「いやー、仗助と億泰がお勧めするイタリアンっていうからちょっと不安だったが、予想以上に素晴らしかった」
「………………」
「ん? りん、どうかしたか?」
「う、ううん、何でもないよ! 凄く美味しかったね!」
「あぁ、ミネラルウォーター一つを取っても涙が止まらなくなるかと思ったよ」
午前中の講義終了後、約束通りりょーくんと一緒にランチをしたのだが……何だろう、この適当に省略された感は。楽しく会話をしながら美味しいイタリアンに舌鼓を打った記憶はあるのに、どうしてこんなにも腑に落ちないのだろうか。
「さてと、これから俺は仕事で○○スタジオに向かうんだが……りんは?」
「アタシもお仕事だよ。でも一回本社に戻らないといけないんだ」
車の運転席に乗り込みながらりょーくんがしてきた質問に、アタシもその助手席に乗り込みながら答える。
「そうか。んじゃ、送るよ」
「え? でも○○スタジオと反対方向だけど……」
「いいからいいから」
そう言いながらりょーくんは車を発進させると進行方向を本社に向けてしまった。
「……いひひっ、ありがと! りょーくん!」
「どーいたしまして」
りょーくんが運転する車の助手席に座る、というのはりょーくんが教習所に通っているという話を聞いた時からのアタシの望みだった。
本当だったら一番にりょーくんの隣に座りたかったのだが……何でも、免許を取ってお父さんから車をプレゼントされたその日の慣らし運転の際にお母さんがいつの間にか助手席に乗っていたらしい。少しだけ悔しかったが、あの可愛らしいお母さんが「えへへ」と笑いながらいそいそとシートベルトを締めている姿を想像したら「まぁしょうがないかな」という気分になった。
しかし二番目は間違いなくアタシだったらしいので、それだけでも十分満足である。
チラリと運転中のりょーくんの横顔を見る。プライベートでは変装用にいつも眼鏡をかけていたのだが、最近ではさらにその頻度が増えた。「本当はかけっぱなしだと更に目が悪くなるらしいんだけど、まぁ運転中は少しでも視力高い方が安全だしな」とはりょーくんの弁。
(……はぁ~!)
眼鏡かけて真面目な顔(無表情)でハンドルを握るりょーくん……眼福です!
「なぁ、りん」
「ひゃい!? な、何かな!?」
突然声をかけられたので変な声が出てしまった。
にやけたり変な顔をしていなかったどうか気になったが、りょーくんから振られた話題に意識が切り替わった。
「IUのことなんだが」
最近暑くなってきたので薄着になって、更にシートベルトでπ/になっているりん……眼福です!
っと、それも大事だが今は真面目な話だ。
「りんは麗華から何か聞いてるか?」
「……ううん、聞いてない。というか、麗華も知らないみたい。今色々と人を使って調べているみたいなんだけど、全く情報が掴めないって」
「そうか……」
麗華なら何か知ってるかもと思ったんだが……。
「一体どういうことなんだろうね…IU開催が延期するなんて」
IUは今まで二年に一度、三月に開催されてきた。前回のIUが去年だったので、次回のIUは来年のはずだった。しかし、その開催延期の通知が関係各所に届いたのだ。大体先月のシャイニーフェスタが終了した辺りの話である。
「俺も兄貴も色んな知り合いに聞いて回ってるんだがなぁ……」
結果はお察しの通り。知り合いというのも他事務所の社長だったりテレビ局の社長だったりその他様々な分野のお偉いさんなのだが、誰一人としてその詳細を知る人はいなかった。
方々からの問い合わせに対してIU制作委員会及び日本アイドル協会からの返答は無し。
――まるで、IUの話自体が『日本ではない別の何処か』で動いているような……。
「……りょーくん」
「ん?」
「……楽しそうだね」
「……まぁな」
「しれーっと事務所に入っていって黒井社長に聞いてくるとか出来ないか? ……お、尻尾切れた」
「出来る訳ないでしょ。……あ、天鱗」
「ですよねー。……ワーイ逆鱗ダー」
○○スタジオ控室。休憩時間にアニメの共演者である翔太と一緒にゲームをしながらどうにかIUについての情報を掴めないかと話をするが、やはり無理そうだった。
961プロから123プロに所属が変わったジュピターは個別に仕事をする機会が増えた。いや、961時代のジュピターは歌とダンス以外の仕事を殆どしなかったというのが正解か。どうやら黒井社長はジュピターとして売り出す以外のことは考えていなかったようだ。
ちなみに翔太は声優、北斗さんはモデルといった風に、それぞれの別の分野で実力を伸ばしているのに対し、リーダーの冬馬は歌とダンスに重点を置いて活動を進めている。全く他の仕事をしないというわけではないが、打倒俺というのは変わらないようである。
