アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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いつか来てしまう、そんな未来のために。


Lesson370 Episode of High×Joker 4

 

 

 

「こんばんわー、ミカでーす! よろしく!」

 

 

 

「ガールズバーというよりキャバクラ」

「これは間違いなくキャバ嬢」

「美嘉ちゃん無理すんな」

「お労しや美嘉上……」

 

 

 

「アンタらがやれって言ったんでしょぉぉぉ!?」

 

 

 

(た、大変そうだなぁ……)

 

 自分のすぐ隣に座って甘い声を出す美嘉さんにドキドキするよりも、他のリップスのメンバーに弄り倒されている姿に同情する心の方が勝ってしまった。……いや実際や4:6ぐらいの感じ。若干同情有利。

 

「もーしょうがないからシキちゃんとフレちゃんがお手本見せてあげよう」

 

「こんにちはシャッチョサーン! お隣よろしいアルかー!?」

 

「うおこっちきた」

 

「いきなりっすね!?」

 

 今度は突然志希さんとフレデリカさんがハルナとシキの隣に座った。

 

「こちらお通しになっておりまーす」

 

「居酒屋入ったことないけどお通しが試験管で出てくる店は絶対ないと思うんだけど」

 

「La victoire est à moi!」

 

「ワワッ!? フランス語っすか!? 凄いっすこれが本場っすか!?」

 

 既にガールズバーでもキャバクラでもなく、漫才コンビのコントみたいになってる。

 

「うーん、まさかあの『LiPPS』がこんなに面白グループだったとは……」

 

「ちょっとその括りは心外ね?」

 

「それは流石にシューコちゃんも否定させてもらうよ?」

 

 でもなんだろう、残念という感覚は特になく、寧ろ何やら既視感のようなものが……。

 

「……あ、そうだ! 良太郎さんと知り合ってから感じてた感覚と同じなんだ!」

 

「「「アレと一緒にするのはヤメて」」」

 

 美嘉さんと奏さんと周子さんの目がマジだった。ホントすみません。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

 結局俺と美嘉さんの異性に対するなんやかんやというのは有耶無耶になり、そのまま何故か『リップスVSハイジョ 合同ライブ先取り紅白歌合戦』が始まってしまった。

 

「ホントごめんね、ウチの子たちが……」

 

「あ、美嘉さん……えっと、まだ続いてます……?」

 

「続いてないからね!?」

 

 一瞬まだガールズバーのくだりが続いているのかと思って身構えてしまった。先ほどは早々にリップスの面々に茶化されて有耶無耶になったけど、それがなかったら色々とダメになっていたような気がする。

 

「ウチの方こそすみません。同調というか悪ノリを助長しているというか……」

 

「いやー男子高校生なんてあんなもんじゃない? ……あんまよくしらないけど」

 

 後半のセリフはきっと聞こえないふりをしてあげた方がいいことぐらい、聡くない俺にだって分かる。

 

「っていうか、意外だったのは旬君と夏来君かなー。四季君と春名君はなんとなくノリがいいっていうのは分かるんだけど、あの二人も結構フツーにノるね?」

 

 そんなことを話す美嘉さんの視線の先では、ジュンとナツキがデュエットで俺たちの後輩に当たるアイドルユニットである『W』の『VICTORY BELIEVER』を歌っていた。こういうところをきっちりとするあたり真面目なジュンである。

 

「まあ少しだけ無理をしてる……っていうと語弊がありますね」

 

「え?」

 

「………………」

 

 ライブさながらの歓声を上げている四季に視線を向け、こちらの話を聞いていないことを確認してから少しだけ声のトーンを落とす。

 

「俺とジュンとナツキとハルナは同級生ですけど、シキだけ一つ学年が下なんですよ」

 

「それはもう周子から散々聞いてるよ」

 

 嬉しいんだか恥ずかしいんだか……。

 

 

 

「だからいずれ、俺たちが卒業した後は……シキを一人、軽音楽部に残していくことになっちゃうんですよ」

 

