アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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こんなに引き延ばすから一年とかかかるんだよ!


Lesson384 始まりの朝(夜中) 2

 

 

 

「うわ雪降ってる。きっと道も凍ってるよ。めっちゃ滑りそうだよ。転んで怪我するよ危ないなぁ」

 

 

 

「……りあむサン、よくもまぁこの受験シーズンに『滑る』だの『転ぶ』だの言えましたネ。大学入学共通テストが終わったばかりだからいいものの……」

 

「今十二月だよ!? まだ年も明けてないのに何言ってるの!?」

 

「あきらちゃんもりあむさんも何言ってるんご……?」

 

「そもそもなんだけど、そんな『滑る』や『転ぶ』なんて文字読んだだけで気が滅入るような受験生はこんな小説読まずにもっと切羽詰まって勉強してると思う」

 

「それはそうデスけど」

 

「二人が何を言ってるのか分からないけど……これぐらいの雪だったら別に大したことないんじゃない?」

 

「「うーんこの雪国育ち……」」

 

 

 

 午前三時半。外はまだ夜も明けない真っ暗な中、自分たちは346プロダクションが管理するアイドルの女子寮の一階ロビーに集合していた。今回のライブは早朝からの集合となるため、事務所が用意してくれた移動手段を用いて現場入りをするのだが、まとめて移動出来るように元々寮生活をしているあかりチャンと周子サン以外も全員女子寮に泊まることになったのだ。

 

「個人的にはもうちょっとお泊り会みたいなのを期待してたんだけどなぁ……」

 

 そう言ってあかりチャンは小さく溜息を吐いた。

 

「早起きしないといけないからすぐ寝ちゃったもんね」

 

「そんなこと言いつつ、りあむサンは本当に早寝したんデスか?」

 

「………………」

 

 露骨にスイッと目線を逸らしたりあむサンだが、実を言うと自分もそんなに早寝したわけではない。流石にテッペン過ぎまで起きていたわけではないが……その、ね? デイリーがね? 終わってなくてね?

 

 なので結局自分とりあむサンは揃って若干眠そうなのであった。

 

「その点、あかりちゃんは元気そうだね……」

 

「まだ暗い内から起きるのは得意だよ!」

 

 #農家の娘って強い。そんなことを考えながらチラリと視線を外す。ロビーには自分たちと同じように女子寮宿泊組が事務所からの迎えを待っていた。

 

「「ふわぁ~……」」

 

「ちょっと、周子ちゃんもフレちゃんもしっかりしてよ。ほら奏を見習って」

 

「………………」

 

「ってこの子静かに寝てない!? ちょっと本当に起きてよ!?」

 

 あちらでは相変わらず自由奔放な周子サンとフレデリカサンと奏サンに振り回される美嘉サンの姿が。うーん、本番当日だというのに今日も変わらぬ苦労人模様。ある意味いつも通りで肩の力は抜けている……ということにしておこう。

 

「………………」

 

 そしておそらく私たちの中でも一番落ち着いているように見えるのは、一番年下であるありすチャンだった。今も静かに手元のタブレットに視線を落としていた。チラリとタブレットの画面が見えたが、どうやら佐久間まゆサンとのレッスン風景の録画を見返しているらしい。

 

 ……落ち着いているように見えるが、やっぱりプレッシャーは一番感じているのではないかと想像してしまう。何せ今日の彼女のユニットメンバーは、あの佐久間まゆサンなのだ。

 

 日本最高のアイドル事務所である123プロに初期から在籍するアイドルで、所恵美サンとのユニットである『Peach Fizz』を知らないアイドルオタクはいないだろう。

 

 そんなアイドルとユニットを組んでステージに立つのだから……もしも自分が同じ立場だったら、果たして耐えきることが出来るのだろうか。

 

「お待たせしました~!」

 

 ん、どうやらお迎えが……。

 

 

 

「朝ご飯におにぎり作りましたよ~!」

 

 

 

『響子ちゃん!?』

 

 Pサンのお迎えが来たのかと思いきや、ロビーにやって来たのは『346プロ女子寮の実質的寮母』アイドルと称される五十嵐(いがらし)響子(きょうこ)サンだった。

 

「え、なんで!?」

 

「なんでって、朝ご飯は大事だからですよ! 特に今日は皆さんの大事な日なんですから、朝ご飯はしっかりと食べないと!」

 

「いやそうだけどね!?」

 

 自分たちを代表して美嘉サンが疑問を投げかけるものの、その意図が絶妙に伝わっていないらしく響子サンは子どもを諭すように朝食の重要性を説くのだった。#十七歳のママ。#そうだけどそうじゃない。

 

「響子サン、自分たちが疑問に思っているのは『どうして響子サンがわざわざこんな時間に起きて朝ご飯を用意してくれているのか』ということでして……」

 

 先ほども言ったように現在時刻は三時半を少し回ったぐらいで、まだまだ夜中。Pサンがこんなこと頼むわけないし、そうなると自主的にやっていることになる。

 

「そんなの、決まってるじゃないですか」

 

 響子サンはにっこりと笑顔を浮かべた。

 

()()()()()でみんなを応援したいからです」

 

「……ぜ、全員?」

 

「はい。女子寮のみんなだけじゃなくて……346プロのアイドル全員から。『何も出来ない私たちの代わりに、みんなに朝ご飯を作ってあげて欲しい』って。そして私もそうしたいって思ったから……こうしておにぎりを用意させてもらいました!」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 そう言いながら響子サンが差し出した大きめのバスケットを、一番近くにいた自分が受け取る。

 

「本当は他のみんなも起きて準備するって言ってくれたんですけど、こんな時間になっちゃうので私が代表して作りました。でも、全員からの愛情はしっかりと入っていますからね!」

