アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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何故本編でやらなかったシリーズ。


番外編70 朝比奈りんは恋人である

 

 

 

 諸事情によりそこへと至る経緯は省かせてもらうが、IEの最終決戦の前夜、俺は朝比奈りんからの熱烈(ぶつりてき)な愛の告白を受け、彼女からの好意に気付いた。具体的には青痣がくっきりと残るレベルのグーパンチによって。

 

 

 

『恋人に、いずれ妻に、貴女と共に生涯を』

 

 

 

 そんなプロポーズをしたのは、俺からだった。

 

 りんは涙を流し、しかし今までの人生で見てきたものの中で一番素晴らしい笑顔で受け入れてくれた。

 

 

 

 こうして『周藤良太郎』と『朝比奈りん』は、恋人となった。

 

 

 

 

 

 

 それはIEの余波がまだまだ冷めやらぬ、とある平日の朝食の場でのことだった。

 

「母さん、兄貴、早苗ねーちゃん、報告したいことがあるんだ」

 

「なーに?」

 

「どうした」

 

「何かあった?」

 

 

 

「恋人が出来た」

 

 

 

「「ぶーっ!?」」

 

「わー! リョウ君、ほんとー!? おめでとー!」

 

 兄夫婦が揃って飲んでいたものを吹き出してリビングに虹を作る中、相変わらずマイペースなリトルマミーがパチパチと手を叩いて祝福してくれた。

 

「ねぇねぇどんな子どんな子ー? お母さんも知ってる子ー?」

 

「今度ウチに連れてくるからそこで紹介するよ。楽しみにしててくれ」

 

「わー楽しみだなー! お母さん、ご馳走作っちゃうから前もって教えてねー」

 

「「待て待てまてマテマテ!?」」

 

 ここでようやく兄貴と早苗ねーちゃんからの待ったコールが。大分咽ていたから時間がかかったようだ。

 

「恋人!? お前に恋人!?」

 

「いつもの冗談!? いつもの冗談よね!?」

 

「実は冗談なんだよHAHAHA! ……なんて言うとでも思ったかバカめ!」

 

 揶揄ったら「バカ」と言ったことが気に食わなかったらしくて思いっきり頬を抓られた。痛い。特に左頬はまだ微妙にりんに殴られた跡があるから余計に痛い。

 

「……ほ、本当なんだな? 本当に、恋人が出来たんだな?」

 

「だからそうだって言ってるじゃん。そんなに信じられないか?」

 

「「信じられない」」

 

 この兄夫婦、さっきから同じことしか言わない。

 

「だってデビューする以前から女の子からの好意に一切気付くことのなかったお前に、いきなり恋人が出来るとは思えないんだよ」

 

「そーそー。昔からアンタのことが気になってた女の子、それなりの数いたのよ?」

 

 マジで?

 

「バレンタインで義理チョコしか貰えたことないんだけど」

 

「アンタ、義理チョコが本当に全部義理チョコだと思ってたの?」

 

 むつかしいことよくわかんない。

 

「とにかく、恋人が出来たことは事実だ。先に言っとくけど妄想とかそういう類の話でもないぞ。しっかりと連れて来るって言ってるんだから、実在する女性だ」

 

「……そうか」

 

 ようやく信用する気になったらしい兄貴が、至妙な面持ちで先ほどからずっと手にしたまま下ろすことを忘れていたマグカップを机に置いた。

 

「……トップアイドルのプロデューサー兼芸能事務所の社長としては喜ぶべきではないのかもしれないが……家族として、お前にそういう相手が出来たことは素直に嬉しいよ。おめでとう、良太郎」

 

「おめでとう、リョウ」

 

「……ありがとう、兄貴、早苗ねーちゃん」

 

 二人の表情からそれが本心だということが分かって、俺は思わずホッとしてしまった。

 

 恋人のことに、否定的なことを言われるとは思っていなかったが、それでも少しだけそれが気がかりでもあった。少しでも嫌な顔をされたらどうしようかとも考えたが、それも通り越し苦労に終わったようだ。

