アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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君のその声は。


Lesson333 Episode of DRAMATIC STARS 3

 

 

 

「……という話を翼さんから伺いまして」

 

「へぇ、それは俺も知らなかったなぁ」

 

 今度は輝さんとテレビ局の廊下でばったり出会ったので、昨日翼さんから聞いたばかりの話を輝さんにも話してみると、どうやら彼は知らなかったらしい。

 

「でも確かに言われてみると、桜庭は事務所に一人でいるときは何か熱心に聞いてることが多かったな」

 

「随分と熱心なファンなんですね」

 

「んー……なんとなくだけど、俺は違うと思う」

 

「へぇ?」

 

 薫さんが蘭子ちゃんの曲を聞いていること自体は納得した輝さんだったが、しかし薫さんが蘭子ちゃんのファンであるという点に関しては懐疑的な反応を見せた。

 

「別に神崎蘭子ちゃんのことが嫌いだとか好きじゃないとか、そういうわけじゃないとは思うんだ。ただ……何かを懐かしんでるとか、そんな雰囲気なんだよな、曲を聞いてるときの桜庭って」

 

「懐かしむ、ですか」

 

 となると、やはり元中二病患者説が濃厚になってくるのだろうか。

 

「そうそう、俺が特撮の曲とか聞いてるときとおんなじ感じ」

 

「そういえば特撮お好きなんでしたっけね」

 

「おうよ! 電光刑事シリーズ時代からバッチリだぜ! 勿論リョーさん初出演作の『覆面ライダー竜』もしっかりと見てたぜ!」

 

「それはそれは……」

 

 ありがとうございます、と続けようとした俺の言葉は、俺たちの背後から近づいてきた一人の人物によって遮られることとなった。

 

「おぉ! 君のような若い人にも見てもらえるなんて、役者冥利に尽きるってものだ!」

 

「「!?」」

 

 突然の大声に二人揃ってビクつきながら振り返り、そこに立っていた人物を理解して「「あっ」」と声を揃えた。

 

「か、風鳴弦十郎さん!?」

 

「お久しぶりです、弦十郎さん」

 

「久しぶりだな、良太郎君!」

 

 トレードマークのようなピッチリとした赤いワイシャツを着た大柄な男性。偉丈夫という言葉が良く似合う元アクション俳優にして現209プロダクション社長である風鳴弦十郎さんが、俺に向かって右手を差し出していた。

 

 またこれかぁ……とひっそりと覚悟を決めて差し出された右手を握ると、案の定とても力強く握り返された。だから痛いですってば!

 

「それで君は……」

 

「は、はい! 315プロダクション所属! 天道輝と言います!」

 

「315プロ……ということは君もアイドルだったのか! 風鳴弦十郎だ!」

 

 今度は輝さんに向かって差し出される弦十郎さんの右手。忠告してあげようか迷う暇もなく輝さんは「よろしくお願いします!」と勢いよくその右手を握ってしまった。

 

「っ!?」

 

 途端に苦痛に歪む輝さんの表情を、弦十郎さんは「はっはっは! もっと鍛えた方がいいな!」と豪快に笑い飛ばした。いや、握力を鍛えたところで貴方に強く握られれば誰だって痛いんですよ。

 

「そうだ良太郎君、君に言いたいことがあるんだった」

 

「? 俺にですか?」

 

「俺が……ではなく」

 

 弦十郎さんは「この子たちが、だがな」とチラリと後ろに視線を向けた。

 

「酷いよ良太郎さん!」

 

「酷いぜ良太郎!」

 

「わっ、二人ともいたのか」

 

 弦十郎さんの大きな体の陰から飛び出してきた二人の女性は、209プロダクション所属する立花響(ビッキー)ちゃんと天羽(あもう)(かなで)だった。

 

「聞きましたよ! 八事務所合同イベント!」

 

「どーしてあたしたちにも声かけなかったんだよ!」

 

 輝さんが「おぉ、覆面ライダーガングニール!」と感激している間に俺はわーぎゃーと姦しい二人に詰め寄られ、あっという間に壁際に追い込まれてしまった。

 

