アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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自重しました()

※若干のキャラ崩壊注意


番外編06 もし○○と恋仲だったら 3

 

 

 

 それは、あり得るかもしれない可能性の話。

 

 

 

「お」

 

「あ」

 

 某テレビ局。歌番組の収録のために竜宮小町と共に訪れたスタジオ内に良太郎がいた。パイプ椅子に座ってクーラーボックスに足を乗せ、頭の後ろで腕を組みながらストローを咥えてブリックパックのジュースを飲んでいた。何とも横柄な態度にも見えるが、周りのスタッフも他の出演者も気にした様子はない。

 

 先日のIUで殿堂入りを果たして名実共に『真のトップアイドル』として世間に認められて以来、何と言うか良太郎のオーラというか雰囲気というか、少し頭の悪い言い方になるが大物感が増しているような気がするのだ。

 

 私は「や」と片手を挙げて挨拶し、後ろの三人は「おはようございます」と頭を下げる。亜美やあずささんは素直に頭を下げていたが、伊織だけは相変わらず渋々といった雰囲気が漂っていた。格上のアイドルに対しても強気の姿勢を崩さないことはいいことなのだが、良太郎にはそろそろ慣れてもいいのではないかと思う。

 

「おっす、りっちゃん、伊織ちゃん、亜美ちゃん、あずささん。あれ? 竜宮小町の収録はだいぶ後じゃなかったっけ?」

 

 台本内の出演スケジュールを確認しながら良太郎が首を傾げる。

 

「この前に入ってた雑誌のインタビューが向こうの都合で延期になったのよ。それで、丁度いいからアンタの収録を見学しようと思ってちょっと早めにこっちに来たのよ」

 

 元々はスケジュールを見た亜美が「りょーにーちゃんの収録見たい!」と言い出したことがきっかけで、あずささんもそれに賛同。伊織も勉強になるからとそれに賛成したので、こうして少し早くスタジオ入りしたのだ。もっとも、私たちの収録自体はまだ先なので、ステージ衣装に着替えず私服のままなのだが。

 

「成程。可愛い女の子たちが態々見に来てくれてるんだから、俺も気合十割増しで頑張らないとな」

 

「……良太郎」

 

「分かってる分かってる。俺はいつでも真面目だって」

 

 ――良太郎さーん、そろそろ本番でーす!

 

 良太郎とそんなやり取りをしていると、スタッフからの呼び出しがかかり良太郎は立ち上がる。

 

「よっし。それじゃあ行ってきます」

 

「ん、行ってらっしゃい」

 

 台本とブリックパックを机の上に置き、良太郎はカメラの前、ステージの上へと向かっていった。

 

 

 

 良太郎が歌う曲は、五年以上経つにも関わらず相変わらず一番人気があるデビュー曲の『Re:birthday』。物語性が評価され、良太郎の生き様そのものではないかと評判の代表曲。私も、初めてこの曲を聞いたときは『なんて不思議な曲なんだろう』と思った。

 

 流石に一番歌う機会が多い曲だけあって、良太郎も慣れたものだった。いい加減になってきたとかそういう意味ではなく、身に馴染んだというか、そういう感じだ。

 

 だからだろう。曲の最中、踊り慣れた振付の合間に良太郎はこちらに向かってウインク付の投げキッスをしてきた。一応間にはカメラがいたので、それらはカメラに向かってしたと思われているだろう。

 

 いくら余裕だからとはいえあれは無いだろう。どう考えてもふざけているようにしか見えない。

 

 全く、本当にどうして――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――私の恋人はこんなにもカッコいいのだろうか。

 

 見つめると吸い込まれるような黒い瞳、少しくせ毛のある黒髪。兄である幸太郎さんとそっくりな顔つきではあるが、キリッとした目つきの幸太郎さんとは違いやや眠そうに眼尻の下がった良太郎の方が私の好みである。その目つきと無表情、そして少々軽めの言動からやる気が無さそうな印象を受けるかもしれないが、その実アイドルの仕事に誇りを持ち誰よりも熱いということを私は知っている。故にどのような場面であっても手を抜くことはないが、たまに今のようなパフォーマンスをすることがある。一見テレビの前の視聴者や観客に対して行っているように見えるが、それら全てが私に対するものだと良太郎は話してくれた。全く、恋人相手にそれぐらいしても不自然ではないし、された私もすごく嬉しい。現に今のウインクにもキュンとしてしまった。しかしそれを自分以外の誰かに対してのものだと認識されるのが少し嫌だと思ってしまう。確かに『アイドルはファンの恋人である』とは言うものの、実際に私という恋人がいるのだから少しぐらい自重して欲しい。しかしそれを直接本人に言うと「嫉妬してくれるりっちゃん可愛い」と取り合ってくれない。それで誤魔化されてしまう私も私なのだが、後ろから抱きしめられながら耳元で囁かれてしまうとどうしても力が抜けてしまう。そのまま後ろにしなだれかかると――。

 

 

 

「律子、ちょっと律子、話聞いてるの?」

 

