アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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「……なるほどな……俺は今の今まで誤解していたって訳だ……」

 テッカメンダーのコクピット内で、リョウタローは自嘲するように呟いた。しかしパイロット適正を得るために失った表情は動くことなく、もし動くとしたら盛大に自分自身を嘲りたかった。

『ふん、今頃気付いたところでもう遅い!』

『我らの野望は最終段階に移る』

『貴様らはそこで絶望に打ちひしがれているがよい!』

 リンドバーグ右大臣とトモミオン左大臣を引き連れ、レイカーン総統は自らが操縦する『ギニューハオー』の進路を太陽へと向ける。

『拙いよにーちゃん! レイカーンが太陽エネルギーを手に入れちゃったら!』

『次元の狭間が無茶苦茶になって全次元世界がトーゴージ帝国に侵略されちゃうよー!』

 キサラギ・オーバーマスターと通信が繋がり、コクピット内にいたアミとマミの姿が映し出される。

「……すまん、俺が最初から話を聞いていれば……俺があいつらの話を真に受けてさえいなければ……!」

 リョウタローは悔いる。何故自分がキサラギと戦うことが次元の狭間を歪める原因となることに気付かなかったのか。それこそがトーゴージ帝国の策略だったというのに。

『そーゆー反省は後にして欲しいっしょー!』

『そうそう! 今はあいつらを止めに行かないと!』

 リョウタローが顔を上げると、そこには焦りに冷や汗を流しながらも全く折れていない瞳を光らせたアミとマミの姿があった。

「……そうだな。今はあいつらを止めよう。罰は後でいくらでも受ける! だから、頼む! アミ! マミ! お前たちの力を貸してくれ!」

『罰を受けるとか、力を貸してくれとか、そーゆー固いことは無し無し!』

『マミたちとにーちゃんは、もう仲間なんだからさ!』

「……あぁ!」

 そうだ、今はこの小さな勇者たちと目の前の敵を倒すことに集中しよう。

「行くぞ! アミ! マミ!」

『合点! アミとマミとにーちゃん! 三人揃えば百人力!』

『そして三人で三倍の力!』

「つまり……百人力×三倍×三人で……九百人力!!」



「「『行くぞ! 合体だあぁぁぁ!!!』」」






 これは、全宇宙、全次元世界を救うために立ち上がった――。



 ――揺れぬ胸部と揺るがぬ顔面を持つ二体のロボットと、三人の勇者の物語。






 劇場版! 無尽合体キサラギ 対 天上天下テッカメンダー!
   ~次元の狭間を突破しM@S~






 う そ で す
d(* ´∀`)b

 果たしてLesson72記念がこんなのでよかったのだろうか。


Lesson72 妨害、全力、そして決別 4

 

 

 

「………………」

 

「千早ちゃん、どうしたの?」

 

「あ、うん、何でもないのよ春香。ただちょっとイラッとしただけ」

 

 何故かは知らないが。

 

「それにしても、本当に凄いね……まさかこんなハプニング中に新曲発表しちゃうなんて……」

 

「えぇ……」

 

 春香の言葉に同意しつつ、ステージ袖からステージ中央の良太郎さんに視線を向ける。

 

 今日良太郎さんがトリで歌う予定だった曲の音源が紛失するというハプニングがあったにも関わらず良太郎さんはアカペラで歌い始め、あまつさえそのまま新曲発表までしてしまう始末。本当に普通では考えられないような度胸と自信である。

 

 同じような状況になったとして、果たして私に同じことが出来ただろうか。

 

 曲が流れない状況で歌う……多分、出来る、と思う。私の持ち歌は他のみんなの持ち歌と比べるとアカペラに適した雰囲気のものが多い。故に曲が流れない状況で歌っても違和感を持たれず演出ということに出来る。

 

 

 

 しかし同じように曲が流れない状況で『新曲』を、『未発表の曲』を歌うことが私に出来ただろうか。

 

 

 

「こんな状況で新曲とか、考えられないぞ……!」

 

「わわ! 新曲! 新曲なの! いつ発売!? 特典は!?」

 

 ステージ袖から覗いていたみんなの反応は主に二つ。我那覇さんのように純粋に驚愕するか、美希のように新曲に興味を持つか。大半は前者で、良太郎さんの熱狂的なファンは後者に当てはまる。

