アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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大人組とのお話!


Lesson292 ほんのりシアターデイズ 2

 

 

 

・シアターデイズ その2

 

 

 

「それじゃあ、今日のレッスンお疲れ様でした~!」

 

 

 

「「「「かんぱ~い!」」」」

 

 

 

「……っぷはぁ! やっぱり寒くなっても生ビールは美味しいわねぇ!」

 

「……やっぱりこのみさんがジョッキを呷ってる姿は、その、なんというか……」

 

「と、とても、その……」

 

「風花ちゃん? 歌織ちゃん? 貴女たちは何を言いたいのかしら? 怒らないからお姉さんに言ってみなさい?」

 

「中学生が子どもビールを飲んでるみたいですわね」

 

「言ったわね!? 二人が言葉を濁したことを、千鶴ちゃん貴女言ったわね!?」

 

 だってそういう風にしか見えないんだから仕方がないじゃないですの。

 

「まぁまぁ! そんなこのみ姉さんも可愛いんだから!」

 

「莉緒ちゃんはフォローするならもうちょっと丁寧にフォローして! 雑すぎるのよ!」

 

 プンスコという擬音が聞こえてきそうなこのみさんの隣に座る百瀬(ももせ)莉緒(りお)さんが、彼女の肩を「まぁまぁ」と言いながら軽く揉んだ。

 

 

 

 さて、今日はシアター組の成人五人で一日のレッスンを終えて居酒屋へとやって来た。本当は同じく成人を迎えている麗花も誘う予定だったのだが、生憎予定があったらしく茜を小脇に抱えて何処かへ行ってしまった。……茜が無事だといいのだけれど。

 

「それにしてもいい店ですね。『しんでれら』でしたっけ」

 

「変わった名前だけど、落ち着いた雰囲気ですね」

 

 未だに中身を半分も飲んでいないグラスを両手で持ったまま、風花と歌織さんがキョロキョロと店内を見渡す。

 

 たまたま見つけて名前が面白いからという理由で入った赤提灯の居酒屋だったが、まさかの隠れ家的な雰囲気で大当たりだった。お客さんが少なく、かといって廃れているという印象もない。お酒や料理の種類が豊富で、値段も特別高いわけでもない。まさしく知る人ぞ知るお店って感じだった。

 

「なんとなくだけど、こういうお店を芸能人がよく利用するんでしょうね」

 

 風花は少しだけソワソワした様子だ。この子、結構ミーハーなところあるから、そういうことを少しだけ期待しているのだろう。

 

「でもまぁ、そんな都合よく芸能人がやってくるなんてことあるわけが……」

 

 

 

「こんばんわー、いつものお願いしまーす」

 

 

 

 ガラガラとお店の引き戸が開く音と共に聞こえてきたその声を、私が聞き間違えるはずが無い。入店してきた孤独なsilhouetteは、紛れもなく良太郎(やつ)だった。

 

「……良かったですわね風花、お望み通り芸能人が来ましたわよ」

 

「えっ!? だ、誰ですか!?」

 

「んー? 今入って来たお兄さん?」

 

「……あら? あの人、確か……」

 

「げっ……」

 

 風花はあたふたと、莉緒さんは首を傾げながらたった今入店してきた人へと視線を向ける。歌織さんはなんとなく気付いている様子で、何度も交流があるこのみさんは露骨に嫌そうな顔をした。……なんというか()()()()()でこうも反応に違いがあるのも面白いですわね。

 

「……ん? おや聞き覚えのあるSilent voiceがすると思ったら、千鶴じゃないか。それにこのみさんに歌織さんも」

 

「こんばんは、良太郎さん」

 

「……はぁ、こんばんは」

 

 こちらに気が付いた良太郎が変装状態のまま声をかけてくる。挨拶を返す歌織さんとこのみさんだが、相変わらずその正体に気付いていない風花と莉緒さんは疑問符を浮かべたままだった。

 

「えっと……千鶴さんたちのお知り合いの方なんですか?」

 

「まぁそうですわね。知名度という点では貴女たちも知ってるはずですけど」

 

「?」

 

 良太郎は現在変装中。この二人に正体を明かすつもりなのかどうかが分からないため、私からは正体に関しては口を噤む。未来たちみたいにリョーさんで通す可能性もあるし。

 

「なるほど、シアター組の飲み会ですか。……おや、風花ちゃんもいるじゃん久しぶり」

 

「えぇ!?」

 

 突然フランクに声をかけられた風花が驚いていた。

 

