アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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音量注意回。


Lesson328 集いし八つの芸能事務所! 2

 

 

 

「えっ!? 私たちでユニットですか!!!???」

 

 

 

「未来……声が大きい……」

 

「大丈夫? 窓ガラス割れてない?」

 

 驚愕したことで発せられた未来の大声を真横で聞いてしまった私と翼が、揃って耳を抑える。

 

「あっ、ごめんなさい……」

 

 それに気付いた未来がしゅんっと身を縮こませながら謝罪の言葉を口にする。反省する姿が子犬のようで可愛らしいが、それはそれとして耳へのダメージが尋常じゃないので今後は控えてもらいたい、本当に。

 

「そ、それでプロデューサーさん」

 

()()()()()()()()()()……ですか?」

 

「あぁ、そうだ」

 

 改めて紬さんと歌織さんの二人から確認され、プロデューサーは「勿論だ」と頷いた。

 

「春日未来・最上静香・伊吹翼・白石紬・桜守歌織の五人によるユニット『スター・ドリーマーズ』で、年末に行われる『八事務所合同ライブ』に参加してもらう」

 

「「「「「八事務所合同ライブ!?」」」」」

 

 思わず五人揃って聞き返してしまった。

 

 話には聞いていた、あの『周藤良太郎』さんと『東豪寺麗華』さんが主催となって行われることになったというイベント。そんな大きなイベントに、まさか765プロから私たちのような劇場アイドルが参加出来るなんて夢にも考えていなかった。

 

「も、勿論参加するのは、私たちだけじゃないですよね?」

 

「あぁ。でも765プロとしてはオールスター組ではなくお前たちシアター組を全面的に出していきたいと考えている」

 

「なして!?」

 

 思わず地元の言葉が出てしまっている紬さんだが、気持ちとしては私も同じだ。

 

「これは周藤君の提案なんだ。……いや『周藤良太郎』さん……いやここはあえてリョーさんと呼ぼうか?」

 

 プロデューサーは「その方が君たちにとっては馴染み深いだろ」と笑う。いや確かにそれも間違っていないけど……。

 

 私たちシアター組のアイドルとリョーさんこと『周藤良太郎』の邂逅は記憶に新しい……というかつい二ヶ月ほど前の話だ。忘れるような過去の話ではないし、そもそも十年経っても鮮明に思い出すことが出来そうなぐらい強烈な出来事(じけん)である。

 

 一年ほど交友を続けていた知人である自称『遊び人のリョーさん』。自他ともに認めるアイドルオタクでシアター組の様々なイベントに顔を出して、一部アイドルの知り合いという繋がりで私たちとも交流があった、胡散臭くても間違いなく良い人だった不思議なお兄さん。そんな彼の正体が『周藤良太郎』だと突然明かされたあのときは、本当に色々と大変だった。

 

 今までの失礼な態度を詫びようとしたら「そういうの大丈夫だから」「寧ろ今まで以上にフランクでいいんだよ?」と言われてしまい、正直今でも距離感を図り損ねている。図らずも直接本人をベタ褒めすることになってしまった私や、今までそれなりに仲良くしていた人物の正体が自身が嫌っていた相手だと知ってしまった翼なんかがそうだ。私たち以上に親しい間柄だった亜利沙さんも現在進行形で色々と大変らしいが、とりあえず今は横に置いておこう。

 

 そんな『周藤良太郎』さんが、一体何を提案したのだろうか?

 

「リョーさんは、今回のライブを『若手アイドルの成長の場』として活用してもらいたいらしい」

 

「……若手アイドル、ですか」

 

「あぁ。お前たち五人はシアター組としてアイドルデビューして、決して少なくない回数の経験を積んでいる。特に静香なんかは『ゴールデンエイジ』の影響で一時期()()()として騒がれたぐらいだ。しかし、でも()()()()()()だ」

 

「………………」

 

 思わず閉口してしまったのはプロデューサーの言葉が癇に障ったからではない。それが私も思わず納得してしまうようなぐうの音も出ないぐらいの正論だったから、だ。

 

 まだそれだけ。嫌味や自慢を含めない事実として、この五人の中で一番名前が売れているであろう私ですら『トロフェスとゴールデンエイジで話題になった』だけのアイドルで、それ以外はまだ何もないのだ。

 

