「良太郎さんがいらっしゃるこのアイドル業界で『カミサマ』なんて呼ばれるなんて、ふてぇ野郎ですね……」
「まゆさん、もうちょっとアイドルらしい言動を」
とはいえ、まゆさんの言いたいことが分からないでもない。
私個人の感想ではなく一般論として、アイドル業界の一般論として『周藤良太郎』というアイドルは神格化されていると言っても過言ではないほどの崇拝されている存在だ。彼の二つ名である『覇王』と、そんな彼と同格である『魔王エンジェル』の存在により、『王様』に関係する設定や名前を使うことが少々憚られるぐらいだ。
そんな中で『神様』だなんて、随分と豪胆である。
「いや、一応『カミサマ』ってのは自称じゃなくて、一部の熱狂的なファンからそう呼ばれてるっていうだけらしい」
「それだけカリスマがある……ってことですか」
気になったのでスマホを使って調べてみる。……どうやら一部のSNSで広まっている呼び方らしい。
「そいつもまぁ……ちょっとした
「へぇ……ま、まだらばと……?」
「恵美さん……」
確かに珍しい苗字ではありますけど、これぐらいは一般常識として読めてくださいよ。
「恵美ちゃん、これはですねぇ……」
――『イカルガ』って読むんですよぉ。
「え、それじゃあ美琴がすぐにデビューしなかった理由って……!?」
「うん、良太郎たちみたいな完璧なパフォーマンスが出来るようになってからって思ったの」
初手ダイレクトアタック!
「りょーくんが死んだ!?」
「
割と冗談抜きで机に倒れ伏す俺の身体を、りんが縋りつくように揺さぶる。ともみはちょっと後で話がある。
「りょーくんしっかりして! 傷は浅いから! アタシのおっぱい揉む!?」
「……いまはちょっと……そーゆーのいい……」
「りょーくん!?」
「うわ相当ねコイツ」
「まぁ、分からないでもない」
もうホントさーかんべんしてよーいやマジでさー。
「また俺のせいじゃん……俺が余計な事したせいで美琴のデビューが遠のいてんじゃん……」
「ち、違うよ、良太郎のせいじゃないよ? というか、理由の一部っていうだけあって、全部が全部それが理由ってわけじゃないよ?」
だから落ち込まないで……と美琴に頭を撫でられる。
「それ以外の理由っていうのは、聞いてもいいやつなわけ?」
「勿論いいよ。隠してるわけでもないし……でも、今はちょっとだけやめとこうか」
「今だからこそ聞きたいんだけど」
チラリと俺を見て遠慮してくれた美琴に対して、麗華が俺のトドメを刺そうとする気満々な件について。りんがまるで猫のように「ふしゃーっ!」と威嚇してくれているため麗華も「分かったわよ」と諦めてくれたが、このままだと冗談抜きで再起不能になるところだった。
「でもどうして黙ってたの? いや、そもそも連絡が取れなかったから聞く手段も場所もなかったんだけど」
ともみが尋ねると、美琴は「そうだね……」と目を伏せた。
「……黙ってるつもりもなかったけど、誰かに言いふらすつもりもなかった。でも、みんなは大事な友だちだから……私も、心の何処かで聞いてもらいたかったんだと思う」
美琴はそう言いつつ、何か心残りがあるかのように表情が曇っていた。
「……まぁ今日は折角の機会だし、言いたいなら聞いてあげるわ。言いたくないなら聞かないでおいてあげる」
「ありがとう、麗華」
「いいのよ。良太郎のこんな姿を見れただけでも十分にお釣りが出るから」
「私も参加した甲斐があったわ」
麗華とりっちゃんが徒党を組んで、普段の恨みを晴らさんと悪い笑顔で煽りまくってくる。くっそぉ、今回ばかりはマジで何も言い返せない……いつか覚えてろよお前ら……。
(……あれ? ……良太郎
「ともみ、どうかしたの?」
「いや……なんでも」
そんな小さな事件がありつつ、同期会と言う名の食事会はスタートした。胃が痛くて飯が食えるか心配になったが、普通に美味くてそんなものは杞憂だった。
「女将かシェフを呼ぶべきか?」
「レストランに女将がいると思ってんの?」
そうだな、そもそも食後に呼ぶべきだったな。
「こうしてご飯食べるの、久しぶり」
「ん……そうね。あれ以来、集まることなんてなかったものね」
「それもあるけど、こうしてちゃんとテーブルでちゃんとした食事するのが久しぶりだったから」
「「「「「食事!?」」」」」
予想以上……いや、予想以下の返答にその場にいた全員が驚愕の声を上げる。
「美琴、アンタ普段の食生活どうなってんのよ……」
「……たまにはちゃんとお弁当買ってきてるよ」
「それ言い訳じゃなくて結構なレベルの墓穴だぞ……?」
お弁当以外の食事がどうなってるのか聞くのが怖い。
「アンタのことだから、レッスンで忙しくて食事の用意が面倒くさいとかなんでしょうけど……それなら休みの日にまとめて野菜を切って冷蔵庫に保存しておくとか……」
「………………」
「……え、流石に冷蔵庫がないとか言わないわよね……!?」
「い、いくらなんでもそれぐらいあるよ!」
青褪めるりっちゃんの問いかけに慌てて否定する美琴。誰も口にしないが、美琴以外の五人全員が(コイツならあるいは……)とか思っているに違いない。
「私だって、そういう作り置き? っていうの、やってみたことあるんだけど……気が付いたら、悪くなってて……」
おいおい……。
「いいか美琴。この世の中には、人として守らなきゃいけないものが三つあるんだ……! 約束と……! 愛と……!」
「……リョウ、グリッドマンの映画観に行ったでしょ」
「二回観た……!」
なんだったら三回目も観に行く予定だ……!