結局大学にも行かず、これから先はアイドルとして、または芸能人として生きていくと決めた冬馬。目標を持って研鑽を積む後輩に対し、先輩である俺が出来ることはただ一つ。周藤良太郎というアイドルの下地を作ったトレーニングをさせることによるレベルアップ。
そう、つまり天ヶ瀬冬馬、高町ブートキャンプへ本格参戦である。
真面目な話、冬馬ほどの熱意と根性があれば高町ブートキャンプでも十分やっていけると判断した結果だ。
士郎さんも事情を説明したところ、快く引き受けてくれた。いっそ事務所のアイドル全員のトレーニングでもしようかとも提案されたが、翔太や北斗さんはともかく恵美ちゃんやまゆちゃんを死地に追いやることは出来ないので丁重にお断りさせていただいた。それにしてもこの士郎さん、意外にノリノリである。休日は地元のサッカークラブの監督をやってるし、ものを教えるのが好きなんだろうなぁ。
とにかく『天ヶ瀬冬馬魔改造計画』は絶賛進行中である。
「周藤さーん! 御手洗さーん! 準備お願いしまーす!」
「はーい! ったく、三体狩って一枚も出ないってどういうことだよ」
「というか、天鱗欲しいなら背中破壊してサブクエマラソンした方が効率いいと思うけど」
「もう少し早くそれを教えてくれ」
さて、お仕事しましょうかね。
お嬢様学校に通うウチの妹は、若干おバカ故に劣等生扱いされつつも元気に暮らしていた。しかし、とある日を境に今まで頑なに譲ろうとしなかったポニーテールを止めてツインテールになってしまった! 増え続けるツインテールの女子生徒! 男子禁制の秘密の花園で一体何が!? 学園内で噂される『女神の祝福』とは!?
様々な思惑渦巻く学園の謎に、一人のシスコン兄貴が挑む!
『ふはははっ! 案ずるな妹よ! 確かに地上に降りたことで我が白き翼は
『お兄ちゃんさっきから煩い!』
『……はい』
……一人のシスコン厨二兄貴が挑む!
新番組! 『俺の妹がお嬢様学校の劣等生だけど女神の祝福でツインテールになったのは間違っている』!
なお翔太は主人公の友人で腹黒参謀役である。
一発オッケー連発でサクサク収録が終了し、次のお仕事である雑誌の撮影へと向かう。
しかし、その前に今朝兄貴に言われた通り新人二人を迎えに行かねばならん。
「えっと……ここからなら、まゆちゃんの学校の方が近いか」
という訳でまずはまゆちゃんを拾いに行く。
「はい到着ー」
まぁ男一人のドライブシーンなんて特に何かがあるわけでもないよ。
「しかし女子校なんだよなぁ」
ピチピチのJKが沢山……などと言っている場合では無く、あまり校門の前をウロウロとしていると変質者扱いされてしまう。何とか一発でまゆちゃんが見つかればいいんだけど……あ、いた。
校門にもたれかかるようにして腕時計を覗いているまゆちゃんの姿を発見したので、その目の前の道路にハザードを点けて停める。
「まゆちゃーん、迎えに来たよー」
ひらひらと手を振りながらまゆちゃんに声をかける。
「? ……!」
一瞬首を傾げたまゆちゃんだったが、声の主が俺だということに気付いた途端、嬉しそうな表情になって小走りでこちらにやって来た。
「良太郎さん! おはようございますぅ!」
「はい。おはよう、まゆちゃん」
後ろに乗るかなーと思っていたが真っ直ぐ助手席の方に来たので、置いてあった自分の荷物を後部座席に放り投げる。それと同時にドアを開けたまゆちゃんが助手席に体をすべり込ませてきた。
「わざわざ迎えに来ていただいてありがとうございますぅ。……はぁん、まさか良太郎さんの助手席に座れるなんて……!」
うっとりとした表情のまゆちゃんに、相変わらずミーハーな性格だなぁと思いながらシートベルトをしっかりと締めたことを確認してから車を発進させる。
「それにしても、良太郎さんが迎えに来てくださるとは思っていませんでしたぁ」
「あれ? 兄貴から聞いてなかったの?」
「はぁい。『迎えに行くから授業終了後に校門の前で待っていてくれ』と言われたので、てっきり社長か和久井さんが来てくださるものだと……」
そりゃあその言い方すりゃそう思うのも無理ないわ。寧ろ俺が迎えに来ると誰が想像できようか。
「今から恵美ちゃんの方も迎えに行くから、まゆちゃん、ちょっと恵美ちゃんに連絡入れといてくれないかな? 今からそっち向かうよって」
「はぁい。分かりましたぁ」
授業終了後、アタシは校門の前で迎えを待っていた。今日はこの後まゆと一緒に雑誌の写真撮影を行う予定なのだ。
ピロリン!