 

 

 勿論それでもバンドは続けていくつもりだし、高校卒業と同時にアイドルを辞めるわけでもない。会おうと思えばいつだって会えるどころかアイドルとしてほぼ毎日顔を合わせることになるだろう。

 

 それでも、俺たち四人は、どうしてもそれだけが気がかりだった。

 

「前に俺たちハイジョのPVを自主制作しようっていう話になったとき、ずっとシキがカメラを回してくれてたんです。でも、俺たちばっかり撮っててシキが全然映ってないって話になったとき、アイツこう言ったんですよ」

 

 

 

 ――いいんすよ! オレにはなんもないんすから!

 

 

 

 ……きっとそれは、シキ本人としては悲観的な意味で言ったわけではないのだろう。本人も笑いながら「気にしていない」とも言っていたし、それ以上に俺たちのバンドに感銘を受けてくれたという言葉に偽りはないだろう。

 

 しかし、例えそうだったとしても。

 

「……シキは俺たちハイジョの始まりですから」

 

「え、バンドを組んだのって……」

 

「確かに俺がジュンとナツキに声をかけたことがきっかけです。でも……今のハイジョの始まりは、間違いなくシキが来てくれたときからなんです」

 

 後にハルナが来て、高校生バンド大会に出場して、優勝は出来なかったけどそこでプロデューサーの目に留まって……そうして今の俺たちがいる。今の『High×Joker』がいる。

 

「だから……なんて言えばいいんですかね。俺たちは全員……『シキとの思い出(せいしゅん)』が欲しいんです」

 

 いつか来てしまう、たった一人の可愛い後輩との別れを、俺たち全員が惜しんでいるのだ。

 

「……ふふっ、四季君のこと、すっごい可愛がってるんだね」

 

「……そう、ですね」

 

 自分の口で言うことはないし、他の誰もが口にすることもない。けれども確かに……俺たち四人は、シキのことを可愛がっているのだろう。

 

「ってことは、名前だけじゃなくてそーゆーところもウチの志希ちゃんとそっくりってことになるね」

 

「……一ノ瀬志希さん、ですよね」

 

「そうそう」

 

 視線を盛り上がっている方へと向ける。そこにはジュンとナツキからマイクを受け取った志希さんとフレデリカさんが765プロの『虹色letters』を歌う姿があった。

 

「隼人君は『LiPPS(ウチ)』の事情って知ってる?」

 

「えっと……」

 

 美嘉さんがわざわざ志希さんの名前を出したということは……。

 

「リップスは346プロのアイドルユニットだけど、志希さんだけ123プロのアイドル……ということですよね」

 

「そ。元々123プロから346プロに出向してるときに組んだユニットがリップスだったんだけど、出向期間が終わって志希ちゃんが123プロに帰っちゃったから……」

 

 解散してしまった……と、美嘉さんは言わなかった。きっとそれは例え事実であったといしても、未だに口に出して言いたくなかったのだろうと、なんとなく思った。

 

「とは言ってもアイドルとして活動している以上、現場で会うことはザラにあるし、連絡先も知ってるし一緒に遊んだりもする。でも……この先、この五人で集まったとしても『LiPPS』は何処にもない」

 

 そう言って美嘉さんは寂しそうに笑った。

 

「だから今、こうしてもう一度『LiPPS』として集まれたことがホントに嬉しくて、自主練って名目で遊びまくってるんだ」

 

「えっ!? そ、それは……!?」

 

 思わず目を剥いて「いいんですか!?」と言おうとした俺に、美嘉さんは「しーっ」と人差し指を立てた。

 

「勿論ホントにレッスンもしてるよ。ライブに向けて完璧にも仕上げてみせるし、寧ろ二年前以上のステージを見せる自信もある。……でも『アタシたちの時間』はもう、残り少ないから」

 

 ……そうか。

 

「美嘉さんたちも、俺たちと一緒なんですね」

 

