アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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男子高校生(アイドル)の日常。


Lesson368 Episode of High×Joker 2

 

 

 

「というわけで、街中を歩いているアイドルを探して声をかけてみるっすよ!」

 

「「「なにがというわけで!?」」」

 

「……街中を歩いてる……アイドル……?」

 

 

 

 部室を飛び出して街中までやって来たかと思えば、突然シキはそんなわけのわからないことを言い出した。

 

「だからハヤトっちがちゃんとアイドルの女の子とお喋り出来るか試してみるんすよ。お仕事で一緒になった子だと『お仕事』っていう分かりやすい共通の話題が出来ちゃうっすからね。そういう逃げ道を無くすために、敢えて関わりの少ないアイドルを対象にするんすよ」

 

「……四季くんにしては、意外としっかりした考えですけど」

 

「ひでーっす!?」

 

「ただどうしてそれが『街中を歩いているアイドル』なんていう不確定要素が多すぎる相手を対象にしようと思ったんですか?」

 

「それは勿論、リョーさんっちが言ってたからっすよ!」

 

「……良太郎さんが?」

 

「そうっす!」

 

 

 

 ――アイドルをやってるとな、不思議とアイドルと惹かれ合うんだよ。

 

 ――普通に街を歩いているだけで、アイドルの知り合いと会うことだってザラだ。

 

 ――俺はこれを『偶像遭遇論(ごつごうしゅぎ)』と呼んでいる。

 

 

 

「……って言ってたっす!」

 

「流石本家本元は言っている言葉の意味の分からなさが段違いですね……」

 

「良太郎さん相手に容赦なくなってきたな、旬……」

 

 いくら仲良くなったとはいえ、良太郎さん相手にそれを言う勇気はないぞ。

 

「というわけで、アイドルになったオレたちも街中を歩いていればアイドルに会えると思うんすよ!」

 

「そんな無茶苦茶な……」

 

「というわけでじゃないんだよ」

 

 いかにも『私にいい考えがある』みたいな空気で部室を飛び出したっていうのに、結局このありさまである。おかしいな……本当はコンボイ司令官の成功率は八割だったはずなのに……。

 

 などとぶつくさ文句を言いつつもシキの発言に乗っかる辺り、なんだかんだ言って全員後輩(シキ)に甘いのである。

 

 

 

「それじゃあまずは街中のアイドルを探すところからっすね!」

 

「第一関門が虎牢関」

 

 コンビニで買った飲み物を片手に、邪魔にならないところに五人並んで街角ウォッチング。まだまだ夏休みも真っ只中なので若者の往来は多い。……あとついでに暑いので薄着の女の子も多い。

 

「あれ? リョーさんっちがいきなり『いい季節だよな、夏!』っていうメッセージがきたっす」

 

「エスパー過ぎる……」

 

 そもそも良太郎さん、今日は一日中忙しくてスマホ弄る暇もないってSNSでボヤいてたような気がするんだけど……?

 

「けどまぁ、確かにこうして改めて見てみるとアイドルやっててもおかしくなさそうな可愛い女の子は多い気がする」

 

 缶コーヒーを飲みながらポツリとハルナがポツリと呟いた。

 

「例えば……ほら、あの子とかどうだ。何処かのアイドル事務所にいてもおかしくなさそうじゃね?」

 

 そう言ってハルナがピッと指差す先を見てみる。

 

 赤髪のおかっぱ頭で、背は低め。若干幼い印象を受けるけど、制服的に女子高生。確かにアイドル受けしそうな見た目の子である……っていうか。

 

「あれ、確かUTX学園の制服じゃない?」

 

「ゆーてぃーえっくす?」

 

「1054プロダクションの東豪寺麗華さんが先生をやってる芸能科の高校ですよ」

 

 首を傾げるハルナの問いに答えたのはジュンだった。この辺りのアイドル事情は事務所で開かれた『みのり先生の楽しいアイドル講座』で聞いていたので俺も知っている。ハルナが覚えていないのは……多分寝てたんだろうなぁ。

 

「ってことは、マジであの子アイドルなんじゃね!?」

 