「いやまぁ、色々と事情があったんだよ」

 

「なんですか事情って!」

 

 そりゃあもう、色々とやんごとなき事情が(かみさまがやれって)……。

 

「あたしたちとライブして『ツヴァイウィングをトライウィング』にするって言ってくれた、あの日の約束は嘘だったのかよ!」

 

「誰だよそんな約束した奴」

 

 捏造するんじゃない。いや確かにいつか一緒のステージに立とう的な話はしたかもしれないけど。

 

「あーあー! 折角良太郎さんにクリスちゃんを紹介してあげようと思ってたのになー!」

 

「っ!?」

 

 ビッキーちゃんの言葉に俺の精神が大きく揺らぐ。209プロのクリスちゃんと言えば覆面ライダーガングニールにも出演した、あの背がちんまいのに大変な大乳を備える美少女雪音(ゆきね)クリスちゃん! 結局その存在を知ってから色々あったのに今まで一度も直接会うことが出来なかった、あのクリスちゃん!

 

「ついでに言うと、一時的だけどウチの事務所には今マリアもいるんだけどなー?」

 

「っ!?」

 

 続く奏の言葉にも俺の精神が大きく揺らぐ。奏の言うマリアとは、アメリカの歌姫『マリア・カデンツァヴナ・イヴ』だ。彼女もまた素晴らしい大乳を有しているので、紹介してもらえるというのであれば是非とも紹介してもらいたいところである。

 

 ……ものの見事に胸に釣られている形にはなっているが、クリスちゃんもマリアさんも歌唱力が普通に知り合えるのであれば知り合いたい。いや胸だけじゃないよホントダヨ。

 

「さぁさぁどうしますか……?」

 

「今からでも遅くないんだぜ……?」

 

 くっ、くそぉ……!

 

「なに!? 二十八!? もっと若く見えたぞ!」

 

「あ、あはは……よく童顔って言われます……」

 

 輝さんと弦十郎さんが和やかに談笑する傍らで、俺は年下の女性二人からの魅力的な誘惑に対して必死に抗い続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

「……で?」

 

「麗華に相談の電話したところでギリギリ踏み止まりました」

 

「それは踏み止まったんじゃなくて行きつくところまで行った結果なんだよなぁ……」

 

 憧れだった電光刑事バンこと風鳴弦十郎さんとの邂逅を終え、何やら女の子二人から色々と文句を言われていたリョーさんと共にその場を離れる。

 

「初めて事務所であったときからなんとなく感じてたけど、リョーさんってなんというか……アレだな」

 

「わざわざ明言しないでくれてありがとうございます」

 

 テレビの向こうの『周藤良太郎』と、今隣に並んで歩ている『リョーさん』との違いが大きすぎるんだよなぁ。

 

「それで話は少しだけ戻りますけど、輝さんは特撮への出演とかは興味ないんですか?」

 

「特撮!? 俺が!?」

 

「えぇ。好きならばこそ、アイドルとして携わってみるのも一興だと思いますよ」

 

「……うーん」

 

「おや? 乗り気じゃない?」

 

「やりたくないわけじゃないんだけど……」

 

 特撮のヒーローに憧れて、今もなお憧れて、ヒーローのようなアイドルになると憧れて、それは全部今なお変わらない俺の目標だ。

 

 それでも『本物のヒーローになる』というのは、少しだけ躊躇ってしまう自分がいた。

 

「俺だってこう、カッコよくベルトを巻いて『変身!』って叫びたい願望ぐらいあるぜ? ……でもなんていうか、それを仕事としてやっちゃうのは()()()気がするんだよ」

 

 例え『役』だと理解していても、それをやりたい子どもたちは大勢いる。そんな人たちを差し置いて、アイドルなんて立場を利用してそれを叶えるのは……。

 

「それが悪いことだとは勿論思わない。実際にそういう経緯でヒーローになった人たちを批判するわけでもない。……ただ()()躊躇っちゃうんだよ」

 

「………………」

 

 俺の勝手な持論にリョーさんが黙ってしまった。……き、気を悪くさせちゃったかな……?

