アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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ここでオリチャー発動!


Lesson271 灼熱の特訓! の巻

 

 

 

『……というわけで、私と静香ちゃんと翼の三人ユニットは、ひと夏の夢と消えました……』

 

「まだ夏休み中だろうから、ひと夏の夢にすらなってない気がするんだけど」

 

 夜に未来ちゃんから電話がかかって来たので何事かと思えば、なんてことはない女子中学生の愚痴だった。確かにアイドルとしての正体を明かしてない以上、未来ちゃんとは友人の間柄なので気軽に電話してくること自体は何も問題はないんだけどさ。俺以外にその対象いなかったのかな?

 

「まぁアイドルをやってればいずれユニットを組む機会はあるだろうし、今はソロでの活動に力を入れるべきっていうのは間違いないから。頑張れアイドル春日未来」

 

『……うん、そうですよね! 頑張ります!』

 

 うん、元気があって大変よろしい。ただ夜の時間だということと、俺がスマホを耳に当てているということを考慮してもらいたかったかな。耳がキーンとした。

 

「それにしても……そうか、765のシアター組も参加オーディションを受けるのか」

 

『リョーさんも夏フェスのこと知ってるんですか?』

 

「勿論、アイドル好きの二つ名は伊達じゃないよ」

 

 というか、123(ウチ)からもケットシーの二人と美優さんが参加予定だからね。折角久しぶりの芸能事務所合同イベントなんだから、ウチが参加しないわけにはいかないでしょう。ちなみに俺を含めて他の六人は別件で不参加。仕方ないね。

 

「そしてこれもあんまり外部の人に言わない方がいいことだから、今後は気を付けてね」

 

『えっ!? それじゃあ1054プロダクションのアイドル候補生が今度の定期公演に参加することになったっていうことも言わない方がいいですか!?』

 

「うん、言わない方が良かったね」

 

 未来ちゃんは本当にバ可愛いなぁ……お兄さん割とマジで心配になるんだけど。

 

 しかしそれはそれとして凄く気になる話題だったので軽く話を聞いてみる。

 

『えっとですね、1054プロのアイドル学校の生徒さんらしくて……えっと、なんていう学校だっけ?』

 

「UTX学園のことかな? 芸能科アイドルコースっていうのがあるらしいし」

 

『おぉ~! リョーさん、アイドルのことだったら本当になんでも知ってるんですね!』

 

 いやぁ、それほどでもあるよ。

 

『統堂英玲奈っていうカッコいいお姉さんと、優木あんじゅっていうおっぱいの大きなお姉さんと、綺羅ツバサっていう……あーっ!? そうだ聞いてくださいリョーさん!』

 

「聞いてるからもうちょっと声のボリュームを……」

 

 個人的には優木あんじゅっていう子の話を聞きたかったが、何故か未来ちゃんはご立腹の様子だった

 

『この綺羅ツバサっていうお姉さんがですね! 可愛くてキラキラしててすっごくアイドル~って感じの人なんですけど! いきなり静香ちゃんのことを好きとか言い出して! 仲良くしようって近付いてきて! だから私、ツバサちゃんと線香花火勝負して勝ったんです! でも最後はシレっとメッセージアプリの連絡先交換して! 私もついでに交換してもらって! 今度一緒に遊びに行くことになって! でも二人とも合宿に行くって!』

 

「情報の勢いがすいりゅうれんだ」

 

 聞きたいことが多すぎて一体どれから聞いていいのか分からなくなる。

 

『あっ、観たい番組が始まるのでまた今度話しますね! おやすみなさい!』

 

「話題の終わり方があんこくきょうだ。……え、おやすみ」

 

 多分俺の挨拶は最後まで未来ちゃんへと届いていなかっただろう。

 

 ……えっと、どういうことだったんだろうか。綺羅ツバサっていう子が静香ちゃんのことを好きで、未来ちゃんが静香ちゃんを賭けて勝負したってことでいいのかな?

