まいづる肉じゃが(仮題)   作:まいちん

12 / 255
第12話

「ふーっ、やれやれだ。滅茶苦茶に疲れたよ……」

冷泉朝陽は未だにヒリヒリと痛む頬をさすりながら、大きなため息をつく。

「やっと一人になれた」

とても疲れた一日だった。いろんなことがありすぎたと実感。

しかし……。

あのビンタを喰らってよく生きていられたな! と自らの頑丈さを褒め称えざるをえない。

女の子なのに、戦艦である金剛だけじゃなくて、駆逐艦の叢雲も半端無い馬鹿力だった。

 

金剛:136,000馬力

叢雲: 50,000馬力

金剛はじゃれてきただけだけど、叢雲はパニック状態だったから全力だったかも。

 

そんな彼女たちの、まあ悪気はあまりない? 致命的な攻撃を喰らいながらも、かろうじて凌ぎきった自分。

すごいすごい。

まあ、そんなことを自慢しても、現状は何も変化無いことに気付き、狼狽する冷泉。

 

さて―――。

 

舞鶴鎮守府に着いた時にはすでに夜も更けていたため、一緒に帰ってきた金剛・扶桑・叢雲以外の艦娘と会うことは無かった。

よく分からないけれど、艦娘たちは就寝時間(就寝するのかどうか分からないけど、金剛は帰ったらすぐ寝るとか言ってた。だから睡眠という行為も艦娘には必要なのと推測)というものがきっちりと決められているのだろうか。

 

何せ、もう日付が変わってるからね。

 

しかし、今日が何年の何月何日であるかを今のところ知るすべがないだけど……。そもそも西暦とか平成なのかさえ謎です。

最近、ダコモSHOPで無料(タダ)で手に入れたスマフォ「ガラクターG∞(ジーアンフィニ)」とお気に入りの時計も紛失してしまっている。ま、仮に持っていたってここが自分がいた世界じゃなければ無意味なんだろうけど。

 

ベイビー、後ずさりするな。

 

それはともかく、帰ってくる時間が遅かったおかげで、他の艦娘と会わずに済んだのはある意味、僥倖と言えた。

今日はなんとか乗り切ったものの、今後、これ以上ぼろが出ないうちになんらかの対応を考えておかないと、まじでやばい。

 

それは実感。

 

いや、実際は、もうだめかも知れないですけれども。

叢雲に対する対応以前に、すでに扶桑にはかなり疑われている感じだしなあ。

叢雲とはあんなことがあったから、しばらくは近づいてこないだろうからその点だけに関しては大丈夫……かな。根拠無いですが。

それから、金剛はあまり物事を深く考えないタイプみたいだから、放っておいても大丈夫であろうと希望を込めて判断。

 

だが、しかし――。

何にしても明日以降はさらに多くの人や艦娘と出会うことになりそうだから、どうにかして情報を入手しておかないと絶対に破綻するな……。でも正体がバレたらなんて言い訳しようか。うーん、土下座したら許してくれるかな。

うーんうーん。どう考えても無理だよなあ。

「うおえっっぷ、おええぇぇぇぇ」

猛烈に吐き気がしてきた。胃がキリキリ痛み出すし……。先の事を考えたら気持ち悪くなってきた。

どうしよう、どうしたらいい、どうすんべ?

「ああああああああああああ」

頭を抱えるけれど、何も解決策なんて出やしないさ。

だめだー。

 

しかし! そこでハタと気付いたんだよ。

同時に唐突に怒りがこみ上げてくる。

 

自分が好んでこんな立場になった訳じゃないのになんで悩まないといけないの? 本気で自分が置かれた現実にイラッとする。誰か説明に出てこいや。チュートリアルでもやれよ、ヴォケー!! などと。

 

そして、再び思考が冷静になる。

最近、躁鬱が激しいな、自分でも思う。でもでも、決して新型鬱病じゃないよ。

 

しかし―――そもそも何故、自分の正体がばれないかということ自体が謎なんだけれども。

側にいたはずの艦娘も、冷泉の外見には全く異常を感じていないようだし、そもそも迎えに来ていた鎮守府の兵士にだって正体がバレやしないかと注意深く観察してたんだけど、少なくとも表面上は何の反応も無かったんだよね。

 

これは何故? どうしてなんだろう?

 

何かのドッキリだったら、すごく楽だけど。

んなわけないよな。

 

もうどうにでもなればいいやって投げやりになる自分がいるが、そんなことになったら自分はどうなるのか?

