アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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【悲報】面白くなりそうだから良太郎の記憶喪失続行


番外編72 あなたはだぁれ? 中編

 

 

 

 それは、あり得るかもしれない可能性の話。

 

 

 

 

 

 

 前回までのあらすじ。

 

 記憶無くす前の俺は恋人が複数いた。

 

 

 

 いやマジでどうなってるんだよ記憶無くす前のオレ。見てくれが悪くないことは鏡を見れば分かるが、それでも平然と複数人の恋人がいていい理由にはならないと思うのだ。アイドルっていうのは、オレの知識以上にモテるっていうことなんだろうか。

 

「はい良太郎さん、あ~ん」

 

「あ、あ~ん」

 

「りょーたろーさん! ミキもミキも! あ~ん!」

 

「あ~ん……」

 

 未だに自分という人間に納得は出来ていないものの、恋人(仮)の二人が剥いたリンゴを口元に差し出してくるので、素直にこれを食べる。

 

 ベッドで身体を起こした状態でその両脇に美少女が二人より添うように座っており、その二人からあーんをされている。自分のことじゃなかったら嫉妬に狂いそうな状況で、正直自分のことだという実感がないから自分への嫉妬に狂いそう。

 

「そ、そういえば兄さん。アイドルの仕事の方は大丈夫なんですか?」

 

 信じられないことだが、表情を全く動かせないにも関わらずオレはトップアイドルらしい。そんなトップアイドルが事故にあって入院して、さらに記憶喪失になってしまっているのだから、色々なところに支障を来たすのではないだろうか。

 

「それなら大丈夫……とは強く言い切れない状況だが、なんとかするさ。お前はそんなことを気にせずに、しっかりと身体を休めてくれ」

 

「……分かりました」

 

 本当は何も大丈夫じゃない状況なんだろうということぐらい、記憶を無くして自分の立場が分からなくなってしまったオレにも理解出来た。しかし兄さんが笑顔でなんとかすると言ってくれたのだから、オレはそれを信じよう。

 

「そういえば二人もアイドルなんだよね? 二人は大丈夫なの?」

 

 そんな会話中もニコニコと笑顔でオレに寄り添い、時たま甘えるように肩に頭を預けていたまゆちゃんと美希ちゃんに尋ねる。なんと二人も俺と同じようにトップアイドルらしいので、実は二人も忙しいところを無理してまで俺のところに駆けつけてきてくれたのではないだろうかと考えたのだ。

 

「「……あっ」」

 

 どうやらオレの考えは当たっていたようで、二人揃って表情が「マズい」と物語っていた。

 

「もしかして、仕事抜け出してきたんですか……?」

 

「ぬぬぬ、抜け出したわけじゃないですよぉ!? そ、その……ちょ、ちょっと休憩時間が長いだけで……」

 

「ミ、ミキも! 実は今日オフなの!」

 

 ウソでしょ。さっきから二人のスマホがティロンティロンとメッセージ受信音を鳴らしまくってるよ。絶対に「戻ってこい」っていうお叱りメッセージでしょ。

 

「心配してくれるのはとても嬉しいです。でもそれで貴女たちの活躍を楽しみにしているファンの皆さんを待たせることになってしまうのは……」

 

「っ、ご、ごめんなさい、良太郎さん……」

 

「ミキ、お仕事行くの……」

 

 シュンとした表情になってしまった二人。結果的に二人を責めているような言葉になってしまい心が痛む。

 

「……そ、その、良太郎さん」

 

「ん?」

 

「え、えっと、ですね……お仕事、いつも以上に頑張ってくるので……」

 

 指をもじもじとさせながら顔を赤らめるまゆちゃん。チラチラとこちらに顔色を窺いながら言葉を選んでいるようだったが、やがて決心したようにキッと目尻を持ち上げた。

 

 

 

「……き、キス! してください!」

 

「!?」

 

 

 

