アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

496 / 557
果たして彼らの正体は……!?


Lesson344 Episode of W 2

 

 

 

「………………」

 

「ん? なに? どうしたの?」

 

「い、いえ……これ」

 

 思わず呆けてしまったが、男性の声に我に返った。慌てて男性にサッカーボールを返す。

 

「サンキュー!」

 

「いえ……」

 

 ……なんだろう、先ほどまではなんとも思わなかったのに、男性がサッカーボールを手にした途端に何か既視感のようなものを覚えて少しモヤモヤする。

 

「部外者は立ち入り禁止ですよ」

 

「っ」

 

 突如背後からかけられた声に驚いてビクリと背筋が伸びる。

 

 そのまま振り返ると、そこには先ほど私が見た花瓶を持った男性の姿が……。

 

(……あ、もしかして双子……?)

 

 ベッドの男性と同じ顔……と見まごう程によく似た顔の男性。こちらの男性は緑の縁の眼鏡をかけていた。

 

「おい享介(きょうすけ)、そんな言い方するなって。部屋の外に転がってっちゃったボールを拾ってくれただけなんだから」

 

「えっ……す、すみません」

 

「だ、大丈夫です。部外者なことは事実ですから」

 

 ベッドの上の男性に諭されて、眼鏡をかけた男性が頭を下げた。

 

「では、私はこれで……」

 

「ボール、サンキューな!」

 

「ありがとうございました」

 

 ただボールを届けただけなので部屋に留まる理由はない。男性二人に軽く会釈をしてから私は病室を後にした。

 

 早くりっくんのジュースを買ってあげないと……と自販機コーナーへと向かいつつ、なんとなく視線が先ほどの病室のネームプレートへ移る。昔と違って電子表示となっていて普段は見えないようになっているそれは、たまたま私が近くを通ったことで先ほどの男性の名前が見えるようになっていた。

 

(……蒼井(あおい)悠介(ゆうすけ)……?)

 

 双子。サッカーボール。何かが引っかかるようなモヤモヤが増したが、今はそんなことよりも重要なことがあるため、私はさっさと気にすることをやめた。

 

 

 

 

 

 

「リョーさん、昨日何かあったのか?」

 

 陸君が事故に遭った翌日、トーク番組の収録のためにテレビ局へ向かうとたまたま鉢合わせた輝さんからそんなことを尋ねられた。

 

「何かというと?」

 

「いや、昨日ドラスタの三人で雑誌の表紙の撮影に行ったんだけど、そのスタジオのスタッフさんたちが妙にざわついてたというか浮足立ってたというか。詳しく話を聞いてみたら、なんか『周藤良太郎から圧力がかかった』なんて噂が……」

 

「……あー……」

 

 なんかあまりよろしくない方向の噂になってしまったようだ。

 

「リョーさんがそんなことするはずないから、当然俺たちは信じなかったんだけど。そういう噂が流れるようなことは何かあったのかなって」

 

「実はですね……」

 

 かくかくしかじか。

 

「おぉ……!? それはまた大変だったんだな……」

 

「はい。それでも大事にならなくて本当によかったです」

 

「そういうことなら猶の事、噂は誤解だって分かってもらわないとな。微力かもしれないけど、事務所のみんなにも協力してもらうよ。勿論、その事故に関しては言いふらさないようにする」

 

「すみません、ありがとうございます」

 

 結果として圧力をかけてしまったことには変わりはないのだけど……。

 

「しかし凄いな、その男の子! 自分の危険を省みず女の子を助ける! 大人としては叱らなくちゃいけないところだけど、まさしくヒーローそのものだ!」

 

 話がひと段落ついたところで、改めて目を輝かせる輝さん。彼ならばそういう反応をすると思っていた。

 

「しかも咄嗟に動いた理由が、以前自分も同じように助けられたからなんだろ!? くぅ~! 熱い展開だなぁ!」

 

「それは俺も思いました。創作の中だけではなく、こういうヒーローの意志っていうのは本当に受け継がれていくんだなぁって感動しましたよ」

 

 あ、そうだヒーローと言えば。

 

「輝さん、『ジャスティスV(ファイブ)』への出演おめでとうございます」

 

「おぉ! ありがとう! ……とは言っても、ただ出演しただけだけどな」

 

 照れくさそうに笑う輝さん。嬉しいことには嬉しいけれど、それでも素直に喜びきれないといった様子だ。

 

