それは、あり得るかもしれない可能性の話。
「お届け物でーす!」
「はーい!」
それはとある日のことだった。
「え!? ちょ、ちょっとプロデューサーさん、手伝ってください!」
「え? あ、はい」
宅配便の応対に向かった小鳥さんの焦ったような声が聞こえ、それに応えてプロデューサーが事務所の入り口に向かった。どうやらかなり大きな荷物が届けられたらしく、プロデューサーの「え!?」という驚いた声が聞こえてきた。
小鳥さんの「頑張ってください!」という応援の言葉と共にプロデューサーが持ってきたその荷物は、冷蔵庫でも入っているんじゃないかと思ってしまうほど大きな段ボール。それほどまで大きい段ボールをプロデューサーが一人で持ち上げていたのだ。
「お、重くないんですか? そんな大きな段ボール……」
必死な表情ではある。しかし到底一人で持てるような大きさではないそれをしっかりと運ぶことが出来ていた。
えっちらおっちらとやや覚束ない足取りで事務所の中に段ボールを運び終えると、プロデューサーは大きく息を吐いた。
「いや、確かに重いことには重いんだが、見た目ほどの重さはないんだよ」
「えー? にーちゃんなになにー?」
「わ、大きな段ボールですね」
珍しく事務所には全員が揃っていたので、物珍しげに運び込まれた大きな荷物に集まってくる。
「誰からの荷物なんですか?」
「えっと……え?」
宛名と差出人を見た小鳥さんが、こっちを見た。
「……良太郎君から、ですね」
「……良太郎、から……?」
トップアイドル周藤良太郎からの贈り物。これだけを聞くと相当凄いことに聞こえる。現に良太郎のファンである美希と真美は先ほどから後ろで「りょーたろーさんから!?」「りょーにぃから!?」と歓喜の表情を浮かべている。
しかしその性格を痛いほどよく知っている身としては怪しまざるを得ない。しかも真面目な荷物であれば以前のように匿名や偽名などを使う面倒くさい奴がわざわざ本名で送ってくる辺りがますます怪しい。
「あいつ、今度は何を企んでる……!?」
考えれば考えるほど届けられたこの大きな段ボールから胡散臭さが漂っているような気がしてならなかった。
「りっちゃんりっちゃん! 早く開けてみようよー!」
「そうなの! りょーたろーさんからの贈り物なの!」
「えー……?」
真美と美希が肩を揺すってせがんでくる。本当は開けたくないが、しかしこのままこの荷物を放置しておくわけにはいかないので、気乗りしないものの開封することに。
「プロデューサー、お願いします」
「……まぁ、別にいいんだけど……は、離れすぎじゃないか?」
荷物を開ける役目をプロデューサーに任せ、三メートルほど後ろに下がり衝立の影に隠れる。
「お気になさらず」
「……分かったよ」
どうぞどうぞと手で促すと、プロデューサーは少し納得してないような表情で段ボールに封をするガムテープに手をかける。
そして、ビリビリとガムテープを剥がし――。
「かっかー!」「くー!」「ぽえー」「うっうー!」「めっ!」「あら~」「キー!」「ヤー!」「とかー!」「ちー!」「なのー!」「だぞ!」「しじょ!」「ぴっ!」
――唐突に『それ』は飛び出してきた。
ピリリリリリ ガチャ
「良太郎おおおおおお!!」
『やあ、りっちゃん。そろそろ電話がかかってくる頃だと思ってたよ』
電話に出た良太郎はまるでこうなることを予想していたように平然とした様子で、その態度が余計に私の神経を逆撫でした。
「一体『アレ』は何なのよ!?」
電話越しの良太郎には見えていないと理解しつつも、『それ』を指さしつつ叫ぶ。
「かっかー!」
「な、なんか私たちに似てるような……?」
「だぞ! だぞ!」
「な、何なんだこの子達……?」
「とかー!」
「ちー!」
「うっうー!」
「ふ、ふふ、なんと可愛らしい……!」
小動物化した私たち、という表現が一番合っていると思う。体長三十センチほどの大きさにデフォルメされた私たちが事務所内を駆け回っていた。春香モドキと真モドキが追いかけっこをし、美希モドキと雪歩モドキがそれぞれソファーと段ボール内で昼寝をし、千早モドキが千早の頭の上に乗ってペシペシと頭を叩いたり、てんやわんや。自分達に似たその存在にみんなが混乱していた。
『プレゼントだよ、プレゼント』
「そうじゃなくてあの小動物が何なのかっていう説明をしろっつってんのよ!」
『あぁ、あれは『チヴィット』っていうんだ』
「ち、ちびっと?」
『び、じゃなくてヴィ、な。biじゃなくてviだ。ちゃんと下唇を噛んで――』
「発音はどうでもいい!」
『分かった分かった』
どーどーと私を宥めるように良太郎は話し始めた。
