まいづる肉じゃが(仮題)   作:まいちん

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第148話 受難

時は少しだけ遡る。

 

永末率いる扶桑を旗艦とした艦隊は、駆逐艦漣が合流したことで更に活気づいていた。もっと多くの艦娘が加わってくれれば嬉しいのだが、それは欲張り過ぎというものだろう。

羽黒、初風、そして漣の三人はきっと活躍してくれるだろう。何はともかく、数は力だ。緒沢提督が隠匿していた艦娘を併せれば、その戦力は日本国にとっても無視できない十分な政治力を持つ力となろう。

 

もう、誰にへつらう必要もなくなるのだ。

 

自分の手にある力というモノを認識し、永末は思わずにやけてしまう。そして、すぐに気を引き締める。……まだまだ始まったばかりでしかない。自分はすべてを手に入れているわけではなく、そのチャンスに一番近い位置にいるだけということを忘れてはならない。調子に乗ってはならない。どこで足をすくわれるか分かったものじゃないのだから。慎重に慎重を期さなければ何が起こるか解らないのだから。

 

「新たな仲間を迎える事ができ、私達はどんどん強くなっていきます。もう、私達は自らのことを舞鶴鎮守府第二艦隊とは呼ばない。全く新しい勢力として動くのです。これがその第一歩なのです」

力を込めて皆に伝える。

隣に立つ扶桑が微笑んでいる。

 

「それでは、新しい旅路に出発しましょう。希望に溢れた旅立ちを! 扶桑さん、みんなに指示をお願いします」

永末は、彼女の笑顔に頷きながら言う。まだ永末では全艦隊に指示することはできない。旗艦たる扶桑経由出ないと艦娘達が言うことをきかないからだ。理由は簡単……永末は鎮守府指令官ではないから、艦娘達が命令を受け入れる事ができないのだ。それでも日本国から離脱することになれば、彼女達に課せられた足枷も消失する。彼女達は自由になるわけで、永末が納得させることができれば、指揮をすることも可能となる。

この大変な状況においても、扶桑を経由し彼女達を納得させてからでないと、行動させることはできない歯がゆさがあるが、それは今はまだ仕方ないのだ。やがては完全に彼女達の心を掌握してみせるし、しなければならない。そして、自分にはそれができると考えている。

 

扶桑が全艦に指示をする。艦首を反転させ、かつての母港である舞鶴を離れる準備を始める。

 

そして、永末は扶桑に向けて指示を出す。

「扶桑さん、全艦に更なる指示をお願いしてよろしいですか? 」

 

「はい、もちろんです。でも、何を指示すれば良いでしょうか」

 

「……全艦隊、砲撃準備。目標、舞鶴鎮守府と伝えてください」

と、指示を出す。

 

「な……何を仰るのですか? こんな時に冗談は止めてください」

驚いた表情でこちらを見る扶桑。

「そんなことできるはずがありません」

 

その命令はあまりに唐突すぎ、予想された言葉ではあるが、また少し落胆してしまう。

人を殺す攻撃など艦娘にできるはずがない……か。分かっていながらも、上手くいかなかったことが少し腹立たしささえも感じてしまう。この子達の禁忌事項を外す力が、今の自分には無い事が腹立たしい。

 

「大丈夫ですよ、扶桑さん。防波堤やゲート、そしてレーダー施設に砲撃を集中させて破壊するだけです。鎮守府からの追撃をさせないため、やむを得ない措置です。あちらの艦娘達に我々の行き先を知られるわけには生きませんからね。犠牲者を出さないように細心の注意を払っての攻撃です。この攻撃で誰かを死なせるようなことはさせませんから。ご安心下さい」

そう言って微笑むことにより、彼女を安心させようとする。永末の意図を読み取ったのか、扶桑は指示を伝える。どういう理由でどの範囲を攻撃するかを細かく説明しながら。

一瞬、拒絶的は反応を示した艦娘達も、扶桑の具体的な説明で納得したようだ。

これから軍を離脱し、仲間と合流するというのに、敵に行き先を知られるような愚を犯すわけにはいかないことを理解してくれたようだ。

 

「全艦、砲撃開始」

扶桑が設定した攻撃目標に対して、可及的速やかに必要最低限の攻撃が為される。艦より発射された砲弾やミサイルが次々と防波堤、ゲート、レーダーなどの港施設に降り注ぎ、次々と破壊していく。外洋と港湾部分を仕切っていた巨大なゲートが落下し、出入り口を完全に塞いでいるのが確認できる。

