まいづる肉じゃが(仮題)   作:まいちん

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第182話 改変される心、消される想い

三笠の下を訪れた金剛は、すぐに改装の為にドックへと移動となる。

慌ただしいけれど、新しい自分に「生まれ変わる」ため、仕方が無いことらしい。

新たな艦とのリンクを再構築及び再調整を行わなければ、折角強くなっても、操作が追いつかないわけなのだ。

 

すでに、艦については、ここに到着後すぐに改装工事が開始されている。

 

まずは、損傷した船体の修理を行うこととなる。それに平行して、武装をほとんど取り外して載せ替える。機関部については、全面入れ替えと聞いている。

艦は通常海域用と領域用の両方の動力搭載している。今回は、両方の動力機関の出力増強が行われる。当然ながら装甲も強化されるわけだけれど、新素材の鋼材を使用することで、総重量はむしろ軽くなるんだとか……。

 

武装については、特に領域での戦闘を重視した装備に変更することとなる。今までは、数発の攻撃を当てなければ倒せなかった敵も、主砲の能力強化で一撃で沈める事ができるようになる。一クラス上のカテゴリーの戦艦として稼働できるようになるのだ。それに合わせて探査系について大幅増強され、独自探索能力は二割程度強化された。これにより、領域内においても射撃精度の向上と敵探知能力の強化が図られるのだ。

 

動力部の出力増強と小型化により、積載量が増えた。これにより特種弾の搭載も可能となり、敵深海棲艦に合わせた数種類の砲弾を選ぶことができるようになった。深海棲艦の研究も微々たるものではあるものの進んでおり、敵によっては苦手とする攻撃があることが分かっている。いわゆる属性といったものが存在するようで、それらの属性を突く攻撃を行えばより効果的にダメージが与えられる。しかし、各種属性攻撃をするには専用の弾薬を搭載する必要があり、積載量との兼ね合いで戦艦金剛は通常弾のみしか積めないでいたのだ。

 

そんな改装後の艦の能力の解説を聞いているだけで、心が弾む。強くなれることは、やはり嬉しいものだ。これも軍艦として生まれたからなのかもしれない。

 

おそらく、舞鶴にいた時の……その持ち得た能力の何割も強くなる確信があった。

 

自分のこの力を、冷泉提督の為に使えればいいのだけれど、……それを望むのは欲張りでしかない。そう言い聞かせるしかなかった。自分は、冷泉提督を護る為にここにいるのだから。もう提督と共に出撃することは叶わないけれど、遠くから彼の活躍を祈ることができるのだ……。

 

「喧嘩別れのままでこっちに来たのは、残念だけど……でも、こればかりは仕方無いネ」

それ思うしかない。

 

ドック、舞鶴とあまり変わらない設備だ。本拠地であっても基本的な設備は変わらないらしい。働く職員も女性ばかりになっている。これも舞鶴と同じだ。金剛は、いつもの入渠と同じく、服を全て脱ぎ捨てると培養カプセルの中に入る。いくつもの管やコードが彼女達により、体に接続されていく。

今回は頭部に多数の電極のようなものが取り付けられている。これが新たな艦との調整を行う装置なのだろうか?

 

「ねえねえ、これは何なの? 」

興味半分で作業を行う女性に話しかけるが、彼女達は答えてくれなかった。まるで声が聞こえないかのように黙々と作業を続ける。

 

まったく……無愛想な人達ばかりネ。

ここに来てからずっと思っている感情が出てしまう。

 

第二帝都東京の職員達は、話しかけても常に無反応。てきぱきと作業を行っているけれど、彼等彼女等が会話しているのをほとんど見ていない。指示に応答する声は発するけれど、普通に人間がするような無駄話が全く無かった。

 

どうにも陰気くさいのだ。

 

まるで人形のようにしか思えない。感情がある生物にはとても見えない。極端に言えばそんな感じがしていた。……金剛は、ずっと凄い違和感を感じていたけれど、それがここのルールなのだろうと納得させるしかなかった。

 

作業が完了するとカプセルの蓋がゆっくりと閉じられ、気圧が変化する感覚と同時に青い液体に満たされていく。

 