「今回のライブは『周藤良太郎』と『東豪寺麗華』が開催する大きなお祭りだ。そこで『存分に名前を売れ』と言われたんだから、それに甘えるのも悪くないだろう?」

 

 甘える。……以前の私ならば何も考えずに飛びついていた言葉で……そして今の私ならば。

 

「……望むところです」

 

 隣で笑ってくれている仲間と共に輝けるステージに、笑顔で飛びつく言葉だった。

 

 

 

「というわけで、今からそんなライブの打ち合わせにリモートで参加してもらうぞー」

 

「「「「「今から!?」」」」」

 

 

 

 え、ちょ、本当に!? なんで机にノートパソコンとマイクが用意されているのかと思ったら、そういうこと!?

 

「あ、もう繋がるぞ」

 

「え!? あっ! 挨拶は大事ですよね! 任せてください! っすぅ~!」

 

 待って未来なんで挨拶するのに大きく息を……!?

 

 

 

 

 

 

 

「えっ!? りょーおにーさんのライブですか!!!???」

 

 

 

「愛ちゃん……声が大きい……」

 

「大丈夫? 窓ガラス割れてない?」

 

 驚愕したことで発せられた愛ちゃんの大声を真横で聞いてしまった僕と絵理ちゃんが、揃って耳を抑える。

 

「あっ、ごめんなさい……」

 

 それに気付いた愛ちゃんがしゅんっと身を縮こませながら謝罪の言葉を口にする。反省する姿が子犬のようで可愛らしいが、それはそれとして耳へのダメージが尋常じゃないので今後は控えてもらいたい、本当に。

 

「それでまなみさん、つまり良太郎さんの方から正式なオファーが来たってことですね?」

 

「えぇ、そうよ。びっくりしちゃった、いきなりあの『周藤良太郎』さん本人から直接電話がかかってくるんだもの。思わず受話器を落としちゃった」

 

 そう言って我ら三人のプロデューサーである岡本(おかもと)まなみさんはウフフと笑う。本人は軽くさらっと言ったものの、実際その場面を目の当たりにした身としてはそんな生易しいリアクションじゃなかったと注釈しておく。リアルで「どっひゃぁぁぁ!?」っていう人初めて見たよ、僕。

 

「あれ!? つまり涼さんは先に知ってたってことですか!?」

 

 僕とまなみさんの会話を聞いていた愛ちゃんがそんなリアクションをするが、逆に僕は先ほどの大声と合わせてなんでそんなリアクションなのかと問いたい。

 

「愛ちゃん……もしかして涼さんの話、聞いてなかった?」

 

「え?」

 

「涼さん、愛ちゃんにもお話していたと思いますけど?」

 

「え?」

 

 絵理ちゃんとまなみさんからの問いかけにキョトンとする愛ちゃん。

 

「ほら、愛ちゃんは通知表に『落ち着きがない』って書かれるタイプだから」

 

「涼さんのそれはフォローじゃないですよね!?」

 

 あまりこういうことを言いたくはないけど、デビューしたて事務所入りたての頃と違って愛ちゃんももう十七歳なんだから、もうちょっと、こう、さぁ……。

 

「い、今大事なのは私の通知表の話じゃありません! りょーおにーさんのライブの話です!」

 

「でも愛ちゃんの成績が悪かったら流石にライブは……」

 

「うわあああぁぁぁん!」

 

 流石に意地悪が過ぎたらしく、愛ちゃんは隣に座る絵理ちゃんの膝に泣きついてしまった。絵理ちゃんはそんな愛ちゃんの頭をヨシヨシと微笑みながら撫でる。

 

「ともあれ『八事務所合同ライブ』ですよ」

 

「なんというか、本当に私たちで大丈夫?」

 

「一応良太郎さん直々のオファーだから……」

 

 正直な話をすると、多少の縁故採用みたいなところがないとは言い切れない。それでもあの『周藤良太郎』さんが誘ってくれたライブなのだから、これに参加しない手はなかった。

 

「概要が書かれた資料をメールで送っていただきましたけど、本当に凄いですね。123や1054だけでなく765や346まで、有名アイドル事務所が名を連ねてますよ」

 

「……あれ? でもコレ、男女分かれて行われる紅白戦ってことは、涼さん敵チーム?」

 

「そうなるね」

 

「えぇ!? そんなぁ!?」

 