 

 そんな中、魔王エンジェルの三人だけ反応が違った。

 

「……ねぇ、ともみ、アンタこの新曲のこと聞いてた?」

 

「ううん、聞いてない。……本当にサプライズのつもりだったんじゃないかな」

 

「……受験勉強のために仕事を休むって言ってる奴がわざわざこんなサプライズのために新曲を用意しとくと思う?」

 

「……言われてみれば」

 

「……まさか思いつき……いやいやまさか……いやあいつなら……」

 

 「……でももしかして……やりかねない……」と据わった目でブツブツと呟く東豪寺さん。何故だろう、私達よりも先輩でより有名なトップアイドルだというのに同情を禁じ得ない物悲しさを感じる。

 

「あれ? そういえばやけに大人しいね、りん。リョウが新曲をこんなサプライズに発表なんてしたらもっと騒いでてもおかしくないのに」

 

 ともみさんのその言葉に釣られてすぐ傍にいる朝比奈さんに視線を向ける。

 

「………………」

 

 朝比奈さんは真剣な、いや、険しい表情でステージ上の良太郎さんを見ていた。

 

「りん? アンタ、どうしたのよ」

 

「多分、リョウの新曲に聞き入ってるだけ……」

 

 

 

「……なんか、変だ」

 

 

 

「え?」

 

 朝比奈さんが発したその言葉に、近くで聞いていた私も呆気に取られた。

 

「良太郎が変なのはいつものことじゃないの?」

 

「それを抜きにしても、いつも通りのリョウにしか見えないけど」

 

 私も東豪寺さんとともみさんの言葉に同意する。竹を割ったようでタコを切ったようで人を食ったような性格の良太郎さんが変なのは勿論のことだし、いつもと変わらない無表情故に私の目にもいつもの良太郎さんにしか見えなかった。歌っている曲こそ新曲なので聞いたことが無い曲だが、それ以外はいつもの良太郎さんである。

 

「何か……りょーくんが凄い無理をしてる気がする」

 

「は? 無理?」

 

「どういうこと?」

 

「分かんない、分かんないけど……りょーくんが凄い辛そうに見えるの」

 

 良太郎さんが、辛そう?

 

 一体、それはどういう意味――?

 

 

 

『みんなー! 今日はありがとー! 来年の春にまた会おう!』

 

 

 

 スピーカーから響く良太郎さんの声が曲の終わりを告げた。

 

 観客は新曲の詳細を明かさないことに対して若干の不満を感じているが、それ以上に誰よりも早く、それこそメディアに発表される前に新曲を聞けたことに対する満足感の方が勝っているといった様子だった。

 

 観客に手を振りながら良太郎さんはステージ袖であるこちらに戻って来る。

 

「りょーたろーさん! 新曲すごく良かったの!」

 

「りょーにぃカッコよかった!」

 

「はは、ありがと」

 

 キャイキャイとはしゃぐように駆け寄って行った美希や真美を軽くあしらいつつ、良太郎さんはステージ袖の奥へと足を進める。

 

 そして観客からは決して見えない位置にまで進んだ、その時だった。

 

 

 

 良太郎さんが、膝から崩れ落ちた。

 

 

 

「りょーくん!!」

 

 真っ先に動いたのは、朝比奈さんだった。

 

 

 

 

 

 

 ……アカン、頭痛い。ちょっとむりしすぎた。

 

 表情がうごかないのが幸いだった。かなり辛いけどこれなら観客にはバレない。

 

 あとは袖にいるみんなにもさとられなければいい。

 

 がくやまでいけばいい。あとはあにきにまかせよう。

 

 ……あ、マズ……。

 

 

 

「りょーくん!!」

 

 

 

 りんの叫ぶような声と何か柔らかいものに包まれる感覚を最後に、俺の身体の平衡感覚が言うことを聞かなくなった。

 

 

 

 

 

 

「りょーくん!? しっかりして、りょーくん!」

 

 緊迫した表情の朝比奈さんが良太郎さんの身体を揺さぶる。良太郎さんは朝比奈さんの身体に抱き着くような形で倒れこみ、朝比奈さんの叫ぶような呼び声(それでも外の観客には聞こえない音量)にも全く反応しない。

 