 

「………………」

 

 八人分のおにぎりは、少しだけ重かった。今の時間にこれだけの量を用意したとなると……果たして響子サンは何時から起きていたというのだろうか。

 

 そしてそれ以上に『大勢の仲間たち』からの想いが……本当に暖かかった。

 

「……確かに受け取りました。頑張ってきます、響子サン」

 

「はい! みんなで、みんなのことを、応援しています!」

 

 

 

 

 

 

「……っていう心温まるエピソードが346の女子寮で繰り広げられたらしいですよ~」

 

「なにそれエモッッッ!!!」

 

「はい恵美ちゃん……」

 

 まゆさんのスマホに送られてきた橘さんからのメッセージ内容を聞いた恵美さんの涙腺が崩壊した。123プロでは日常風景であり、美優さんも慣れた様子で恵美さんにティッシュを渡していた。

 

 さてそんな私たち123プロの女性アイドル(マイナス志希さん)は、現在美優さんが一人暮らしするお部屋にいた。他の事務所のアイドルたちがそうしているように、私たちも朝早くから揃って移動するためにあらかじめ一ヵ所に集まって泊ったのである。

 

 以前、トロフェスに参加したときは我が家に集まって泊ったのだが、今回は出発が朝というより夜中になってしまうため、お母さんとりっくんに迷惑がかからないように一人暮らしの美優さんのお部屋にお邪魔させてもらったというのが理由である。……なので、そろそろりっくんに恵美さんは刺激が強いんじゃないかとか、そんな危機感は一切抱いていない。抱いてないったら抱いてない。

 

「私たちも朝ご飯、用意すればよかったですねぇ」

 

「どうせ現場入りすれば何かあるはずだから、と何も用意してませんでしたね」

 

「なんかお腹が空いてきた気がする~……」

 

 朝早い現場なので当然ケータリングは用意してくれているだろうけど、橘さんからのメッセージに添付されていたおにぎりの画像がとても魅力的に見えてしまった。

 

「今から何か作りましょうか……?」

 

「でもそろそろ留美さんが迎えに来る時間になっちゃいますよぉ」

 

 諸事情で一人だけお泊りに参加出来なかった留美さんが車で迎えに来てくれることになっているため、流石に今から朝ご飯を作る時間はないだろう。

 

「今からコンビニ行ってきちゃダメかな?」

 

「夜中ですよぉ。女の子の一人歩きはいけません。メッ」

 

 まゆさんにメッされてしまっては恵美さんも抵抗する気にはならず、少々不服そうながらも「はーい」と従った。

 

「あんまり我慢出来ないようであれば、留美さんに途中でコンビニに寄ってもらって……」

 

 という提案をしている最中、その留美さんからの連絡が美優さんのスマホに来た。どうやらメッセージではなく通話らしい。

 

「はい、もしもし……」

 

 

 

『美優さん、みんな、ごめんなさい……!』

 

 

 

『っ!?』

 

 開口一番の留美さんからの謝罪の言葉に、一同が息を呑む。

 

「ど、どうしたんですか……!? ななななにが……!?」

 

「まさか交通事故ですか!? お怪我はありませんか!?」

 

「もし何かあった場合の示談でしたらまゆたちも協力しますからぁ!?」

 

「るみさんしんじゃやだあああぁぁぁ!」

 

『みんなちょっと落ち着いて!? 特に後半二人!?』

 

 本来落ち着かせる側の人間であるはずの私たちが逆に留美さんから諭されてしまった。

 

『とりあえず事故じゃないから。ただ……履き忘れてたことを今になって思い出したの』

 

「パンツをですかぁ!?」

 

『お願いだからまゆちゃん落ち着いて!? なんか言動が良太郎君みたいになってるわよ!?』

 

 かなりぐだぐだしてしまったが、要するに留美さんの車のタイヤをスタッドレスタイヤに履き替え忘れてしまっていたらしい。

 

『最近車に乗ってなかったから油断してたわ……』

 

「それに留美さんずっと忙しかったですもんね……」

 

 現在外は雪模様。うっすらと積もっているため、場所によっては道路が凍っている可能性もある。そんな中、ノーマルタイヤの車を走らせるのはなかなか危険だということは、車を運転しない私でも分かる話だった。

 

 ただ、確かに困った状況ではあるがそこまで深刻な問題というわけでもなさそうである。

 

「とりあえずこちらの移動は自分たちでなんとかしますので、留美さんも落ち着いて現場へと向かってください」

 

『そうしてもらえると助かるわ……本当にごめんなさいね』

 

 「お互いに気を付けて」と留美さんとの通話を終了する。

 

「さて……どうしましょうか」

 

「タクシーを呼びますかぁ?」

 

「それが一番現実的ですかね?」

 

 さて、どうしたものか。

 

 

 




・大学入学共通テスト
受験生の方がいらっしゃったらすみません。お疲れ様です。
滑るとか転ぶとかが気にならない人は、息抜きに読んでいってね。

・#農家の娘って強い。
農家生まれのT(sujino)さん。

・五十嵐響子
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。
超正統派お嫁さん系アイドル……え、初登場? まじ?
他P向けの説明としては、合同で話題になったハンバーグの曲の持ち主。

・『美優さん、みんな、ごめんなさい……!』
流石に事故らせるのは良心の呵責が許さなかった……。



 各事務所の朝模様。346プロと123プロ(女性陣)でした。

 ……こんなことを長々と書いてるからライブ終わるまで時間がかかるんだよというご指摘は、まぁアイ転ってこんな感じだからという他なくてですねぇ……。

 ぼ、ボリュームは多い方がいいでしょ?(震え声)

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