これを修復するとなると、工作船を何隻も出し、深海棲艦に警戒しながらの作業になるのは間違い無く、元の姿に戻るには相当な時間がかかるのは間違い無い。護衛の艦娘を余所の鎮守府から派遣してもらう必要もあり、その交渉にも時間がかかるだろう。当然、佐野達が裏から妨害をする手はずになっているのだから、その交渉は簡単なものにはならないだろうけれど。

どちらにしても、的確かつ十分以上の成果を上げることができたといえよう。

 

「我々はただいまをもって日本軍籍を離脱し、自由軍としての行動を開始することとなりました。これより、正義のため、共に戦いましょう」

永末はマイクを手にし、艦娘達に宣言した。

その声に併せて、歓声が沸き上がる。

「これより最大戦速にて離脱します。……とにかく、一刻も早くここから去るのです」

戦艦扶桑を先頭に各艦が追随する。

 

 

その背後で突然の閃光。少し遅れて爆発音が響き、衝撃波が届いてくる。

続けて不気味なほどほどにどす黒い煙が舞い上がってくるのが見えた。

 

「な、何事ですか! 」

思わず扶桑が声を上げる。

視界の後方の舞鶴鎮守府のあちこちで爆発が続けて起こり、火災が発生する。永末には、佐野達の工作員が行動を行動を起こしたのだとすぐにわかった。

 

「落ち着いてください、扶桑さん。恐らく、私の仲間が行動を起こしたのでしょう。舞鶴鎮守府に潜入していた工作員が我々の離脱を援護するために動いたのだと思われます」

 

「けれど、あんな爆発が起こってしまったら……。爆発の起こっているところには大勢の兵士達がいる場所もあるように見えます。犠牲者が出ているかもしれません」

あきらかに動揺した表情で彼女は見る。無線で聞こえる音声から他の艦娘達も動揺していることが解る。

 

―――このまま放置しておくわけにはいかないか。

 

動揺して訳の分からない行動をされたら、後々困るからな。きちんと自分たちの置かれた立場を解らせてやらなければ。……そう思った永末は覚悟を決めた。

 

「あの爆発は、私達の仲間による援護です。なので何の心配もいりません」

 

「けれど、人間がたくさん居る場所でも爆発は起こっているみたいじゃない。みんな大丈夫なの? 艦娘達だってもしかして……。何でこんな事に! これじゃあ私達は殺人者になってしまうじゃない」

誰かは解らないが、批判的な言葉が飛び交う。扶桑さえ疑うような目で永末を見つめている。

 

「永末さん、もしかしてこうなることをご存じだったのですか? 」

恐る恐る問いかけてくる扶桑に心が痛む。彼女だけは怯えさせくない。苦しめるのは本意ではない。

 

「私達の行動に併せて、何かをすることだけは聞いていました。……まさか、こういったことになることは私は知りませんでした。これだけは本当です。信じてください」

嘘ではあるが、そう彼女に悟られないように真剣な眼差しで見る。

「こんなに極端な行動を取るとは思っても見なかったです。これは私の不徳の致すところです。けれども、私は何も荷担していません。私だってかつては舞鶴鎮守府の一員だったのです。親しい者も多く鎮守府にいます。彼等を犠牲にしてまで行動を取ろうなんて考えるはずがありません。それは、扶桑さんだっておわかりでしょう? けれど起こってしまったことは事実です。信じろといっても信じられないかもしれません。けれどお願いします。私は何も知らされていなかったのです。この命に掛けて誓えます。……信じていただけますか? 」

必死の願いを込めて彼女を見つめる。すべて嘘ではあるが、ここを上手く切り抜けないと先には進めない。彼女を騙すことになるのは心苦しいが、正義を遂行するためにはやむを得ない事なのだ。

 

「わ、私は永末さんを信じています。あなたが嘘をつくような方ではない事はよく知っていますから。……けれど、他の艦娘達がどう思うか、私にはなんともいえません」

戸惑うようにこちらを見ながら、扶桑が答える。

何にせよ、永末にとってはその言葉だけで十分だった。扶桑が自分を信じてくれる。他の誰もが敵になろうとも彼女さえ味方になってくれるのであれば、それだけでいい。それがすべてだったからだ。

 