ひんやりとした感触の液体が、体に絡みつくようにして足元から体の上へとゆっくり上がってくる。普段とは少し違う液色。

 

これが改二改装なのかなと思っているうちに、カプセルはその液体で満たされる。ゆっくりと体が浮いていくのを感じる。それに合わせてカプセル内に設置されたアームが動き出し、両手両足、そして腰を固定する。背中にも板のような何かが当たるような感触がする。延髄部分にもアームのようなものが接触するのを感じた。それらアームには肌と接触する部分には端子が設置されていて、チクリと痛みが走ったが、すぐにその痛みは消えて何も感じなくなる。

 

まったくのいつも通り。

 

当たり前だけれど、この状態でも呼吸には支障がない。喋ることはできないけれど、テレパシーにより意思を伝える事はできるし、外からの音もきちんと聞こえるようになっている。これは、双方に意思疎通が必要な場合もあるので、当然の事なのだけれど。

 

そして、作業員達はおのおのの席に座ると、作業を開始しはじめる。少しして部屋に入ってくる者の姿を確認した。

 

戦艦三笠だった。

 

冷泉提督を助けることを約束してくれた存在。冷泉提督と永久に別れる事を命令した存在。

彼女に対しては、複雑な思いがある。

 

彼女と目が会うと、三笠はにこりと微笑んだ。あまり得意ではない人だなと再認識する。笑顔が嘘くさいのだ。裏で何を考えているかよく分からない人。彼女と話す度に不安な気持ちになってしまうのは何故だろう。

 

「……さて、気分はどう? 」

 

「いつも通りの入渠ネ。大規模改装がどういうものか不安だったケド、大丈夫っぽいネ」

 

「そう、それは良かったわ」

再び微笑む三笠。

「では、改二への改装を始めていくわね。内容については、ある程度説明を受けていると思うけれど、あなたの艦自体はこれまでから大幅に攻撃力・防御力・機動力の全てが大幅に引き上げられることになります。当然、これまでの艦娘体のままではその向上した能力を制御できないので、あなた自身も強化する必要があります。これから、それを行っていきますね」

 

「えっと、ワタシ自身の強化ってどういうことネ? 体を弄るってこと? 」

体にメスを入れられたりするのなら、凄い不安だし嫌だなって感じた金剛はその想いをすぐに口に出した。

 

「体組織の強化も行う必要もありますし、プログラムの書き換えを行う必要もありますね」

と、ずいぶんと恐ろしいことあっさりと言う。

 

「え! どんなことをされるのか、とっても不安ね」

と冗談めかして問いかける。

 

「あら、怖いかしら? 怖いのなら止めてもいいのよ。……ただし、あなたとの約束は反故になりますけれどね」

冗談めかして三笠が言う。しかし、その目は全く笑っておらず、むしろ冷え冷えとした思いを金剛に感じさせる。

 

「こ、怖くなんて無いネ! ちょっと聞いただけデス。これでもワタシは戦艦、恐れる物なんて無いデース」

 

「そうそう、その調子。あなたがしっかりしないと、冷泉提督が辛い思いをすることになりますからね。しっかりと約束を守って貰わないと」

嬉しそうに笑うが、小馬鹿にされたようにしか金剛には感じ取れない。

 

「どうにでもしたら良いネ。でも、もう一度だけ確認させて欲しいネ」

 

「何かしら? 」

 

「ワタシが横須賀に行けば、本当にテートクを助けてくれるの? 」

これだけは、絶対に譲れない条件。

冷泉提督を救うために、救うことができるからこそ三笠からの条件を全て受け入れたのだ。今更反故になんてされたらたまったものじゃない。

 

「大丈夫よ。私は戦艦三笠。その私が言うのだから、絶対に間違いありません。現在の危機的状況にある冷泉提督の命を、必ず守って見せますよ。そして、再び舞鶴鎮守府の提督の地位に戻れるようにしてあげます。あなたが私の言う事に従ってくれるのなら、それくらい雑作も無い事ですからね」

 

「本当に信じていいんだよネ?」

と、不安げに問いかける金剛に、三笠は頷いた。とても嘘を言っているようには思えなかったし、彼女には冷泉提督を救うだけの力があることも分かっている。どういった意図があるにしても、今は彼女に縋るしかないのだ。彼女を信じるしかなかった。

