アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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限定SSR引けなかった記念()


番外編76 もし○○と恋仲だったら 29

 

 

 

 それは、あり得るかもしれない可能性の話。

 

 

 

 ぼくには恋人がいる。とびっきりカッコよくて社会的な地位も高くてすっごいお金持ちで、たまに意地悪なところもあるけど基本的にはぼくのことが大好きで甘々な、そんな男性とぼくは恋人になった。

 

 少女漫画というよりは少年漫画の主人公……むしろなろう系小説の主人公みたいな男性。ぼくみたいなクソ雑魚な人間とは不釣り合いだと自覚しているし、正直恋人同士だということそのものが信じられない。まさに夢見てるんじゃないかって感じ。

 

 当然、周りからのやっかみは結構ある。ぼくたちのこと、というか彼のプライベートをよく知っている人からは「まぁ納得」だとか「色々とお似合い」だとか「#もしかして #類友 #もしくは #同じ穴の狢」だとか、結構というか散々な言われようをするもののそれなりに認められている感はある。

 

 しかし彼に夢を見ている女性の方が何倍も多いわけで。幸い、直接何かされたってことはない。精々すれ違いざまの舌打ちと掲示板での誹謗中傷程度。前者はぼくが気にしなければ何もないし、後者の酷いものは事務所がそれなりの対応をしてくれているので大きな問題はなかった。寧ろぼくの普段の発言の方が燃えるぐらい。

 

 この前だって『幸せなぼく』って本文と共に恋人との腕組み自撮り(恋人の顔は映らないように配慮)も盛大に燃えた。……いやホントにコレなんでダメだったんだろ……別に煽ってないし……恋人のプライバシーにも配慮したのに……。

 

 閑話休題(そんなことはいいんだよ)

 

 結局ぼくが何を言いたいのかっていうと、実は特別に何か言いたいことがあるわけじゃない。しいて言うならば、今までパッとしない人生を送って来た自分にとって今が人生で絶頂の時期だということを自慢したいだけだ。

 

 そんな人生の絶頂であるぼくは現在――。

 

 

 

「おい」

 

「ひゃい」

 

 

 

 ――その恋人である『周藤良太郎』にすっげぇ怖い声で壁ドンされていた。

 

(え、顔が良い)

 

 鉄面皮ゆえに良太郎君の表情はいつもと変わらない。だから顔が良いのはいつも通りなのだが、それでも良いものは良い。何度見ても見飽きない。寧ろ見れば見るほどその良さが増しているような気がする。おいおい顔面界のボジョレーヌーボーかよ。

 

 しかし発せられる声のトーンから良太郎君が怒っているということは十分に理解出来た。普段ぼくを揶揄うときや、ぼくに優しくしてくれるときとは全く別物の声。ぼくを非難するためのその声は思わず背筋が伸びてしまうほど恐ろしく……しかしそれと同じぐらい思わずキュンとしてしまった。『周藤良太郎』のこんなマジな声をこんな至近距離で浴びちゃって……(はら)んだ、今絶対に(はら)んだ、確信した、赤ちゃん出来た。

 

「りあむ、俺はお前に言いたいことがある」

 

「ひゃい」

 

「なにか分かるか?」

 

「わ、分かりまゅ」

 

「言ってみろ」

 

「ぜ、絶対に産みましゅ」

 

「え? 何を?」

 

「え?」

 

 あれ? なんか違った?

 

 良太郎君が素の反応に戻ったことでぼくのテンションも素に戻ってしまった。そして素に戻ったテンションはそのまま一気に地の底へと転がり落ちていった。

 

 え、本当に何? ぼくマジで何した? またぼく何かやっちゃいました?

 

「どうやら分かってないみたいだな……お仕置き、必要か?」

 

「ぴっ!?」

 

 クイッて!? 顎をクイッて!? 壁ドンの次は顎クイッ!? オイオイなんだよ怒ったフリしてぼくを喜ばせるためのハッピーセットかぁ!? 