「それでも『変身は出来なくても行動すれば誰でもヒーローになれる』ことを体現するゲスト登場人物なんですから、十分胸を張っていいと思いますよ」

 

「あぁ、それに関しては俺も誇りに思ってる。……でもいつかは、正真正銘本物のヒーローになってみせるぜ!」

 

「その意気です」

 

「そして全力で『変身っ!』って叫ぶんだ!」

 

「それめっちゃ気持ちいいですよ」

 

 俺も初めて覆面ライダー天馬に変身したときは、そりゃあもう昂りまくって監督に「流石に力入りすぎ」って注意されたもん。

 

「ってそうだ、リョーさんの噂とヒーロー君の話題でスッカリ話題が頭から飛んじゃってたけど、入院ということで一つリョーさんの耳にも入れておいた方がいいことがあったんだった」

 

「……というと?」

 

「実はうちのプロデューサー、今入院中なんだよ」

 

「えっ!?」

 

 なにその偶然!?

 

「まさか奈落から落ちたり……!?」

 

「いや盲腸だって。いきなり倒れて病院に担ぎ込まれたけど手術も無事に終わって今頃白湯生活……って、どうしていきなり奈落から落ちるっていう選択肢が浮かぶんだよ」

 

「色々あったんですよ……」

 

 しかしそうか、315プロのプロデューサーさんが入院ね。……兄貴をプロデューサー枠として考えていいのであれば、これで123・765・315のプロデューサーが病院に運び込まれたことになる。……346のプロデューサーはその代わりに警察のお世話になることが多いから似たようなものかな?

 

 それはそれとして。

 

「今度そちらにもお見舞いに行きたいので、入院している病院を教えてもらっていいですか?」

 

「あぁ、いいぜ。えっと……」

 

 輝さんから病院名を聞き、忘れないようにスマホで……。

 

「……あれ?」

 

 

 

 

 

 

 りっくんが女の子を救い利き腕である右腕に名誉の負傷をしてから早二日が経った。

 

 命に別状はなかったため、私もお母さんも後ろ髪を引かれる思いで仕事をしている。そして私は合間の時間を見つけると今日もりっくんの様子を見にやって来たのだが……。

 

 

 

「りっくん凄いじゃん! 女の子守るなんて、偉いぞ男の子~!」

 

「でもあまり無茶はしちゃいけませんよぉ?」

 

「お母さんやお姉さんが、心配してしまいますからね……」

 

 

 

「………………」

 

「志保ちゃ~ん、弟が年上のお姉さんにモテモテだからってそんな怖い顔しちゃダメだよ~?」

 

「怖い顔なんてしてません」

 

 以前私の家でお泊りをしたことがある恵美さんたちは全員りっくんと面識があったので、今日こうして私と同じように合間の時間にお見舞いに来てくれたことはとてもありがたい。りっくんってば、意外と寂しがりやなところがあるからこうして沢山の知り合いがやって来てくれて嬉しいだろう。

 

 しかし、それでも、それでもだ。小学生の弟がアイドルのお姉さんに囲まれてチヤホヤされているところを見ているとなんとも言えない気持ちになってくる。

 

「りっくんは将来どっちの路線だろうね~」

 

「なんですか、その路線って」

 

「リョータローかきょーやか」

 

「………………」

 

 志希さんの言わんとすることを理解してしまって、思わず頭を抱えてしまった。いや女の子から人気があるかないかで言えば当然あってくれた方が姉としても嬉しいのだけれど、問題はりっくん側である。二人とも女性の扱いに関していえばある意味紳士的ではあるのだけれど、あまりにも両極端すぎる。良太郎さんはともかく、失礼ながら恭也さん方面にも進んでほしくない。

 

「かといって北斗さん路線もそれはそれで嫌だし……」

 

「志保ちゃんって結構さらっと毒吐くタイプだよね」

 

 

 

「じゃね~りっくん!」

 

「ちゃあんと、お姉さんや看護師さんの言うこと聞くんですよぉ」

 

「お大事に……」

 

「ばいば~い」

 

 あまり長居しても、ということで恵美さんたちは先に帰っていき、病室には私とりっくんだけが残される。

 

「りっくん、お姉ちゃんとお散歩しない?」

 

