アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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緊急参戦した283アイドルはこの人!


Lesson330 集いし八つの芸能事務所! 4

 

 

 

「リンディさん、今回の呼びかけに応じていただきありがとうございます」

 

『いえ、こちらこそ、このような場にお声をかけていただいたことを感謝しますわ』

 

 ニッコリと微笑む、エメラルドグリーンの髪をポニーテールにした彼女は、310プロダクションという新進気鋭の若手アイドル事務所の社長であるリンディ・ハラオウン。ここはなのはちゃんとはやてちゃんが揃ってアイドルとして所属している事務所であり、その縁で俺から声をかけさせてもらった。

 

 所属アイドルは、二人の他に副社長であるプレシア・テスタロッサの娘であるフェイト・テスタロッサちゃんを含めた僅か三人だが、全員贔屓目を抜きにしてもなかなか光るものがある。

 

『三人ともとても喜んでいましたよ。「あの周藤良太郎さんと同じステージに立てる!」と』

 

 特になのはちゃんとはやてちゃんが、とコロコロ笑うリンディさん。正直なことを言えば、まさか本当になのはちゃんとはやてちゃんと同じステージに立つ日が来るなんて……と若干しみじみとしている。

 

 そんな310プロに声をかけたのは勿論俺で、そしてもう一つの事務所に声をかけたのは麗華だった。

 

『君と初めてになるかな、周藤君』

 

「……そうですね。初めまして、天井さん」

 

 渋い声のナイスミドルである283プロダクションの社長である天井努さん。俺と彼は直接の知り合いというわけではないが、()()()()()()()()()()()()。正確には舞さんから聞いた『俺が生まれるよりも昔の話』を、彼が関わった()()()()()()()()()を知っていた。

 

『きっと君も、東豪寺君と同じように私のことを知っているのだろうな』

 

「デビューした直後からアイドル業界に長く住み着くとある鬼によく絡まれてましたので。そういう話は色々と」

 

『えっ!? りょーおにーさん、アイドルの世界には鬼が住んでるんですか!?』

 

「『………………』」

 

 愛ちゃん、君がそれに反応しちゃうんだね……そして誰のことを言ってるのか分かってないんだね……。

 

 とりあえず画面の向こうの愛ちゃんは『愛ちゃんはそのままでいて』『知らなくてもいいこともあるよ?』と彼女の頭を撫でている涼と絵理ちゃんの二人に任せておこう。

 

「昔のことに関して、俺から何かを言うつもりはありません」

 

『勿論、私だって何も言わないわ。今回声をかけたのだって、最近立ち上がったばかりの事務所に()()()が入ったって話を聞いたからなんだから』

 

()()()?」

 

 そういえばどうして麗華が283プロに声をかけたのか、その理由を聞いていなかった。麗華にしては珍しく、だいぶ小さな事務所にオファーを出したなとは思っていたが。

 

『こちらでのデビューはこれからになるが、我が事務所の第一のアイドルにして唯一のアイドルだ』

 

 そう言って天井さんは画面外に出ると、それと入れ替わるように一人の女性が画面に……って。

 

 

 

「……美琴?」

 

『久しぶり、良太郎』

 

 

 

 周藤良太郎(おれ)や『魔王エンジェル(れいかたち)』と()()()()()()()緋田(あけた)美琴(みこと)が画面の向こうにいた。

 

「え、あ、久しぶり」

 

『ふふっ、戸惑ってる良太郎は珍しいね。相変わらずの無表情だけど』

 

「そりゃ俺だって戸惑うことぐらいあるよ……」

 

 なにせ全く音沙汰がなかったのだ。てっきりアイドルを辞めてしまったものだとばかり思っていたのだけど……。

 

『実はずっと961プロにいたんだ』

 

「961に?」

 

 なんと、これは驚いた。いや本気で。美琴の性格的に961の方針は合わないはず……と思ったが、それはそれで今まで音沙汰がなかった理由と、今回283プロに入った理由の二つが一度に理解出来た。

 

 ちなみに今回のライブに参加しない961プロ。勿論声をかけたけどあっさりと拒否された。正直「だよね」って感じ。

 

 