 

「俺が怒ってるのはな、りあむ……」

 

「ひょい」

 

 違った、ひゃいだぞ。

 

「この画像だよ」

 

「……ん?」

 

「見覚えはあるな?」

 

「……そりゃあ」

 

 つい先日ぼくがSNSに上げて、当然のように燃えた画像だから。

 

 この画像が一体どうしたのかと疑問が本格的になってきたところで、良太郎君は絞り出すような声を出した。

 

 

 

「普通にめっちゃ羨ましい……!」

 

「……へ?」

 

 

 

 

 

 

 ここに一枚の写真がある。実際には本物の写真があるわけではなく、ここではスマホのカメラ機能を用いて撮影された画像のことを指す。

 

 そこに映っているのは四人の少女たちだ。四人の内、三人は346プロ所属アイドルで『セクシーギャルズ』というユニットを組んでいる。城ヶ崎美嘉、大槻唯、藤本(ふじもと)里奈(りな)という三人のギャルによって結成されたそのまんま名前通りのユニットだ。

 

 そしてそんな三人と共に映る一人の少女。同性である三人に囲まれて、なんともまぁオタク丸出しなニチャアッとした笑みを浮かべている少女こそ、彼女たちと同じく346プロ所属アイドル兼我が恋人である夢見りあむである。

 

「なんともだらしない表情しちゃってまぁ……」

 

 文字通りアイドルに囲まれるオタクの図になっているのだが、オタクはオタクでも反応が男性なんだよ。男オタクがギャルに囲まれてフヒッてなってる場面なんだよ。よくよく見ると冷や汗をかいてるから実はテンパっていたのかもしれないけれど。

 

 そんなりあむに対して真っ先に抱いた感想は『えっ、羨ましい!』だった。

 

 別に隠しているわけではなく割とオープンにしているからここでも明言するが、どちらかというと俺はオタク側の人間だ。一昔前なら高らかと萌えを謳い、今はもっぱらエモと尊み秀吉を感じるタイプの人間だ。

 

 そんな人間ならばアイドルに囲まれた写真を羨ましがらないわけがない。それがギャルならば猶のこと。ギャルが嫌いな男なんていないんだよ。(諸説あります)

 

「HEYりあむさんYO! どうしてこのとき俺を呼ばなかったんだYO!」

 

 というわけで、すげぇ羨ましい状況ですげぇ羨ましい写真を撮ったりあむをこうして問い詰めているわけである。

 

 自撮りを取るためにすげぇ顔近いしすげぇ肩寄せてるしなんだったら唯ちゃんの胸の間にりあむの腕挟まってるし、見れば見るほど凄い一枚だ。これは納得の炎上と言わざるを得ない。実際、この画像で炎上したときに付いたコメントは『そこどけ夢見』『お前なんかがカリスマJKの横に並ぶな』『裏山ゆるさん』と言ったものばかりであった。

 

 

 

 ……いやまぁ、本気で問い詰めてるわけないけどさ。流石にそこまで大人げなくない。

 

 

 

 羨ましいこと自体は本気だけど、これは一種のコミュニケーションである。アイドルヲタグループとして亜利沙ちゃんやみのりさんと一緒に集まっていたときも似たようなやり取りはいくつもやって来た。

 

 基本的には良識のあるメンバーで構成されてはいたものの、そこは生粋のアイドルヲタたちの集まり。意識的にせよ無意識にせよ荒れるときは荒れる。基本的には俺かりあむが自身の渾身のネタで煽り、それに対して亜利沙ちゃんと結華ちゃんがキレる。普段温厚なみのりさんもたまに「ちょっと表出ようか?」と笑顔で親指をクイッとすることもあった。

 

 今回のコレもそのノリである。りあむちゃんのことだからきっと――。

 

『え、え、なになに羨ましい~? 当然だよね~なにせセクシーギャルズの三人との自撮りだもんね~こんときめっちゃいい匂いしたんだけど、聞きたい? 聞きたい~? いやぁぼくってば今アイドルだもんね~当然だよね~』

 

 ――みたいな感じで煽ってくると予想していた。そして調子に乗りまくったところで、急転直下ジェットコースターりあむちゃん……という流れになると、そう予想していた。

 

 では実際にお出しされたりあむを見てみよう。

 

 

 

「………………」

 

 なんかめっちゃプクーッて頬を膨らませてるんだけど。

 

 

 

 アッレー? なんか全然予想と違うぞー? いつもの調子に乗りまくったときの憎たらしい笑顔じゃなくて、不機嫌そうな表情で睨まれてるんだけどー?

