アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

479 / 557
アイ転ではこうなった(いつもの)


Lesson332 Episode of DRAMATIC STARS 2

 

 

 

「輝さん雑過ぎ。翼さん動きが縮こみ過ぎ。薫さん遊びが無さ過ぎ」

 

「ざっくりだな!?」

 

「詳細なダメ出しがご所望でしたら、まず輝さんは始まって三十秒頃のステップが……」

 

「そんなに細かく!?」

 

 彼らのダンスをほぼ初見の俺ですらパッと見ただけで分かるミスというか改善点がチラホラ見受けられた。人前でお見せできるレベルではないとは言えないが、それでも及第点ギリギリといった感想ゆえの六十五点である。五点はおまけ。

 

「要するに『もう少し頑張りましょう』っていったところですね。あくまでも俺目線からの評価になるので、世間からの評価はもう少しだけ高いと思いますけど」

 

「……いや、それが『周藤良太郎』からの評価であるならば、素直に受け止めよう」

 

 意外にも薫さんは俺の言葉をすんなりと受け入れてくれた。なるほどこれがクールなストイックってやつか……。

 

 なんてやり取りをしている間に、そろそろ俺も移動をしなければいけない時間になってしまった。

 

「細かいアドバイスは後程メッセージで送らせてもらいますので、連絡先教えてもらっていいですか?」

 

「え!? そこまでしてもらえるのか!?」

 

「乗り掛かった舟……というか、俺たちはもう来年のライブに向けての航海を共にする仲間じゃないですか」

 

 今はまだ先輩と後輩という接し方が強いものの、貴重な男性アイドル仲間として315プロのみんなとはドンドン仲良くなりたい所存である。

 

 俺と連絡先を交換することに対して、喜ぶ輝さんと気後れする翼さんは予想通りだったが、これまた意外にも薫さんが積極的な反応だった。どうやら向上心はとても高いようだ。

 

 そんなわけで連絡先を交換して俺はドラスタの三人と別れるのであった。

 

 

 

 ……というのが先週の話である。

 

『度々すまない、またアドバイスをもらえないだろうか』

 

「お、また薫さんか」

 

「……誰だっけ?」

 

「315プロのアイドル」

 

「ふーん」

 

 自宅でりんとの一緒に映画を見ていると、スマホに薫さんからのメッセージが届く。先日の邂逅以来、こうして薫さんからアドバイスを求められるようになった。

 

 腕の中のりんがスマホを覗き込んでくるが、別に見られて困るような内容でもないのでスルー。メッセージには薫さんの振り付けの動画と、それに対する薫さん自身の意見が書かれてた。人に聞く前に自分の考えをまとめている辺り、元医者というだけあってしっかりと勉強の仕方が分かっている人である。

 

「なんというか『俺は他人のアドバイスなんかいらない』って言いそうな雰囲気の人なのに、熱心なんだね」

 

「言いたいことは分かる」

 

 薫さんはアイドルとしての技術を高めることに対して人一倍熱心だということは、この一週間でのやり取りで十分に理解出来た。

 

「ただまぁ、ダンスは上手だけどパフォーマンスとしてはちょっとね」

 

「そーだね。いくらレッスンとはいえ表情固すぎでしょ」

 

「お? それは俺に対する嫌味か? お?」

 

「え、ちが……お腹はやめてっ!」

 

 身を捩るりんを片手で抑え込んで悪戯しつつ、送られてきた動画を見て気になった点をいくつか文章化する。

 

「ダンスのアドバイスではないから今のところ一度も指摘してないけど……そーいうイベントを発生させるのは多分俺じゃなくて同じユニットメンバーである輝さんや翼さんだろうし」

 

 もしくは315のプロデューサーさん。

 

「えー、でもりょーくんも今まで散々そういうイベントに関わっておいて、今更それはないんじゃない?」

 

「大掛かりなイベントは去年の暮れからの一件でしばらくお腹いっぱいなんだよ」

 