 

 

 

「……線香花火勝負って何だと思う?」

 

「……知らなーい」

 

 

 

 先ほどからずっと真正面からジト目で睨んできていたりんに聞いてみたが、プイッとそっぽを向かれてしまった。

 

「もーりょーくん信じらんない! 目の前にお風呂上がりでしっとりしてるパジャマ姿の恋人がいるっていうのに、他の女の子と楽しそうに電話するなんて!」

 

「嫌いになった?」

 

 

 

「大好きっ!!」

 

 

 

 我ながらズルいと理解しつつも、このやり取りをすると可愛いりんが真正面から抱き着いてきてくれるのでやめられないのだ。

 

 りんの要望で彼女の髪をドライヤーで乾かしつつ、今度は彼女の逆鱗に触れないようにUTX学園の三人の話を聞いてみる。

 

「そーだなー……とりあえず、まず初めにりょーくんへ伝えておかないといけない重要なことがあります」

 

「なに?」

 

「あたしの方があんじゅより胸大きいから」

 

「アッ、ハイ」

 

 ここまでテンプレ。

 

「え? ツバサのことが聞きたいの?」

 

「うん。未来ちゃんの話だと、なんだか愉快そうな子みたいだから」

 

「……愉快、ねぇ」

 

「? りん?」

 

 現在進行形でりんの後頭部しか見えていないのでその表情は窺えないが、それでも彼女は腕組みしながら難しそうな声で唸っていた。

 

「……あたしの第一印象も似たような感じだったよ。麗華に目ぇ付けられて個別に呼び出されたときの第一声が『大好きです!』だったからね」

 

「それは確かに愉快なエピソードだ」

 

 大胆な告白は女の子の特権。

 

「根っからのアイドルマニアで、アイドルが好きすぎて自分もアイドルになりたいって志したタイプ。でも、ツバサのことを話す上で一番重要なことはそんなことじゃない」

 

 しっかりとりんの髪が乾いたことを確認したのでドライヤーの電源を切ると、それと同時にりんが振り返った。

 

 

 

「麗華はあの子のことを『まっさらな天才』って言ってた」

 

 

 

「……まっさらな天才、か」

 

「純粋なアイドルへの憧れだけでどんなレッスンにも弱音を吐かない典型的なアイドルバカタイプ。『どんなアイドルになりたいか』っていう未来へのビジョンだけが欠落してるけど、それは弱点でもあり利点でもある……だって」

 

「……欠落という弱点と利点か……なるほどね」

 

 なりたい自分が見つからないというのは、人によっては痛すぎる弱点になってしまう。春香ちゃんや卯月ちゃんも、その壁にぶつかってかなり苦労していた。

 

「あたしは難しくてよく分かんなかったけど、りょーくんは分かる?」

 

「なんとなく」

 

 まだ俺はその綺羅ツバサという少女と直接会って話したことが無い。どんな少女なのか、人伝でしか知らない。だから予想することしか出来ない。

 

 けれど、麗華が『まっさらな天才』と称した彼女が、俺の想像するような少女だとしたら。

 

 

 

 ――綺羅ツバサは、きっと次世代アイドルの王になる。

 

 

 

(麗華が何処目指してんのか分からんが、スクールアイドルやらせとくには過剰戦力にもほどがあるだろ……)

 

 あまりに強大過ぎると、挑戦者どころの話じゃなくなってくるからなぁ……。

 

 願わくば、未来のスクールアイドル界隈が彼女たち一色に染まらないことを祈るばかりである。アイドル業界を席巻していた『周藤良太郎』が言えた話じゃないけどさ。

 

「……ねーウチのアイドル候補生の話はもういいでしょー? イチャイチャしようよイチャイチャー!」

 

「これ以上のイチャイチャをご所望か」

 

 今でもベッドに腰かけて後ろからあすなろ抱きしてるのに。

 

「もっとこう……甘い言葉を囁くとか?」

 

「はちみーはちみーはっちっみー」

 

「ちっがぁぁぁう!」

 

 腕の中でジタバタもがくりんをギュッと抱きしめながら、ふと先ほど未来ちゃんが最後に口にした一言を思い出す。

 

 

 

(そういえば……合宿って言ってたっけ?)

