『最強オリ主』の『転生チート』だということを再認識した上での閲覧を推奨。
ついに良太郎がやらかします。
「ふーむ」
現在、ステージの上では千早ちゃんが『眠り姫』を歌っている。王子様に起こされることなく永い眠りから目覚めたお姫様が、自らの力だけで旅立つというストーリーのこの曲。確かに千早ちゃんのイメージにピッタリの曲ではあるのだが……先日の一件を知っている身としてはちゃんと千早ちゃんは王子様の手で目覚めたと思う。まぁその王子様ポジは春香ちゃんだった訳だけど。
「千早ちゃんだっけ? 結構いい曲じゃん」
「そうだね」
「……まぁ、そうね」
ステージの袖から一緒に見学していた魔王エンジェルの三人からの評価も上々である。
ちなみに俺とジュピターのステージは既に終わっており、後はトリに一人でステージに立つだけである。当然のことながら妨害行為は無かった。俺のマイクが故障しているとかいう展開ならあるかもなーとか考えたが、そんなこともなかった。
しかしただ一人、麗華の眉間に皺が寄っていた。
「麗華、どうかしたか?」
「……961が何かしてくるんじゃないかと思ってたんだけど、別に何も無いわね」
どうやら麗華は黒井社長が765プロの人がステージに立っている間に何かしらの妨害をしてくるのではないかと考えていたわけだ。
「そうだな。音響トラブルですとか言われて音が出ないままアカペラで歌うことになるなんていう展開もあったかもしれないな」
「随分と具体的ね」
「まぁね」
「おい! どういうことだ! 何故765プロの曲が流れている!?」
「……上からのお達しがあったんですよ。貴方に何を言われようとも、自分は自分の仕事をこなします。何か文句があるようでしたら上の人間にどうぞ」
「ぐっ……!?」
「……何かしたの?」
「運営のお偉いさんの娘さんの誕生日パーティーにサプライズゲストとしてお祝いに行ったことがあってな。軽ーく『お宅のスタッフさんは他の会社の人間に唆されて曲を流さないなんてことありませんよね』的なニュアンスの話を少々」
「えらく具体的ね」
「まぁアイドルがどういうシチュエーションで困るかを考えたら音響や照明関係だからな。あとはメイクさんが来ないとかも考えられるけど、そっちは自分達でなんとか出来るでしょ」
地方公演とか小さなライブなら自分達でメイクしたりする場合もあるだろうし。
「え? アンタもメイク自分で出来るの?」
いくら何でもアンタがメイクもいないような小さなライブに出演なんてありえないと思うんだけど、と訝しげな目をした麗華。
「いざという時のための保険として一応簡単なやり方だけシャマルさんに教わったんだよ。まぁ男のメイクなんて女の子のそれと比べちゃえば本当に簡単だし」
「あぁ、シャマルさんに」
魔王の三人も八神堂をよく利用しているので八神家三女のご職業をしっかりと把握していた。
そんな会話をしている内に千早ちゃんのステージが終わり、次は入れ替わりで同じく765プロの竜宮小町の三人である。
「……どうやら何事も無く進みそうね」
「そうだな。765プロのステージは問題なく進みそうだな」
765プロのステージ
「……アンタの方は大丈夫なの?」
「大丈夫でしょ」
さっきも言ったが(誰にも言ってないが)俺に対して何かしてくるのであれば問題ない。ぶっちゃけ音源が無いぐらいならばどうとでも対処できるし。
「……そう。ならいいんだけど」
「心配してくれてありがと」
「ふん」
普通こういう場面なら顔を赤らめながらそっぽを向いてくれるとツンデレチックで大変よろしいのだが、麗華の場合本当に興味無さそうな感じだから大変残念である。
さて、ナンダカンダサケンダッテそろそろ『アイドルJAM』も終わりが近づき、いよいよトリである俺の出番である。
衣装を先ほどまで着ていたジュピターとのコラボのものからいつもの衣装に着替え、ステージ袖で待機する。いつもの衣装がどんなのかって? ちょっと何を言ってるのか分からないですね。
「りょーくん! いよいよ最期のステージだね!」
「うん、そうだね。だけどその言い方は俺のアイドル人生も終わる感じだから止めてくださいお願いします」
冗談で干される云々言ってたけどまだまだアイドル続けたいんですマジで。せめて最後で。最後でもないけど。
「楽しみにしてるよ、リョウ」
「精々最後に盛り上げてきなさい」
「やいさほー」
「りょーくんがやいさほーってした!」
「うん、やいさほーってしたね」
ステージ袖で魔王エンジェルの三人とそんなやり取りをしてから、俺はステージの上へ――。
「良太郎……!」
――行こうと思ったら、唐突に兄貴に呼び止められた。何やら珍しく焦っている様子である。
「何かあったのか?」
「それが……音源が紛失したらしいんだ」
「……はい?」
何ですと? 音源紛失?