「艦娘の説得は、私がなんとかやってみます」

彼女の信頼があれば、やりとげるはずだ。そう自分に言い聞かせ、永末はマイクを手にする。

 

「みなさん! 静かにしなさい!! 何をうろたえているのですか、しっかりしなさい! みなさん、自分たちの置かれた立場を思い出すのです」

わざと大声で叫んだ。

「私達は、軍部の陰謀により殺害された、緒沢提督の無念を晴らすために立ち上がった事を忘れたとでも言うのですか。……戦うということは、こういうことなのです。所詮、いろんなきれい事を言っても、殺すか殺されるかでしかないのです。たとえ、かつての仲間であろうとも、世話になった人であろうとも大切な存在であろうとも、目的のためには切り捨てなければならないということを思い返してください。敵を倒さなければ、私達が倒されるのです。これこそが、戦争なのです。……今、私達は戦争の最中にいることを忘れてはなりません。確かに、今の攻撃で多くの人が亡くなったかもしれません。その中には、皆さんと親しい人間もいたかもしれない。……けれど、それはやむを得ないことなのです。……あえて言います。彼等に同情なんかしてはいけません。彼等は、我々の倒すべき敵なのですから。殺されて当然のことをした者達なのです。彼等が緒沢提督を殺した連中の仲間ということを忘れてはいけない。同情をするということは、記憶を改ざんされたまま敵に飼い殺しにされつづけるということなのです。もちろん、かつて親しかった者を間接的に殺したということは、あなたたちにとって耐え難い苦痛なのかもしれません。その後悔は忘れろとはいいません。それを罪だと思うのなら思えばいい。しかし、その罪を背負ってでも、我々は成し遂げなければならない事があるのです。この先、同じような事はきっと起こるでしょう。けれど、決して屈してはいけません。我々の大いなる目的の達成のために! 我々はもう後戻りできないのです。それを思い返す良い機会だったのです。私達は、もう元には戻れない。偽りの世界とは決別したのですから……。安心しなさい。あなたたちの罪は私が共に背負いましょう。だから、今は恐れず動揺せずに前に進むのです。いいですね? 」

永末は一気にまくし立て、彼女達の反応を見る。

これくらいのショックを与えたほうが彼女達を制御しやすいだろう。罪の意識は取り入る隙を生む。今がまさにその時だ。彼女達の罪を共に背負うと宣言して、彼女達の懐に潜り込むことができただろうか。同じ目的の為にすべてを投げ出す覚悟のできた人間だと認識してくれただろうか?

 

「……わ、わかりました。目的の為には仕方ありません。遅かれ早かれこうなる可能性はあったのですから。……済んでしまった事を後悔してもしかたありません。私達は前に進むしかないのですから。悲しいことですが……みんなもそう思いませんか? 」

意図してかはわからないが、扶桑がフォローしてくれる。旗艦がそう言えば、他の艦娘も納得せざるを得ないだろう。

思わずにこりとしてしまう。それをどう受け取ったのかは知れないが、扶桑が照れたように目線を逸らす。

他の艦娘達からも異論は聞こえてこないようだ。不知火や羽黒、初風からさえ何も聞こえてこない。

 

「沈黙は、同意と取っていいですね。皆さん、苦しいかも知れませんが、これは仕方の無いことなのです。やむを得ない犠牲だと諦めて下さい。今は苦しいかも知れませんが、正義の遂行のためにやむを得ない行いなのです。その先にあるものを手に入れるため、今は耐えて下さい」

重々しく永末は訴える。

誰も言葉を発さないものの、誰もが受け入れたと感じ取れた。

 

それでいいのだ。永末は満足する。

無理矢理引き込んだ艦娘達も、今の攻撃で多くの人間が死んだことを認識しただろう。たとえ、無理矢理引き込まれたと言っても、多くの仲間を死なせてしまった事実には変わりはない。犠牲となった者達からすれば、彼女達も殺人者の仲間としか認識されない。どんな言い訳をしようとも、起こってしまった事実を消すことはできないのだから。彼女達の手はもう血で汚されてしまった。彼女達は、もう逃げることはできないのだ。

 

「では、扶桑さん。行きましょう。轟沈したとされた艦娘達が待つ場所へ。……誘導をお願いしてもいいですね」

問いかけに扶桑は頷く。

 

野望の成就にさらに近づいたと実感する永末だった。

 

 

一方―――

 

舞鶴鎮守府は、大混乱の最中にあった。

 