「わわ、私、どこかでお会いしたことありますか……!? か、勘違いとかではなく……!?」

 

「勿論、俺がそのおっきな胸を見間違えるはずないよ」

 

 それを堂々と言い切る胆力は本当に凄いと思う。

 

 そしてそんなことを言われて隠すように自身の胸部を腕で抱いた風花に対して、良太郎はさらにこう言った。

 

「『ガン見してた俺が言うのもアレですけど、もう少しこーいう視線に慣れた方がいいんじゃないですかね、職業的にも』」

 

「……え? あ、あれ?」

 

 風花は良太郎の言葉に何か思い当たることがあるらしい。

 

「そうそう、ルーズリーフに書いたサイン、まだ残ってますか?」

 

「……ルーズリーフの、サイン……って、ままま、まさか……周藤りょっ!?」

 

 ついにその正体に気付いた風花が良太郎の名前を叫ぶ前に間一髪後ろから口を塞いでそれを阻止する。

 

「えー!? 風花ちゃんも知り合いなのー!? 私だけ仲間ハズレじゃない! 結局このお兄さんは誰なの!?」

 

「周藤良太郎です」

 

「「軽っ!?」」

 

 あっさりと伊達眼鏡を外して正体を明かした良太郎に対して、思わずこのみさんと声が被ってしまった。

 

 

 

 

 

 

「わー! わー! 本当に周藤良太郎なんだー! ねぇねぇ! 握手してもらっていい!?」

 

「そりゃもう、いくらでも」

 

 テンションの高いお姉さんことシアター組の百瀬莉緒さんとの握手に応じる。握手一つで凄い喜んでくれたが、正体を明かしてこういう新鮮な反応をされるのが久しぶりだったから俺もちょっと嬉しかった。……うーん至近距離だと余計に莉緒さんの広い胸元が良く見える!

 

「……それにしてもなんだろう、なんとなく莉緒さんは俺の大学の先輩だったような気がするんですけど」

 

「奇遇ね、私も何故か良太郎君が大学の後輩だったような気がするわ」

 

「貴方たちは一体なんの話をしてますの?」

 

 前世というか、無かったことにされた過去……?

 

「というか、貴方でも一人で居酒屋に入ることがあるんですのね」

 

「そりゃ俺だって一人で飲みたいときぐらいあるよ」

 

 この『しんでれら』は以前見付けたときからちょくちょく利用させてもらっていて、お店の人と仲良くなってボトルキープしてるぐらいなんだから。

 

 結局流れで一緒の席に着くことになりその目的は果たせなかったが、美人のお姉さんたちに囲まれてお酒が飲めるのだから断る理由は一切なかった。

 

「それにしても既に風花ちゃんとも知り合いだったのね」

 

「数年前、ライブ後にぶっ倒れて二泊三日の検査入院したときにちょっとね」

 

「さらっと凄いこと言ったわね!?」

 

「そんなことがあったんですか!?」

 

 このみさんと歌織さんが驚いている。あれ? あのとき入院したって世間に公表してなかったっけ?

 

「そんでそのとき検温に来てくれたのが前職時代の風花ちゃん。大乳(いいもの)見せてもらったお礼とお詫びに、たまたまその場にあったルーズリーフにサイン書いてあげたんですよ。ね?」

 

「は、はい! あのときのサインは、まだ額縁に入れて飾ってあります! ……あっ、注ぎますね」

 

「おっと、ありがとうございます」

 

 恥ずかしそうに笑う風花ちゃん。うーん、アレだけ胸をガン見されたというのに、隣でお酌してくれるなんて本当にいい子。年上なのに年下のような、このみさんのそれとはまた違った雰囲気を醸し出している。

 

「……随分と良い御身分ですわね、良太郎」

 

「まぁ確かに身分的には割と良い位置にいるとは思うけど」

 

 自分で言っちゃうけどこれでもアイドル界の重鎮ぞ? 日高舞と並んで日本における近代アイドルの礎を築いた中心人物ぞ? 一部のアイドルスクールだと既に座学のテキストに乗っちゃうレベルぞ?