 骨折は腕だけなので歩くとは問題ない。寧ろ身体を動かすことが推奨されているため、積極的に歩いた方が良いとお医者さんからは言われていた。

 

 しかしりっくんは何処かソワソワとしながら、こんなことを口にした。

 

「あ、その、えっとね……実は今日、サッカーを教えてもらう約束なんだ」

 

「……え? サッカーを?」

 

 りっくんは保育園の頃からサッカーが好きだった。いつも学校で休み時間になるとクラスメイトと共に校庭を走り回っているという話は聞いているが……。

 

「昨日、看護師さんと一緒に散歩してたら、すっごい人に会ったの! それでお話させてもらって、今日中庭でサッカーを教えてくれるって!」

 

 りっくんにしては珍しくやや興奮気味である。凄い人っていうのは、一体どんな人なんだろうか……。

 

「そう、それじゃあお姉ちゃんも一緒に行っていい? りっくんと仲良くしてくれる人なら、お姉ちゃんもご挨拶したいな」

 

「うん!」

 

 元々りっくんは一人で院内を歩くことが許可されていないので、私も一緒に付いていくことにする。

 

「凄い人って、どんな人なの?」

 

「えへへ、まだ秘密~」

 

(可愛いなぁ……)

 

 女の子を守るぐらいカッコよくなってきたりっくんだけど、それでもあどけなく笑う姿はまだまだ幼さを感じさせる。成長は嬉しい反面寂しさもあるので、こうして変わらぬりっくんの笑顔を見れることが嬉しかった。

 

 そんなやり取りをしつつ私はりっくんと共に病院の中庭へとやって来たのだが、そこには松葉杖を付きながら器用にサッカーボールを転がす男性と、そんな男性とよく似た……って、え?

 

「あっ、いたっ! 悠介お兄ちゃん! 享介お兄ちゃん!」

 

「おっ! 来たな、りくクン!」

 

「……あれ、君は……」

 

 りっくんの入院初日に出会った、双子の男性だった。

 

「って、アレ!? もしかしてりくクンの話してたおねーさんって、君だったの!? すっげー偶然!」

 

 松葉杖を付いている方の男性が、私の顔を見て驚いていた。どうやらりっくんと仲良くなってくれた人というのは彼らのことで、りっくんは彼らの(あね)の存在を話していたらしい。

 

「え、お姉ちゃん、悠介お兄ちゃんと享介お兄ちゃんのこと知ってたの……?」

 

「この前、少しだけ挨拶しただけよ」

 

「それじゃあ、改めて自己紹介しないとな!」

 

 松葉杖を付きながらひょこひょことこちらにやって来た男性は、握手を求めるように私へ手を指し伸ばした。

 

 

 

「オレは蒼井悠介!」

 

「……俺は蒼井享介」

 

 

 

(……あっ)

 

 思い出した。

 

 確かこの二人――。

 

 

 

 ――『双子』で『現役高校生』の『サッカー選手』だ……!

 

 

 




・ネームプレート
めっちゃ細かいけどちょっとだけ気になった。
ほらアレだよ、今は小学生の登下校に名札付けないみたいなアレ。

・『ジャスティスV』
アイドルマスターシャイニーカラーズで登場する戦隊ヒーロー。
ファイブと言いつつ十一人いるらしい。まぁキュウレンジャーと言いつつ十二人いたやつらもいるし……。

・「まさか奈落から落ちたり……!?」
そんなバネP、ミリマスアニメにてチーフプロデューサーに出世!
おめでとうございます!

・弟が年上のお姉さんにモテモテ
当然こうなる。

・蒼井悠介
・蒼井享介
アイドルマスターsideMの登場アイドル。
元現役高校生天才サッカー選手の双子で、十八歳。
とりあえず簡単な見分け方は、緑色の眼鏡をかけている方が弟の享介。



 というわけで改めて登場、sideMにおける双子ユニット『W』の蒼井兄弟です。

 W編を書くに辺り、誰かサッカー関連で絡ませやすいキャラは……と考えたところ、漫画でうみみにシュートのやり方を教わるぐらいにはサッカーが好きだったりっくんに白羽の矢が立ちました。

 そんな感じで、基本的にはWと志保のお話になっていく予定です。



『どうでもよくない小話』

 上でも少し触れましたが、ミリオンライブのアニメが、アニマス世界だと確定!!!

 ……先取っちまったな……アイ転が……!(自意識過剰

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。