「……くそぅ、良太郎……これ以上私を惚れさせてどうする気よ……」

 

「だめだこいつはなしきいてねぇ」

 

「いおりん、口調口調」

 

 

 

 

 

 

 俺とりっちゃんが恋人同士になってから早一年である。経緯やら過程やらどちらからとかそういう話は置いておいて、とりあえず俺とりっちゃんは恋仲になった。互いにデビューした頃からの長い付き合いのため、恋人になったからといってそれほど変わることは思ったが、そんなことはなかった。

 

 りっちゃんが盛大にデレ始めたのだ。

 

 表面的な接し方自体に変化はないのだが、二人きりになると積極的にくっついて来たり、他の女の子を褒めるような言葉に嫉妬したり。その嫉妬の仕方も頬を膨らませながら「そういうのは自分だけにしておけ」と言いつつ抱っこを要求してくるもんだから、ただただ可愛いだけである。その時の反応が見たいがために何度もウインクやら投げキッスやらを繰り返すのだが一切反省していない。

 

 いやまぁ、大乳な眼鏡美少女と恋仲になれたことに対して不満があるはずがないのだが、正直ここまで好かれているとは思わなかったのでびっくりである。

 

 同じく長い付き合いである麗華曰く「元々アンタに好意があっただけに、蓄積された分が爆発したんじゃないの?」だそうだ。マジか、何となく好かれていたのは知っていたが、それがLikeではなくLoveだったとは思わなかった。なおその際横にいたりんが暗い瞳で「ぱるぱるぱるぱる……」とただひたすら呟いていたのが少し怖かったのは余談である。

 

 

 

 

 

 

「……良太郎、私言ったわよね? ああいうことはカメラの前では極力しないでって」

 

「でも一応俺もアイドルな訳だし。ファンサービスは大事だってりっちゃんも言ってたじゃん」

 

「そうだけど、何もわざわざ私に向かって狙ったように……」

 

「りっちゃんは俺のファンじゃなかった?」

 

「……ファンだけどさ」

 

 仕事も終わりその日の夜、自室にて恋人との触れ合いタイム。りっちゃんたっての希望で、ベッドを背もたれに床に座る俺の膝の上にりっちゃんを乗せて背後からお腹に手を回して抱きしめている体勢である。個人的に抱きしめるなら真正面から抱きしめたいのだが、りっちゃんはこうして後ろから抱きしめられる方が好みらしい。大乳的な意味でとても残念なのだが、お腹に回した手をたまに触れさせても怒らないため自分もこちらで満足している。ホントなんで女の子ってこんなにやーらかいんだろうなー。

 

 なお、夜に自室で恋人と二人きりの状態ではあるが、ここは実家な上に兄貴や母さんもいるため同棲しているわけではなく、ただ単に泊りに来ているだけである。正式に嫁になった留美さんも恋人時代はこうして泊まりに来ており、母さんも「娘ができた!」と喜んでいる。故に厳密に二人きりではなく、寝る時も同じベッドではあるが至って健全な付き合いであるということだけ明言しておく。

 

 ちなみに兄貴は結婚して二人暮らしをしていたのだが、留美さんが妊娠し出産間近となって実家に帰っているため、兄貴も実家に帰ってきたのだ。その話をするとりっちゃんからチラチラと期待を込めた視線を向けられる。しかしストレートに子供が欲しいのかと尋ねると真っ赤になって殴打攻撃を仕掛けてくる辺り、デレたりっちゃんの中に以前のツンな部分が垣間見える。いや、まだ恋人の関係だからね?

 

「………………」

 

 しばらくお喋りを続けていると、不意に黙ったりっちゃんが腰を浮かせて自分から離れた。飲み物でも取りに行くのかな、と思っていると膝立ちのままクルリと体をこちらに向け、黙ってこちらに向かって腕を広げてきた。既に入浴も終えてパジャマ姿のりっちゃん。アイドル現役時代のイメージカラーである若草色のパジャマは、胸の膨らみによって持ち上げられ若干ボタンの隙間から肌色が見えた。

 

「ん……」

 

 恋人のパジャマ姿を堪能しているとりっちゃんから催促がかかった。どうやら正面の抱っこがご希望のようだ。随分と珍しいなと思いつつも、りっちゃんの体を抱き寄せる。むぎゅっとりっちゃんの胸が大変心地よく、ほどかれた髪からは仄かに自分と同じシャンプーの匂いがした。

 

「どうしたりっちゃん、今日は随分と甘えてくるじゃないか」

 

 いやまぁ、普段から割とベタベタとしているが。

 

「……来週、でしょ?」

 

「……まぁ、ね」

 

 ポンポンとりっちゃんの背中を叩きながら問いかけると、返ってきた言葉はそれだけだった。りっちゃんの表情は見えなかったが、それだけで何が言いたいのか十分に分かった。

 

 

 

 来週、俺は日本を発つ。

 

 

 