 

「……って、アレ? 薫さん?」

 

「え?」

 

 それは突然だった。リョーさんの視線の先を俺も目で追うと、確かにそこには桜庭の姿があった。

 

「アイツ何も言ってなかったぞ……」

 

「まぁユニットメンバーと言ってもお互いに全ての予定を把握しているわけじゃないでしょうし」

 

 ()()()()()で勝手に仕事を取ることは止めているだろうけど、それにしたってもうちょっと自分のことを話してくれてもいいんじゃないか?

 

 そんな桜庭は、喫茶スペースのテーブルで優雅にコーヒーを飲んでいた。脚なんか組んじゃって大層絵になるこった。

 

「……そーだ」

 

 突然リョーさんがいかにも『何かを思いついた』といった仕草でパチンと指を弾いた。

 

「実は俺、メディアには公にしてない特技があるんですよ」

 

「へぇ? どんな?」

 

『こんな特技さ、輝君』

 

「!?」

 

 え!? 今リョーさんの口から()()()()()()()の声がしたんだけど!?

 

『実は僕、色々な人の声を真似することが出来るんですけど』

 

 今度は翼!?

 

「え、それマジでどうなってるんですか!?」

 

「まぁちょっとしたコツを、とある知り合いのマジシャンに教えてもらったんですよ」

 

 マジシャンってすげぇな!? そんなこと出来るのか!?

 

『これでちょーっとだけ薫さんを驚かせちゃおうかなーって!』

 

 さっきまで話してた立花響ちゃんの声まで!? 性別問わずどんな声も出せるって特技なんてレベルの話じゃないぞ!?

 

 驚愕でリアクションが追い付かない俺を尻目に、リョーさんはソロソロと背後から桜庭に近づいていき……。

 

『こんにちは、薫さん! 闇に飲まれよ!』

 

 そして案の定というか予想通りというか、桜庭が気になっているであろうアイドルである『神崎蘭子』ちゃんの声で桜庭に話しかけて――。

 

 

 

「っ、姉さ……!?」

 

 

 

 ――今までに見たことがないぐらい必死の形相で、桜庭が振り返った。

 

「「「………………」」」

 

 俺を含め、三人の間に沈黙が下りる。

 

 ヤバい、空気が凍るとまではいかないが、それでも絶妙に気まずい空気が流れている。多分俺の渾身のギャグがたまたま受けなかったとき以上に気まずい。

 

 桜庭は背後に立ったリョーさんとその後ろにいる俺で視線を行ったり来たりさせている。俺は居た堪れなくなって視線を背けた。背中しか見えないリョーさんも多分同じように視線を背けていると思う。

 

「……お」

 

 おぉ! リョーさん! いった!

 

 頼む! この微妙な空気をなんとかしてくれ! いやそもそもアンタが撒いた種だから自分でなんとかしてくれ!

 

 

 

「お、お前のねーちゃんブリュンヒルデー……」

 

 

 

 違う! そうじゃない! ギャグ路線へ突っ走れとは言っていない!

 

 

 




・天羽奏
『戦姫絶唱シンフォギア』の登場キャラ。
アイ転世界では今日も元気に相方と一緒にステージに立つアイドル。
良太郎とは同期に近いので割と仲がいい。

・「どーしてあたしたちにも声かけなかったんだよ!」
初期案だと参戦してたんだけどなぁ……()

・雪音クリス
『戦姫絶唱シンフォギア』の登場キャラ。
可愛くて!ちっこくて!ちちがデカいぞ!!!
アイ転世界では真っ当な生活を送っているのでワンチャン食事風景が綺麗。

・マリア・カデンツァヴナ・イヴ
『戦姫絶唱シンフォギア』の登場キャラ。
アイ転世界でも孤児院出身は変わらないが、真っ当に歌姫を続けている。

・「お、お前のねーちゃんブリュンヒルデー……」
対義語として「お前の弟、光るメスー」というものがある。



 ※安心してください、非シリアス展開です。

 それなりに真面目なお話にはなりますが、胃が重くなりそうなお話にはならない予定です(当社比)

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