「ついにやってきたっすねぇ……」
「あぁ、やってきちまったな……」
「やってきたねぇ……」
三人は神妙な顔で頷き合い……そして右の拳を高々と突き上げた。
「「「夏休みだあああぁぁぁ!」」」
「若者は元気だなぁ……」
「世間一般的に考えると、良太郎さんも十分に若者の部類に入るはずですけど」
「二十二歳……ですよね……?」
「逆に聞くけど、旬と夏来は俺が自分たちと同じ若者世代だって思う?」
無言で首を横に振られた。それはそれでなんだか釈然としないものがある。
「それはそれとして……ま、あれだ」
あそこではしゃいでいる三人の言う通り……現在夏真っ盛りである。
「いやぁこの『夏休み』っていう字面だけで興奮するっすねぇ!」
「学校という狭い檻から解き放たれ、今のオレたちならば何処にだって飛んでいけるだろいうという全能感に溢れているぜ……」
「おぉ……ハルナが普段使わないような言い回しを使っている……」
俺が315プロへの少し早い暑中見舞いとして持って来た水羊羹を食べながら、ずっとテンションが高いハイジョの悪ガキトリオ。そんな三人をやや冷ややかな目で見る旬とキョトンとした表情をしている夏来ではあるが、基本的な意見は三人と同じようである。
「これでライブのレッスンに専念できますね」
「合同ライブまで……半年切ってるからね……」
ハイジョは基本的に楽器の演奏があるためダンスはないが、全体曲には当然ダンスが存在する。今回のライブの場合、315プロとしてだけでなく
「なーに言ってるんすか! まだ
「折角の夏休みなんだから、楽しもうぜ!」
「俺、海とか行きたい!」
「はぁ~……!」
先ほどからずっとテンションが高い四季と春名と隼人に絡まれて、旬が露骨に大きな溜息を吐く。
「三人とも、いくら夏休みに入ったからとはいえ浮かれすぎないでください。『折角の夏休み』だからこそしなければいけないことが沢山あるんですよ」
「そうだぞー学生諸君。特にお前たちは課題を後回しにするタイプだろうから、しっかりとやっとけよ」
「「「……課題?」」」
おい今なんでそんな露骨に『何を言っているんだ?』って表情をした?
「……え、ちょ、ちょっと待ってください……まさかリョーさんっち、夏休みの宿題は早めに終わらせておくタイプだったんすか……!?」
「おいまさかってどういう意味だ? あ?」
「うっそだぁ! 良太郎さんは夏休み最終日に慌てるタイプだろ!?」
失礼なことをぬかしやがった春名の頭を引っ叩く。
「確かに優良な学生だったとは言わん。だが中学からずっと赤点を一つも取ったことない程度には普通の学生だったんだぞ」
「良太郎さんって……中学生の頃からアイドルとしての活動、してましたよね……?」
「そ、それならば十分優秀な生徒だったんじゃないですか?」
「そ、そんなバカな……」
「あ、アイドルっていうのは、ちょっと勉強が出来ないぐらいがいいんじゃ……なぁ隼人!?」
「あ、いや、俺は流石にそこまでは言わないけど」
その辺りはマジでちゃんと頑張っていたというのがちょっとした自慢である。
「自分で選んで高校に進学した以上、ちゃんと勉強して卒業はしろよ。今更『こんな勉強しても将来役に立たないよ~』なんて議論するつもりはないからな」
「えっと『将来必要とされない教科を勉強する意味は?』っと……」
「チャットGPTに質問してやがる……」
四季の質問に対し、AIは『知識の幅を広げる』『認知能力の向上』『自己成長と興味の発見』という三つの回答を出していた。全文は長くなるので、気になる人は自分で質問してみて欲しい。なるほどなぁ……。
「とはいえ、課題のやる気が出ないことには変わらないっす~」
「夏休みの全てを遊びとバイトに費やしたいぜ~」
「あと練習~」
「全く……」
先ほどとは打って変わってローテンションになってしまった三人に対して旬が溜息を吐く。
「全く……念のためにもう一度言っておくけど、
「「「え~?」」」
「えーじゃない!」
不満の声を上げる三人をピシャリと叱る旬。
「まぁ
「……ど、どうなるんすか?」
「多額の違約金を払ってもらう」
「「「ガチだあああぁぁぁ!?」」」
多額のというのは嘘だが、ケジメとしてそれなりのことは覚悟してもらいたい。いくら知り合いで固める結果となったとはいえ、そこはしっかりとしなければならない。
「というか……良太郎さん……俺たちが合宿するところ……知ってるの……?」
夏来からの質問に「あぁ」と答える。
「数多のアイドルたちが大きなイベントの前の合宿に利用した由緒ある民宿だと一部界隈では有名だ。勿論俺も利用したことあるぞ」