軍人でもない一般人の自分が軍事施設の中枢部に入り込んでしまっている。一般人といってもおそらく身元を証明なんてできないから、明らかな不審人物と思われるはず。運が悪ければ、といいうかほぼ間違いなくスパイ容疑はかけられるよなあ。

 

結論は明らか。

たとえ殺されるまでは行かなくても、ムショ的なところ(まあ間違いなく刑務所ですが)に放り込まれるんじゃないかと怯えている自分もいる。

正体不明だから拷問とかもされるんだろうなあ。

ファラリスの雄牛、凌遅刑、コロンビアンネクタイ、鍋責め……。

そんなんされたらすぐにゲロっちゃうよ。いや見た瞬間自供始めます。

でも、本当の事を言っても絶対に信用できない内容だから、殺されるかもです。

あーあー。

何も聞こえないし何も考えられないよ。

死にたくないし痛いの嫌。助けて。

 

落ち着け落ち着け。

まずは現状分析をするしかない。何事も分析分析なんだ。

 

深呼吸を何度も繰り返し、精神を落ち着かせようとする。

自分にいる部屋を見回す。

 

ここは舞鶴鎮守府のあるエリアの中にある、3階建ての建物の最上階の一室。ここが提督の部屋らしい。部屋の奥に扉があり、そこを開けてみると寝室となっている。8畳くらいの部屋で何故か畳敷きで簡素な家具が置かれ、布団が畳まれていた。なんかそこだけすごい生活臭がする。まあ、初期の艦これの提督の部屋みたいなもんだな。

 

ちなみに2階には会議室があり、どうもそこから自分は誤って転落して頭が爆発して入院したらしい。

 

そんなお馬鹿さんっているのか。しかも、それが自分だなんて。

 

コの字型に配置された建物の中央部である。舞鶴鎮守府の艦隊司令部といったところだ。夜だからほとんど見えないが、少し行けばもう港であり、我が艦隊の全艦艇が係留されている。

 

鎮守府の周辺はここで働く兵士達目当ての酒場や店舗が入る雑居ビル群があり、街行く人の数も多く、かなり賑やかでよくある軍港周りの風景に思えた。

 

鎮守府については警備の為か、その広い敷地の外周すべてが3メートル程度の高さのフェンスで囲まれいる。塀の中には一般兵士達のいる居住区や事務棟、兵器庫や格納庫がある。さらにその奥には艦船が係留されている港があるのだけれど、ドッグ部も含めてそのエリアについては外周を取り囲む塀を上回る高さの塀で厳重に囲まれている。このため、外からは塀の中に何があるのか分からないどころか、軍艦の姿さえ確認できないようになっている。周辺の建物は大きくても4階建てまでだったことから、もしかすると、高さ制限でもかけられているのかもしれないなと今思った。

 

鎮守府敷地への出入りは提督である冷泉が乗っていたのだけど、そんなの関係ないようにチェックは厳しく行われた。

敷地入り口のチェックもそれなりに厳重だったが、さらに進んで港エリアに入る時はそれ以上に厳しかった。

 

そこには重武装の兵士が複数立っており、それだけでなく周辺を複数の兵士が警備をしているのが確認できた。

何から警備しているのかは、冷泉には分からない。

 

今、冷泉は詰めれば三人くらい座れるくらいの大きさの、提督用の立派な革製らしい椅子に座わっている。両袖机の右側の引き出しを開けて、中に並べられている書類を確認しようとする。

ちなみに、この部屋には円卓が置かれていて、10脚の椅子が置かれている。ホワイトボードなんかもあるからここで作戦会議とかやってるのかもしれないな。

 

いくつかのファイルと取り出し、中身に目を通してみる。

海図らしいA4の資料に細々とメモが書かれている。これだけを見るとすでに攻略済みのマップなのかな?

そんなことを思いながらパラパラとページをめくる。

 

「提督……」

突然、背後から声。

 

「うひゃああああああ!! 」

慌てた冷泉は悲鳴に似た声を上げ、勢いで椅子から転げ落ちた。

臀部を痛打した。

 

激痛で死にそうになる。痛みで嫌な汗出たし。

 

みんな艦なり宿泊施設なりに帰ったんじゃないの? 違う艦娘が起きてきたのか? 職員はこのエリアに入ってくることは無いはずだし。

 

「すみません、びっくりしました? 」

冷泉が声のする方を見ると、そこには扶桑が立っていた。

 

しかも、何か思い詰めた表情をしてるし……。

 

あちゃー。これって、まずいんじゃない?

何も対策できてない状態だっていうのに。

 

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。