「まさかの一発目でアタリ引いたっすか!? よしハヤトっち声かけてくるっす!」

 

「俺かよ!?」

 

 いや元々そういう話だったけどさ!? というか、そんなやり取りをしている間にとっくに少女の後ろ姿は遥か遠くである。

 

「……あ、思い出した……」

 

「夏来、どうしたの?」

 

 それまでずっと黙ったままだったナツキがポンと手を叩いた。

 

「あの子ホラ確か……昔、テレビで『ピーマン体操』歌ってた女の子に似てる……」

 

「……あー! 確かに! 似てた気がするっす!」

 

「俺も覚えてるぜ! うわ懐かしっ! 名前は全然思い出せねぇけど!」

 

「名前は俺も思い出せないけど、覚えてる!」

 

 なんだっけ、確か『ピーマン食べたらピーターパン』だっけ? 確かそんなような歌だったような気がする。確かに言われてみれば、それを歌っていた子役に似ているような気がしてきた。

 

「あれ何年ぐらい前になるんだ?」

 

「十年……は経ってないと思うけど、何年ぐらい前だったっけ?」

 

「俺たちが小学生ぐらいだったっていうのは覚えてるんだけどなぁ……」

 

 五人揃って「いやぁ懐かしいなぁ」「あの頃他に流行ってた曲あったよな」「あの頃のアイドルと言えば、確かみのりさんが誰か凄いアイドルがいたって言ってたような」「なんとか小町とかそういうの」なんてことを喋りながらワイワイと盛り上がる。

 

「……ん? 何かを忘れているような?」

 

「なんすかね?」

 

「なんだったっけな?」

 

「……アイドルに、声をかけるんじゃなかったっけ……?」

 

「「「それだ!」」」

 

「三人とも……」

 

 発案者であるシキすら目的を忘れていたため、ジュンに呆れられてしまった。そうだった街中を歩いているアイドルを探すんだった。

 

「……なんで探してるんだっけ?」

 

「「なんでだっけ……?」」

 

「だから三人とも……」

 

 再度呆れられてしまった旬に本来の目的を教えてもらう。そうだった俺が他のアイドルとちゃんとお喋りできるように練習するんだった。

 

「……いや改めて考えてみると、やっぱり色々とおかしくないかな!?」

 

「ハヤトっち、今更っすよ。前話からの続きなんすよ?」

 

「もう二千文字以上使ってるんだぞ」

 

「今話も半分を超えてるんですから、今更我に返らないでください」

 

「そうこうしてる間に、あと八百文字ぐらい……」

 

 なんか俺以外全員不思議なことを口にし始めた。なんで四人揃って電波受信してるの!? ちょっと怖いんだけど!?

 

「それじゃあさっきはオレが見つけたから、次はハヤトのターンな」

 

「ターン制だったのか……」

 

 やっぱり何かを間違えているような気もするけど……。

 

「……うーんと……それじゃあ、あの子とか」

 

 すっごい女の子って感じのピンクのフリフリのシャツに黒いスカートを穿いた黒髪の女の子を指差す。確か地雷系ファッションだとか量産型ファッションだとか、そんな感じの名前だった気がする。

 

「この暑いのにマスクしてるし、なんか芸能人っぽくない?」

 

「なるほど、ハヤトの好みはああいう子っすか」

 

「胸はそこそこだけどいい太ももだな」

 

 そういう話じゃなかっただろ!?

 

「いやでも実際可愛いだろ!?」

 

「それはまぁ認める」

 

「あの……何か御用ですか?」

 

「「「「「えっ」」」」」

 

 俺が指差した女の子がすぐ近くに寄って来ていた。声も可愛い。……じゃなくて!

 

「い、いや、なんでもないです! ごめんなさい!」

 

「ごめんねー、こいつが君のこと可愛いって言っててさ」

 

 おいハルナァァァ!?

 

「はぁ……」

 

 ほらぁぁぁこの子ちょっと引いてるじゃん! マスクしてるから表情よく分からないけどメッチャ困ってるじゃん!