 

「……良太郎君、ぼくが羨ましいんだ」

 

「お、おう」

 

「美嘉ちゃんたちに優しくされたりボディータッチ多かったりしたぼくが羨ましいんだ」

 

「は、はい」

 

 おや? なにやら立場逆転したな?

 

「………………」

 

 一体何を言われるのかと思いきや、壁ドンの状態のままだったりあむはスッと俺の腕を取ると、そのまま自身の胸の間に俺の腕を挟み込んだ。自室ということでTシャツ一枚というラフな格好だったりあむがそんなことをすれば、当然俺の腕はしっかりとバインとした迫力を満遍なく感じることになる。

 

「りあむ?」

 

「……ぼ、ぼくがいるじゃん」

 

「……え?」

 

「そ、そりゃあ自分を美嘉ちゃんと同系列に扱うのはぼくだって抵抗あるよ、というかぼく自身が嫌だよ、ぼくなんかが美嘉ちゃんたちと同じアイドルだってこと自体が未だに信じられなくなるときあるぐらいだよ、分不相応だってことぐらい自覚してるよ」

 

 ツラツラと低い自己評価を並べ立てるりあむ。ここまでくれば流石の俺もりあむが何を言いたいのか分かってきたが、それでも直接彼女の口から聞きたい。

 

 まるで自分の大切な宝物が取られないように、大事なものをギュッと放さないように、そんな風に力を込めたりあむは、頬を赤く染めて涙目で俺の顔を見上げた。

 

 

 

「ぼ、ぼくじゃダメかよぉ……」

 

 

 

「………………」

 

「ほ、ほら、こうやってバカみたいな話するのってぼくの方が都合いいだろうし、おっぱいだって結構大きいし、それに、それに……」

 

 りあむ……お前……。

 

「鼻が垂れてなかったら完璧だったんだけどなぁ……」

 

「うぎゃあああぁぁぁ!?」

 

 ホント、こういうところで決めきれないのがなんというか、りあむだなぁ……。

 

「ちょっ、ちょっとタンマ……! やり直しを要求……!」

 

「ダメ、チャンスは一回」

 

 顔を隠そうとするりあむの腕を掴んでそれを阻止する。それでも顔を隠そうと必死になって身を捩るりあむの身体を、今度こそ本物の壁ドンで動けなくする。

 

「りあむ。自己評価の低いお前に一言だけ、一言だけ言うぞ」

 

「な、なんだよぉ……」

 

 

 

 ――お前は、俺のだ。

 

 ――放してなんか、やらないからな。

 

 

 

「……はい」

 

 顔を真っ赤に染めながら。しかし目は真っすぐ俺を見据えたまま。

 

 りあむは、しっかりと笑ってくれた。

 

 

 




・恋人りあむ
夢見りあむが恋人になった場合、ダダ甘になるか調子に乗るか謙虚になるか、それは二次創作の数だけ存在するのである(訳:このネタもうちょい擦れるな)

・またぼく何かやっちゃいました?
アレ? いつの間にアニメ始まって終わってたの?

・セクギャル三人との自撮り
プレミアムカットで汗が流れてて笑った。



 世にも珍しい限定SSR非お迎え記念の恋仲○○でした。寧ろ無料10連期間内で新規SSR一枚も来てないんだよなぁ!

 来週は本編に戻りまーす。315プロ最後の一人を紹介しつつ、いよいよイベント参加事務所勢揃い!(全アイドル出すとは言っていない)

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