アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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カレンとカレンとナオとナオ。


Lesson293 ほんのりシアターデイズ 3

 

 

 

・シアターデイズ その3

 

 

 

「……それでお説教が二時間ぐらいになったんだけど、その間ずっと正座してる俺の膝にりんが腰かけて来るもんだから、色々な意味で大変でねぇ」

 

「とりあえず一発殴るね」

 

「やめて?」

 

 適当な話題として昨日の周藤家の一場面を話したら、突然凛ちゃんからの暴行宣言。その拳とともに疼くviolenceは抑えたままでいて欲しい。

 

「はぁ……全く、惚気れる相手が少ないからってそれをわざわざ私に話すってどういう神経してるのさ」

 

 呆れたように溜息を吐く凛ちゃん。確かに凛ちゃん含む渋谷家の面々は俺とりんのことを知っているが、だからと言って狙って惚気たわけじゃないぞ。コレだってたまたまそういうことになっただけで惚気たかったわけじゃないし。そもそも凛ちゃんが「最近りんさんとどうなの?」って聞いてきたから話したんだし。

 

「それに名前が同じ『りん』だから色々と変な感じするんだよね」

 

「それは確かに俺も思った」

 

 りんは『りん』で凛ちゃんは『凛ちゃん』だからまだ区別出来てるけど、もし俺が凛ちゃんのことを『凛』と呼んでいたら今頃色々と面倒くさいことになっていたことだろう。

 

 ……同じ名前と言えば。

 

「不思議なことに、346プロのアイドルって一人も苗字と名前が被ってないのって凄いよね。どんな確率なんだろう」

 

「良太郎さん、それ以上イケナイ」

 

 不思議だなーと一人感心していると、何故か神妙な面持ちの凛ちゃんが俺の肩に手を置いて静かに首を横に振った。まるでそれ以上この話題に触れると、何か良くないことが起こってしまうような、そんな何かを憂うような悲しい表情だった。

 

「でもその代わり、別の事務所だと同じ苗字や名前もそれなりにいるんだよね」

 

 1054の朝比奈りんと346の渋谷凛を筆頭に、例えば先日八神堂で知り合った765の真壁瑞希ちゃんも346の川島瑞樹さんと同じ名前だし。

 

 これだけ大勢いれば同じ名前のアイドルがいてもなにも珍しくないのだが、それでも何故か面白いと思ってしまう。

 

「いつか俺と同じ名前のアイドルもデビューする日が来るのかなぁ」

 

(プレッシャー凄そう……)

 

 

 

 さて、凛ちゃんとそんな雑談に興じつつチラリと時計に視線を向ける。

 

「それで、まだ遅れてるって?」

 

「ん……今ちょうどメッセージ来た。もうすぐ着くって」

 

 自分のスマホを覗く凛ちゃん。

 

 実は今日、凛ちゃんと奈緒ちゃんと加蓮ちゃんのトライアドプリムス三人をご飯に連れていく約束をしていたのだ。どうやら二人が乗ってくる予定だった電車が遅れていたらしいので、こうして車で一足先に拾った凛ちゃんと共に駅の改札出口前で待っていたのだ。

 

「適当な駅で降りてもらえれば、そのまま迎えに行ったのに」

 

「ただでさえ『周藤良太郎』を足にするっていうのに、それ以上の迷惑はかけられないって思ったんじゃない?」

 

「俺は気にしないのになー」

 

 今日だって『先輩として』というよりは『凛ちゃんの兄貴分として』妹の友人たちを食事に連れていくつもりだった。

 

「大先輩でトップアイドル相手に気にしない人はいないって」

 

「凛ちゃんも気にするの?」

 

「気にしてると思う?」

 

 先ほど助手席に乗るや否や「充電させて」とUSBポートに充電ケーブルを差した凛ちゃんの姿を思い出しながら首を横に振った。

 

「……あ、来たみたい」

 

 凛ちゃんの言葉に視線を改札の向こうへ向けると、こちらに気付いて小走りでやってくる奈緒ちゃんと加蓮ちゃんの姿が見えた。コケると危ないので焦らなくていいよと声をかける。

 

「ゆっくりでいいよー、奈緒ちゃーん、加蓮ちゃーん」

 

 

 

「へ? ……って、良太郎さんですやん。なんで私らが来るって知っとったんですか?」

 

 

 

「……ん?」

 

 すぐ側からかけられたそんな言葉。咄嗟に視線を向けると、そこにいたのは765プロの関西ガールだった。

 

「あれ? 奈緒ちゃん? 偶然だね」

 

「はい、偶然ですけど……え、今、良太郎さん私らの名前呼びましたよね?」

 

