アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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ようやくたどり着くりんちゃん。


Lesson304 朝比奈りんは知りたい 2

 

 

 

 アタシ、朝比奈りんはずっと考えていた。どうしてりょーくんの過去を知るためとはいえ、あんな馬鹿みたいな条件を飲んでしまったのかと……朝からベッドで二日酔いに悩まされる頭を抱えながら、考えていた。

 

 ……いやどうしてもなにも、どう考えなくてもあの二人(バカ)のせいであり、そして自分のお酒の許容量を超えてしまったアタシ自身のせいだった。自分でもテキーラのショットが何杯も飲めるとは思っていなかったが、アタシが一杯を頑張って飲んでいる間に何であの二人は二杯も三杯もカパカパ飲めるのよ……。

 

 しかも「当然私たちも同じ条件だよねー?」と『一杯につき一つの質問』という約束を向こうからも要求されてしまい、結果二人から話を聞く以上にアタシとりょーくんのことを洗いざらい話す羽目になってしまった。

 

 結局アタシは時間をかけて飲んでも五杯でダウン。茄子が机に突っ伏したアタシに上着をかけてくれて、友紀が誰かに電話をしているところまでは覚えている。しかしそこから先に記憶が全くなく、気が付いたらりょーくんの部屋のベッドで横になっていた。

 

「……もしかして、りょーくんが迎えに来てくれた……?」

 

 この状況を考えるとその可能性が高く、それに気付いたアタシは頭痛とはまた別の意味で血の気が引いたような気がした。

 

 なにせ、りょーくんとお酒を飲む機会は多々あったものの酔い潰れる姿を見せたことはない。そもそも酔って記憶が無くなるという状況そのものが初めてだ。乙女の尊厳に関わるような粗相をしてしまっていないかという不安が過る。

 

「……とりあえず」

 

 顔を洗おう。

 

 

 

 

 

 

「奏、お前のユニットの相方の酔いどれ美人のお姉様が『俺の恋人が誰かを賭けの対象にした挙句、その答え合わせのために鷹富士茄子を泥酔させた上で賭けさせる』とかトンデモナイことをしでかしてくれたんだがどうなってんだ」

 

「知らないわよ」

 

 朝、テレビ局の廊下でたまたま一緒になったファッションキス魔の後輩に昨晩のことを愚痴るが、私には関係ないとばかりに全くの無関心だった。いや実際関係ないんだけど。

 

「ホントやることが豪快なんだよあの人、というかあの事務所の酒飲みのお姉様方。何回か一緒させてもらったことあるけど、半数以上が墜ちてからが本番とか結構怖いこと言ってたぞ」

 

「それに堕ちずに付き合う貴方も結構怖いけどね」

 

 母親に対して頑丈な身体に産んでくれたことを感謝したことは多々あるが、頑丈な肝臓に産んでくれたことを感謝する日が来るとは思わなかった。ザルで良かった。

 

「それにしても、なかなかいじらしいじゃない貴方の恋人も。慣れないお酒で無茶してまで、貴方のことを知りたかったってことでしょ?」

 

 クスクスと笑う奏。

 

「そこまでして知りたがってるのに、どうして教えてあげないのよ? それとも、知られたらマズいようなことでもあるの?」

 

「………………」

 

「……え、本当にあるの?」

 

 知られたらマズいというか……知らない方がいいというか……。

 

「なぁ奏、例えば――」

 

 

 

「――って感じなんだけど」

 

「ぜっっったいに! それ以上話すんじゃないわよ!?」

 

 軽く触りだけ説明してやったら、奏にしては珍しく全力の否定だった。やっぱり?