「預けておいたお前の曲が入ったCDが無くなったらしくて、今PAが大騒ぎしてる」
「おおっと、そう来たか……」
誰が犯人とかどういう手口でとかはもうこの際置いておくとして、随分と直接的かつ大胆な方法に打って出たものである。
「どうする? 見つかるまでMCで繋ぐか?」
「いや、間に合わないでしょ」
本当にただ紛失しただけならば見つかる可能性もあるが、それが『盗難』となると廃棄されている場合もあるため見つからない可能性が高い上に時間がかかりすぎる。
本来ならばこういう時は順番を入れ替えるなどして対応するのだが、トリであっては入れ替えるも何もあったものじゃない。
「とりあえずPAさんにマイクの音量だけちゃんと調節するように、あとこちら側から責任問題について追及するつもりはないけど、今後こういうことが起こらないように管理体制をしっかりとするようにとだけ言っておいて」
スタッフさんはハッキリ言って巻き込まれただけなので、それで責められるのは可哀想である。ただまぁ、どんな形であれ預かったものを無くすのは社会人としては考えものなので今後のためにもしっかりとしてもらいたい。
「どうする気だ……?」
「どうする気も何も、アイドルはステージに立ったら歌うだけだよ」
だから全力で『歌う』だけだ。
「くそ……! どういうことだ……!」
「………………」
現在ステージの上では良太郎が自身の代表曲である『Re:birthday』を歌っている。しかし何故か曲が流れておらずアカペラの状態だ。こんな演出をするなんて良太郎は話していなかった。となると、これは意図せずして起こった不測の事態ということだ。
そしてその原因があるとするならば、間違いなく
良太郎がアカペラで歌い始め、尚且つそれで盛り上がっている観客を目の当たりにして狼狽えているこいつ以外に。
「……歌うはずの曲が流れないってのは……確かにハプニングだよ」
だけど、一つ勘違いしている。
「でもな。曲が流れない状況で歌うなんてことは、俺たちアイドルにとっちゃ造作もないことなんだよ」
「……は? ……き、貴様、何を言って……」
突然の言葉に呆けたようなおっさんの顔が、とても滑稽だった。
「何十回、何百回と歌った曲は耳じゃなくてダンスと一緒に身体が覚えてる」
「あれぐらい、僕たちにだって出来るさ」
「俺たちだけじゃない。魔王の三人は勿論、765プロの子達だってきっと出来ますよ」
きっとそれは、自分の歌とダンスを信じぬく度胸の問題。この程度のことで怖気づいてステージ袖で立ち竦むようでは、到底『トップアイドル』になんてなれやしない。
そもそも良太郎は『例の事件』の際には音源どころかマイクすらない状況で千人単位の観客を前にして歌っているのだ。確かにその時と規模は比べものにならないが、それでもこの状況が初めてという訳でもないのだ。
その時。
「失礼します」
「貴様は……」
「幸太郎さん……」
俺たちの会話に入って来たのは、良太郎とのコラボが決まってからは俺たちジュピターも何度かお世話になっている良太郎の兄、幸太郎さんだった。
「お久しぶりです、黒井社長」
「……ふん、貴様か。何の用だ」
「いえ、少し今後のことをお話したいと思いまして」
(今後のこと……?)
