黒歴史。それはとあるロボットアニメに登場する用語であり太古に封印された宇宙戦争の歴史を指す言葉……でもあるのだが、現在では『なかったことにしたいこと』を指す言葉として認識されている場合が殆どである。
黒歴史と聞いて真っ先に思い浮かべるものは、中二病だろう。『死が線となって見える邪眼』とか『あらゆる異能を打ち消す右手』とか、男の子ならば一度ぐらいそういうカッコいい能力を考えた経験はあるはずだ。現在の中二病筆頭として神崎蘭子ちゃんが有名であり現在進行形で発症中なのだが……最近になって時々素の彼女が顔を表すことが増えてきた気がする。彼女の今が黒歴史に変わる日も近い。
ちなみに俺の黒歴史は何かと問われれば、多分『転生頭脳で小学校の授業で無双してチート』とかイキっていた頃がそれに該当するだろう。その自信も割と早い段階で兄貴という正真正銘の天才によって打ち砕かれてしまうのだが、多分これが俺の黒歴史だ。
小学五年のぬ~べ~クラス在籍中のときのことも黒歴史と言えば黒歴史だが、これはどちらかというと『あんまり人に聞かせない方がいいこと』っていう意味合いでの黒歴史。幼き日の思い出と呼ぶには少々グロテスクとバイオレンスに満ち溢れすぎている。おかげでホラー耐性は異常なほどに出来たけど。山中で出会ってしまった七人の山伏の話する?
さて、そんな黒歴史というものは、時として過去からの刺客となって自分自身を襲う凶刃と化す。決して防ぐことの出来ない刃となって的確に命を狙ってくるのだ。
そう――。
「な、なぁ! 本当にアンタがあの伝説の『茨城の鬼神』なのか!?」
「ヒトチガイデスヨ」
――見たことないぐらいキラキラと目を輝かせる向井拓海ちゃんに詰め寄られている、死んだ目をしたみのりさんのように。
「へぇ、地域のお祭りのステージですか」
「うん。もう一組別事務所のアイドルグループも来るんだけど、その人たちと一緒にMCをやらせてもらうんだ」
今回仕事現場で
「俺たちはまだ他のみんなと比べると知名度が低いですからね……地道に活動していかないと」
「わっふー! 日本のお祭り、楽しみー!」
「実は俺たちがアルバイトをしてた商店街のお祭りでもあるんだよね」
「へぇ」
元々この三人は同じ商店街でアルバイトをしていたという繋がりで知り合いだったらしい。それでユニット名も『Beit』になったとのこと。
「ある意味恩返しにってことでもあるから、ちょっと気合の入り方が違うんだよ」
「頑張ってくださいね」
まだタイムスケジュールも会場も知らないけど、果たして顔を出す時間があるだろうか……とはいえ最近色々と忙しかったからちょっとぐらいゆっくりしたいっていう気持ちもあるんだよなぁ。
「ちなみにもう一組のアイドルユニットは346プロダクションの『セクシーギルティ』の三人らしいよ」
「タイムスケジュールと会場は? 俺も顔を出しましょう」
「判断が
ばっかオメェゆっくりとか言ってる場合じゃねぇんだよオラァ! 俺はみのりさんたちを先輩アイドルとして応援しに行くんだよ! ついでに雫ちゃんと拓海ちゃんの大乳を御参拝しに行くんだよ!
「え!? リョーも来てくれるの!? ボク、もっと頑張るよー!」
うーん罪悪感を覚えるレベルで純粋でいい子だなピエール。
「でも俺の『大乳を間近で見たい』という願望も、それはそれは純粋な気持ちだということはご理解いただきたい」
「
「それで実際タイムスケジュールってどうなってます?」
「えっとですね……」
恭二が教えてくれた日程と自分のスケジュールを照らし合わせる。
「……本番中は無理だけど、本番前には少し顔出せるかな」
残念ながら彼らのステージを見ることは出来ないらしい。実に残念だ。
「ステージの上で揺れ動く雫ちゃんと拓海ちゃんの大乳が見たかった……!」
「そこは嘘でもいいからパフォーマンスが見れないことを惜しんでくれないかなぁ!?」
「そんなわけで俺は今日の仕事を少しでも早く終わらせたいわけですよ」
「そうですか。ではこちらもその要望にお応えしてリスケしますね」
「そう言いながら真っ先に休憩の時間を削ろうとしないでもらえますぅ!?」
貴様! 一話限りのちょい役だったくせになんとなくキャラが立ったからって再登場しやがって!
「このまま登場を続ければきっと私もネームドキャラに……!」
「しかもなんか壮大な野望まで持ち始めてるし……!」
てな感じで本日のお仕事はレコーディングからスタートである。
「あ、機材調整中のためもう少々お待ちいただきます」
スタート出来てなかった。早々に待ち時間である。
「それにしても周藤君は後輩のアイドルのところに顔を出すのがお好きですよね」
「好き、というか……」
スタッフさんが「どうぞ」と淹れてくれたコーヒーを受け取る。
「……ある意味、贖罪みたいなものですね」
「贖罪、ですか? 罪状は?」
そんな実刑が付きそうな感じで言うの止めてもらっていいです?