 絵理ちゃんの膝の上で泣いていた愛ちゃんがガバッと勢いよく顔を上げる。絵理ちゃんが身を逸らせるのがあと一瞬遅かったら、彼女の顔面に愛ちゃんの後頭部が勢いよく叩きつけられていたことだろう。

 

「折角の大舞台なのに『Dearly Stars(ディアリースターズ)』の三人が揃わないなんて!」

 

「……本当は、私もちょっとだけ期待してた?」

 

「……うん、僕も少しだけ、それを期待したよ」

 

 『Dearly Stars』。それは僕と愛ちゃんと絵理ちゃんが組んでいる三人組ユニット。元々は()()()()によるアイドルユニットで、今は()()()()()()()()という変則的なアイドルユニットだ。

 

 『秋月涼の本当の性別を巡る騒動』のせいで一時期は解散の危機どころか僕自身の芸能界追放の危機にも陥ったが、良太郎さんの肩入れやファンの人たちの強い信頼、そして何より『愛ちゃんと絵理ちゃんの記者会見』の一件で、僕はこうして今もアイドルとして活動を続けることが出来ている。

 

 今では女性アイドルとしても男性アイドルとしてもソロの仕事が増えてきたけれど……やっぱり僕としてはこの三人での仕事がもっとしたかった。

 

 ……だって二人は、僕にとって()()()()だから。

 

「それじゃあ、今から周藤さんに直談判しちゃいましょうか」

 

「直談判!?」

 

「今から!?」

 

「ど、どういうこと?」

 

 あっけらかんと言い放ったまなみさんの言葉の意味が分からずに混乱する僕たち三人。

 

「えっとですね、実は今日これから八事務所合同のリモートでの打ち合わせがあるんですよ」

 

「もしかして私にパソコン用意させたのってそれ?」

 

 まなみさんが絵理ちゃんに『リモート会議用のパソコンを用意してくれませんか?』とお願いしていたけど、どうやらそれだったらしい。

 

 まなみさんに教えてもらったIDとパスワードで入室すると、どうやら既に何組か入室しているらしい。

 

「やっぱり挨拶は大事ですよね! 任せてください!」

 

 え、ちょ、愛ちゃんちょっと……!

 

 

 

 

 

 

「……ん? どうやら他の事務所も入って来たみたいだ」

 

 自己紹介がキメラ合体した『辻野あ砂か夢見り塚あきりあむら』ちゃんたちの自己紹介を改めて聞いていると、別の参加者が入室したことが通知された。どうやら765プロと876プロが同時にやってきたようだ。

 

 ……あ、なんか嫌な予感がしてきたから音量を――。

 

 

 

 

 

 

お お

 

は は

 

よ よ

 

う う

 

ご ご

 

ざ ざ

 

い い

 

ま ま

 

ぁ ぁ

 

ぁ ぁ

 

ぁ ぁ

 

す す

 

! !

 

! !

 

! !

 

 

 

 

 

 

 こまくないなった。

 

 

 




・『スター・ドリーマーズ』
漫画『Brand New Song』で結成されたユニット。
要するにミリシタ初期タイトルの五人。

・876プロ
ついに! ついに! 876プロの三人の本格再登場です!
いやマジですみませんでした(平伏)

・岡本まなみ
876プロのプロデューサー。アニメでも最終話にチラっと登場。
愛ちゃんルートだと途中で辞めて舞さんのプロデューサーになるらしいけど、アイ転時空では変わらず三人のプロデューサー。
※追記 原作だとマネージャーだった……いやまぁアイマス世界はマネージャーもプロデューサーも似たようなもんだし(暴論)、アイ転ではプロデューサーということで……。

・愛ちゃんももう十七歳
なんと『愛ちゃん17歳』『絵理ちゃん19歳』『涼19歳』なんですよ……。

・『秋月涼の本当の性別を巡る騒動』
・『愛ちゃんと絵理ちゃんの記者会見』
また後々明かされるパターンの奴です。



 初手ハイパーボイス! 1+1は2じゃなくて200! 10倍だぞ10倍!(テンコジ並感)

 そんなわけで765と876が合流しました。実に八年ぶりの876プロです。しっかりとお勉強してきましたのでよろしくお願いします!



『どうでもいい小話』

 オケマス初日当選しました。初の『高垣楓』の名前が最初からある現場案件となります。対戦よろしくお願いします。

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