アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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ようやく第八章プロローグ終わり!


Lesson322 祭りの狼煙を上げろ! 4

 

 

 

「いやぁ、いきなりすまんね! 周藤君!」

 

「いえ……まぁ、驚きはしましたが」

 

 正直いつもは自分が驚かす側の人間なので驚かされるのは結構新鮮だなぁなんて思ったり思わなかったり。

 

 それより、この男性である。やたらとガタイが良く、必要以上に声が大きく、全てひっくるめて()()()()。先日壮一郎から話を聞いたときにも少しだけ既視感を覚えていたが、こうして実際に顔を合わせて全てが合致した。

 

「えっと……、齋藤さんでしたよね」

 

「おぉ!? まさか私のことを覚えていてくれたのか!?」

 

「勿論ですよ」

 

 実際はたった今思い出したんだけど。いやこんな濃いキャラをなんで忘れてたんだか。

 

 彼は高木社長の古い友人であり、俺が芸能界に入ったときに紹介してもらった記憶がある。確かプロデューサーとしての腕を磨くために海外へと渡っていたという話を聞いていたが……。

 

「帰国されていたんですね」

 

「あぁ! 今はまだそのときではないと思って挨拶に行かなかったことは謝罪させてくれ! ()()()()()が落ち着いてきたから、こうして会いに来たのだよ!」

 

「……()()()()()ですか」

 

「そうとも! 改めて自己紹介させてもらおう!」

 

 そう言って齋藤さんは一枚の名刺を差し出してきた。

 

 

 

315(サイコー)プロダクション代表取締役社長! 齋藤(さいとう)孝司(たかし)だ!」

 

 

 

 この人さっきからずっと声の圧が強いなぁ、なんて思いつつ手渡された名刺に視線を落とす。

 

「……へぇ、なるほど。()()()()()()専門芸能事務所ですか」

 

 それはなんとも好都合。まさに狙ったような展開である。

 

「設立したのは去年だ! そこから何組かの男性アイドルグループをプロデュースしている! 今回このタイミングで声をかけさせてもらったのは、当然()()()()()()を耳にしたからだよ!」

 

 今の俺の状況、つまり『企画に参加してくれる男性アイドルを探している』ということだ。

 

「それはつまり」

 

 

 

「あぁ! 我が事務所の男性アイドルたちを君へ()()()()に来たのだよ!」

 

 

 

 

 

 

「という経緯だ」

 

『高木社長の知り合いの事務所だったわけね』

 

 麗華からかかって来た電話は当然先ほど彼女に送ったメッセージの内容についてだったので、齋藤社長登場シーンから丁寧に説明してやった。

 

 しかし何も言わなかったけど、多分高木社長が裏で何かしらの話をしていたのではないかと考えている。あの人もあれでなかなか食えない人だ。

 

「おかげでなんとか予定通り(プランA)で企画が進みそうだ」

 

『私聞いてないんだけど、代替案(プランB)はあったわけ?』

 

「いっそのこと(はおう)VS俺以外(れんごうぐん)という形にするストロングスタイル」

 

『……ちょっと面白そうって思ったけど、それだと当初の目的が何も果たせないわね』

 

 だから本当の本当にどうしようもうなくなったときの代替案だったんだが、その必要はなくなった。

 

 しかしまぁ、こんな男性アイドル事務所が活動を始めていたなんて本当に気付かなかった。男性アイドル事務所は珍しいからいくらなんでも普通は気付くはず……って思ったが、まともな活動が始まったのが秋から冬頃という話を聞いてその理由に思い至る。

 

(未来ちゃんや静香ちゃんやニコちゃんのアレコレで色々と気が回らなかった時期だ……)

 

 今になってじっくりと思い返すと、なんとなくそんなような話を小耳に挟んだようなそうでもなかったような……。

 

『一応こちらでも少し調べてみたわ、315プロ』

 

「俺も色々と話を聞いてみたが……なんというか」

 

『346以上の色物事務所があるとは思ってなかったわ』

 

「もうちょっと言葉を選ぼう」

 