 満腹どころか胃もたれや胸やけがするレベルだったから、しばらくはお腹に優しいおかゆみたいなイベントだけを消化していたい。二つの意味で。

 

「……お腹いっぱいといえばさ」

 

「うん、略しておっぱいだな」

 

「今日りょーくん晩御飯一杯食べてたよね」

 

 鍋だったし、今日は一日ずっと動きっぱなしな上に昼食をまともに食べれなかったからお腹空いてたから、まぁそれなりには食べた。

 

「しっかりとデザートも食べたよね」

 

「翠屋のシュークリームはどれだけお腹いっぱいでも食べることが出来る魔法のスイーツだから」

 

 翠屋へ通うようになってから今まで一度も満腹でシュークリームが入らないという経験をしたことがなかった。冷静になって考えるとちょっとだけ怖い。

 

「……なんでお腹ぽっこりしてないの!?」

 

 驚愕した表情で俺の腹を撫でまわすりんが、逆に俺はりんに問いたい。

 

「寧ろなんでするの? アイドルなのに?」

 

 グーパンされた。

 

 

 

 

 

 

 ……というのが昨日の話である。

 

「「いやそれは絶対に良太郎さんが悪い」」

 

「あ、悪逆非道……!」

 

「知ってる」

 

 最近一緒に仕事をする機会が多いらしく、再び美波ちゃんみくちゃん蘭子ちゃんの三人と今度はテレビ局で顔を合わせた。

 

「というか、今まさにケーキを食べようとしている私たちに対してそんな話をするなんて……!」

 

「良太郎さんは心がないにゃ……!」

 

「こ、これが覇王の所業……!」

 

「ごめん」

 

 しかしこのテレビ局内の喫茶店のケーキは業界でも美味しいと有名なため、結局その誘惑に抗うことが出来ずに三人は美味しそうに食べ始めるのだった。くっくっく、いいぞ、そのままいい感じにムチムチになるといい……!

 

「それにしても、その桜庭薫さんは随分と熱心な方なんですね」

 

「まるで美波ちゃんを彷彿とさせる勤勉さにゃ」

 

「わ、私はそこまでじゃないと思うんだけど」

 

「女神の情熱は太陽が如き灼熱である」

 

「そこまでじゃないって! あっ! 良太郎さんは何も言わなくていいですからね! 何を言うつもりなのかもう分かってますから!」

 

「そんな」

 

 だが確かにこれも二年ぐらい擦り続けたネタだし、そろそろ勘弁してあげてもいい頃かもしれない。

 

「………………」

 

 そこで何かを期待する目で見られても俺はどうすりゃいいんだよ、と悩みつつコーヒーカップを傾ける。うーん、ケーキは美味しいらしいけど、残念ながらこっちはインスタントである。

 

「だが確かに以前にも覇王は一度に数多の贄を食していたと記憶する」

 

「ん~? ……あ、もしかしてアレか、貴音ちゃんと……」

 

 コクコクと頷く蘭子ちゃん。正直思い出すだけでお腹がいっぱいになりそうになるが、あの『佐竹飯店で散々食べた後で麺塊と称する他ないギガ盛りラーメンを食べた』ときのことを言っているのだろう。うえっぷ。

 

「それなりに食べるとは言っても、アレは二度とやらないしやっちゃダメなやつだから」

 

 いくらスピードメーターの数字が140まであるからとはいえ、そこまでアクセルを踏み抜いてはダメに決まっているのだ。

 

「……でも体重は変わらないんですよね?」

 

「アイドルになってからずっとプラスマイナス二キロをキープしてるよ」

 

 ポコポコポコと三人から一斉に殴られた。

 

「……あれ? 良太郎さん?」

 

「はい?」

 

 三人からの拳を甘んじて受け入れていると、背後から声をかけられたので振り返る。伊達眼鏡のみの不完全な変装とはいえそれなりに認識疎外の効果はあるため、俺の名前を呼んだということは知り合いだろう。