「りょ、りょーたろーさん!?」

 

「りょーにぃ!?」

 

 美希や真美だけでなく、その場にいた全員がその不測の事態に当惑していた。

 

「良太郎!? っ、救急車……!」

 

 朝比奈さん同様に良太郎さんの傍にいた東豪寺さんが良太郎さんの顔を覗き込みつつ、ポケットからスマートフォンを取り出した。

 

 そしてそのまま救急車を呼ぼうとして――。

 

 

 

「……タンマ……」

 

 

 

 ――その手を掴んでそれを止めたのは、他でもない良太郎さんだった。

 

「っ!? 良太郎!?」

 

「……救急車はまずい……そとにまだかんきゃくがいる……」

 

「はあ!?」

 

「……たのむ……」

 

「~っ!? あぁもう! このバカ! アホ! 誰か表に車回しなさい! 急いで! そこのスタッフ、早く担架持って来て!」

 

「りょーくん! りょーくん!」

 

「リョウ、しっかりして!」

 

 スタッフが持ってきた担架で運ばれていく良太郎さんを、私は呆然と見送ることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

「……無事、終わったみたいだな」

 

 観客の歓声を受けつつステージ袖に捌ける良太郎の姿を見送り、幸太郎さんは溜息を吐いた。無理もない、自分が担当するアイドルがとんでもないことをしでかしたんだから。

 

(……それにしても)

 

 先ほど良太郎が披露して見せた新曲について思い返す。

 

 歌詞の内容は、先ほども歌った『Re:birthday』に対するアンサーソングと言ったところだった。生まれ変わりアイドルとなった少年が、『俺』がいなければ『僕』は果たしてアイドルになったのだろうかと悩みつつも歌い続けることを選ぶ。そんな内容だ。『Re:birthday』の時も感じたが、相変わらず不思議な歌詞を考える奴である。

 

 もしかしたら元々そういう歌を考えていたのかもしれない。ある程度の構成は出来ていたのかもしれない。

 

 けれど曲と振付は、恐らくあの場で作りだされたものなのだろうと俺は考えている。

 

 思い返してみると、曲も振付も何ヶ所か聞き覚えや見覚えのあるものがあった。多分、全てがオリジナルではなく、今までの曲からの引用もあったのだろう。

 

 じゃあ今の曲の全てが継ぎ接ぎだらけだったのかと言われればそうではなく、そのどれもが新しい歌詞の雰囲気やアカペラという今の状況に適したものに変わっていた。

 

 

 

 新たに与えられずとも自らが持っているもので人を惹きつけ魅せる。

 

 きっと、これが良太郎の『自動最適化能力(オートチューニング)』の極致。

 

 

 

(……出鱈目(チート)にもほどがあるだろ……)

 

 改めて、自らが挑む壁の高さに呆れることになった。

 

 

 

「……認めん……認めんぞ……!」

 

 

 

 それは、分かりやすく狼狽したおっさんの言葉だった。

 

「何なのだあれは、曲が一切流れない中で歌うどころか、その場で新曲だと!? ふざけるな! たかがアイドルにそんなことが出来るはずがないだろう!?」

 

「……おっさん、今『たかが』アイドルっつったか?」

 

 

 

 その発言は、その発言だけは聞き流せなかった。

 

 

 

「アンタにとっちゃ俺たちアイドルは駒に過ぎないんだろうけどな、ステージに立ってる俺たちはいつだって真剣(マジ)なんだよ!」

 

「もうちょっと僕たちのこと見ててくれれば、音源無しで歌うことぐらい出来るって気付いてくれたはずなのに」

 

「貴方は、俺たちのことを何も見ていなかったんですね」

 

「何を……!? 貴様らは、ただ私の言うことを聞いていればいいと言ったはずだ! 私を信じていれば、貴様らは直にトップの座に登り詰めることが出来るのだ!」

 

 ……良太郎を押しのけ、トップの座に、か。

 

(……その言葉、もう少し違う形で聞きたかったぜ)

 

 俺たちは打倒良太郎を諦めたわけではない。だからその言葉自体には賛同してやる。

 

 でもな。

 

 

 

「俺が……俺たちが信じるのは」

 

 

 

 ――なぁ、冬馬、翔太、北斗さん。

 

 

 

