まいづる肉じゃが(仮題)   作:まいちん

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第17話

「おはようございまーす」

ガヤガヤと挨拶を交わしながら、次々と少女達が部屋に入ってくる。比較的幼い顔立ちの子が多いと感じる。

……もちろんその中には叢雲もいた。冷泉と目が合うと、一瞬頬を赤らめ、すぐにフンって目を反らす。

 

ふう。

大きくため息をついてしまう冷泉。

 

それにしても……。

さすが艦娘だけに、ほとんどの子がセーラー服を着ている。しかし、これは誰が決めたルールなんだろうね。

まあ数人、違う格好をしてるのもいるが……。

(ちなみに武器とかは背負っていない。)

 

数えたら13人だ。金剛と扶桑を加えたら15人か。この数が多いか少ないかは分からない。

 

とはいえ、賑やかであることは間違いないな。若い……幼い子もいるわけだけれど、これだけの女の子が一つの部屋に集まっているわけだから賑やかだし、みんないわゆる美少女揃いなので、とても華やかだ。

 

この艦娘の数が多いのかどうかは、判断つかねる。ゲームの「艦隊これくしょん」ではまだまだ少ないけれど、現実世界とはまた違うはずなのだから。

 

当然ながら、ゲームと現実は当然違うのだから……。

 

顔と服装なんかでだいたいの艦娘の名前が推測できる。こちらに来る前にやっていたゲームの「艦これ」にいた、自分の艦隊の子たちは特に覚えているからね。

 

提督である冷泉を視界にとらえた少女たちは、一様に安心したように笑顔を見せる。

それだけで分かってしまった。提督の負傷入院に、彼女たちは本当に心配していたようだ。

 

ただし、……ここにいる「冷泉」の事ではないんだけれど。

 

「はいはい、みんな座って頂戴」

扶桑が立ち上がり指示をする。

どうやら、ここでも彼女はまとめ役みたいだ。なかなか大変そうだ。

 

艦娘たちは椅子に腰掛ける。座る順番は決まりがあるようで、並んだ艦娘を確認すると扶桑から順番に空母、重巡洋艦、軽巡洋艦、駆逐艦に並んでいく。

「さて、全員揃ったかしら? 」

見回しながら、扶桑が確認を取る。

 

「島風ちゃんがまだみたいダヨ」

金剛が指摘する。

 

「あらあら……どうしたのかしら」

おとぼけ声を出す扶桑。

 

すぐに遠くからキャーとかワーとか悲鳴やらうめき声やら判別つかない奇声と駆けてくる足音がした。

「わーわー遅刻しちゃたー」

転がり込むような勢いで一人の少女が部屋に飛び込んでくる。

 

―――おいおい、マジであんな格好する奴いるんだな……。

それが最初に感じた事だった。

 

遅刻して飛び込んできた少女は、「艦隊これくしょん」のキャラクターの中で異質な(ある意味、あざとい? )格好をそのままに着装している。

黒いウサギの耳のようなヘアバンド、丈の短いセーラー、超ミニスカートをローライズにし、赤白のボーダーのニーソックス、ヒールの高いハーフブーツを履いている。

何よりも黒い見せパンに目がいってしまい、焦ってしまう。

 

ふう……どうなってるんだよ。幼い顔立ちとのアンバランスが絶妙じゃないか。2Dのイラストなんて目じゃない。リアルな存在は、……とにかく、すげえ。

 

「あれ? ……私の席がなーい」

 

「あ、そうでした。会議椅子を追加で発注してたんだけど、提督が怪我をして入院したりのバタバタで、運んでもらうのを忘れてました」

扶桑が済まなそうに答える。

「うーん、仕方ないわね。……私の椅子を貸しますから、島風さん、それを使ってね」

そう言って立ち上がると、椅子を押していこうとする。

 

「ううん。大丈夫だよ。私の場所、はっけーん」

島風と呼ばれた、まだ幼い顔立ちの少女は、とてとてと駆けて来た。つまり冷泉の方へ。

彼女は冷泉の側にやって来るとニコリと微笑むと、そのまま冷泉の膝の上に「よいしょ」と腰掛けた。

「私、提督のお膝の上でいいよ。ね、いいでしょ、提督」

そう言って島風は冷泉を振り返る。

彼女の顔が直ぐ側にあって、メチャクチャ距離近いし。

 

「え、え。いや、なに」

不意の攻撃に少しパニック状態となる。

 

「このままじゃズリ落ちちゃうから~」

島風は冷泉の両手を掴むと彼女の体を抱え込むようにさせる。しかも結構強めに。

両手が直に彼女のお腹に触れ、ぬくもりが伝わってくる。金髪の後頭部が口に当たっているし。

 

……ちょっと嬉しい。

 

「ちょーっ! このガキャア!!、……テメエ、しれっと提督に何してやがるデスか」

激高した怒声が脳内を揺るがすほどに響き渡る。その声は冷泉の直ぐ隣から聞こえたように思えた。

 

そういや、冷泉の側には秘書艦として、金剛がいたのでした。

 

金剛は額に青筋を張らせ、目じりを吊り上げ、唇をひん曲げ、怒りをこらえているのか体がガクガクと震えている。背後には黒いオーラが立ち上っているようにさえ見えた。……そんな風に見えた。

 

あれ?

