※今回少しだけ苦言が飛んできそうな描写がありますが、あとがきに補足がありますのでそちらにも是非目を通してください。
「えっと、それじゃあね~これは? こーゆー衣装可愛くない?」
「ん~? どれどれ~?」
「………………」
「音符とハートが静香ちゃんと未来のイメージになってるの! スカートの色も三人のイメージカラーに分けてるんだよ~!」
「わっ! 翼、絵上手い!」
「………………」
「ねぇねぇ、静香ちゃん! これどう!? ……あれ?」
「可愛いよね! ……あれ?」
「………………」
「「……静香ちゃん!」」
「わっ!?」
突然大声で名前を呼ばれ、ビックリして顔を上げる。周りを見渡す間もなく、未来と翼が真正面から私の顔を覗き込んでいた。
「静香ちゃん聞いてるのー?」
「ぼーっとしてどうしたの? お仕事疲れてる?」
自分の話を聞いていなかったことに対して抗議するように頬を膨らませる翼と、私が疲れているのではないかと心配そうな表情を浮かべる未来。
「ご、ごめんなさい。別のことを考えてて……」
「もーちゃんと聞いてよねー! 私たち三人のユニットに関することなんだから!」
「あははっ! 静香ちゃんってば、考え事しながら手を動かしてたから絵が変なことになってるよ!」
未来が私の手元の紙を見て笑っているが、はてと首を傾げる。
「ちゃんと描けてるわよ?」
「「え?」」
そう、これこそ私が三日三晩考え抜いた私たち三人のユニットのトレードマーク!
「コンセプトは『断崖絶壁を登るような新しい時代への挑戦』よ!」
「……えぇ? な、なにその絵……?」
「なんか、都市伝説の特番で見たチュパカブラっていう生き物みたい……」
ふふふっ、余りにも斬新なイラストに二人とも言葉を失ってしまったみたいね。
「………………」
私のイラストをしげしげと眺める二人の姿を眺めつつ、私は一人再び思考の海に沈んでいく。
それはつい先ほど、劇場で未来と翼を待っていたときのことである。
「サインくださいっ!」
「ず、
ビックリするぐらいキレイに腰を九十度曲げて頭を下げて、両手で持った色紙を私に真っ直ぐに差し出している少女。この状況だけを見れば、熱心なファンからサインを求められているところである。
まぁ確かに『熱心なファン』であることには変わらないんだけど……。
「え、えっと、そこまで畏まらなくてもサインぐらいしますよ……ツバサさん」
「いや! アイドルからサインを貰うときには最大限の敬意を払うのがファンとしての私のモットーなので!」
……スクールアイドルとはいえ、貴女もアイドルでしょう……? いやファンでも間違ってないんだけど……。
「本当にウチのツバサがスマン……」
「この子本当に静香さんのことが大好きでー」
ツバサさんの後ろに立っている彼女のユニットメンバーである英玲奈さんとあんじゅさんに視線で助けを求めるが、英玲奈さんは申し訳なさそうに頭を下げ、あんじゅさんは困ったように笑っていた。
いや、サインすること自体は別にいいんですけどね……なんというか、いつも低姿勢すぎてヘッドスライディングでもしてくるんじゃないかって戸惑っちゃうのよね……。
とりあえずツバサさんから色紙と一緒にサインペンを受け取り、最近になって書く機会が一段と増えた自分のサインを書く。
「……はい、どうぞツバサさん」
「あぁ! ありがとうございます! 静香ちゃん! これも家宝にするね!」
「でもサインっていうなら、寧ろ私も貴女たち三人のサインも貰いたいです。ね? 今人気急上昇中スクールアイドル『A-RISE』の皆さん?」
そんな私の言葉に対し、目を輝かせながら私のサインを見つめていたツバサさんは照れた様子ではにかんだ。
「いや~そんなそんな……」
「お褒めの言葉は大変ありがたいけど」
「私たちなんてまだまだだからー」
彼女たちは謙遜した様子でそんなことを言うが、実際凄いと思う。未だに公式で立ったステージは765プロの劇場でしかないというのに、この知名度と人気だ。正式に彼女たちの高校であるUTX学園のスクールアイドルとして活動を始めたら、一体どれほどのカリスマを発揮することになるのだろうか。
「
……ん?
「かの有名な天海春香さんたちも
……んん?
「ふふふっ、今から
……んんん?