 ――というと、まるで別の国に移り住むみたいな言い方であるが、実際にはお仕事である。事の発端はハリウッドからかかってきた映画への出演依頼の電話。なんと世界的に有名なSF小説を原作にした映画『魚の惑星』の主演としてこの周藤良太郎が抜擢されたのである。これには流石に家族全員で驚き戸惑ったが二つ返事で了承。当然撮影は海外で行われるので、来週アメリカに向けて出発する、という訳である。

 

「別に今生の別れ、って訳でもないんだからさ」

 

 だからそんなに、と言おうとした俺の言葉は。

 

 

 

「……でも、一年、よね」

 

 

 

 りっちゃんの言葉に遮られてしまった。

 

 一年。一年である。元々あの巨匠ギル・グレアム監督が再びメガホンを取るということで注目を浴びている超大作。撮影期間は当然短期間な訳が無く、さらに俺はこれを期に海外でアイドルとしての活動を始めるつもりでもあった。

 

『NMU(ナショナルミュージックアルティメイト)』。文字通り、世界一の音楽を決める式典。これでもアイドルとして活動して音楽に触れ、日本一の称号を何度も手に入れた身だ。そろそろ世界に出てみたいと考えてしまうのは、多分当然のことだった。

 

 しかしそうなると日本を離れる期間は長くなるわけで、もしかしたら一年では帰れない可能性もあるのだ。

 

「りっちゃんはまだ納得してくれないのか?」

 

「……頭では納得できてるわ。アンタは日本が誇るトップアイドルだし、絶対に世界でも通用するって信じてる」

 

 でも、とりっちゃんは俺の体を抱きしめる腕の力を強める。

 

「……恋人と離れたくないって思うのは、普通のことでしょ……」

 

「………………」

 

 ……あぁもう、デレたりっちゃん可愛いなぁ! デレる前から可愛かったけど!

 

 内心では大変ニヤニヤしているが、真面目な場面なので気を引き締める。

 

「俺もりっちゃんと離れるのは嫌だよ? でも、俺は『周藤良太郎』なんだよ」

 

「……そういう抽象的な言い訳はずるいわよ」

 

「でも納得してくれるんでしょ?」

 

 当然でしょ、とりっちゃんは体を離す。

 

 

 

「私は、そんな『周藤良太郎』が好きになっちゃったんだから」

 

 

 

 

 

 

「でも、いい? アメリカで胸が大きな、胸が大きな金髪碧眼の美女に誘惑されても浮気するんじゃないわよ?」

 

 二回言われる辺り俺の恋人は俺の性癖を大変理解しているようである。

 

「あ、それじゃあ週に一回でいいからりっちゃんが水着姿の写メを送ってくれれば――」

 

「~っ!? アンタはどうしてそう――!!」

 

「いや、だってこうすれば俺も満足だしりっちゃんも浮気の心配ないし一石二鳥――!」

 

 

 

 結局、月一ではあるが律儀に送られてくる水着姿のりっちゃんの写メ片手に盛大にガッツポーズを決める良太郎の姿がアメリカに勉強に来ていた赤羽根プロデューサーに目撃されるのだが、それは全くの余談である。

 

 

 




・周藤良太郎(20)
前回の二回はNMU後だが、今回はNMU前。IUにて更なる覚醒を果たして世界に羽ばたく前の状態です。

・秋月律子(21)
良太郎と恋人になりキャラ崩壊したりっちゃん。恋人になったものの相変わらず765プロダクションで竜宮小町のプロデューサー業を続けている模様。
本人として恋人であることは隠しているつもりだが、これだけデレているので当然周囲の人間は察している。所謂暗黙の了解状態。

・りっちゃんの惚気
何気に良太郎の容姿を初めて描写してみた。ただ結構適当。

・「ぱるぱるぱるぱる……」
ぱーるー、ぱーるりぱーるりらー、みんなー○ねばいいのにー。

・「ファンサービスは大事」
受け取れ! これが俺のファンサービスだ!

・正式に嫁になった留美さん
この世界線での勝者は留美さんでした。
なお、961はどうなったのかは秘密。

・『魚の惑星』
『猿の惑星』と『STAR DRIVER 輝きのタクト』の複合ネタ。
サカナちゃんが語ってくれるイカ刺しサムの物語が元ネタ。

・巨匠ギル・グレアム監督
元ネタは『魔法少女リリカルなのは』だが詳細はLesson46あとがきにて。

・アメリカに勉強に来ていた赤羽根プロデューサー
劇場版の若干のネタバレ。まぁ二次創作やっててネタバレもなにもないか。



 という訳で恋仲○○シリーズ三人目のヒロインはりっちゃんでした。という訳で残念ながら本編でのヒロインの資格を無くしてしまいましたが、これだけイチャイチャ出来たからいいよね!

 他のアイマスやらラブライブやらの個人別番外編は純愛モノばかりだというのに、この小説はこの有様。おれにああいうのはむりです。

 次回は本編。予定に変更がなければ恐らく「伊織&やよい」回になると思います。

 (おっぱい的な意味で)ヒロインにはならない二人ですが、お楽しみに。

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