 俺の第一印象もそれだったから強く否定できないけど。

 

『元弁護士に元医者に元パイロットに元教師って……なんかもう絶対コレは狙ってるでしょ。まともに養成所に通ってたアイドル候補生なんて一人もいないじゃない』

 

「いやいや346は346で眼鏡の妖精さんとかサンタクロースとかなかなかバリエーションに富んでたぞ?」

 

『アイドルの素性に関するバリエーションは求めてないのよ』

 

 いやいやなかなか重要だぞ……と反論しつつ、眺めていた315プロ所属アイドルの一人に目が留まる。

 

「……一人だけ、アイドル候補生に負けないぐらいの情熱を持った人はいたけどな」

 

『? 何、知り合いでもいたの?』

 

「あぁ。なんか元コンビニ店員や王子様とユニット組んでるらしい」

 

『コンビニ店員はともかく、王子様とはまたありきたりな肩書ね。……えっ、ちょっと待ちなさい、ただの肩書よね?』

 

「さぁ?」

 

 いてもいいんじゃないかな、王族。

 

 それはさておき、そんな二人と『アルバイト仲間』という共通点でユニットを組んだらしい我が友人たる男性。去年の春先に「アイドル事務所にスカウトされた」という話をしていたが、まさか本当にアイドルになっているとは思わなかった。

 

 ……というかアレ? 俺まだアイドルになったっていう報告貰ってないんだけど? 恥ずかしかったからとかそういう理由ならいいんだけど、それでりあむちゃんや亜利沙ちゃんは知ってて俺だけ知らなかったとか言われたら泣くよ?

 

「一応男子チームとして顔を合わせに事務所へ行く予定になってるから、それが楽しみだよ」

 

『……随分と嬉しそうじゃない』

 

「え、分かる?」

 

『ムカつくけどこれでもアンタとの付き合いは長いから、それぐらい分かっちゃうのよ、腹立たしいけど』

 

「そんな! 俺と麗華の仲じゃないか!」

 

『ペッ』

 

 あ、こら! フリとはいえ唾を吐く真似はやめなさい! いい年した女性なんだから!

 

 ……麗華の言う通り、俺は嬉しかった。はしゃいでいるとも言っていい。

 

 齋藤社長との会話を思い返す。

 

 

 

 

 

 

「……なるほど」

 

 自分の事務所の男性アイドルを周藤良太郎に売り込みに来るとは、相当自信があるらしい。

 

 勿論、今までそういった一切なかったわけではない。それでもその殆どはそれによって得ることが出来るで()()()利益に目が眩んだ連中ばかりだ。そんな連中がどうなったかは……言わなくても分かるだろう。

 

 だがしかし、齋藤さんは違う。この人からは自分の事務所のアイドルに対する絶対の自信を感じる。

 

「私がこの目で選び! そして私がこの目で選んだプロデューサーが選んだ、若き星たちだ! 彼らならそう――」

 

 

 

 ――『周藤良太郎』にだって()()()()()()とも!

 

 

 

「……へぇ」

 

 もしも俺が無表情という呪縛に囚われていなかったならば。

 

 それはもう、とてもいい笑顔を浮かべていたに違いない。

 

 それは嘲笑ではなく、呆れ笑いでもなく、純然たる歓喜の笑み。

 

 俺を真正面に見据えて尚それを力強く言い切る彼の眼は『高木順二朗』と『黒井崇男』のそれとよく似ていた。高木社長よりも挑戦的で、黒井社長よりも友好的で、しかしどちらにも劣らない『自分のアイドルへの自信』に満ち溢れた眼は、彼の事務所のことを一切把握していなかった己を恥じるには十分すぎるものだった。

 

「……気が変わりました」

 

「む!?」

 

「齋藤社長。周藤良太郎から315プロダクションへと正式に参加オファーを出させてください」

 

 頭を下げる。既に立場は逆転し、俺が齋藤社長へと出演依頼をする側になった。

 

 それはただの予感だった。それでもきっと彼らならば《《俺の望みを叶えてくれる》と、そう思えたのだ。

 