「分かったネ。三笠さん、あなたを信じるネ」

 

「はい、では改装作業を始めますね」

そう言うと、三笠は職員に合図を送る。

呼応するように、各種計器類が明滅を始めるのが見える。

金剛を包み込んでいる液体の色が変化を始める。全身が圧迫されるような感覚。そして、接続された端子からピリピリする感覚が一定リズムで伝わってくる。

 

「まずは、強化された艦に対応するようにソフトウェアの書き換えを行います。新たな装備や動力への親和性を高めなければなりませんからね。それに伴う不要なデータの消去も行います。新しい鎮守府において最良の状態で活動できるように、最適化を行います」

 

「……それはどういう事ネ? 」

不穏な気配を感じた金剛が慌てて問いかける。

 

「うん? 横須賀鎮守府で新たな提督の下で働くのですから、舞鶴鎮守府での勤務の中で蓄積された不必要なデータは、削除し最適化します。不必要な感情を引き起こすような記憶などは、要りませんからね。……案外、記憶っていうのは、大して重要でもないのに容量だけは食いますからね」

 

「! 私の記憶を消すっていうの? 」

衝撃的な内容に感情が揺さぶられてしまう。もしかして、記憶を消されてしまうのか?

 

「記憶を消すなんてことはしないわ。蓄積された戦闘データや各種地形データなどは貴重な記録ですものね。ただ、……あなたと特定の者との記憶は、次の鎮守府において明らかに不要となるものですから、ある程度は整理しないといけないのですよ」

 

「待って! それは、冷泉提督との記憶を消し去るってこと? 」

 

「記憶は消さないわ……一応ね。ただ、少し弄らせてもらいます」

 

「何をするつもり? 」

 

「冷泉提督に対するあなたの感情……それをマイナス方向に反転させるだけですよ。そのために少しだけ記憶を改変します。戦艦扶桑、そして駆逐艦不知火を追い詰めて鎮守府を裏切らせ、その上、彼女達を殺すように指示したのが冷泉提督であることにね」

何の感情も示さず、事務的に語る三笠に言いようのない恐怖を感じる金剛。

 

「なんでそんなことをするネ。何の目的があるの」

 

「ふふふ。冷泉提督には、ある目的があったの。彼は、永末と実は繋がっていた。彼等の目的は、力を持ちすぎた我々艦娘に対する牽制と抑止。人々の艦娘に対する印象を改変しようとしていた。艦娘という存在は人類に寄り添う物では無く、場合によっては裏切ることもある危険な存在であるということを。それが一つ目の目的。もう一つの目的はいかにも冷泉提督らしい身勝手な理由よ。あなたも知っているでしょうけど、鎮守府事の艦娘の保有枠数は決まっている。冷泉提督は、新しい艦娘を手に入れるため、不要な艦娘の処分を考えたのよ。そして、あまり懐いていない艦娘を追い出そうとした訳。新しくて自分に好意を持ち、従順な女の子を集めたいと思っていたのよ。いかにも男の子らしい夢ね。……まさか、自分が窮地に陥るとまでは頭が回らなかったらしいけれどね。少し、おつむが足りなかったの」

 

「……バカバカしい。何をいうと思ったら」

三笠の言う事はあまりに荒唐無稽すぎる。

 

「一概にそうは言えないわよ。舞鶴を離脱した子達を思い出してみて。彼女達は提督にに対して、あまり好意を持っていない子ばかりじゃなかったかしら? 彼は身勝手にも自分の欲望の為だけに、彼女達を切り捨てたわけなの。口では艦娘の為にといいながら、心の中ではそんなことは微塵も思ってもいなかったのよ。自分に好意を持つものだけしか大切にしていなかったのよ。だから、永末の要求は丁度良かったのかもしれないわね」

 

「そんな事を信じるわけがないネ? まったく意味が分からない」

 