「え? いや、確かに奈緒ちゃんとは呼んだけどそれは……ん? ()()?」

 

 何やら話がかみ合っていないような気がしつつ、奈緒ちゃんの発した複数形の一人称が気になった。そういえば、金髪のなかなか派手な見た目の少女が奈緒ちゃんの影からチラチラとこちらを窺っている。

 

 ……なんか見覚えがある気がする。確か、765プロのシアター組の中にこんな子がいたような……。

 

「……あっ! 思い出した! ()()()ちゃんだ!」

 

「え? あ、はい、お待たせしました」

 

「……んん?」

 

 明らかに金髪少女の口から発せられていないその言葉は、いつの間にか改札を抜けてこちらに来ていた加蓮ちゃんのものだった。その後ろには何が起こっているのか分かっていない様子で首を傾げる奈緒ちゃんの姿も。

 

「……ねぇ良太郎さん、コレどういう状況?」

 

 ……うーむ……。

 

 

 

「……ナオちゃん」

 

「「なんですか?」」

 

 

 

「……カレンちゃん」

 

「はい?」

 

「ひぅ……!?」

 

 

 

「……こういう状況らしい」

 

「いやだからどういう状況?」

 

 俺にも分からん。

 

 

 

 

 

 

「さて、ちょっと落ち着いて整理しよう。お互いの自己紹介とか諸々を兼ねて」

 

 改札前はちょっとだけ目立つので、少しだけ隅に寄る。美少女が五人も揃っているので目立たないってことはないとは思うが。

 

 とりあえず今回の主目的ではない俺と凛ちゃんの紹介は一先ず置いておいて。

 

「こちらがコガネ弁の子がジムリーダーのアカネちゃん」

 

「はーい! うちが アカネちゃーん! え? うちに ちょうせん するの? ゆうとくけど うち めっちゃ つよいでー! ……って誰がコガネシティのジムリーダーやねん! 共通点関西弁だけやん! アカネだったら別のアイドルになってまうやろ!」

 

「「「「おぉ~……」」」」

 

「拍手やめぇ!」

 

 ゲーム内のセリフを忠実に引用しつつお手本のようなノリツッコミを披露してくれた奈緒ちゃんに、思わずトライアドの三人と共に拍手してしまった。

 

「改めて、765プロの横山奈緒ちゃん」

 

「はい横山奈緒ですー……もう、疲れることさせんといてぇな、良太郎さん」

 

 ゴメンゴメン。

 

「そしてこっちのとても眉毛な子が346プロの神谷奈緒ちゃん」

 

「おぉい!? 特徴を説明するにしてももうちょっとあるだろぉ!? もっとこう……もっとこうさぁ!?」

 

「奈緒、アイデンティティは大事にしてこ」

 

「やっかましぃわ!」

 

 自分でも何処を特徴にするべきかを悩んでしまったらしいが、それでもこちらの奈緒ちゃんからも加蓮ちゃんと一緒にツッコミを貰ってしまった。

 

「続いてこちらの『俺のサイン会で渡すつもりで小さい頃に書いていた手紙がまだ机の奥底に封印されている』という噂が似合いそうな子が346プロの北条加蓮ちゃん」

 

「奈緒おおおぉぉぉ!?」

 

「この噂の出所が私のわけねぇだろぉぉぉ!?」

 

 俺も噂自体はお酒の席で楓さんから聞いたものなので出所は知らない。しかし加蓮ちゃんの反応を見るに、あながち嘘というわけでもなさそうだった。

 

「また気が向いたときにでもいいから渡してくれると、俺は嬉しいんだけど」

 

「渡せるわけないじゃないですか……!?」

 

 両手で顔を覆いながら「いっそのこと土に埋めてやる……」と呻く加蓮ちゃん。それでもまだ破棄するという選択肢を選ばない辺り大変可愛らしいと思ってしまった。

 

 さて、これで俺の知っている範囲での紹介は終わった。

 

「それじゃあ……初めましてだよね?」

 

「ひぅ……!」

 

 一応初対面となる金髪少女に声をかけると、彼女は一瞬たじろぎ何かに助けを求めるようにキョロキョロと視線を彷徨わせた。……なんだろう、この反応、雪歩ちゃんや智絵里ちゃんを見ているようだ……。

 

「ほら可憐、頑張りぃ」

 

「は、はいぃ……」

 

 奈緒ちゃんにポンッと軽く背中を押され、意を決したように少女は一歩前に出た。

 

「え、えっと、その……な、765プロダクション所属の、し、篠宮可憐です……」

 

 オズオズと自己紹介をする金髪少女改め可憐ちゃん。こう言ってはアレかもしれないが、派手な見た目とは裏腹に随分と気弱そうな子である。多分今全力で「がおぉぉぉ!」とかやったら盛大にビビってくれそう。ちょっとだけ悪戯心が湧いて来る。

 

 あと意外と胸がデカいのもいいね! 多分貴音ちゃんぐらいあるぞ!