 

 

 

 

 

 

 

「「「着いたー!」」」

 

 勢いよく手を挙げて叫ぶ翼と麗花さんと茜さん。一体何処にそんな元気があるのかと甚だ疑問である。

 

「ここで合宿をするんですね……」

 

 暑い日差しの中、『わかさ』と書かれた看板を見上げて汗を拭いながらポツリと呟く。

 

 そう、合宿である。

 

 今度のイベントに参加する二つの新ユニットは、短い時間で集中的にユニット練習を行うために東京を離れて福井まで合宿にやって来たのだ。

 

「懐かしいですね、百合子さん」

 

「そうだね、星梨花ちゃん。……もう二年も前になるのかぁ……」

 

 二つのユニットのリーダーである一期生の星梨花さんと百合子さんが、合宿先となる民宿を見上げてしみじみとしていた。

 

「お二人は、以前もここに来たことがあるんですか?」

 

「はい、私たちがまだアイドル候補生だった頃に」

 

「春香さんたちのバックダンサーをさせてもらったときに、ここでみんなで合宿したの」

 

 つまり、あの伝説のアリーナライブの……!

 

「おぉ、よー来てくださったぁ」

 

「いらっしゃい」

 

「っ、旦那さん! 女将さん!」

 

「ご無沙汰してます!」

 

 この民宿の主人とその奥さんと思われる二人が中から出てくると、星梨花さんと百合子さんはパァッと表情を明るくしてパタパタと駆け寄っていった。

 

「私たちのこと、覚えていらっしゃいますか?」

 

「そりゃあもう、忘れるはずがありませんとも」

 

「ありーならいぶ、ってには参加出来んかったけど、でぃーぶいでぃーってのは見せてもらったよ」

 

「わぁ! 嬉しいです!」

 

 楽しそうにワイワイと話しているが、少しばかり暑いから早めに中に入りたいかなーって……。

 

 

 

「はい、もう民宿着いたけど、水分補給はこまめにね!」

 

 

 

「……ありがとうございます、ツバサさん」

 

 ニコニコと笑顔でペットボトルを差し出すツバサさんに、一言お礼を述べてからそれを受け取る。

 

「もー、ツバサでいいってばー静香ちゃん」

 

「いえ、色々と紛らわしいのでツバサさんでお願いします」

 

「ツバサ、そろそろ諦めなって」

 

「あんまり押しすぎても嫌われちゃうわよー」

 

 英玲奈さんとあんじゅさんに窘められたツバサさんは「はーい」と引き下がってくれたが、今日ここに来るまでにもこのやり取りを何回したことやら。十を超えた辺りから数えていない。

 

 ……そう、この合宿にはツバサさんたち三人も参加することになっているのだ。

 

「麗華先生も『765のレッスンもいい経験になるわ』って言ってたから、楽しみだなぁ!」

 

 多分、ここまで純粋に『レッスンそのもの』に対して楽しみを抱いている人も少ない気がする。

 

 ……でも、合宿にかける意気込みという点ならば私だって負けてない。

 

 

 

(……絶対に、イベントに出てみせる……!)

 

 

 

 私の熱い夏は、ここから始まるんだ。

 

 

 

「あっ、やっぱりお風呂は大浴場なんだって。静香ちゃ~ん!」

 

「背中は流さなくて結構です」

 

「よ、読まれてる……」

 

 

 




・俺を含めて他の六人は別件で不参加
ちなみにそろそろシャイニーフェスタにより良太郎がしばらく離脱する模様。

・すいりゅうれんだ
・あんこくきょうだ
とりあえず伝説戦で相棒のバルジーナと共にマスボ級乗ってから二ヶ月ぐらいポケモンやってねぇな……。

・『まっさらな天才』
綺羅ツバサ魔改造計画継続中。

・「はちみーはちみーはっちっみー」
はちみーをー舐めーるとー!

・民宿『わかさ』
久々の登場!



 漫画ではここから静香のクレブル編が始まるわけですが、折角アイ転なんだから一味変えたいよなぁ? という冒険心が湧いた結果、オリジナル展開で合宿編が始まりました。

 やっぱりアイマスの夏と言えば合宿だよな!

 というわけで、クレブル編の要素を含んだ合宿編withアライズのスタートです。



『どうでもよくない小話』

 ずっと触れ忘れていましたが、ふみふみシンデレラガールおめでとう! またいつか記念短編書くからね!

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