格納庫や弾薬庫、それだけでなく兵員宿舎や食堂などあちこちが突然、爆破された。破壊は艦娘の宿舎にまで及んだようで、火の手が上がっているのも確認できる。これだけの大規模な事が単なる火事によるもので無い事は考えるまでも無かった。

 

明らかな何者かによる爆破だ。組織的な破壊工作であることは疑いようもなかった。

 

鎮守府の外周は塀によって仕切られ、陸軍によって警備されている。海については、深海棲艦の支配下にあるわけであり、艦娘の護衛なくして船を出すなど自殺行為であることは誰しもが認識している事だ。つまり、侵入することなど不可能な筈なのだ。

そして、鎮守府内だって普段から兵士がパトロールしているし、あちこちに監視カメラが設置され、異常があれば警報がなるはずなのだ。

 

なのにそれらの警備網にかかることもなく、爆弾を設置した何者かがいたというのだ。

内部に犯人と繋がる者がいることは間違い無い。しかもこれだけの規模の爆薬を設置するということは背後に大きな組織でも無い限り不可能。そんな組織がこの日本に存在するのか?

 

混乱の中、消火のために次々と兵士達が消防車に乗り込み、発進していく。

 

しかし、その混乱を嘲笑うように新たな危機が襲来する。

それは、敵襲だった。しかも、重火器で武装した複数の人員による攻撃だった。

警備網を突破して武装集団が鎮守府内進入するなど誰も想定していなかった事だ。想定外の事案が、更なる混乱をもたらし、対応が後手後手に回ってしまう。

 

監視カメラの映像分析により、侵入者は二班に分かれて行動している事が判明している。

重火器による無差別攻撃を行う者と、それとは別の目的で行動する者がいた。無差別攻撃を行う者とはすぐさま銃撃戦が展開される。しかし、軍隊との交戦を想定などしていない鎮守府防衛隊は拳銃程度の武器しか配備されていない、自動小銃や対戦車ミサイルまで持ち出した敵に対しては無謀ともいえた。画像分析の結果、それらはロシアもしくは中国製の火器であることが判明している。

深海棲艦に制圧されて後、外国との行き来は完全に遮断されている現状でということは、それ以前に大量の重火器を入手していた勢力がいたということになるが……。はたして何者というのか? しかし、今はそんなことを詮索している余裕は無かった。侵入者を撃退してから考えればいい。そう、敵を撃退することができたなら……の話だ。

 

不利なことばかりでは無い。守備する鎮守府にも有利な事もあった。それは、敵が訓練を受けた軍隊ではなく、単なる一般人レベルの練度しか無かったことだ。更に鎮守府内は非公開であったことから敵は地理に詳しく無く、土地勘と人数差により守備側の不利を補い、戦いは拮抗したものとなっていたのだ。

 

それでも、侵入者の使用する重火器の威力の前に、多くの死傷者が発生することになる。

 

敵の侵攻方向からして、彼等の狙いは司令部およびドッグの占拠であると推測できた。一直線に向かっている。

 

もう一つの勢力がいたことは戦いの序盤は知られることが無かった。

彼らは先行部隊とは間逆に戦闘を極力避けて密かに侵入し、作業中の兵士達を捕らえそして脅し、艦娘の居場所を言うように命じたのだった。拒否した兵士はみんなの目の前ですぐさま殺され、脅しに屈した兵士もやはり殺された。

 

彼らがもっと慎重に行動を行ったなら、先行部隊の対応に気を取られていた鎮守府に悟られることなく、目的を達成できたかもしれない。しかし、この作戦に従事する人間は先行部隊より更に質が悪く粗暴で、寄せ集めの連中だったことが鎮守府には幸いした。侵入者の中では発言力の強いモノ達が楽な仕事である上に安全であり、金にも直結する艦娘奪取に回ったのかも知れない。さらに、重火器を手にしているために気が大きくなり、作業が雑になるのも仕方ないかもしれない。鎮守府側は拳銃しか持っていないのだから、正面からぶつかり合えば勝敗は火を見るより明らかと判断してしまうのもやむを得ない。

奢った彼らは、自分の目的を捉えた兵士達に自慢げに語ったりもしたのだった。そのおかげで鎮守府側は運良く殺されずに済んだ兵士からの情報や、マイク付き監視カメラの情報から彼らの真の目的を早期に知ることができたのだった。

 