 

「やっぱりそうだった。お疲れ様です」

 

「あ、お疲れ様です」

 

 声の主は翼さんだった。どうやら今から食事らしく、手にしたトレイには料理が……えーっと料理が……。

 

「………………」

 

「? どうかしましたか?」

 

「……えっと、ドラスタのお二人と一緒に仕事でしたか?」

 

「いえ、今日は珍しく一人の仕事なんです。それでお昼が遅くなっちゃったので、今から一人で軽くお昼を食べようかと思いまして」

 

「一人で!? 軽く!?」

 

 ()()()()()()()してる上に明らかにメインと思われる料理が何品も乗ってるんですけど!?

 

「た、たくさん召し上がられるんですね……」

 

 引き攣った笑みでそんな感想を口にした後、初めましてと挨拶をする美波ちゃん。それに続くようにみくちゃんと蘭子ちゃんも、五人前は軽くありそうな料理に軽く引きつつ翼さんに挨拶をする。

 

「ご丁寧にどうも、315プロでアイドルをさせていただいています、柏木翼です」

 

 俺たちの近くのテーブルにトレイを置きながら翼さんはニッコリと笑顔で挨拶を返す。輝さんと薫さんのやり取りに挟まれているイメージが強いけど、まさかこの人はこの人でこんなに強い個性を持っていたとは思わなかった……。

 

「……菜々ちゃんや奈緒ちゃんのおすすめで、みくもウマ娘っていうアニメ見たんだけど……」

 

「言いたいことは分かった」

 

 オグリやスぺちゃんやライスもこんぐらい食べてたのかなぁ……。

 

「それにしても、こんなところでお会い出来て光栄です、神崎蘭子さん」

 

「……え、我!?」

 

 翼さんから突然話しかけられて、いつもの奴と素が混ざったなんとも言えない反応をしてしまった蘭子ちゃん。ワタワタと慌てている様子がなんとも可愛らしい蘭子ちゃんも、もう高校生なんだよなぁ……。

 

「意外ですね、翼さん、蘭子ちゃんのファンだったんですか?」

 

「勿論僕もなんですけど、実は薫さんがファンなんです」

 

「……薫さんが!?」

 

 翼さん以上に名前が出てきてこれには驚かざるを得なかった。

 

「そ、それは、意外ですね……」

 

「僕もそう思いました。でもレッスンの合間に蘭子ちゃんの曲をよく聞いているらしくて」

 

「それはそれは……」

 

 本当に意外である。なんだろう、もしかして薫さんも昔は黒歴史をお持ちだった(ブイブイいわせてた)のだろうか。

 

「それでもしよかったら、サインをいただけませんか?」

 

「よかろう! 我が契約の証を望むというのであれば、我は拒まぬ!」

 

 どやふんすと胸を張る蘭子ちゃん。高校生になったことで随分とまたご立派になられて……。

 

「良太郎さん、蘭子ちゃんが高校生になったといっても合法になったわけではないにゃ」

 

「誰も違法行為はしてねぇよ」

 

「わ、私は成人しましたよ!」

 

 だから何も違法なことはしてないんだってーの!

 

 

 




・「寧ろなんでするの? アイドルなのに?」
とはいえ基本的に太らないタイプの人が多すぎる世界だからなぁ……。

・『佐竹飯店で散々食べた後で麺塊と称する他ないギガ盛りラーメンを食べた』
シンプルに拷問。

・「軽くお昼を食べようかと」
この人「心配で食事が喉を通らなくて……」とか言いつつ平気で三人前とか食べるタイプの人なんですよ……。

・オグリやスぺちゃんやライス
グレイのオグリは別格なので除外。

・蘭子ちゃんのファン
それ、本当にファンだから聞いてるの……?



 そんなドラスタ編二話目。なにやら誤解されているようなあながち誤解でもないような、そんな桜庭先生。

 勿論その理由は……。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。