何故それを黒井のおっさんのところに話に来るのか、と疑問に思ったが。
その直後、そんな疑問もすぐに頭から消え去ることになる。
唐突に、良太郎が歌うのを止めたのだ。
「な、何だ? 今度はマイクトラブルか?」
しかしステージを見ると良太郎は俯きマイクを下ろしていた。歌い終わったにしては何か雰囲気がおかしい。
「何かの演出ですか?」
「……いや、俺も聞いてない」
幸太郎さんも知らなかったらしく、北斗の問いかけに対して首を横に振っていた。となるとまた良太郎が独断で取り入れたサプライズ展開の可能性がある。
こんな場面でもやっぱり良太郎は良太郎だったかと思っていたのだが。
その予想は裏切られることとなる。
「――――――!」
再び歌いだした良太郎。
しかし。
「……あれ、何だ、この曲……?」
俺は今までに良太郎が発表してきた曲全てを知っている。こう言うとまるで俺が良太郎のファンみたいだが、アイドルをやっていて良太郎の曲を知らない方がにわかである。
しかし、今良太郎が歌っている曲は一度も聞いたことが無いものだった。
観客も若干ざわついていることから、それは間違いないだろう。
「おいおい、もしかしてこんな状況で新曲発表だと……!?」
「とんでもないことしてくれるね、良太郎君は……」
流石にこれには驚愕せざるを得ない。いくら本来歌う曲が流れないからと言って、いきなり予定を変更して新曲を歌い始めるその胆力が考えられない。普通そんなことも思いつかない。
いや、もしかしたら予定していたサプライズだった可能性もある。今回の妨害が無ければ自分から「途中で音源を止めてください」などと言い出してこの展開に持ち込むつもりだったのかもしれない。良太郎だったらそれぐらいやりそうだ。
実際のところどうだったのかは、今この場にいる良太郎のプロデューサー兼マネージャーの幸太郎さんに聞いてみるのが早いだろう。
そう思い、幸太郎さんの方に振り返る。
「……どういう、ことだ……!?」
しかしそこには、俺たちと同じように、いや、それ以上に驚愕した様子の幸太郎さんの姿があった。
「幸太郎さん?」
どうかしたのかと尋ねようとした言葉は、幸太郎さんの口から発せられた耳を疑うような言葉で中断させられることとなる。
「――新曲を出すなんて話『俺も聞いてない』ぞ!?」
「……は?」
プロデューサーである幸太郎さんですら知らない?
おかしい、そんなことがあるはずがない。
新曲、というか俺たちアイドルが歌う曲は、当然自分達が独断で進めて出来るようなものではない。ある程度の作詞や作曲の知識があったとしても、それを新曲としての形にするにはどう足掻いても他者の力を借り、そして時間をかけなければならないものなのだ。
それにも関わらず、幸太郎さんですら良太郎の新曲のことを知らないなんていうことがあるはずがない。
じゃあ、今ステージの上で良太郎が歌っている曲は何なのか。
少なくとも良太郎が今までに発表した曲ではない。かといって誰か別のアイドルの曲という訳でもなさそうだ。というか、そもそも聞いたことが無い曲だ。
「……まさか……良太郎、お前――!?」
覚えが無い曲。
聞いたことが無い歌詞。
見たことが無い振付。
考え付いた『あり得ない』可能性。
「――たった今『ステージの上で』新曲を作りだしたって言うのか!?」
隣で叫ぶように発した幸太郎さんのその言葉は、遠くで歌う良太郎の声よりも酷く遠くから聞こえてきたような気がした。
・『眠り姫』
原作でも「誰の助けも借りず」ってわけじゃなかったから、作者は「うん?」ってなった。何か解釈違いしている可能性もある。
・ナンダカンダサケンダッテ
最近茜ちゃんがカバーで出してますし、作者の年代がバレるはずがない(今更感)
・やいさほー
感想でお勧めされたノベマスを観ながら執筆を進めていたらいつの間にか書いていた。
のすらPさん超面白いです。泣き虫ちーちゃんが超可愛いです。
・音源紛失
PAスタッフが首を縦に振らないからって随分とアグレッシブに事を進めた下手人は誰なんだー(棒)
・アイドルにとっちゃ造作もないこと
実際のところどうなのかという話は置いておいて。
アニマスでは千早が、漫画のザワワンではあずささんが同じように緊急時にアカペラで歌っており、ザワワンのスプラウト(春香、雪歩、響)に至ってはマイクの電源すら入っていない状況でライブを完遂しているのだから驚きである。
・「『ステージの上で』新曲を作りだしたって言うのか!?」
最強アイドルのライブは全て必然! 歌唱曲さえもアイドルが創造する!
全ての光よ! 力よ! 我が喉に宿り、希望の光を照らせ!
シャイニング・ド(ry!!
りょうたろうくんがやらかしました。
「まるで意味がわからんぞ」状態だと思いますので、ピッコロさんやスピードワゴンばりの説明が次回作中内でされる予定です。
そしてこの流れで空気読めてないかもしれませんが漫画版ミリオンライブ購入&読了しました。これでミリオンライブ編のプロットも作れそうです。
『デレマス九話を視聴して思った三つのこと』
・次回タイトルだけ見てかな子回かと思ったら三人纏められていたでござる。
・誰だお前!?(視聴開始20秒)
・さちこはかわいいなぁ(腹パン)