『チヴィットはグランツ研究所ってところが開発した愛玩用自立ロボットだ』
「ロボット!? あれがロボットだっていうの!?」
『あぁ。なんでも最新鋭の高性能AIを積んでるらしいんだ』
ちらり、と背後を振り返る。まるで生き物のように声を発し飛び回るその様子はとてもロボットのようには見えなかった。
「日本の技術は世界一ってよく聞くけど……」と思わず呆然としてしまったが、ふと我に返る。
「そんな最新鋭のロボットを何であんたが送ってくるのよ。しかもこんなに大量に」
『実はそこの所長さんと知り合いでな。モニターとして貰った』
こいつの交友関係が本当に分からない。その内、どっかの国の王様とか紹介されそうで怖い。それだけならいいが「実は私は……」とか言って吸血鬼とか宇宙人とか狼男とかを友達だと紹介されるのではないかと戦々恐々としている。
「……私たちに似てる理由は?」
『姿形を自由に指定できるって話だったから、765プロのみんなの写真渡して作ってもらった。鳴き声の設定もわざわざデータ渡して弄ってもらったんだぜ?』
どやぁ、と表情が変わらないはずの良太郎が自慢げに話している様子が目に浮かび、ますますイラッときた。
「はぁ……」
「ぴっ!」
「あぁ、ありがとう……」
いつの間にか近づいてきていた小鳥さんモドキに差し出された湯呑を受け取る。なんかもう色々と疲れて喉が渇いていたところだった。
フワフワと浮かびながら去っていく小鳥さんモドキの後姿を眺めつつズズッとお茶を口に含み――。
「ぶふぅー!?」
――目の前の光景に驚き、思わずお茶を噴き出してしまった。
『ん? どうしたりっちゃん、女の子からは聞こえてきちゃいけない音が聞こえてきた気がするんだけど』
「ちゅ、ちゅちゅ、宙に、う、浮いて……!?」
『あぁ、小鳥さんモデルのことか。あれは第二世代型だからな』
なんでも、最新鋭の小型反重力力場発生装置が搭載されているとかいないとか。枕詞に最新鋭って付けとけば済むと思っているのかと声を大にして言いたかったが、そこ以外に気になる場所があった。
「だ、第二世代型ってことは、第一世代型もあるってことよね?」
『察しがいいね。そのとーり。ついでに第三世代型もあるよ。第一世代型と第三世代型はそれぞれ宙に浮けないんだけど、第三世代型はその代わりに様々な能力を持ってんだよ』
「なによ能力って……」
もう本当に頭が痛かった。
『とりあえず、詳しい説明もしたいから、今そっちに向かうよ』
「……だったらこんな風に宅配便で送ってこなくて最初からあんたが持ってこればよかったじゃない」
『いやだって、その場に俺が立ち会ってたらりっちゃん殴ってきたでしょ?』
「なに当たり前なこと聞いてるのよ」
BB↓←→Bのコマンドと共に私のガッツなストレートが三連続で飛んでいたことだろう。
とにかく、この子達の説明をしに良太郎がこちらの事務所に来ることになった。
『あ、そういえば一人だけ取扱い注意な子がいるんだった』
「もう面倒くさいから『なんでそんな子を送ってくるんだ』っていう突っ込みはしないわよ」
『春香ちゃんモデルのチヴィットには気を付けといてくれ』
「春香の?」
事務所を見渡し何処にいるかと探すと、春香本人が可愛がり撫でているのを発見した。
「あぁ、なんか自分の妹が出来たみたいで可愛いなー!」
「かっかー!」
真美モドキと亜美モドキとやよいモドキを抱えて満足そうな貴音ほどではないが、本人は大変お気に召しているようだった。
「あの子の何処に注意しないといけないのよ」
『春香ちゃんモデルは個別の能力を持ってる第三世代型でな、あの子は――』
「喉が渇いたからちょっとお水を……あ」
「かっかー」
パシャ
『――水をかけると増殖するらしいんだ』
「「「「「かっかー!」」」」」
「もっと早く言いなさいよぉぉぉ!?」
そこには、春香が飲もうとして零したペットボトルの水が頭にかかって五人に増殖した春香モドキの姿があった。
「きゃー!?」
「ふ、増えたー!?」
「ちょ、これどうなってるのよ!? 何でロボットが増殖するのよ!?」
『そりゃあもちろん最新鋭の――』
「それはもういいっつーの!」
しかも五人に留まらず、なおも増殖を続ける春香モドキ。
「ちょ、これどうやったら戻るのよ!?」
『Ctrl+Z』
「
『どーどー』
戻し方は口で説明しづらいらしく、直接良太郎が戻すことになった。
「ってことは、あんたがこっちに来るまでこのままなの!?」
『大丈夫大丈夫、すぐ着くから』
「え? あんた近くにいるの?」
『いや、自宅だけど。ちょっとそこにあずささんモデルのチヴィット連れてきてくれ』
「あずささんモデル……?」
「あら~?」こたぷ~ん