「……も、勿論ほっぺでいいですよぉ」

 

 

 

(日和った……)

 

(日和ったの……)

 

(誰も何も言ってないのに日和った……)

 

 まゆちゃんのこの反応を見る限り、どうやら恋人とはいえ普通のキスはまだしていないようだ。正直オレも記憶がないままでまゆちゃんとキスをするのは何となく躊躇われたからありがたかった。

 

「それでまゆちゃんが頑張れるっていうのであれば」

 

「……えっ」

 

 少し恥ずかしいがまゆちゃんの頬に手を当てて軽く彼女の顔を引き寄せると、反対側の頬へそっと唇を触れさせる。記憶はないが、きっと以前のオレもこんな感じにキスをしていたのだろう。

 

「………………」

 

「はい、お仕事頑張ってきてくださいね、まゆちゃん。……まゆちゃん?」

 

 リアクションがない。恥ずかしいところを頑張ったのに、ノーリアクションはさらに恥ずかしくなってくるから何かしらの反応をしてほしいところなんだけど。

 

「……ふ、ふふっ」

 

 数秒固まったかと思うと、まゆちゃんは怪しい笑みを浮かべながらユラリ立ち上がった。

 

 

 

「まゆはもう、誰にも負けません」

 

 

 

「誰に? 何に?」

 

 やたらと自信に満ち溢れた雰囲気を醸し出したまゆちゃんは「それじゃあ良太郎さん、お大事にしてくださいねぇ」と言い残してオレの病室を出て行った。

 

 よく分からないけど、確かに今のまゆちゃんならば誰にも負けないと思う。何の勝負か分からないし、そもそもアイドルの仕事に勝ち負けがあるのかどうかも分からないけど。

 

「……えっと、美希ちゃんは」

 

「はい、どーぞなの」

 

 当然とばかりに美希ちゃんも自身の頬をオレに向かって突き出してきた。まぁ、して欲しいっていうことなんだろうけど……グイグイと身体を寄せてくるもんだから、胸が、その、当たるんだけど……。

 

 あまり強く意識しすぎないように、美希ちゃんの頬にもキスをする。

 

「はい、これでいいですか?」

 

「……えへへ~、りょーたろーさんにチューしてもらっちゃったの~」

 

 赤くなった頬を両手で抑えてテレテレと笑う美希ちゃん。この反応からするとまゆちゃん同様に美希ちゃんにもキスはまだだったらしい。やっぱりお互いにアイドルだからその辺は色々と弁えてたんだろうな。

 

「それじゃあミキも、お仕事頑張ってくるの! りょーたろーさん、お大事に!」

 

「うん、頑張ってきてね」

 

「うっふふふっ! 今のミキなら、りょーたろーさんの一番をりんさんから奪えるぐらい絶好調なのー!」

 

 最後にとてもいい笑顔で手をフリフリしてから、美希ちゃんも病室を出て行った。

 

 ……ん?

 

「ふぅ、ようやく静かになった。それじゃあ俺も仕事に戻るから、お前はゆっくりと……」

 

「ねぇ、兄さん」

 

「どうした?」

 

()()って誰ですか?」

 

 それはたった今、美希ちゃんが口にした名前だった。そして美希ちゃんの口ぶりから察するに、その人も『オレの恋人』である可能性が高いと考えたのだ。

 

「……察してるだろうけど、その子もお前の恋人だよ。まゆちゃんや美希ちゃんよりも早くお前と恋人になった……な」

 

 なるほど、だから美希ちゃんはりんちゃんを『オレの一番』と称したのか。てっきり序列的な何かが存在するのかと思ってしまった。

 

(……どんな子なんだろうな)

 

 自分の恋人のことなのだから、気にならないわけがなかった。まゆちゃんも美希ちゃんもとても可愛い子で、思わず期待してしまうのは男としてしょうがないと心の中で言い訳する。

 

「ん?」

 