 

でもそれは冷泉の幻視幻聴だったようだ。

 

金剛の表情には全然変化なかったしね。少し驚いたような顔をしているだけだ。

 

「えーっと、し、島風ちゃん。……ちょっと、さすがに提督の膝の上は駄目ダヨー」

そう言って微笑む金剛。

でも、彼女の瞳からは光が消えてたし、いやにぎこちない笑顔である。若干痙攣を起こしているし。

 

「うーうん。大丈夫だよ、だって、私、提督のお嫁さんだもん」

島風は首をブンブン振る。

 

「は?」

 

「は……」

 

「うん? 」

金剛、扶桑、冷泉が同時に声を上げる。

他の艦娘たちからも声が上がる。

 

「提督がこの前、『島風ー、お前、俺の嫁さんにしてやるよ』って行ってくれたんだもん」

 

「この前とは、島風さんの歓迎会のことでしょうか? 」

扶桑が嬉しそうな顔をして、冷泉の膝の上の少女に問いかける。

 

「うん、そうだよー。ビックリしたけど、でも、とっても少し嬉しかった」

少し頬を赤らめるうさみみ少女。

会場が騒がしくなる。

 

ざわざわざわざわ。

 

「……ねえ、提督ゥ。本当に、そんなこと、……言ったんデスか? 私以外にもそんなこと言ってるんデス? 」

ぎこちない笑顔で、金剛がこちらを射るような視線で見る。

目を逸らしそうになるが、逸らした瞬間、殺られる。そんな予感がするほどの眼力だ。

 

「いや、あの、その」

その場にいなかったんだから、覚えている訳がない。冷泉は返答に困り切ってしまった。

助けを求めて扶桑の方を見ると、彼女は笑いを必死に堪えている状態だった。

 

『おいおい、どうにかしてくれよ。助けてくれ、いや助けてください。』

冷泉は泣きそうな顔で、テレパシーを黒髪の美少女へ送る。

魂の叫びが通じたのか、彼女は仕方ないですね、といった感じで立ち上がった。

 

「はいはい、島風、金剛、今は会議の時間ですよ。雑談はそれくらいにして。島風も椅子は私のを貸してあげますから、そんなワガママ言わないで、それに座ってね。みんな驚いてるでしょ」

 

「いやだもん。提督のお膝がいい」

と、島風。

 

「あらあら。そんなこと言うと提督が困っていますよ。奥さんなら旦那さんを困らせちゃ駄目でしょ」

扶桑がのんびりした口調で諭すが、効果は無さそう。

 

「提督は困ってないよー。ね、ホラ全然困ってないでしょ? 」

こちらを振り返って同意を求める島風。吐息がかかるくらい近い距離で話されるとちょとドギマギする。

いやまあ悪くは無い感じ。

 

「あ、あ? うん」

 

「提督、鼻の下伸ばしてニヤニヤしちゃ駄目ですよ。少し気持ち悪いです」

 

「あ、ごめん」

扶桑に指摘され謝る冷泉。

 

「さてさて。もう、どうしましょうかね……。面倒くさいですね」

右手の人差し指を顎に当て、あまり困ってなさそうに、そしてかなり投げやりな感じで呟く扶桑。

もう少し真剣に考えてもらいたいものだ。

 

「あー、もう! 決めたデス」

突然、沈黙を続けていた金剛が叫んだ。

おもむろに近づくと、そのまま冷泉の座った椅子に体をねじ込んでくる。

 

「きゃっ」

金剛のお尻に押されたのか、島風がバランスを崩す。そこを狙ったかのように更に体を寄せ、冷泉の膝の片方を奪取した。

 

「私も提督の膝の上に座りマース。ここは譲れないモンネ。正妻として!! 」

そしてガッと冷泉の左腕を取ると、自分の体に回させる。

 

「あん、いったーい。もう!」

不満を言う島風の事など気にしていないようだ。

 

「いててて」

冷泉は金剛、島風の二人の艦娘を膝の上に抱きかかえるような体勢になっていた。

 

「これで会議を始めましょう! 決定デース」

金剛はそう言いながらぐいぐいと体を押しつけ、島風を圧迫する。

 

「もー! 」

プンスカ顔で島風と金剛がにらみ合う。

冷泉はどうしていいか分からず、二人の顔を交互に見る。

他の艦娘たちは呆れたような表情をしている。

 

「どうやら二人は忙しいようですね。……仕方ありませんね。今日の会議は本来は金剛が司会進行なんですが、私、扶桑が代理で行うことにシテよろしいですか?」

そういって黒髪の美少女が提督に問いかける。

 

「あ、……そうだね。扶桑、済まないが、グエ、二人ともそんなにぐいぐい動くなよ、……それでお願いできるか」

冷泉は眼前で展開される超弩級巡洋戦艦と高速・強雷装の駆逐艦の膝上の無言の戦闘に翻弄されながらも何とか答えた。

 

「了解しました。では、これより作戦会議を始めます」

 

ある意味、扶桑と冷泉の予定通りの形で会議が始まった。

一時はどうなるかと思ったが、何とかうまく行きそうで、そう思うとほっとした。

けれども、会議に集まった他の艦娘たちを見ると、この光景に何か思うところがあるような顔をしている娘もいるみたいだし、何か全然別の形で新たな問題を抱え込んでしまったようで、また頭痛の種が一つ増えたのではと不安になる冷泉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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