鎮守府は、すぐさま艦娘達に対して避難指示を行うとともに、彼女達を守るために護衛の兵士達を向かわせる。まさかそんな大胆で愚かな事を考える人間がいることに考えが及ばなかったために、対応が遅れてしまった。

 

軍艦に搭乗した艦娘は鬼神のごとき強さを見せるが、人間の体の方の艦娘は運動能力は確かに人間より遙かに高いものの、撃たれれば怪我をするし、死にもする。それだけでなく彼女達は人間に対して攻撃ができないように作られていると聞いている。故に敵に襲われれば大した抵抗もできずに囚われることになってしまうだろう。無抵抗な彼女達を護らなければならない。

 

艦娘を失うことは、国家にとって致命的な損失となるのだから。

 

現在、鎮守府指令官が不在ではあるものの、危機管理の一貫として権限の代理者は複数者常にいるようにしている。

天ヶ瀬中尉も司令官代行権限を持っているため、指揮に当たっている。普段は事務処理の総括の部門で冷泉を補佐している彼女であるが、緊急事案に戸惑いながらも速やかな指示を各所に行い、行動に移されていく。

 

ただ、火力の差はいかんともしがたく、じわじわと押されている箇所も出てきている。やはり非戦闘員が多いため、苦戦するのは仕方がないことなのだろう。

 

警陸軍防衛隊に対しては、先程から緊急の救援の連絡は入れている。普段なら怠慢な行動をする彼等もこの緊急事態は解っているようで、すでに兵員の派遣を行っており、追加部隊も間もなく派遣すると回答してきている。敵の武装についても連絡済みであり、それを聞いた陸軍兵士は驚愕していたようだったが、そんなことはどうでもよかった。

「とにかく、すぐに救援を寄越して下さい。緊急事態です。とにかくさっさとしてください」

と、怒鳴りながら通信を切った。

 

「艦娘達はどこにいるのかしら? 」

現在の艦娘の位置状況を皆が必死になって調べる。

 

現在、ドックにいる艦娘については速やかに艦に搭乗させる指示をする。

艦に乗り込めば、彼女達は防御システムの加護の中に入ることができるため、人間が持つあらゆる攻撃を無力化できるため一番安心といえる。

 

「艦から離れた場所にいる子たちはどうなっているの? 」

天ヶ瀬の苛立ち気味の問いかけにすぐさま答えが返ってくる。加賀、長門、高雄が提督執務室にいることが確認されている。

 

「分かったわ。早急に護衛の兵士を向かわせてあげて。それから彼女達に連絡を。とにかく施錠して絶対に外には出ないようにと」

司令部なら堅牢に造られているから少々の攻撃ではビクともしないはずだ。扉だって頑丈。なんとか持ちこたえてくれるかしら。

 

「現在、近辺に人員はいません」

という回答。

 

「……あなたとあなた。銃を持ってきて。私も行きます」

持ち場を離れるのは良くないが、ここで加賀達3人を危険に晒すわけにはいかない。なんとしても艦娘たちを守らなければならない。そうでなければ、自分たちに後を任せてくれた冷泉提督に顔向けができない。それだけではない。艦娘を失うということは国家にとっても重大な危機に直結するということだ。

たとえ命に代えても彼女達を守らなければならない。

 

「他に艦娘は? 」

問いかけに反応。

 

「戦艦榛名が所在不明となっています。最後に確認されたのは宿舎でしたが、それ以降の足取りは不明とのことです」

済まなそうに兵士が答える。

 

「なんですって? 何でこんな時に」

 

「すみません」

苛立ち気味に叫んだ天ヶ瀬に怯えた表情で頭を下げる。……あなたが謝る必要はないのだけれど。そんなことを思うが、今はそれどころじゃない。

榛名……か。ごく最近、鎮守府にやってきた戦艦。彼女は、よく、誰にも行き先を告げずにしかも時間を問わず、ふらっと居なくなることがあったので何度か注意をしていた・けれど、返事だけはいいのだが、全くそれは改善はされていなかった。何か夢遊病者のようなっている時が時折あったという報告も受けている。しかし、それがこんな時に発生するなんて。とにかく急がせないと。

「じゃあ、あなた達は榛名を捜し出して、見つけ次第保護しなさい。……全員に榛名を見つけたら報告及び保護を通達。至急お願い。じゃあ、行くわよ」

そう言うと、天ヶ瀬は普段、気にもしたことのない銃の存在をしっかりと確認して駆けだした。


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