 再びノックの音。それも先ほどと同じように若干荒い、焦ったようなノックの音だった。

 

 再びオレの代わりに兄さんが「どうぞ」と入室を促すと勢いよくドアが開いて、これまた先ほどと同じように少女が飛び込んできた。今度は長い黒髪の少女だった。

 

「良太郎さん!? 大丈夫!?」

 

 まゆちゃんたちと同じように、焦った様子でオレの身を案じる言葉を口にする少女。

 

 ……もしかして。

 

「身体はとりあえず大丈夫です。……ただ、その……」

 

「え、ど、どうしたの……? なんか、喋り方が……」

 

「……実は良太郎、頭を強く打って記憶が混乱してるんだ。俺のことだけじゃなくて、自分のことすら思い出せない」

 

「っ、そ、それって、記憶喪失っていう……!?」

 

 オレの代わりに説明してくれた兄さんの言葉に、少女は「信じられない」とばかりに驚愕に目を見開いて口を抑えた。

 

「そ、それじゃあ、私のことも……!?」

 

「……ごめんなさい」

 

「……ううん。無事でいてくれたのなら、それでいい」

 

 謝ることしか出来ないオレに、少女は「それは貴方の責任じゃない」と首を横に振ってくれた。

 

「改めて、君の名前を教えてほしいです」

 

「……あ」

 

「? 兄さん?」

 

「いや何でもない」

 

 少女に名前を尋ねたら何故か兄さんが一瞬反応したが、すぐに「どうぞ続けて」と笑顔で促された。

 

 

 

「……私は、渋谷凛」

 

 

 

「っ!」

 

 ()()……そうか、この子だったんだ。

 

「私は、良太郎さんの、えっと……」

 

「大丈夫、さっき兄さんに聞きました」

 

「え?」

 

 部屋に入ってきたときから、なんとなくそんな気がしたんだ。オレのことを心配する様子とか、命に別状がないことを知ったときに安堵した様子とか。オレを見る目を見れば、彼女がオレに対して特別な感情を抱いていることは、なんとなく察することができた。

 

 

 

「君もオレの恋人だったんですね」

 

「………………」

 

 

 

「覚えていてあげられなくて、本当にごめんなさい」

 

(え、良太郎さんいきなり何を言い出してるの私が良太郎さんの恋人なにがどうすればそんな結論になるのいやいやないからそーゆーのじゃないから良太郎さんはあくまでも私のお兄ちゃんみたいな存在ってだけであってそうじゃなかったとしてもアイドルとファンの関係にしかならないというかそれだけの感情しか持ち合わせていないというかどうせアレでしょ名前がリンだからりんさんと私のことを間違えてるだけなんでしょはいはい分かってる分かってる所詮その程度の話なんだってあーやだやだそんな簡単なことで私が喜ぶとでも思ってるのそもそも喜ぶわけないじゃんお兄ちゃんの恋人になりたいって考える方が変なわけで当然私だってそんなこと考えるわけない――)

 

「……も、もしかして違った……?」

 

「――もう、何言ってるのさ」

 

 あ、やっぱり間違えて……。

 

 

 

「勿論、私は良太郎の恋人だよ」

 

 

 

「っ! よ、よかった、間違ってなかった……」

 

「ふふっ、焦ってる良太郎、表情が変わらなくてもおかしかったよ」

 

 やっぱりこの子もオレの恋人だったらしい。

 

 

 

(……ヤバい……超面白くなってきたけど、そろそろ仕事に戻らんといかん……だがしかし……いやでも……)

 

 

 




・「……き、キス! してください!」
頑張ったまゆちゃん!

・「……も、勿論ほっぺでいいですよぉ」
もうちょっと頑張れまゆちゃん!

・「勿論、私は良太郎の恋人だよ」
凛ちゃん参戦!



 本当は今話で終わらせる予定だったんだけど、りんと凛ネタを思い出してしまったためにこうなった。もうちょっと続けるのじゃ。

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