「そんなハイパーすげぇ民宿だったんすか!?」
俺が知っているだけでも765プロAS組&シアター一期生組、346プロ、765プロシアター二期生組が利用している。ただ話を聞く限りでは他のアイドル事務所が利用したという話を聞いたことがないので、本当に一部界隈でしか有名ではないらしい。……簡単に予約が取れるからありがたいといえばありがたい話なのだが。
「これはアレっすね! 先輩アイドルたちのパワーを借りて、オレたちもハイパーメガマックスな進化をしちゃうんじゃないっすか!?」
「つまりメガシンカだな!?」
「多分違うと思う!」
「メガシンカは出来ずとも、トップアイドルと並んでステージに立っても恥ずかしくないぐらいには鍛えてやるからな」
「「「「「……え?」」」」」
ハイジョ五人の戸惑いの声が重なった。
「え、良太郎さんも来るんですか!?」
「え、聞いてねぇの?」
コクコクと頷く五人。どうやら情報の伝達ミスがあったらしい。
「
「おおおジュピターきたあああぁぁぁ!」
「俺、冬馬さんからサイン貰いたいんだよね!」
「俺も俺も!」
「君たち目の前に日本を代表するトップアイドルがいること忘れてないよな?」
とまぁそんな感じで、今年の夏は123プロ&315プロ&876プロの男性アイドル組での夏合宿が決定したわけである。
ところ変わって、毎度おなじみ喫茶『翠屋』。
「え!? 合宿するんですか!?」
「うん。男性アイドルだけでね」
「ええなぁ、楽しそうやなぁ」
羨ましそうな声を出すのは、なんともう今年から中学一年生となったはやてちゃんである。足の調子もすっかり良くなり、今ではアイドルとして活動しているほどだ。
「私らも合宿とかせーへんのかな」
「うーんどうだろうねぇ」
「私も、ちょっとだけ興味あるな」
そんなはやてちゃんが話しかけたのは、同じく今年から中学一年生になり彼女と同様にアイドルとして活動しているなのはちゃんと、金髪ツインテールの美少女。彼女たちとアイドルユニットを組んでいるフェイト・テスタロッサちゃんである。
彼女たち三人の出会いは偶然であった。フェイトちゃんの母親が副社長を務める芸能事務所『310プロ』に所属することになり、同年代ということで意気投合。そしてそのまま三人組アイドルユニット『
「もし書かれるとしたらキャッチコピーは『
「良太郎さんはいきなり何を言ってるんだろう……?」
「いつものことだから気にしなくていいよ、フェイトちゃん」
「せや、これが良太郎さんの通常営業やねん」
「そ、そうなの……?」
「アニメ化したら三期は堅いな!」
「アニメ!?」
「良太郎さん、フェイトちゃんが混乱してるからもう少しスピード落としてほしいの」
「素人乗せてアクセル全開は勘弁してやー」
「310プロなら話せば合宿とか企画してくれそうだと思うけどね。特にプレシアさん」
「うっ……」
自分の母親を名指しされたことで、フェイトちゃんは小さく呻き声をあげた。娘至上主義のあの人のことだから、娘のお願いならば喜んで聞くだろう。それが彼女たちの益になるようなことならば猶更だ。
「良太郎さんってば、そんなこと言って~」
何故かニヤニヤとした笑みを浮かべたはやてちゃんが、俺の横に寄ってくると肘で小突いてきた。
「聞いとるで~、その合宿の民宿って、目の前が海なんやろ~? 現役JCアイドルの水着姿が目当てとちゃうの~」
「否定はしない!」
「うっさ!? いやそこは否定してぇな!?」
確かにこの三人はだいぶ発育が良く、特にフェイトちゃんの成長は目を見張るものがある。往年の志保ちゃんや蘭子ちゃんを彷彿とさせるほどだ。
「でも一つだけ言い訳をさせてもらいたいんだ」
「聞きましょう」
「あくまでも俺は『見ること』が好きなんだよ」
「……だそうですが」
唐突に俺の背後へと話しかけるはやてちゃん。……うん、分かってたよ。ここが喫茶『翠屋』である以上、どういうオチになるのかぐらい察していたさ。
「良太郎、ちょっと話をしよう」
一切の特殊タグの類が使われていない恭也のセリフが逆に怖い……。
・『夏休み』
またの名をテコ入れ期間。
・チャットGPT
執筆に活用できないかと考えたけど、イマイチ有効活用法が見つからない。
とりあえず本来質問するっていう使い方はあんまり正しくないということだけは理解した。
・あの民宿
あそこである。
・メガシンカ
既に三世代前の要素だがGOだと現役。
・フェイトちゃん
今まで名前だけだったが、満を持しで登場!
・『Tri-Ace』
某ゲーム会社とは関係ない。
多くは語らず。合宿編、始まります……!