「そ。……アタシたちけっこー似てるね」

 

「ですね。お互いにリーダーですし」

 

「……あーゴメン。リーダー(あっち)なんだ」

 

「そうなんですか!?」

 

 

 

 

 

 

「なんか仲良さそーだなアッチ……まさか!?」

 

「ハヤトっち、まさかのまさかっすか!?」

 

「そんなまさか……」

 

「まさかが大渋滞してる……」

 

 

 

「へぇ、あの美嘉がねぇ」

 

「いやいや美嘉ちゃんに限ってそんなことあるわけ……」

 

「志希ちゃんはどう思う?」

 

「このロシアンたこ焼きっての食べてみたい」

 

 

 

 

 

 

「白湯が体にしみるぜ……」

 

「すみません、周藤君がどんどんと先に進めちゃうので私たちも調子に乗りました……」

 

「いえ、いい感じでしたよ……」

 

 寧ろコレぐらいやらないと一日休んだ遅れは取り戻せなかった。

 

 そんなわけで無事にレコーディングを全て終わらせて小休憩。体力的には問題ないけど、割と精神がすり減っている気がする。

 

 とはいえここでのんびりと休憩する時間すらないのがトップアイドルの辛いところ。白湯(これ)飲んだら次の現場に向かわねば。

 

「っと、またメッセージか」

 

 今度は志希ではなく四季から。……こいつらややこしいな。

 

「えっと……ははっ」

 

「どうしたんですか? なんだか……ちょっと元気になりました?」

 

「そうですね。志希(にゃんこ)四季(わんこ)からメッセージが届きまして」

 

「犬猫ですか私そういうのに目がないんですよ私にも見せてくださいさあさあさあ!」

 

 貴女今回限りのちょい役の割にちょっと癖強すぎやしません?

 

「ダメでーす、この画像は刺激が強すぎるのでお見せ出来ませーん」

 

「そんなに!? あぁどんな魅惑のわんちゃんねこちゃんが……!?」

 

 必死になってスマホを覗き込んで来ようとするスタッフさんの手を搔い潜りつつ、視線を画面に落とす。

 

 それは、四季の自撮りの画角に全員無理矢理入り込んだハイジョとリップスの集合写真だった。

 

 最初リップスとハイジョの組み合わせでカラオケなんて話を聞いたときは『隼人辺りは緊張するだろうな』なんて思っていたけど、画像に写る隼人は美嘉ちゃんや周子ちゃんと並びつつも自然な笑顔を浮かべていた。隼人だけじゃなく、旬や夏来も自然な笑顔で写っている。

 

「随分とまぁ、この短時間で仲良くなったもんだ」

 

 

 

 ――みんな『次はリョーさんっちも一緒に』って言ってるっすよ!

 

 

 

 いや美嘉ちゃんと奏は絶対そんなこと言わない。言うはずがないだろうそんなこと!

 

「……うっし!」

 

 気合を入れ直して立ち上がる。

 

 後輩の楽しそうな姿を見てやる気が出てくるとは、我ながら歳を取ったものである。若いもんが楽しそうだと、見てるだけでも元気が出てくるわい……。

 

 次世代のアイドルのために、王様はもうひと仕事頑張りますかね。

 

 

 




・「お労しや美嘉上……」
兄上、ネットミームのせいで所構わず(刀を)抜く人になってしまった……。

・「La victoire est à moi!」
調子乗んな!

・765プロの『虹色letters』
既に懐かしいデレ×ミリコラボ。

・「リーダー奏なんだ」
ぶっちゃけ間違えて覚えてた。

・言うはずがないだろうそんなこと!
これも既にネットミーム化してる気がする。というかコラ素材。



 個人的にこういうところも似てるよねって感じた結果生まれたのが、今回のハイジョ&リップス回だったりもします。ただ面白そうって理由だけじゃなかったんですよ!



『どうでもいい小話』

 SOL、担当にメッセージ読まれた人羨ましい()

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