そんな間延びした声が足元から聞こえてきたので下を向くと、そこにはあずささんモドキの姿があった。ニコニコぽわぽわとした雰囲気があずささんそっくりで、私を見上げながら首を傾げていた。ちなみに何やら変な擬音が聞こえたような気がするが無視する。
「すぐ近くにいるけど……」
『んじゃ俺の顔を思い浮かべながら手ぇ叩いてくれ』
「……ダメ。今私の頭の中だとアンタの顔ボコボコで上手く思い浮かべれない」
『大丈夫かー!? りっちゃんの脳内の俺ー!?』
何とか頑張って良太郎のまともな顔を思い浮かべる。
「それで? 手を叩けばいいんだっけ?」
『おう、あずささんモデルの目の前でな』
「それじゃあ……」
えい、とあずささんモドキの目の前で手を叩く。パンッという乾いた音が響き、驚いた様子のあずささんモドキが目を見開き――。
ヒュン
――次の瞬間、あずささんモドキの姿が消えた。
「……消えたんだけど……」
呆然としていると。
『大丈夫、ちゃんとこっちに来たから』
『あら~』
……受話器越しに、良太郎の声に続いてあずささんモドキの声が聞こえてきた。
「……どうなってんのよ」
『あずささんモデルの中には最新鋭のテレポート機能が内蔵されててな』
「だからそれはもういいっつーの!」
最新鋭っていう言葉だけで全てが済むと思ったら大間違いだ。
『大きな音で驚かせることで起動して、近くにいる人の思い描いたところにテレポートさせてくれるんだよ。だからこうすれば――』
パンッという音が受話器越しから聞こえてきたかと思うと――。
「こうやって、こっちに来れるっていうことだ」
――目の前には、右手に携帯電話を、左手にあずささんモドキを装備した良太郎の姿があった。
とりあえず。
「燃え上がれ私のコスモォォォ!!」
「ぐふぉあ!?」
良太郎の腹部に渾身の右ストレートを叩きこんだ私を責めることは誰にもできないはずだ。
この時、私は良太郎本人に気を取られていて。
その頭の上に乗っていた存在に気が付かなかったのだが――。
「……りょー」
――それはまた、別のお話。
……つづく?
・ぷちます!
ゲーム「アイドルマスター」を元に連載しているスピンオフ(?)作品。ぷちどると呼ばれる謎生物を中心に繰り広げられるコメディ作品。
「こちらを先に見てから本編を見たので逆に戸惑ってしまった」という声を多数耳にします。ですので視聴の際は順番にご注意ください。
・「あいつ、今度は何を企んでる……!?」
信頼度ゼロ系主人公。
・チヴィット
元ネタは『魔法少女リリカルなのはINNOCENT』。
仮想空間内で行われるブレイブデュエルのサポートキャラ『チヴィーズ』を現実世界で行動させるために作成された小型ロボット。なんとなくぷちどるに似ていた気がしたのでこの作品ではこのようにさせてもらいました。
・「実は私は……」
最近お気に入りの漫画タイトル。
白神さんマジうっかり吸血鬼。
・第二世代型
以下勝手に設定。
第一世代型 特殊能力なし。多少の外見変化がある。例:ちひゃー、ゆきぽetc
第二世代型 飛行能力あり。例:ぴよぴよ (イノセント本編のチヴィットはココ)
第三世代型 特殊能力あり。例:はるかさん、みうらさんetc
・私のガッツなストレート
ロックマンエグゼ3のバトルチップ。
ちなみに最近友人と対戦したところボコボコにされた作者。プラントマンとフラッシュマン禁止だからってウイルスチップでドリームモス目押しは勘弁してください……。
・はるかさん
天海春香似のぷちどるの名前。増殖、巨大化、暗黒化と謎多きぷちどる。
・Ctrl+Z
物書きの御用達の操作。作者もたびたび使用する。
・みうらさん
三浦あずさ似のぷちどる。テレポーテーション能力を持つ。
・こたぷ~ん
みうらさんの擬音。あずささんが「どたぷ~ん」
あずさ + みうらさん = どこたぷ~ん
いおり + みうらさん = こたちょーん
などと変化する。
・りっちゃんの脳内の良太郎
ねねちゃんのママのウサギのぬいぐるみ並にボコボコな模様。
・「燃え上がれ私のコスモォォォ!!」
当然聖闘士星矢ネタ。銀魂ネタではないのでご注意を。
……余談だが「せいんとせいや」と入力して一発で変換できたのでびっくりした。
・「……りょー」
もしかして……?
というわけで番外編のぷちます編。「ぷちます世界」というより「ぷちますが入ったアニマス世界」なので、当然プロデューサーはPヘッドではなく赤羽根Pです。ひとりぼっちの歌なんて歌いません。コブクロの歌は歌ったりします。
りっちゃんとの会話が楽しすぎて一話に収まりきらなかった。いずれまた続きを書きますが、今回の番外編はここまでです。
次回は本編に戻りますので、次回もよろしくお願いします。