「『自分を信じろ』って言うアンタじゃない」

 

 

 

 ――俺は、三人を信じてる。

 

 

 

「『俺たちを信じてる』って言ってくれた良太郎だ」

 

 

 

 あいつが目指すべき目標で居続けてくれることが、俺たちがトップアイドルになるもっとも正しい道だと俺たちは信じている。

 

 俺たちは、おっさんよりも正しく俺たちのことを評価してくれていた良太郎を裏切っちまった。

 

 だからこそ、俺たちは二度と良太郎を裏切らない。

 

 

 

 今ここが、俺たちが決別する場所だ。

 

 

 

「……後悔するぞ」

 

「今まで以上の後悔なんてするわけねぇよ」

 

「いつか私が正しいと気付く日が来る。そうなった時に泣きついてきても知らんぞ」

 

「黒ちゃんこそ、僕たちがいなくなって泣かないでよ」

 

「今の業界で仕事が出来ると思うんじゃないぞ」

 

「例えテレビに映れなくても、歌と踊りがあれば俺たちはアイドルですよ」

 

 こんな俺のバカみたいな考えに賛同してくれるこいつらには感謝しかない。

 

「……勝手にしろ。この先、どうなっても知らんがな。ハッハッハ!」

 

「……待てよ」

 

 そんな高笑いをしながら去ろうとするおっさんを呼び止める。

 

 おっさんが考えを改めない限り、俺たちがこのおっさんと相容れることはないだろう。

 

 けれど、今ここで言っておかなければならないことがある。

 

 

 

「……俺たちをここまで育ててくれたことだけは……礼を言っておいてやるよ」

 

「ありがとねー! くろちゃん!」

 

「どうかお元気で」

 

 

 

「……~っ! ちっ!」

 

 こちらに背を向けたままだった故に、その時のおっさんがどんな表情をしていたのかは分からない。

 

 もし、少しでも振り向くようなことがあれば。

 

 

 

 ……きっと、俺たちがこうして決別するようなことにはならなかったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 それは、良太郎がぶっ倒れて病院に運ばれたと聞かされる僅か一分前の出来事だった。

 

 

 




・劇場版! 無尽合体キサラギ 対 天上天下テッカメンダー!
ハルシュタイン閣下との死闘から数年後、アミとマミの目の前に現れたのは別次元の勇者リョウタローと彼が駆るロボット『テッカメンダー』だった!
何故彼らは戦わなければならないのか!?
そして『トーゴージ帝国』の真の目的は!?
みたいなノリ。

・キサラギ・オーバーマスター
キサラギがリッチェーン、アズサイズ、ユキドリルと合体した最終形態。本来のキサラギにコクピットは無くリモコンで操作していたが、オーバーマスター状態になることでコックピットが現れ宇宙空間での活動も可能になるんじゃないかなぁ!

・「百人力×三倍×三人で……九百人力!!」
所謂『ウォーズマン理論』。キン肉マンを知らなくてもガオガイガーやグレンラガンを見ていた人には何となく分かってもらえると思う。

・竹を割ったようでタコを切ったようで人を食ったような
「竹を割ったような」と「人を食ったような」はそれぞれ人の性格を表す言葉。
「タコを切ったような」は某日曜日じゃんけんアニメネタ。
信じられるか……? あの主婦、楓さんより年下なんだぜ……!?

・何か柔らかいものに包まれる感覚
やったね良太郎! 待ちに待ったラキスケだよ! これでもう悔いはないよね!?

・『Re:birthday』に対するアンサーソング
(別に曲の内容がフラグになるわけでは)ないです。



 前書きと本編の温度差が激しいですがこの小説ではよくあることなのでお気になさらず。

 何やら前回のお話に対する言い訳回のようになってしまいましたが、周りから見た良太郎の新曲の認識です。そして今回も四話に纏まらなかったので次回に続きます。次回は良太郎視点からの新曲の詳細となります。

 あ、良太郎が倒れましたが別に歌えなくなったり踊れなくなったりするフラグではないのでご安心を。



『デレマス十話を視聴して思った三つのこと』

・へぇ、ここがロリコニアかぁ(バンギランド感)

・違うんですお巡りさん! この人たち怪しいけど違うんです!

・きらりがいい子すぎてしゅごいハピハピすぅんじゃ^~

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