『天井社長の話は前々から聞いたことがあったから。……事務所を立ち上げるって話を聞いて、私から手を挙げたの』

 

「なるほどな」

 

 多少驚きはしたが、しっかりと話を聞けば納得することが出来た。

 

 しかしまさかこんな形で旧友と再会するとは思わなかったな……。

 

「……また麗華たちも一緒に話そうぜ」

 

『りんやともみも喜ぶわ』

 

『うん……ありがとう、良太郎、麗華』

 

 っと、ここまで完全に同期の三人で身内話に更け込んでしまった。

 

「すみません、皆さんを置いてけぼりにしちゃって」

 

『いえ、構いません』

 

『大丈夫ですよ』

 

『三人とも仲良しなんですね~』

 

『貴重なところを見させていただきました』

 

『うふふっ、寧ろ邪魔になっちゃったかしら』

 

 それぞれ346・765・876・315のプロデューサーさんたち、そしてリンディさんが微笑ましいものを見る目になっていた。

 

 ……そういえば、こういうときにハッスルしそうなやつが一人やけに静かだが……。

 

『りあむさん何してるんデスか、一応会議中ですよ』

 

『ちょっ、言わなきゃバレなかったのに!』

 

 あ、いた。……ん? なんかメッセージ届いた?

 

 

 

 ――へっへ~ん! なんと今、あの周藤良太郎とリモート会議してるんだ~!

 

 ――凄いだろー! 羨ましいだろー!

 

 ――どうしてもって言うんなら、詳しい話を教えてあげてもいいぞ~?

 

 

 

「………………」

 

 めっちゃ顔文字入って煽り散らかしたメッセージだった。差出人は当然のように、画面の向こうのバカピンク頭。こんにゃろう……。

 

 まぁいい、無視だ無視。後で適当になんか俺の画像をちらつかせて黙らせることにしよう。

 

「さて、それじゃあ改めて」

 

 今回の会議の参加者を一瞥する。

 

 123・1054・346・765・876・315・310・283、これら八つの芸能事務所が一堂に介する大イベントが、来年の年明けに行われるのだ。

 

「では、改めて俺から一言」

 

 

 

 

 

 

『今回の呼びかけに応じてくれて、本当にありがとうございます』

 

 良太郎に表情はない。だからこいつが真面目にしているのかふざけているのか、声で判断するしかないが、魔王エンジェル結成以前からの長い付き合いとなる私は、今の良太郎は珍しく真面目だと判断した。

 

『この合同ライブは以前から麗華と話をしていたものでした。きっかけは……ふとこんなことを考えたんです』

 

 

 

 ――アイドルは永遠じゃない。

 

 

 

『記憶に残り続ける以上、アイドルという存在は永遠なのかもしれません。けれど圧倒的な太陽となり得た日高舞があっさりとその道を退いてしまったように……その時間はいつか終わりが来ます。それは「周藤良太郎」や「魔王エンジェル」も例外じゃない』

 

 画面の向こうの何人かが、良太郎の発言にショックを受けている様子だった。しかしそれを大きく騒ぎ立てる様子はない。

 

 ……騒ぎそうな数人のアイドルは、同僚によってその口と動きを止められていた。珍しく良太郎がシリアスしてるんだから、ちょっと面白い光景にするの止めなさいよ。

 

『だから俺たちは永遠を目指す道ではなく、後に続く者たちのための道を選びました。アイドルの頂点に居続けるだけではなく、この頂点への階段を示してあげる道です』

 

 現在東豪寺が行っているUTX学園や『スクールアイドル支援プロジェクト』もその一環。おそらく本格的な始動は来年頃になるだろうが『A-RISE』の三人には、私たちと同じようにスクールアイドルの礎となってもらう予定だ。

 

『今回のライブは、貴方たちと共にその階段を作ることが目的です。ただファンを感動させるだけじゃなく、()()()()()()()()()()()ためのライブ。『自分たちもいつかはここへと辿り着けるのだ』という希望の光を灯すためのライブです』

 

「………………」

 

 おそらく、この場に集まっているプロデューサーや社長は良太郎がしようとしていることの『残酷さ』に気が付いているだろう。勿論私は気付いているし、良太郎だって分かっていて言っている。

 

