな単純馬鹿ってところかな。そのままではすぐに死ぬぞ。

「金剛は駆け引きとかしないんだな」

 

「駆け引きみたいな姑息な真似、したくないネー。私は何も考えずに、まっすぐに愛するテートクの胸に飛び込むだけダヨー。ふぉーりんらぶネー。ふふふ」

何を顔を真っ赤にして両手を冷泉に向けて伸ばしてるんだろう? 本当にこの子は冗談なのか本気なのか分からないな。考えても冷泉の心はかき乱されるだけだ。どう対処していいかわからない。

 

「はいはい、金剛……少ししつこいですよ。冗談はいいからそろそろ出撃しましょう」

冷静に扶桑が指摘をしてくる。

 

「えー! せっかくこれからだったのにー」

不機嫌そうに答える金剛。

 

「何言ってんの。私たちが命がけで索敵してるんだから、さっさと出てきなさいよ。そもそもアンタ艦隊の旗艦なのよ。立場をわきまえなさいよ。まったく……馬鹿な冗談は丘の上でやりなさい」

すぐさま叢雲が突っ込む。

 

「へーい。もうみんなせっかちなんだからぁ。もう仕方ないなー。ハイハイ……了解しましたヨ。こほん。それでは、島風・叢雲ありがとね。それじゃあ、みんな、行くヨー。てすてす。管制塔、ゲート再オープンしてねー」

金剛の声を合図に、再びゲートが稼働する。そして金剛を先頭に第一艦隊が外海へと出たのだった。

 

駆逐艦島風・叢雲の2隻を先頭に配置し、舞鶴鎮守府第一艦隊は出撃をした。

目標は前回攻略を失敗した海域。

 

佐渡島から北へ20キロの地点……。舞鶴港から佐渡島まで500キロ程度。それを聞いて「結構な長旅になるなあ」と呟く冷泉に金剛は不思議そうな顔で答えた。

「変なこと言いマスネ、テートクは。普通に4時間程度で到着しますヨ。今から出たら日が暮れる前には到着デス」

 

「えーっ。いったいどんな速度で行くんだよ」

 

「まあ飛行機ほどは速くないですケド、敵さえいなければ艦娘なら時速70ノットくらい連続で出せますヨ」

 

「提督、聞いて聞いて。なんとね、島風なら80ノットは出せるんだよ~」

と乱入してくる存在あり。

 

「はあ、……スピード馬鹿は黙って任務を遂行しなさいよ、まったく」

すぐに相棒が注意をする。

 

「ひゃーい。もう、叢雲は怒りんぼなんだから」

 

「あんたが落ち着きがないからよ。提督にいいところ見せるって言ってたでしょ。いつもみたいにぶっ飛んでミスをするようなまねをしないようにしなさいよ」

 

「はぁーい。……提督、私の格好良いところ見ててねー」

 

「了解した。二人ともがんばってくれよ」

冷泉は二人のやりとりにニヤニヤしながら答えた。

 

「それじゃあ、叢雲を戦闘に単縦陣でまずは佐渡島へ向かうネー」

旗艦の金剛が指令する。

 

「えー! なんで島風が先頭じゃないのー」

 

「えーとですネー。島風ちゃんは、どうも速力を抑えることができないみたいだから、先頭だと隊列から突出しちゃうからデスよ」

 

「だってぇー、みんな遅いだもん。仕方ないじゃん」

 

「仕方ないじゃないでしょ、アンタ。駆逐艦が一隻で先行したら敵と遭遇したらすぐにやられちゃうじゃない。それに他の艦がそれについていこうとしたら、みんなそれぞれの最高速力は違うんだから陣形も乱れるでしょ? ちゃんと集団行動するときはルール守りなさいよ。死ぬわよ」

ビシバシと叢雲がつっこむ。

 

「えーん、提督。叢雲と金剛がいぢめるー」

モニタ越しに島風が訴えてくる。

 

「アンタ、提督の同情引こうって考えてるんでしょうけどバレバレよ。まったく、嘘泣きはやめなさい」

「私は島風ちゃんをいじめてないデース」

同時に二人が反応する。

 

「まあまあ。……島風。ここはみんなの速度に合わせて行ってくれ。わかるね」

 

「うん。提督が言うならそうするよ」

にっこりと答えるうさみみっ娘。

 

「チッツ」

隣で舌打ちしたような音を聞いたが、金剛の方をみると「どうしたの? 」といった感じの笑顔でこちらを見てくるだけだった。たぶん気のせいなんだろうと冷泉は判断する。

 

「仕切り直しですね~。みんな陣形を整えてくださーい。叢雲先頭で単縦陣。殿は神通でヨロシク。速力は60ノットに固定ネ」

そう言うと金剛はこちらを見た。どうやら号令は提督である冷泉が出せということらしい。

 

「これより鎮守府第一艦隊は海域奪還のために出撃する。これまで鎮守府提督は司令部において作戦指令を行ってきていた。だが……私は、それを改めるつもりだ。……砲弾の届かぬ安全な場所から君たちに死ねという指令を出す……。たとえ、それが勝利という免罪符を得ることにより、提督の罪が免除されるとしても、自らは決して血を流すことなく安全な場所で安穏とし、勝利という果実のみを命を賭して戦った者からかっさらう卑怯者という立場には耐えられないからだ。ここに私は宣言する。……常に私は諸君らと共にあり、諸君らとともに戦い、諸君とともに生き、そして死んでいくと」

一気に話し、間をおく冷泉提督。

 

金剛はぽかーんとした顔でこちらを見ている。口が半開きで折角の美少女が台無しな感じ。

「どうした、金剛」

 

「はへはへ。テートクまた頭がおかしくなっちゃった」

他の艦娘にも動揺が広がってる。

「提督、キャラがぶれてる」

「頭打っておかしくなった」

「ヘンタイ」

 

「いや別におかしくなったわけじゃない。……コホン」

そこで口調を変える。

「これより戦地に赴くこととなるけど、俺はいつも君たちと一緒にいる。……偉そうな事を言ってるけれど、なあに、敵に勝ってみんな生きてここに戻ってこようってことなんだ。決して命を粗末にするようなまねはしないでくれよ。これだけは守って欲しい。俺は絶対にみんなを死なすようなことはしない。勝利のための犠牲など不要だ。言いたいのはそれだけなんだ」

 

ざわついた雰囲気が収まり、なんだか艦娘たちの雰囲気が変わったように思える。こちらを見る金剛の瞳がなんだか潤んでいるし(冷泉視線での話)。

 

冷泉は金剛をみて頷くと立ち上がった。

「舞鶴鎮守府第一艦隊、佐渡島へ向けて全速前進」

 

呼応するように少女たちが応じる。

「了解、発進します」

 

 




前回の次回予告どおりに話を進められませんでした。
すみません。戦闘始まらず。。

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