 

「……で? 結局本当に誰なんだよ、お前の恋人」

 

「いつも通り、六行空白挟んで場面転換してから教えるわ」

 

「は?」

 

 

 

 

 

 

「というわけで、恋人のりんだ」

 

「せ、せせ、先日からりょーくんのここここ恋人やってます! 朝比奈(あしゃひな)りんです!」

 

 若干強引に場面転換して、後日。改めて時間を取った俺は、りんを家族へと紹介するために自宅へと連れてきた。

 

 対面するメンバーは、今朝と同じ母さんと兄貴と早苗ねーちゃん。あと母さんの意向で一応父さんも写真だけで参加しているが、絵面が完全に故人である。リビングの片隅にお父祭壇が作られているので今更だけど。

 

「わー! りんちゃんだったんだねー! うんうん! リョウ君とお似合いさんだよー!」

 

「あ、ありがとうございます……!」

 

 喜色満面の笑みで歓迎するリトルマミーに、りんは恐縮しつつやや縮こまっていた。

 

「……そうか、りんちゃんだったか……」

 

「意外だったか?」

 

 そう尋ねると、兄貴は「まさか」と首を横に振った。

 

「朝比奈のりんちゃんだったら予想の範囲内だったよ。流石に渋谷の凛ちゃんを連れてこられたら椅子ごと後ろにひっくり返ってたけど」

 

「流石にそれだけはないって」

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

「ひゃっ!?」

 

「うわっ!? しぶりん!? 中身入ってなかったとはいえ、なんで今いきなり紙コップ握り潰したの!?」

 

「いや……なんか、イラッとした」

 

 

 

 

 

 

「ちなみに、他は誰とか予想してたの?」

 

「可能性がありそうだと思ったのは、麗華ちゃんとか律子ちゃんとかだな」

 

 なんだその俺のハートを射止める前に息の根を止めに来そうな人選は。

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

「……麗華? いきなりどうしたの?」

 

「ともみ……なんかいきなり『ありえるわけないだろ』ってイラってした……」

 

「なんの電波?」

 

 

 

「………………」

 

「……律子さん? いきなりどうしたんですか?」

 

「小鳥さん……なんかいきなり『ありえるわけないでしょ』ってイラってして……」

 

「な、なんの電波ですか……?」

 

 

 

 

 

 

 さて、元々お互いに顔見知りだったということもあり、りんと俺の家族の顔合わせは滞りなく進んだ。

 

 前もって連絡しておいたから、母さんは宣言通りに大量の料理を用意しておいてくれた。早苗ねーちゃんの手伝いもあったとはいえ、よくもまぁこれだけの料理を作れたものである。

 

「……さて」

 

 そして料理のお皿を全て空にして、食後のデザートを持ってくると母さんが席を立ったところで兄貴が肘を突いて口元を手で隠す、所謂『ゲンドウポーズ』を取った。

 

「こうして折角りんちゃんも来てくれたのだから、早急に決めなければいけないことを話し合いたいと思う」

 

 早急に決めなければいけないこと?

 

「……入籍日、とか?」

 

「や、やだもうりょーくんってば……そ、それはお互いの活動が落ち着いてからって……」

 

「そーゆーのは一回後回し! いやそれはそれで間違ってないんだけどそうじゃない!」

 

 違ったらしい。

 

 

 

「『周藤良太郎』の恋人の存在を()()()()()()()()()って話だ」

 

 

 

「……え、公表するの?」

 

 兄貴の口から発せられた言葉の内容が予想外だったため、思わず呆気に取られてしまった。そこは『何が何でも隠し通せ』って念を押すところじゃないのか?

