アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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あからさまに先週のアレが影響している恋仲○○です!


番外編69 もし○○と恋仲だったら 26

 

 

 

 それは、あり得るかもしれない可能性の話。

 

 

 

 

 

 

 いやホントに凄かったですね今回の十周年ライブは! 流石346プロといった豪華さですよホントなんですかあの素晴らしいライブは卯月ちゃんのアカペラから始まった瞬間から涙が溢れてしょうがないじゃないですかその後の未央ちゃんのミツボシも往年と変わらないキレの良さですよ素晴らしいですよ彼女だけじゃありませんまさかリップスの五人が全員ステージで揃う姿を再び見ることが出来る日が来るとは思っていませんでしたなんですかアレ美嘉ちゃんに至っては二児の母親とは思えないような若々しさでデビュー当時のカリスマギャルさ加減が何一つ衰えていないじゃないですかあのボディーラインは同じ女性として羨ましい限りですホント変わらないと言えば高垣楓さんの復活うううぅぅぅあり得ますか夢見たわけじゃないですよねちょっと頬を抓ってみてくださアダダダダちゃんと痛いですありがとうございます夢じゃありませんでした本当に高垣楓さんがあそこにいたんですねアイドルとしてだけではなく芸能界からも完全に引退してしまった高垣楓さんが目の前でこいかぜを歌ったんですよ一体なんの奇跡ですか今回のライブのアリーナ席が当たっただけでも奇跡だというのに奇跡のバーゲンセールじゃないですか自我と人間としての尊厳を保てたこと自体が奇跡ですよ隣に愛する人がいてくれたおかげでもありますね感謝してますりょーさんホントに!!!!!!

 

「うん、俺も愛してるよ、亜利沙」

 

「はわっ!?」

 

 

 

 

 

 

 346プロダクションの十周年記念ライブ終了後、車に戻ってくるや否や今まで溜め込んでいた分を一気に吐き出してヒートアップしたかと思ったら、一瞬で鎮火した。愛する人って言ってくれたから愛してるよって返したのに、相変わらず亜利沙はヨワヨワで可愛いなぁ。

 

「それはそうと、確かに凄かったな」

 

 興奮とはまた別の火照りで顔を赤くしている亜利沙ほど言葉を連ねることは出来ないが、それでも先ほどのライブが近年稀に見るクオリティの高さだったということは間違いなかった。

 

 十周年記念ライブということで、かつて346プロの黄金期の中心に立った卯月ちゃんや未央ちゃんだけでなく、既にマイクを置いた美嘉ちゃんや楓さんまで引っ張ってくるとは思わなかった。……美城さん、今頃いい顔してるだろうな。

 

「っと、これ以上の感想戦は移動しながらにしようか」

 

「そ、そうですね。それじゃありょーさん、よろしくお願いします」

 

「お願いされます」

 

 お互いにシートベルトを締めたことを確認すると、未だに興奮冷めやらぬ他のファンたちが多数存在する駐車場から出た。注意深くゆっくりと。

 

 

 

 

 

 

「……あのときの、木村夏樹さんのサプライズ登場! あれってやっぱりそうですよね!」

 

「四周年記念のときの再現だね。俺は参加出来なかったから、円盤で見たことあるよ」

 

「私もアレは現地出来ずに大変悔しい思いをしました……!」

 

「知ってる。散々愚痴られたの覚えてるよ」

 

「はわっ!? そそそそうでしたか!? そんな失礼なことを……!?」

 

「あの頃はまだ『周藤良太郎』じゃなくて『アイドル好きのりょーさん』だったから、仕方ない仕方ない」

 

 昔の思い出話と絡めつつ今日のライブの感想に華を咲かせる。二十歳を超えてプライベートではツインテールにしなくなった亜利沙だが、こうしてアイドルのことを喜々として語る姿は初めて出会った高校生の頃と何も変わっていない。

 

「……そういえば、まだその頃は私とりょーさんはただのアイドル仲間だったんですよね」

 

「その直後だったっけ、俺が亜利沙に正体バレしたの」

 

「はい。それはもう魂が抜け落ちたのではないかと錯覚するほど驚いたことを覚えてます」

 

 いや、あのときの人様にお見せできないような表情は本当に魂が抜けてたと思う。

 

「それが今こうして、一緒にライブに参加するような恋人同士になるなんてね」

 

 夢にも思わなかった……とは流石に言わない。俺も男なので、趣味の合う女友達とさらに仲良くなる夢ぐらいは見たりする。それが亜利沙のような美少女ならば猶更だ。

 

 流石にこれは少々気恥ずかしいので言わないでいたのだが、亜利沙は隣の席で「え、えっと……」と人差し指を合わせながら顔を赤らめていた。

 

「あ、ありさは、その……ちょ、ちょっとだけ、夢見てました……」

 

「……ん?」

 

「その頃の私は、その、一応アイドルをしつつも花の女子高生でもありましたので……共通の趣味が合って、変な面も知りつつ受け入れてくれて、無表情だけどカッコよくて、優しい年上の男性に……あ、憧れて妄想するぐらいの……嗜みは……その……」

 

 語尾がドンドンと小さくなっていくところがまた可愛くて、めっちゃ顔をガン見したくなってしまった。こんなときに限って信号で引っかからない。運転の手を休めることが出来ない。運がいいんだか悪いんだか。

 

 結局、信号で止まれた頃には亜利沙の赤面は治まってしまっていた。チクショウ。

 

 

 

 

 

 

「「かんぱーい!」」

 

 お互いの顔のことがあるため、外飲みではなく宅飲みを選んだ俺たちは、亜利沙の部屋でチューハイの缶をぶつけ合った。

 