「なんというか……デビューしてからしばらくは、他のアイドルに全然興味がなかったんですよ」
アイドルの名前を挙げられて「誰?」なんて言っちゃうほどである。それどころか、そもそも『竜宮小町』が有名になるまで知り合いのいる765プロの事情すらスルーしているほどだ。これもある意味では俺の黒歴史と言えなくもない。
「でも、いくらアイドルとはいえ他のアイドルを全て把握するのは無理があるんじゃないですか」
「確かにそのときはそうだったかもしれませんが……今の俺はもう、そういう立場じゃありませんから」
今の俺は名実ともに『世界一のトップアイドル』だ。流石に世界中のアイドル全員を把握するのは無茶があるが、せめて国内のアイドルぐらいはしっかりと把握しておきたいし、その活動を応援したい。
「だから少しでも見守りたいんですよ。……将来、この業界を背負って立つであろう若者たちのステージを」
「周藤君だって若者じゃないですか」
精神年齢的に四十を超えるとどうしてもなぁ……。
「ではそれ以外の思惑はないと?」
「ないと思います?」
「思ってません」
過去の反省を活かして様々なアイドルの活動を見守るようになってから、すっかり俺もアイドルオタク。今ではみのりさんや亜利沙ちゃんや結華ちゃんやりあむちゃんと肩を並べられるほどの深みに嵌ってしまった。
特に大乳だとなおいいぞ! 前世と違って今世というかこの世界はなんか胸が大きい女性が多いし! そして胸が大きいアイドルもいっぱいいるし! 見てるだけで生きる活力が湧いてくるよね!
「だから少しでもいいからバイトやセクギルのステージを見に行きたいんですよぉ!」
「……はぁ、分かりましたよ。以前の一件で周藤君が本気を出せばどれほどスケジュールを詰められるのかは把握しましたから、少し調整してみます」
「おぉ! ありがとうございます!」
「代わりと言ってはあれですが、これを期に是非私の名前を……」
「グイグイ来るなぁ……」
そういう要望は俺じゃなくて
「っと、おや? このイベント……」
スケジュール調整のためにイベントも確認してくれていたスタッフさんが、何やら会場の地名を見て眉根を寄せていた。
「どうかしましたか」
「いえ、私、この地域の近くに住んでいるんですけど……最近ちょっと物騒なんですよ」
「ぶ、物騒?」
「あ、いえ、すみません流石に物騒は言い過ぎました。……あまり治安が良くない、っていう表現が一番正しいかもしれません」
「治安が悪い……?」
なんでも、最近この地域を二つの
「警察には相談済みらしいですけど……」
「それは、確かに心配ですね」
「はい……」
「この小説、アイドルものの癖に何処に向かっているんだ……?」
「そっちですか!?」
いやだって暴走族って。レディースって。アイドルものの小説で滅多に見ない単語でしょ。現状ただでさえ色々な要素が取っ散らかってるんだから、そろそろ風呂敷広げるの止めようぜ。
「と、とにかく、このイベントに顔を出すのであれば十分に注意してくださいね。騒動に巻き込まれなくてもその場にいるだけでアイドルとしてはイメージ的に大ダメージなんですから」
「それはまぁ、重々に承知してますけど」
でもまぁ……。
「元ヤンのアイドルがいるぐらいですからねぇ。正直今更感もありますけど」
「元ヤンのアイドルというと……346プロの向井拓海ちゃんのことですか」
「……あ、そういえば拓海ちゃんもそうでしたっけ」
「え」
言われてみれば初めて会ったときも早苗ねーちゃんがそんなこと言ってたっけ。
「あの胸の大きさでヤンキーはないでしょって感じですよね」
「それは同意しますけど、もしかして拓海ちゃん以外にも元ヤンのアイドルがいるんですか?」
「……あぁ」
そういえば
・黒歴史
エターナルフォースブリザード!
・『死が線となって見える邪眼』
・『あらゆる異能を打ち消す右手』
※持ち主は存在しますが勿論能力は存在しません。
・山中で出会ってしまった七人の山伏の話する?
作中最強候補。
・『茨城の鬼神』
茨木童子のことではない。
・「判断が早院……」
両方とも鬼を倒す物語。
・「混沌を徹しすぎて透明感を帯びている……」
多分創作物の中で一番俗に徹した宮本武蔵。
・一話限りのちょい役だったくせに
なんか惜しくなっちゃって……。
・レディース
アイマスの二次創作でやるこったねぇとは思う。
315プロのユニットの個別のお話ラストとなるBeit編です。今回のお話もかなりオリジナル色高めになる上に、久しぶりにゴチャゴチャとクロスすることになります。ご収差ください。