 

 そんなちょっとした疑問をちょろっと奈緒ちゃんに聞いてみる。

 

「なんで私に聞いたんですか」

 

 間違えた。346じゃなくて765の奈緒ちゃんに聞いてみる。

 

 奈緒ちゃん曰く、どうやら『気弱な自分を少しでも変えたい』という想いの表れらしい。

 

「確かに今は衣装が変わると性能もガラリと変わる時代だからな」

 

「良太郎さんはなんの話をしてるのさ……」

 

「そりゃあ可憐ちゃんの話だよ」

 

「カレンチャンにはまだ新衣装来てないですよ」

 

「え? 私の新衣装、もう来たよ? 奈緒にも写真見せたじゃん」

 

「ん? 今私のこと呼んだ?」

 

「い、いえ、今のは奈緒さんのことでは、ないと思います……」

 

 えぇい、色々とややこしい! 台本形式じゃないんだから一度に喋らないで! 今回に限っては台本形式でもややこしいことになってたと思うけど!

 

「って、今『自分を変えたい』から派手な格好をしてるって言った?」

 

「わ、私は言ってませんけど……そ、そうです……」

 

 何やらキュピーンと目を光らせた加蓮ちゃんが、一歩後退ろうとした可憐ちゃんの手を掴んだ。

 

「そっかそっか。じゃあさ……『ギャル』とか、興味ない?」

 

「……え?」

 

「似合うと思うんだよねぇ~! 前にウチの事務所の晴ちゃんにギャルファッションさせようとして逃げられたことがあってさ~! ちょっとだけフラストレーション溜まってるんだよね~!」

 

 めっちゃ目がキラキラ光ってる加蓮ちゃんにガッツリと手を握られていて逃げられない可憐ちゃん。助けを求める目でこちらを見ていたが、二人の奈緒ちゃんと共に黙って首を横に振りつつ人差し指と中指を交差させる。

 

「それじゃあ早速行こうか!」

 

「え、えぇ~!?」

 

「ちょっ、加蓮!? お前何処行くつもりだよ!?」

 

「……えっと、奈緒さん、いいんですか?」

 

「まぁ私たちもたまたま一緒にご飯食べに行くことになっとっただけで、特に用事があったわけでもあらへんから」

 

「それじゃあ、お互いにちょっとだけ予定変更だね」

 

 可憐ちゃんの手を引いて歩き出した加蓮ちゃんを追いかける奈緒ちゃん。そんな三人をりんちゃんと奈緒ちゃんと共に歩きながらのんびりと追いかける。

 

 晩御飯は少しだけ遅くなりそうだけど、凛ちゃんたちの楽しそうな姿を見れるのであれば良しとしよう。

 

 

 

 ちなみに俺が『周藤良太郎』だということを明かすのをすっかり忘れていたため、一緒に食事をした際に眼鏡と帽子を外して結果的に盛大にビビらせることになってしまった。本当にごめんなさい。




・疼くviolenceは抑えたままで
コブラじゃねーか!

・346プロのアイドルって一人も苗字と名前が被ってない
ふしぎだなー()

・ジムリーダーのアカネちゃん
苦戦した記憶が無いのは、多分作者が安全マージン多めに取ってジム戦に挑むタイプだからだと思われる。

・篠宮可憐
Lesson252で名前だけ出ていましたが、今回改めて登場。
ちちがデカいぞ!

・衣装が変わると性能もガラリと変わる
・カレンチャン
皆さんはトレーナー生活いかがお過ごしですか?
作者はキタサンピックアップで力を使い果たして瀕死です()

・晴ちゃんにギャルファッションさせようとして
デレステの1コマ劇場『結城晴②』参照。

・人差し指と中指を交差させる
Good luck!



 台本形式でもややこしい会話を地の文すら挟まずにさせるという蛮行()

 というわけでWカレンとWナオのお話でした。可憐ももっと登場させてあげたかったんだけど……その……ね? エピソードが雪歩や智絵里と被りそうで……。

 ただ恋仲○○させたいぐらいには興味があるよ!

 次回、聖母降臨(予定)



・どうでもよくない小話

 スターリットシーズンに楓さん参戦! ……PCの買い替え時かなぁ……。



・どうでもいい小話

 実はR18書き始めたよってことをすっかり告知し忘れてた。

 他サイトだし、別名義だし、ただの性癖垂れ流しだし、アイ転関係ないですけど、一応ツイッターから簡単に辿り着けるようになっています。おねショタはいいぞ。

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