「信じる信じないは、この際あまり関係が無いことなのよ、金剛。冷泉提督との時間を過ごして彼の人となりを知り、更に彼に好意を持っているという今のあなたなら信じないでしょうけれど、その部分を書き替え、負の感情を植え込んだら……どう思うかしらね。そんなことできるはずがない? ……残念ながら、私にはそれができる。そして、あなたはもう拒むことができない状態なのよ」

嘲笑うかのように三笠が言い放つ。

「目覚めたあなたは、こう思います。自分は裏切られたのだ……と。そして、冷泉提督の為に扶桑達は犠牲になり、多くの鎮守府の兵士が殺されてしまった。冷泉というたった一人の男の身勝手さによって。あなたは後悔するでしょう。そんな人間を自分は愛してしまっていたのか? ……と」 

 

「馬鹿な! そんなの信じる訳がないネ。どんな事があったって何をされたって、ワタシは提督の事は忘れたりなんてしない。だから、そんな嘘なんて信じない! 」

 

「ふふふ、信じる信じないというあなたの意志など関係ないのです。これは、あなたのたどり着いた結論となるのだから。今のあなたからは信じるはずもないことでしょうけれど、これから調整を行ってそれを信じるように改変するのですからね。何の疑問も感じずに、これを事実として信じる……いえ、認識するのですよ。醜く卑しく小さくて、そして身勝手で薄汚い男。それが冷泉朝陽。扶桑達を死に追いやり、多くの仲間を死なせ舞鶴鎮守府を混乱させた男。扶桑と不知火が死んだのはすべて冷泉が原因。それを知ったあなたは、きっと彼を許せないでしょう? 」

 

そんな、……そんな。

ありえない、あるはずがない。許されるはずがない。

偽りの記憶に侵蝕されていくというのか。

大切なものを守るために、大切なものを憎む運命を受け入れなければならないというのか!

 

「次に目が覚めた時は、もうあなたは冷泉提督を仇敵と考えるようになっています。改二となり、能力は大幅に増強されている。そして、横須賀鎮守府では、大和・武藏を率いた旗艦となることになっています。これは、あなたが心から望んでいた地位ですよ。あなたの願いは全て叶えられました。どうですか、嬉しいでしょう?そして、あなたが率いた日本国最強の艦隊が憎き冷泉提督を討つのです」

と宣告し、慈愛に満ちた笑みで三笠は見つめてくる。優しく暖かくすべてを見透かしたような笑顔だ。

 

「そんなこと、……そんなこと望んでいない。あなたは、提督を守りたければ言う事を聞けといった。だからそれに従っただけ。提督の側を離れるなんて死んでもいやだったけれど、彼を守ることができるのなら、彼の役に立てるのならって同意した。なのに、なんで提督を討つ立場にさせられなければいけないのですか。なんで提督を憎まなければならないのですか! 」

 

「けれど、もう決まった事だわ。……あなたは、同意したんだもの」

 

「なんで! なんでそんな酷い事いうの? そんなことして、何が目的なの? あなたは何を考えているの? 」

 

「うん、そうなった方が面白そうでしょう? あなたの心は揺さぶられる。冷泉提督も運命に翻弄される。世界がかき乱される。ただそれが目的よ」

金剛の必死の思いを願いを、いとも簡単に否定されてしまう。

 

「そんな事をして、一体どうなるのいうの? 」

 

「想いが錯綜し、そして……世界が更にかき乱される。混沌する。ただそれだけ。しかし、それがすべて。それこそが私の望むもの。そして、あなたたち艦娘の存在意義。もちろん、あなたにとっては、無意味かもしれない。辛いだけかも知れないわね。けれど、艦娘という存在にとっては、これは非常に大きな前進になるの。私達にとって、この世界を揺さぶるためには、必要なことなの。それを積み重ねることが私達にとってとても重要な事なのだから。そのための犠牲だと思ってもらえたら嬉しいわ。すべては私達の願いを成就させるためなのよ」

淡々と説明を続けるが、その言葉の意味のほとんどを金剛は理解できない。

 

「何を言っているのか全く分からない! ワタシはそんな事のために、ここに来たんじゃない。あなたの指示に従ったんじゃない。ワタシは、ただ、提督を守りたいから従っただけなのに! これじゃあ逆じゃないの。なんで私が提督と戦わなければならないの。そんなの絶対に認められない。そんなことになるくらいなら、何もかも無かったことにして、ワタシを舞鶴に帰して。提督の側に居させて! 」