 

 しかしなにやら含みを持たせた千鶴の物言いだが、一体何事だろうか。

 

 

 

「流石に恋人よりも風花の胸の方が大きいに決まってますわよね?」

 

「いや、多分負けてないと思うけ、ど……」

 

 

 

 ……なるほどなぁ~これを引き出すためだったかぁ~。

 

「なるほど、風花に負けない胸の大きさと……特定しましたわ」

 

「えっ、早くない?」

 

 確かに風花ちゃん結構な大乳だけど、流石に判断材料としては少なすぎる気がする。

 

「貴方一度自分の女性関係見直してみてはいかが?」

 

「多すぎて見直すどころじゃねぇんだけど」

 

「……そういえば貴方は()()()()()()を認識できないんでしたわね」

 

 やめろよー悲しいものを見る目で見るんじゃないよーこれでも結構必死に改善の努力をしている真っ最中なんだぞー。

 

「……はっ!? え、余りにも衝撃的な会話をしてて意識がトんでたけど、なに、良太郎君、()()の!?」

 

「そそそ、そうなんですか!?」

 

「び、びっくりしました……」

 

「うわ聞きたくなかった……絶対面倒ごとじゃない……」

 

 『周藤良太郎に恋人がいる』という情報にフリーズしていた四人が再起動した。ただこのみさんだけリアクションが違う気がする。

 

「はい、いますよ。まだオフレコでお願いしますね」

 

 この場にいる全員がアイドルだから言いふらすようなことはしないと思うが一応口止めをしておいた。

 

 以前ニコちゃん経由で奏と楓さんに恋人がいることがバレたこともあってニコちゃんには口止めをしておいたが、それでもそろそろ俺の知り合い連中には広まりつつある気がする。世間的にはバレてもまだゴシップの一種として扱われるだろうからいいけど、そろそろ時間の問題かなぁ。

 

「はぁ~残念だなぁ~! もし良太郎君がフリーだったら、お姉さん立候補してあげようかなって思ってたのに~!」

 

 リップサービスだと分かっていても大変嬉しいことを言ってくれる莉緒さん。

 

「ありがとうございます。だけど莉緒さんは素敵な女性ですから、俺なんかよりももっと素敵な男性が相応しいですよ」

 

 なので俺もリップサービスで返そうと思ったけど、莉緒さんが素敵な女性だということは事実だからリップサービスじゃなくてただの褒め言葉だった。

 

「……そ、そう……?」

 

「えっ、莉緒ちゃん貴女チョロくない……?」

 

「だ、だって周藤良太郎に褒められれば誰だってこうなるでしょ……!?」

 

「え? どういうこと?」

 

 あたふたと可愛らしく慌てる莉緒さんに対して、このみさんが本当に理解していない怪訝そうな顔をしていた。ダメだ、もう手遅れだ、このみさんの中では既に『周藤良太郎』がトップアイドルだという事実が忘却の彼方……!

 

 

 

「………………」

 

(……千鶴ちゃん、風花ちゃんどうしたのかしら、急に背筋伸ばして……)

 

(相手に恋人がいるいない抜きにしても、ちょっとでも『大ファンのアイドルに褒めて貰いたい』っていう乙女心ですわね)

 

(まぁ……ふふっ、風花ちゃん可愛い)

 

 

 

 その後、お店の迷惑にならない程度にワイワイと盛り上がりながら、俺は大乳なアイドルのお姉様方に囲まれながらお酒を楽しみましたとさ。

 

 

 

 

 

 

「……というのが昨晩のお話になります」

 

「りょーくん、ちょっとそこに正座して♡」

 

「はい」

 

 

 




・百瀬莉緒
『アイドルマスターミリオンライブ』の登場キャラ。
シアター組の何故かモテないセクシーお姉様な23歳。
なんとなく大きいイメージだったけど、実は千鶴よりも小ぶりだと知ってちょっとショックを受けた。
……なるほどまた逆サバか。

・『しんでれら』
ついに本編登場の例の居酒屋。良太郎は既に常連。
また好きなキャラだけぶっこんで全員酔わせる番外編とか書きてぇなぁ!

・孤独なsilhouetteは、紛れもなくやつ
・Silent voice
なんだアイマスか……。

・莉緒さんは俺の大学の先輩だったような気がする
実は一度そういう設定で黄色の短編集のお話を描いたのですが、莉緒の年齢を勘違いしてそれを読者の方に指摘されたので削除したという経緯があります。

・二泊三日の検査入院
Lesson73と番外編21参照。

・恋人よりも風花の胸の方が大きい
りんの公式サイズがないので独自設定になりますが、多分拓海ぐらいはあるんじゃないかと思ってる。



 風花との再会&りおねぇの初登場回でしたとさ。

 初登場時からそうでしたが、風花は結構なりょーいん患者です。重症患者たちの影に隠れてこっそりグッズを買い揃えてるレベルです。……なのに何故ここまで登場させなかったんだ……!(後悔

 次回はデレミリ名前被り組です。(前回登場のまかべーは残念ながら……)

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