 『希望』とは『絶望』の裏側だ。希望を持つからこそ絶望に堕ちる。

 

 ()()に耐えられなかったアイドルを私も良太郎も、何人も見てきた。

 

 それでも良太郎は「それに賭けたい」と言った。「みんななら大丈夫だ」と言った。

 

 「誰もが絶望しない、暖かな希望の光を」と、そう言った。

 

(……ほんと、くだらない)

 

 少しだけ聞いた話。良太郎はりんと恋人になった際に『我儘な王様になる』ことを約束したらしい。誰かのためだけじゃなくて、自分の思うままに生きる王様になってほしい、と。

 

 どうやら、この夢物語が良太郎の考える我儘らしい。

 

『どうかこのライブの成功のために、皆さんの力を貸してください』

 

 

 

(……ばーか)

 

 

 

 

 

 

「「「「………………」」」」

 

 打ち合わせが終わり、しかし俺たち四人はその場から動けなかった。

 

 打ち合わせ自体は第一回ということもあり、比較的軽いものだったのだが……。

 

「……アレが、正真正銘のトップアイドルなんだな」

 

 ポツリと呟いた桜庭の言葉は、きっと俺たち全員の総意だ。

 

 ヒーローのようなアイドルになりたい。その自分の考えを恥じるつもりはない。これは今も変わらない俺の目指すべアイドルの姿だ。

 

 しかし、そんな俺の目指すべきアイドルの先に立っているトップアイドルは……それよりも遠く、遥かに永く、そしてとてつもなく大きなものを視ていた。

 

 そんな彼の言葉に、すっかりと飲み込まれてしまった。

 

「……なぁ、プロデューサー!」

 

「は、はい、どうしましたか?」

 

 

 

「レッスン室、空いてるか!?」

 

 

 

「……はい?」

 

「て、輝さん……?」

 

「お前はいきなりなにを……」

 

 三人揃って呆れたような目で見てくるが、今はとにかく体を動かしたい気分だった。

 

「俺、絶対に、ぜ~ったいに今回のライブ、成功させたいんだ!」

 

 彼の考えに賛同した、なんて大それたことは言えない。彼のために何かをしたい、なんて仰々しいことも言わない。

 

 それでも、言い表せられないこの衝動は、きっと『アイドルとして』大事な何かなんだ。

 

「……僕もお付き合いします!」

 

「……まぁ、自主練は悪くない。付き合ってやろう」

 

「ふふっ、分かりました。でも無理だけはなさらないように」

 

「あぁ!」

 

 よ~し! やるぞ~!

 

 

 

 

 

 

おまけ『300倍返し』

 

 

 

「んご!? なんでりあむさん、突然奇声を上げてぶっ倒れたんご!?」

 

「え? なに? 『これは人におみせできない』? 何が?」

 

 

 




・天井努の過去
ワンチャン触れない可能性がある。
つまりその過去に触れる必要がある彼女はまだ登場しないわけで……。

・緋田美琴
アイドルマスターシャイニーカラーズの登場アイドル。
アイドル以外のことはある意味ポンコツな24歳。現在は23歳。
アイ転世界では良太郎と同期で、フリー→961→283と渡り歩いた設定。

・バカピンク頭
良太郎以外に空気を崩せるキャラがいるの助かる。

・おまけ『300倍返し』
りんにおねだりされた自撮りの没ネタをちょいと加工して送ってみた。



 結局軽い紹介だけになってしまいましたが、以上が今回のイベントというなの第八章に参加する八つの事務所です。

 以前から『283』は出す予定がないという話をしていたのですが、美琴さんのアイドル歴やら天井社長の元担当アイドルのアレコレやらを考えて、シャニマスの過去編という立ち位置で登場させるべきではと考えた次第です。

 美琴の相方? はて?(いないわけではない)(神様は死んでない、って)



 さて、実はここまでが第八章のプロローグとなります。長い。

 第八章の主なテーマは『壮大な日常編』です。sideMの面々を中心に、ライブに向けてのレッスンや打ち合わせや交流がメインとなっていきます。

 正直多分二年ぐらいかかるんじゃないかなって(目逸らし

 ともあれ、これからよろしくお願いします。

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