「……勿論だとも! 君が作り出すアイドルの新たなる未来に、私たちも是非参加させてほしい!」

 

 齋藤社長と握手を交わす。

 

 今ここに、俺の望みを叶えてくれる最後のヒトカケラが見つかった。

 

 

 

 

 

 

「……とかなんとか意味深に言ってるけど、要するに『次世代アイドルの育成』が目的なんだけどね、っていうね」

 

『何よいきなり』

 

「改めて再確認をね」

 

 いつもだったら物語の終盤まで引っ張る話題だけど、今回は序盤で白状しておこう。俺と麗華が今回の企画を立ち上げた主な理由がそれなのだ。

 

 『日高舞』の第一次アイドルブーム。『周藤良太郎』の第二次アイドルブーム。その間に訪れてしまったアイドル冬の時代とも呼ばれる空白期間。それはすなわち『日高舞』という強烈な火種が突然消えてしまったことが原因だと考えている。

 

 『日高舞』という光が消えたことで、他のアイドルへと目が向くようになったかと思われた。しかし実際には太陽が如き強烈な閃光に目を焼かれ、ファンの網膜には『日高舞』という伝説の残滓しか映されていなかった。強すぎる光は、消えた後も影響が残ってしまう。

 

 だから俺と麗華は考えてしまったのだ。もし、もしも――。

 

 

 

 ――『周藤良太郎』や『魔王エンジェル』が突然いなくなったとしたら?

 

 

 

 男性アイドルならば冬馬たち『Jupiter』が、女性アイドルならば春香ちゃんたち765プロの面々がそれぞれ次世代のトップアイドルであることには間違いないだろう。

 

 それでも尚、俺たちは気になってしまうのだ。

 

 それは余計なお世話なのかもしれない。トップアイドルと持て囃されたものの傲慢さなのかもしれない。

 

 例えそうだったとしても、俺たちは勝手に『アイドル業界の未来』を心配してしまうのだ。

 

 

 

 ――それがきっと俺たちが『最後に残すことが出来るもの』だと思うから。

 

 

 

『それじゃあ、大方の下準備は終わったから……』

 

「……そろそろ公表するタイミングだな」

 

 

 

 

 

 

 それは、現代日本におけるアイドル事務所の二大巨頭と呼ばれる『123プロダクション』と『1054プロダクション』から同時に告知された衝撃的なニュースだった。

 

 まだ詳しい出演アイドルや内容は明かされない。しかしそのイベントに名を連ねた765や346といったアイドル事務所という世間は騒然となった。

 

 

 

 ――ハッキリつけようぜ!

 

 

 

『アイドル超合戦!!』

 

 

 

 それは後に『第三次アイドルブーム』の象徴とも呼ばれる日本最大級のアイドルイベントの第一報であった。

 

 

 




・齋藤孝司
アイドルマスターsideMにおける315プロダクションの社長。
歴代の社長と比べるとなんかやたらとキャラが濃い……。
原作では明言されていませんでしたが、アイ転世界では高木社長と旧知の仲。

・315プロダクション
アイドルマスターsideMの舞台となる男性アイドル事務所。
何故か訳あり?のアイドルが多いことで有名。
……え? 前に登場したことあるはずなのになんで今更説明してるのかって?
ははっ(ごまかし

・『次世代アイドルの育成』
今まで散々引っ張ってこのまま最後まで引っ張りそうな雰囲気を出してましたが、要するにこういうことだよって先出ししました。



 ようやくプロローグが終わり、次回から本格的にsideM編が始まります! 基本はアニメ組のユニットを中心に、数人を抜擢してオリジナルユニットを組んだり、はたまたアイドルにならなかったアイドルとの短編を書いてみたり、そんな感じでしっかりとsideM編を書いていきますので、どうぞよろしくお願いします!

 ……だから今回のために過去改変してきて315プロが今まで登場しなかったという世界線に変えたことは大目に見てください……本当に以前はsideM編やるつもりはなかったんです……。

 ともあれ、これからよろしくお願いします!

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