 

「っていうか、貴方のそれわざとでしょ!? わざとやってるでしょ!?」

 

「いや、だって折角だし」

 

 けどまぁ、やっぱり話さない方がいいということだけは分かった。

 

「ありがとう奏、お前のおかげだよ」

 

「こんなことで感謝されても嬉しくないわよ!」

 

「スマンスマン」

 

 珍しく全力で怒る奏を宥めつつ、やっぱりコレをりんに話すのは時期尚早だと再認識するのだった。

 

 

 

 

 

 

 着替えや洗顔やその他の身だしなみを整え終わった頃には、既に午前十一時を回ろうとしていた。今日がオフで本当に良かった……。

 

 勿論りょーくんもお義兄さんも早苗さんも、ついでに志希もお仕事なので既におらず、専業主婦であるお義母さんだけがリビングで掃除機をかけていた。フンフンと鼻歌交じりにチョコマカと動き回るお義母さんの姿を、りょーくんは「小学生のお手伝い」と称していたことを思い出した。

 

 ……いや、アタシもそれなりに小柄だという自覚はあるけど、まさか良子さんがそれ以上に小柄だとは思いもしなかった。というか早苗さんのことも考えると、周藤家の男性陣の女性の好みのようなものを垣間見たような気がした。

 

「ふんふ~ん……あっ、りんちゃんおはよー!」

 

「おはようございます、お義母さん。昨晩はご迷惑をかけてしまったようで、本当に申し訳ありませんでした……」

 

 リビングに入って来たアタシに気付いたお義母さんが声をかけてくれたので、挨拶もそこそこに迷惑をかけたことに対する謝罪をする。しかし予想通りといってはアレだが、お義母さんはそんなアタシに対して「そんなこと気にしなくていいよ~」といつものようにニコニコと笑っていた。

 

「それより気分はどう? 気持ち悪くない?」

 

「その、ちょっとだけ頭が……」

 

「今日の朝ご飯に作ったシジミの味噌汁がまだあるから、少し飲むー?」

 

「……いただきます」

 

「はいはーい! ちょっとだけ待っててねー!」

 

 将来の嫁としては酔って昼近くまで寝ていた挙句、お義母さんに色々とお世話をされてしまい結構凹む。というか別の意味で頭を抱えたくなる。

 

「はいどーぞ! 熱いから気を付けてねー!」

 

 リビングのソファーに腰を下ろすと同時に、お義母さんが味噌汁の器を箸と共にお盆に乗せて持ってきてくれた。

 

「本当にありがとうございます。……それで、その、少し昨日のことをお聞きしたいんですけど……」

 

「んー? なになにー? ベロベロに酔っ払ったりんちゃんをリョウ君が背負って帰ってきてー、そのまま部屋に行ったと思ったら『りょーくんだいしゅき~!』って大きな声が聞こえてきたことー?」

 

「すみません本当にすみませんごめんなさい」

 

 思わず両手で顔を覆ってしまった。今滅茶苦茶顔が熱い。普段からそれに近しいことを言っているという自覚はあるが、それを恋人の母親に聞かれてあまつさえ口に出して言われるのは精神的なダメージがデカすぎる。

 

「うふふー若いっていいねー。私もねー昔はお父さんとねー」

 

 ポッと赤く染まった頬に手を当ててイヤンイヤンと体をくねらせるお義母さん。……この人から年下扱いされることが、未だに慣れない……。

 

 とりあえず、予想通り昨日のアタシはりょーくんに連れて帰ってきてもらったらしい。きっと友紀が電話して呼んでくれたのだろう。でも礼は言わない。茄子ともども、いつか目にモノ見せてやる。

 

「そ、それで、その……りょーくん、どうでした? 呆れたりとか幻滅したりとか……」

 

「んーリョウ君に限ってそーゆーことはないと思うよー? 昨日もわざわざおんぶからお姫様抱っこに持ち替えてりんちゃんのおっぱいの感触楽しんでたぐらいだしー」

 

 やだもうりょーくんったら♡って喜ぶべきか、実の母親に対しても性癖が筒抜けであることに対して同情するべきか……。

 

「りょーくんのアレも小学五年生のときの……おーっと、おくちにチャーック」

 

「っ!?」

 

 気を抜いていたところに重要そうな情報が飛び出してきて、思わず目を剥いてしまった。肝心のお義母さんは口元で指をバッテンにしているためこれ以上聞き出せそうにないが、それをきっかけにして昨日の友紀と茄子との飲み会で得ることが出来た数少ない情報の一つを思い出した。

 

 

 

「お義母さん、りょーくんに恭也君や早苗さんや渋谷凛とはまた別に『もう一人幼馴染がいる』って本当ですか?」

 

 

 

 ――良太郎の過去を知ってそうな人ねぇ。

 

 ――幼馴染が何人かいるって聞いてますから、誰か知ってるんじゃないですか?