「とにかく、飯ぐらいはしっかり食べろよ。アイドルとして身体は資本だぞ」
「え、りょーくん、三つ目は何……?」
「気を付けます……」
「だからりょーくん、三つ目は……?」
「そんでもって、今日は普段食えてない分を存分に食え……お代わりもいいぞ」
「三つ目……」
「え、良太郎とりん、付き合ってるの……!?」
「いひひっ、実はもう婚約者で~す」
「そうだったんだ……おめでとう、二人とも」
「ありがとっ、美琴!」
各々の近況報告をしている最中の、りんと美琴のそんな会話。そういう話に興味なさそうに見える美琴だったが、そこは女子らしく目を輝かせながらりんの話に食いついていた。
ちなみにもう一人の当事者であるところのリョウは麗華と律子の三人で合同ライブについての話をしていて、二人の話は聞こえていないらしい。普段の言動とは裏腹に、やっぱり根は真面目である。
「え、え、もしかして昔からそうだったの……!?」
「実はここだけの話、デビューした頃からずっと……」
いやここだけの話じゃないし。傍から見てバレバレだったし。
「全然気付かなかった……」
「嘘でしょ……!?」
心底ビックリしている様子からすると、どうやら美琴は本当に気付いていなかったらしい。りんの好意に気付いてなかったの、鈍感の権化みたいなリョウとそういうことに対する嗅覚が死滅しきってる麗華だけだと思っていたのに……。
((なんか今、ともみから凄い罵倒をされた気がする……))
「……ホントはね、初めて会ったときはりょーくんのこと全然好きじゃなかったんだ。寧ろ嫌いの方が近かったかも」
当時のことをそう振り返るりん。確かテレビ局の控室だったっけ……懐かしいなぁ。
「でも、今は違うんだよね?」
「そりゃあ勿論! 今どころか、その後すぐに変わったもん! 忘れもしない『始まりの夜』……あの日、公園のステージで大勢の人を魅了したりょーくんは、きっとアイドルの神様の生まれ変わりなんじゃないかって思うぐらい、とても神秘的な雰囲気が漂っていて……」
「わぁ……!」
うっとりと当時のことを振り返るりん。少しばかり脚色されているような気がいないでもないが、それでもほんの少しだけりんの気持ちも分かった。
当時は『日高舞』が引退したことによりトップアイドルの座が空になったままのアイドル冬の時代。アイドルこそいれど圧倒的な輝きを放つ存在なき世界、『周藤良太郎』はまるで閃光のような輝きを放ちながら突然現れた。
わたしたちも今では『周藤良太郎』と肩を並べられるトップアイドルになったと自負しているが、それまではリョウがアイドルでありながらアイドルという存在そのものを照らし続けていた。
そんなことが出来たのはきっと、そんなリョウとほぼ同じタイミングで
「あ、いたいた」
――瞬間、音が消えた。
楽しげに会話を楽しんでいたりんと美琴も、真面目な企画の話の最中にふざけて律子に怒られていたリョウも、そんな二人を尻目に追加のお酒を注文しようとしていた麗華も、一様に言葉を失った。
「探しちゃったよ、まさかこんなところに集まってるなんて」
「……おい麗華。貸し切り、だったよな?」
「……ゴメン。そのつもり、だったんけど……」
「いや、お前は悪くない」
口を開くことすら憚られるような空気の中、唯一リョウと麗華だけが言葉を発していた。
しかし二人の声は、普段それとは思えないほど強張ったものだった。
「聞いたよ? コレ、同期会なんだって?」
「なんでテメェがここにいる……」
「楽しそうじゃん――」
「なぁ――!」
「――アタシも交ぜてよ」
――玲音っ!!!
・良太郎たちみたいな~
良太郎の精神に多大なるダメージを与えましたが、美琴が釈明したように全部良太郎のせいというわけではありません。
では残りの責任の所在はというと……?
・美琴の食事事情
シャニで一番カロリーメイトが似合いそうなアイドル。
・人として守らなきゃいけないものが三つ
・グリッドマンの映画
このまま毎週観に行くんじゃないかってぐらい面白い。
※なおネタとしてはグリッドマンではなくダイナゼノンの模様。
・『女帝』襲来
――災害は、いつだって突然現れる。
あっさりと明かされた美琴の事情ですが、まだ途中です。本題はこれから。
そして初登場から約八年の時を経て、ついに現れました。
ラスボス系主人公と揶揄される良太郎ですが、彼にとってのラスボスは間違いなく彼女。
永遠のライバルであり戦友であり、世界で一番の天敵。
唯一、正真正銘『周藤良太郎と同格のアイドル』玲音の登場です。