「っ、ぷは~! 普段余り飲みませんけど、今日のお酒が美味しいってことぐらい分かりますよ!」

 

 多分今の一口で半分ぐらいを飲んだのだろう。下戸の亜利沙にしては結構いったな。

 

「セトリも公開されましたね! これだけで朝まで語り明かせそうです!」

 

「そんじゃまずはオープニングから振り返るか」

 

 カーペットに並んで座り、二人で肩を寄せ合いながらスマホの画面を覗き込む。

 

 朝まで行けるかどうかは分からないが、それでも亜利沙とならば語り明かすのは楽しかった。特に今回のライブは二人して一番嵌りまくっていた346プロ黄金期を中心としたライブだ。今日だけではなく昔の思い出話にも発展していくため、いくらでも話すことが出来そうだった。

 

「……本当に、既に引退してしまった人たちまで来てくれて、ありさは感謝の言葉しか言えません」

 

 余りの興奮に一人称が昔に戻った亜利沙は、ずびーっと勢いよく鼻をかんだ。

 

「そうだな。一度は事情でマイクを置いた彼女たちだ……それでも再びステージに立ちたいと思う何かがあって、戻って来てくれたんだろうな」

 

「……りょーさんも」

 

「ん?」

 

 

 

「……良太郎さんも、もう一度ステージに立ちたくなったりしましたか?」

 

 

 

「……まぁ、戻りたくないと言えば嘘になるよ」

 

 カシュッと新しい缶の蓋を開ける。

 

 ちゃんと理由があってステージを降りた身だ。未練はあっても悔いはない。

 

「寧ろ、亜利沙は俺にステージへ戻って欲しいか?」

 

「……私も『周藤良太郎』のステージをもう一度見たくないと言えば嘘になります」

 

 亜利沙にしては珍しく、三本目になる缶チューハイを開けた。

 

「でも、ありさは『周藤良太郎』よりも『アイドル好きのりょーさん』の方が好きになりました。貴方がそれを選んだのであれば、ありさはそれを全力で応援します」

 

 そう言って亜利沙はニヘリと笑った。顔は既にアルコールで真っ赤になっていて、先ほど見損ねた照れ顔には少々物足りないものの……それが今この瞬間、一番見たかった表情かもしれない。

 

「……亜利沙、酔ってるか?」

 

「へ? そうですね……ちょっとふわふわしてますけど、まだ意識はしっかりしてます! 何だったら、今ここで本田未央ちゃんのミツボシを歌って踊ることだって出来ますよ!」

 

 そこは自分の持ち歌じゃないのか……じゃなくて、酔いが回るから止めときなさい。

 

「それじゃあ、ちょっとだけ真面目な話をするぞ」

 

「ま、真面目な話ですか。分かりました、心して聞きます」

 

 ちょこんと居住まいを正して正座をする亜利沙。そんな小動物チックに動くところがまた可愛らしかった。

 

「亜利沙」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

「結婚しよう」

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

「別にアルコールの勢いってわけじゃなくて、本当はもうちょっといい雰囲気で言うつもりだったんだ」

 

 指輪を用意できていない以上そんなものただの言い訳にしかならないが、それでもしっかりと考えていたことだということは信じて欲しい。

 

 それでも、今この状況で、アイドルではなくただのアイドル好きとしての自分を好きと言ってくれた、この隣に座る一人の女性と、結婚したいと、そう強く思ってしまったのだ。

 

「アイドルを引退して、今ではただの裏側の人間で、ただの凡人だ。そんな俺だけど……」

 

「……本当に、いいんですか?」

 

 俺の言葉を遮った亜利沙の声は、震えていた。

 

「……例え、引退してもりょーさんは周藤良太郎です。そんな貴方に、私は……」

 

「『周藤良太郎』よりも『アイドル好きのりょーさん』だって先に言ってくれたのは亜利沙の方だぜ。俺はその告白の答えを、先延ばしにしてしまった答えを、今返しただけのつもりだったんだけどな」

 

 きっとこれ以上は言葉ではなく行動だと、彼女の体を抱きしめることで示す。

 

 未だに現役アイドルとしてステージに立っている亜利沙だが、それでも今の俺よりも華奢で柔らかい女の子の身体だった。

 

「寧ろ俺から言い出すのが遅くなってゴメン。こんな歳で既に余生を楽しむだけになっちまっただけのつまらない男だけど、それでもこの先亜利沙と一緒にいたいんだ」

 

 

 

 だから結婚して欲しい。

 

 

 

「……ありさで……ありさで良かったら。いくらでも……」

 

 

 

 

 

 

「っていうのがママとの馴れ初め」

 

「むっひょおおおぉぉぉ! ありがとうございます! ありがとうございます!」

 

「ちょっとパパ!? いきなり何を語り出してるんですか!?」

 

「推しと推しの馴れ初めからでしか得られない栄養素があるんです!」

 

「……って愛娘に言われちゃしょうがないだろ」

 

「もー!」

 

 

 




・十周年ライブ
現在どの時系列なのかとか良太郎と亜利沙が何歳なのかとか、そういう細かい設定は抜きでお願いします!フィーリングフィーリング!

・高垣楓
リアル泣き崩れたよ……。

・引退した良太郎
本編ではどうなるのかはまだ秘密。

・愛娘
書いてるときのイメージは完全にアグネスデジタルだった。



 というわけで今度こそきちんとした恋仲○○です。今回は地味に早期出演組だった亜利沙でした。

 亜利沙との恋仲はりょーさんとしてのお付き合いとか色々と妄想しました。一つのカップリングで二度おいしい!(もう片方は脳内だけ)

 リアルで色々あったため長々と番外編でお茶を濁させていただきましたが、次回からは本編に戻ります!いよいよ静香&ニコ編の解決編に入っていきます!

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