 

 ――良太郎の幼馴染といえば、なんか最近アイドルになった人がいるらしいじゃん。

 

 ――そういえば、765プロでデビューしたって言ってましたね。

 

 

 

 765プロでアイドルデビューした幼馴染。その存在をアタシは昨晩初めて知った。

 

 りょーくんもお義兄さんもお義母さんも話してくれなかったこの存在は、きっとりょーくんの過去を知る重要人物に違いない!

 

 

 

「え? うん」

 

 

 

 ……軽い!? えっ!? なんか予想してた反応と違うんだけど!?

 

「りんちゃん、知らなかったのー?」

 

「し、知らなかったですけど、え?」

 

「私、リョウ君からとっくに聞いてるものだとばかり思ってたんだけどー」

 

「えぇ!?」

 

 あれ!? もしかしてりょーくんから聞いてたのにアタシ忘れてる!? それともただ単に話を聞く機会が無かっただけ!? こんだけ一緒に生活してて!? そんなことある!?

 

「か、隠された存在とか、そーいうアレは……?」

 

「全然ないよー? 志希ちゃんも知ってるぐらいだから、りんちゃんも知ってるものだとばかりー」

 

「志希知ってるんですか!?」

 

 誰!? 『志希は流石に知っているわけないと判断して聞いていない』なんて言った奴は!? 前回のアタシだ!

 

 思わず頭を抱えてしまう。一体アタシは朝から何回頭を抱えればいいんだ。

 

「いつもウチがお世話になってるお肉屋さんの娘さんでねー、二階堂千鶴ちゃんっていうのー。765プロでアイドルになったらしいんだー」

 

「そ、そうなんですね……」

 

 765プロのアイドルという、友紀と茄子から教えてもらった情報とも一致する。

 

 お義母さん曰く、なんでもりょーくんが小学校低学年の頃からの付き合いになるらしく、昔は一人でいようとすることが多かったりょーくんをいつも気にかけていたお姉さん的な存在らしい。渋谷凛が妹分の幼馴染だとするならば、二階堂千鶴は姉貴分の幼馴染ということか。

 

(小学校低学年の頃からのりょーくんを知っている幼馴染……)

 

 彼女に会えば分かるかもしれない。りょーくんがひた隠しにする過去を。

 

 なら、会いに行こう。

 

 

 

 ……二日酔いが、収まってから……。

 

 

 

「あ、なら晩御飯のおつかいも頼んでいーい?」

 

「はい、分かりました……」

 

 

 




・テキーラのショット
みんなは合間合間にお水を飲みながら楽しんでね!

・酔いどれ美人のお姉様がしたトンデモナイこと
Lesson301で会話をした矢先にこんなことやってたっていう。
無茶だよ()

・「ぜっっったいに! それ以上話すんじゃないわよ!?」
奏さんブチギレ案件。

・周藤家の男性陣の女性の好み
父嫁 リトルマミー(バストサイズ大)
兄嫁 片桐早苗
弟嫁 朝比奈りん

・「え? うん」
リトルマミー「だって聞かれなかったしー」

・「志希知ってるんですか!?」
流石に良太郎の過去は知らないが、志希に話を聞いていれば飲み比べなんかしなくても千鶴の存在を知ることが出来たのである。



Q 今のりんの状況ってどうなってるの?

A またいずれ書くけど、両親公認の半同棲状態。着替えとかも置いてある。

 というわけでようやく前々話の終わりに繋がるところまで来ました。

 ただ真面目な話はしますがシリアスにはならない予定です。もうちょっとだけ良太郎の過去のアレコレが続くんじゃよ。

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