 

「勿論それが出来るのであればそれに越したことはない。だが現実的なことを考えるとそれは不可能だろう。ただでさえお前たちはプライベートだけでなく仕事の現場でも一緒になることが多い。不測の事態が起こったときのことを考えると『誰も知らなかった』よりは『知っている人がいる』方が何かと都合がいい。それにお前たちだってデートぐらいしたいだろ? そういうときに話を合わせてくれる協力者がいた方が便利だろう。あと秘密を共有してくれる人が多い方がお前たちも気が楽だと思うぞ」

 

「長い。三行で」

 

「ある程度周りに知られてた方が秘密にしやすい。

 口裏合わせてくれる協力者になってもらえる。

 その方がお前たちも気が楽」

 

「本当に三行に収まった……」

 

 なるほど、確かに言われてみればその通りだ。

 

「とりあえず今ここにいる周藤家の三人……あ、親父も入れれば四人か」

 

 そういえばまだ親父に話してないな……早苗ねーちゃん以上に血が繋がった家族のはずなのに……。

 

「あとはそうだな……お互いの事務所の人間は知っておいた方がいいだろうな」

 

「つまり123と1054か」

 

「ウチは麗華とともみと……あとはマネージャーぐらいかな。それ以外は事務所っていうか財閥の人間だから」

 

 123はともかく1054はかなりの人がいるように思われているが、芸能部門に限定すれば実は殆ど人がいなかったりする。元々麗華が『魔王エンジェル』のためだけに東豪寺財閥の中に立ち上げた部署だもんな。

 

「123はジュピターの三人と五人娘と、あとは留美さんだな」

 

「……そっか、まゆにも話しておいた方がいいわよね」

 

「りん?」

 

「んーん、何でもないよ」

 

 何故かまゆちゃんの名前を呟いたりんだったが、しかし気にすることはないと首を横に振った。お互いに『周藤良太郎』のファンとして中々語気強めではあるが楽しそうに話していたところを何度か見たことあるが……。

 

「あとはそうだな、外部の信頼できる人にも知っておいてもらった方がいいだろう。業界内外でそれぞれいてもいいな」

 

 ふむ、業界内外となると、一組はプライベートでの知り合いか。

 

「俺とりんの共通の知り合いってことも加味すると、恭也たち高町家にも話しとくべきだろうな」

 

 あとついでに俺たち共通の友人であり恭也の(暫定)嫁でもある月村にも。この辺りが俺たちのことを知ってくれていれば色々と協力してくれることだろう。

 

「あと業界内で信頼が出来るとなると……」

 

「まぁ、高木さんや律子ちゃんがいる765プロだろうな」

 

「そこが無難だな」

 

 765プロはそれこそ彼女たちが活躍する以前、もっと言うなら彼女たちが在籍する以前からの知り合いだ。高木さんもりっちゃんも所属アイドルのみんなも、俺に恋人が出来たからと言って周りに言いふらすなんて不利益な行動をする人物はいないだろう。

 

「……美希」

 

「ん? りん?」

 

「だから何でもないよー。……うん、なんでもない」

 

「……そっか」

 

 またしてもりんは首を横に振った。事情はよく分からないが、りんにも色々と思うところがあるのだろうか。

 

「どうする? 俺が123プロ公式の文書として連絡してやってもいいが」

 

「我ながら大事だとは自覚してるけど、それでも結局は俺の恋人のことだ。俺から直接連絡を入れるよ」

 

「……そうか」

 

 

 

 かくして『周藤良太郎に恋人が出来た』という衝撃の事実が一部の関係者に明かされることとなるのだが。

 

 それにより生じた新たな混乱は……また別のお話。

 

 

 

 えええぇぇぇえええぇぇぇえええぇぇぇ!!!???

 

 

 




・「恋人が出来た」
周藤良太郎、第一の爆弾!

・どの程度公表するか
こうして高町家と765プロ組は知ることとなる。

・まゆと美希
それは彼女が認めていた二人。



 というわけで本編終了後にようやく良太郎が恋人バレしたときの話です。本編でやるほどの長さが無かったため後回しになっていました。

 あと一話ほど続きます。次回は周りの反応集的なお話。

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