 

「もう賽は投げられたのよ。今更後戻りなんてできない。するつもりもないし、させないわ。今のあなたをみて、確信したわ。あなたの心は大きく掻き乱されている。それはとても大きなうねり。それは私達が求めているものだわ。きっと大きな成果を私達にもたらすでしょう。とても嬉しい。とても嬉しいわ、金剛」

大きく瞳を見開き、感情を制御しかねるかのように三笠は身をよじらせる。

 

「いや、いや、絶対にいや。そんなことをさせられるくらいなら! 」

しかし、金剛は体を拘束されているため1ミリも動かす事ができない。ならばと、舌をかみ切ろうとするがその願いは叶わない。あうあうと呻くだけで想いを遂げることは叶わない。

 

「無駄よ。艦娘には自死をできないようにされていることを忘れたの。もう動き出してしまったのよ。止められないわ。そもそも、あなたが舞鶴を出ると言い出したのだから。冷泉提督を独り占めできないという嫉妬で自暴自棄になっただけなのだから。……まあ仕方無いわね。あなたは加賀に負けたのよ。そして、神通や高雄のようにそれを受入れてなお、彼を愛することだけでは耐えられなかったせいなのよ。なんだかんだ言いながら、あなたはプライドのとても高い艦娘だったのだから。負けを認めず、それどころかどす黒い嫉妬に心を穢していったのよ。ふふふ……そもそも艦娘なのに人を好きになるという愚行を犯した者なのだから。可哀想だけれど、これは仕方ないわね」

 

「ちがう、そんなんじゃない」

そう否定しながらも、次の言葉が出てこない金剛。

 

「けれど、加賀の事は憎かったでしょう? いきなり現れて、思い人を攫っていった彼女を」

三笠の指摘は、金剛の心の奥底の心の核ともいえる部分に容赦なく突き刺さり抉る。痛みは血を伴い、隠していた想いを表層に引き上げてくる。そして、それは諦めを生み出すのだ。

 

そうだ。たしかにそうだ。

突然現れて、提督の心を捕らえた加賀。彼女のために提督はどれほどの犠牲を出したことか。それでも、提督は彼女を救おうとした。

自分のためには、きっとそこまでしてくれない。悔しかった。悲しかった。……そして、憎かった。

提督は彼女を愛しているし、加賀も提督の事を愛している。

自分が入り込む隙間などまるでない。そして、提督は自分のことを艦娘としてさえ重要と思ってくれていない。苦渋の選択で横須賀行きを申し出たのに、慰留さえしてくれなかった。そして、悟った。自分は必要のない艦娘なのだと。きっと、扶桑や不知火のように捨てられてしまうのだろう。

こんなに想いを寄せていたのに、どうしてそんな仕打ちをするのですか? ……どうしてそんなに嫌うのですか。

 

もう提督はきっと私に振り向いてくれない。私には、優しい微笑みをくれないのだ。

手に入らないのなら、いっそこの手で。

 

……消し去る。

 

それは絶望の中から紡ぎ出した最悪であり最良の選択。

 

 

「愚かで哀れで、……そして愛おしい娘」

金剛の葛藤を見守りながら、微笑む三笠。

 

冷泉提督と金剛が対峙する時、また一つ大きな揺らぎが世界に起こるだろう。

彼の側には加賀や神通がいる。共に戦った仲間がまた相対することになるのだ。たった一人の男を巡って。本来なら仲間であるはずの艦娘がいがみ合いに組み合うのだから。

 

情念が縺れ合い、愛憎が絡み合う。

そのうねりは増幅され、悲しみが連鎖していく。

各所で発生するその炎は今は小さいかもしれない。しかしやがて大火となり世界を覆い尽くすだろう。

 

その時こそ私達の望んだ時の到来なのだ。

そのためならば、いくらでも犠牲を払おう。それが私達の目的なのだから。

 

自分の未来に絶望し、心を閉ざして気を失っている金剛に対し、再び微笑み駆けるのだった。

その微笑みは希望に満ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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