「あっ! 長々と時間を取っちゃってゴメンね! これから打ち合わせだったったけ?」
「……え、あ、はい」
「私たちもこれから東豪寺の方に戻っての打ち合わせがあるから、これで」
「失礼しまーす」
振り返りながらブンブンと全力で手を振るツバサさんと、そんなツバサさんが壁にぶつからないように手を引く英玲奈さんと背中を押すあんじゅさん。
そんな三人に対して私も手を振りながら……しばらく三人の言葉の意味を考えてしまうのだった。
(スクールアイドルを軽視してる……っていうことは、流石にないと思うけど)
軽視ではない。スクールアイドルを下に見ているわけじゃなくて、多分自分たちの立ち位置よりも
『慢心』ではなく『余裕』。いや、きっと余裕だとすら思っていない。そもそも彼女たちはUTX学園芸能科の生徒。東豪寺麗華の下に『アイドルになるため』に入学した人たちだ。最初から決めている目標から違っている。
だからこれはきっと、彼女たちにとっては三年間の『実地試験』なんだ。
(……本当にそれでいいのかしら)
そう考えてしまうのは、私がまだ世間を知らない子どもだからなのだろうか。
「……あっ! 分かった! こっちが足だ!」
「……え? いやそっちは尻尾よ」
「えぇぇぇ!? これ尻尾ぉ!?」
「し、静香ちゃんの絵がハイセンスすぎて分からない……」
どうやら私がツバサさんたちのことで考え事をしている間に、翼と未来は私のイラストをじっくりと観察してくれていたようだ。それでもまだ理解には至っていないらしい。
「ふふっ、二人ともまだまだね」
「え、これ私たちのレベルが低いって話になるの?」
「なんか釈然としない……」
「おっ、楽しそうだな仲良しトリオ」
二人に対して懇切丁寧にイラストを説明しているとプロデューサーがやって来た。
「それじゃあそろそろミーティングを始めるぞ。まずは三人が
「そんなことよりプロデューサー!」
「そんなことより!? えっ!? 俺今めっちゃ大事なこと言ったよ!?」
「プロデューサーはこの絵、何に見えますか!?」
「いやそもそもコレの手と足って何処だと思いますか!?」
「はぁ? ……手がこっちで足がこっちで、コレは尻尾か?」
「「嘘でしょ!? なんで分かるの!?」」
ふふっ、やっぱり分かる人には分かるのね。
「……ということで、ついに私たちのユニットの初ステージが決まりました!」
「おぉ、おめでとう」
十月の定期公演終了後。久しぶりに定期公演をゆっくりと鑑賞することが出来た俺は、先ほどまでステージに立っていた未来ちゃんと劇場裏で少しだけお喋りをしていた。
一応ただのファンとして来ている身分の癖に随分と生意気なことをしているじゃないかと思われかねないが、未来ちゃん本人からのお呼ばれがあったのだ。多分この初ステージが嬉しくて直接報告したくなったのだろう。相変わらずバ可愛い妹枠である。
「ユニット名は?」
「えっとですね……はっ!? ダメです!
「うん、良く出来ました」
以前俺が言ったことを覚えていてくれたようで、自分の口元で人差し指をバッテンにした未来ちゃんの頭を撫でる。
「十二月の定期公演の予定なんですけど、リョーさんは来れますか?」
「うーん、どうだろうなぁ……年末年始は忙しいからなぁ」
これからの時期は年末年始のイベントで忙しく、今も特番の収録が増えてきているので来月の定期公演すら顔を出せるかどうか怪しいことになってきている。
「予定が空いてたら勿論観に来るけど、約束は出来そうにないや。ゴメン」
「そうですか……ちょっと寂しいですけど、そう言ってくれるだけで嬉しいです」
寂しそうな笑顔にいじらしい言葉。なんというか大型犬もかくやという勢いで撫で繰り回したい衝動に駆られるが、女子中学生相手にそれをやれば事案である。最近事案の地雷が多いなぁ……。
「そういえば、今日はニコちゃんさん来てなかったですね」
先日の遊園地の一件でニコちゃんのことを認知した未来ちゃん。どうやら今日の観客席に彼女の姿がいなかったことに気付いていたらしい。
「ニコちゃんも今はちょっと忙しいらしいからね。アルバイトとか練習とか」
「そうなんですね……ん? アルバイトはともかくとして、練習?」
「そう、スクールアイドルの」
「えぇ!? そうなんですか!?」
別に口止めされていないからという言い訳のもと、一応共通の知り合いである未来ちゃんにはその情報をリークしてみた。
「いつ頃デビューとかは聞いてないんですか!?」
「まだ聞いてないなぁ。あっ、アルバイト先知ってるから聞いてみる? というか千鶴の実家なんだけど」
「千鶴さんの実家!? もー! なんでそういうことは早く教えてくれないんですか!」
「はっはっはっ、ごめんごめん」
さらに未来ちゃん相手にならばニコちゃんも口を開くのではないかという企みからさらに情報をリークする。
「そっかー! それじゃあ今度千鶴さんにお願いして、お店に行っちゃおっかなー!」
「うんうん。デビューの日程が聞き出せたら是非俺にも教えてね」
ふふふ……覚悟しておくがいいニコちゃん。俺の武器は、たまに自分でも訳分からなくなる人脈だ! 何処から知り合いが飛んでくるか分からないぞ!
「でへへ~! 自分のステージも楽しみだし、ニコちゃんさんのステージも楽しみ! 私今、すっごい楽しい!」
最近はやや涼しくなってきたが、幸せそうにニコニコ笑う未来ちゃんを見ていると心がほっこりと暖かくなるのだった。
・『断崖絶壁を登るような新しい時代への挑戦』
個人的にミリを知らないPへ真っ先に聞かせたい曲No1
・「
ウルトラマンゼェェェット!
・アライズのスクールアイドル観
色々と言われそうなところではありますが、
『スクールアイドルが登場し始めてから一年未満』
『まだラブライブ開催どころか社会全体に熱が浸透しきっていない』
『全体のレベルが圧倒的に低い』
ということを留意していただけるとありがたいです。
プロ野球選手目指してる人に『甲子園が無い高校野球の地方大会だけで頑張ってね』って言ってモチベを保たせるのが無理な話なんすよ()
じゃあなんで麗華さんこんなことさせてるのっていう話ですが、明かされるのはラブライブ編の終盤だから多分リアルでニ三年後カナ(目逸らし)
ちなみにそれに関する伏線自体はしっかりと六章の序盤から投げてあるので……。