 

「えっと……それじゃあ……」

 

「うん、ごめんねー」

 

「すみませんでした……」

 

 去っていく少女の背中に、ハルナはひらひらと手を振ってジュンは頭を下げた。

 

「……もういいだろ!? 声かける練習とかそういう問題じゃなくなるって!? このままじゃ何かしらで通報されるって!?」

 

「分かった分かった、悪かったって」

 

「それじゃあこの辺にしておくっすかねー」

 

「無駄な時間を過ごしました……」

 

「この後……どうしよっか……」

 

 これ以上変なことをしていてはいずれ大火傷をする羽目になると判断して、俺たちは撤退を決める。

 

「……あっ!? 今、今度こそ見覚えのあるアイドルがいたような気がするっす!」

 

 だからもういいって!

 

 

 

「ほらシキ、もう諦めろって」

「ほら志希、フラフラしないで」

 

 

 

「「はーい。……ん?」」

 

 

 

『……ん?』

 

 何故かシキを呼ぶ声が二つあり、そしてそれに反応する声も二つ。

 

 ふと横を見るとそこにはサングラスをかけた青髪の女性がいて、驚いたようにこちらを見ていた。

 

 そしてシキもシキで、キョトンとした表情でウェーブがかった赤茶髪の女性と顔を見合わせていた。

 

 ……なんか二人とも、見覚えがあるような気がする……って!?

 

(『LiPPS』の速水奏!?)

 

 正真正銘のアイドルだった。俺たちも参加させてもらう合同ライブに346プロダクションから参加する、女子中高生から絶大なる支持を得ている超人気アイドルユニット『LiPPS』の速水奏だった。

 

「『偶像遭遇論(ごつごうしゅぎ)』すげぇ!?」

 

「ごつ……なに?」

 

 なんでもないです戯言です。

 

「ってことは、あっちのシキっていうのは……!?」

 

「良太郎さんの事務所の……」

 

「……一ノ瀬、志希……」

 

 これには流石に俺たち全員がその正体に気付いてしまった。サングラスをかけているというのにアイドルオーラが半端じゃない。

 

「バレちゃったわね……って、あら? そういう貴方たちも、315プロの……」

 

「え、オレたちのこと分かるの?」

 

「当然よ。次のライブで一緒になるんだから」

 

 おぉ……なんだろう、人気アイドルに認知されてるっていうの、凄く嬉しいぞ! いや今は俺もアイドルなんだけどさ!

 

「あれ、奏ちゃんどーしたの?」

 

「なになにー? もしかしてナンパされちゃったー?」

 

「えっ!? ナンパ!?」

 

 うわっ! 塩見周子と宮本フレデリカと城ヶ崎美嘉もいる! リップス全員揃ってるじゃん!?

 

「って、嘘ッ!? ハイジョ!? 全員いるの!?」

 

 おや、何やら塩見周子さんの反応が……?

 

「シューコちゃん、ハイジョのファンなんだよねー?」

 

「えっ」

 

「ちょっ、まっ、いや、その……ふ、ふつーに好きなだけだし……?」

 

 フレデリカさんからのまさかの暴露に「マジで!?」と視線を向けると、そこにはちょっと恥ずかしそうに視線を逸らす塩見周子さんの姿が。……え、本当にマジで!?

 

「よしそれじゃあやることは一つっすね!」

 

「シキ!?」

 

「シキちゃんも空気が読めるから何するのか分かるよー!」

 

「志希ちゃん!?」

 

 

 

「「全員でカラオケだー!」」

 

 

 




・『偶像遭遇論』
マジレスするとそうしないとお話が進まないんだよ……。

・赤髪のおかっぱ頭で、背は低め。
コッテリしたオタの人気を滅茶苦茶稼ぎそう。

・『ピーマン食べたらピーターパン』
若干歌詞を変更する小細工。歌詞乗せると処理が面倒くさいからね。

・女の子って感じのピンクのフリフリのシャツに黒いスカートを履いた黒髪の女の子
最近の作者の中で一番熱いアイドル。
はよぉ登場させてぇなぁ!



 ついにシキにゃんとシキわんの邂逅。



『どうでもいい小話』

 ウチにだけまだデレコラボシャドバが届きません()

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