「んー?」
スマフォを弄りながら時間を潰していると、まゆからメッセージが届いた。
『今からそちらに向かいまーす』
どうやら先にまゆが合流したらしい。まゆの学校からこっちまで……車で十分程度、といったところか。
「お、恵美じゃーん。おっつー!」
『りょーかい』と返信をしていると、声をかけられたので顔を上げる。
「あ、美嘉。おっつー」
「あれ? 恵美も今日は撮影じゃなかったっけ」
早く移動しないと間に合わないんじゃない? と首を傾げる美嘉。
「うん、そだよー。でも事務所の人が車で迎えに来てくれるからここで待ってんの」
「えーマジで!? 346は迎えなんてくれないよー!」
まぁ、346プロダクションは大手事務所だけど所属アイドルが多いから一人一人カバーできるほどのスタッフはいないのだろう。ましてや美嘉はアタシと同じ駆け出しアイドルだ。
「……ねぇねぇ、アタシも一緒に乗っけてってくれるように頼めない?」
「え?」
「お願い! 今月ちょっとお小遣いピンチだから少しでも節約したいの!」
「……うーん、ちょっと待って」
美嘉が両手を合わせて懇願してきたので、今度はこちらからまゆにメッセージを送る。同じ学校に通っているアイドルの友達を撮影現場まで一緒に乗せていって欲しい、という旨のメッセージである。
『大丈夫だそうですよぉ』
帰って来たまゆからの返信は、笑顔の絵文字付の了承のメッセージだった。
「大丈夫だって」
「ホント!? ありがとー!」
……そういえば、迎えって誰なんだろ?
・仗助と億泰がお勧めするイタリアン
・「ミネラルウォーター一つを取っても涙が止まらなくなるかと思ったよ」
何度も言いますが、この世界にスタンドなんてものはありません(念押し)
・可愛らしいお母さんが「えへへ」と笑いながら
書きながら「あれ? これ妹だっけ?」と思いつつも「まぁ別に間違ってないか」とそのまま突き進んだ。
・π/
男の視線を下に落とす重力魔法。
・IU
二年に一度の設定は前々から記述していましたが、それすら更に延びることに。
……べ、別に劇場版とかデレマス編とか考慮した結果時期がずれ込んだとか、そういうことじゃないよ? ちゃんと理由あるよ?
・翔太は声優
「自w称wエwスwパwーwこwのw手wはw読wめwたwかw?」
・『天ヶ瀬冬馬魔改造計画』
これにより冬馬君の実力は原作よりも格段上になります。(確定事項)
・サブクエマラソン
G2の九天とかオススメ。
・『今こそ
???「!」ガタッ
※熊本県のとある少女がアップを始めたようです。
・城ヶ崎美嘉
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。パッション。
未来のカスリマJKアイドル。この時点で恵美たちと同じく駆け出しアイドル。
恵美と制服が違う? それは些細なことです。(耳塞ぎ)
何やら伏線めいたお話をしつつ説明回続行中です。別にすぐに影響するわけじゃなく、順調に行っても第五章とか第六章とかその辺りのお話になるかと。(そこまで続くかどうかは別問題)
まゆと恵美と美嘉の口調ってこれでいいのかと若干不安になりつつ次回に続きます。
おまけ
『劇場版ラブライブを観て思った三つのこと』
・俺がっ! 真姫ちゃんのっ! パパだっ!!
・(`・Д・)なるほど!(・Д・´)
・参加って? ←あぁ! それって、ママライブ?