アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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翼のためのツバサ


Lesson266 Aisle for AISLE 4

 

 

 

「二人ともー! ちゃんと見ててよー!」

 

 

 

「見てるよーバッチリ見てるよー」

 

「……何処を?」

 

「お尻」

 

「潔く言えば許されるわけじゃねぇんだぞ」

 

 フラフラと立ち寄ったゲームセンターにてダンスゲームに興じようとしている翼ちゃん。俺はジュリアと壁に寄りかかって後方彼氏面で見守りつつ、先ほどのジュリアの発言が一体どういう意味だったのかを尋ねてみた。

 

「……ふむ、つまり」

 

 次のステージで自身のソロ曲にコーラスを入れることにしたジュリアは、プロデューサーに相談したところ翼ちゃんともう一人のアイドルに頼んでみるといいと言われ、快諾した二人と共に練習を開始。しかし翼ちゃんは自身の感覚だけで歌ってこちらの指示に従ってくれず、挙句の果てにリハーサルに遅刻。これには流石のジュリアもおこ。

 

「そんでヤキを入れるために翼ちゃんを街へと連れ出した、と」

 

「全然ちげぇ! ……って、微妙に強くは言えないんだよなぁ……」

 

 勿論ジュリアがそんなことをするはずがない。

 

 しかしケジメはキッチリつけるべく今度こそ厳しく言ってやろうと意気込むジュリアだったが、コーラスに入ってくれるもう一人のアイドルの子から「素直な気持ちで伊吹さんと向き合ってみてはどうでしょうか」と言われたため、遅刻のお説教もそこそこにこうして二人で街へと出て来てみた……ということらしい。

 

「良太郎さんなら分かるか? 翼が考えてること」

 

「んー……やったクリア出来たーとか」

 

「現在進行形で思考のトレースをしろとは言ってねぇよ」

 

 その翼ちゃんは初見のダンスゲームのノーマルモードをパーフェクトでクリアして「よーし次はもっと難しいのだー!」と意気込んでいきなりベリーハードモードを始めていた。あのダンスゲーム、確かベリハから難易度が指数関数的に跳ね上がるって聞いたけど大丈夫だろうか。

 

「……こないだ、ウチの事務所で『フェアリー』の三人のライブツアーのバックダンサーの選考会があったんだけど、そのオーディションで落とされちまったらしいんだ」

 

「聞いたよ。すごいダンスだったのに、美希ちゃんからバッサリ切られちゃったんだってね」

 

「……相変わらず何でアンタはそうも自然に他事務所の内部事情を知ってるんだよ」

 

 これに関していえば問題は俺じゃなくて静香ちゃんたちにあるんだけど、彼女たちに飛び火させるのは忍びないので「子飼いのスパイがいるから」と適当な嘘を吐いたら「やっぱりいるのか……」と引かれてしまった。冗談に決まってるじゃないか。

 

「だから一瞬、そのことに対して不貞腐れてんのかとも思ったんだが……少なくとも、それを引きずるような奴じゃないってことは理解出来た。でもそれ以外は全然分かんねぇや。アイツのことを理解してみようと思って、行きたいところ全部トコトン付き合うつもりだったんだけど……」

 

「まぁ他人を理解するのは難しいことだからそれは当たり前だけど……ジュリアは翼ちゃんと()()()()()だからすぐに分かりあえると思うんだけどな」

 

「……はぁ!?」

 

 頭のおかしいノーツ数に翻弄されて「何コレー!?」と微妙におこな翼ちゃんを見つつそんな感想を口にすると、ジュリアから「何を言っているんだコイツは」みたいな目で見られてしまった。

 

「あたしが!? 翼と!?」

 

 心外だと言わんばかりに必死なジュリアだが、そう感じたんだから仕方がない。

 

「あー! ジュリアーノとリョーさん、二人だけで楽しそうに何話してるのー!?」

 

「大したことじゃないよ。それより、どうだった?」

 

「アレ人がやるゲームじゃない」

 

 ブスッとした表情の翼ちゃん。やはりアレは無理だったようだ。

 

「なんだ、ダンス得意なお前でも無理なのか」

 

 そんな翼ちゃんの子どもっぽい不貞腐れ方に苦笑したジュリアのやや挑発的な発言に、翼ちゃんは「だって!」と語気を強めて反論した。

 

 

 

「あんな踏む位置を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()もん!」

 

 

 

「っ」

 

 その一言に、ジュリアの目が僅かに見開いた。

 

「いやダンスの基礎は決められた位置を踏むことじゃないの?」

 

「そういうことじゃないの! もー素人のリョーさんには分かんないかもしれないけど、色々あるの!」

 

「なるほどなぁ、アイドル好きを自称してはいるけど、その辺りは素人の俺には分かんないなぁ」

 

 俺の言葉にジュリアからの視線が絶妙に形容しがたいものになった。なんだその、まるで『卒業研究の発表の際に「素人質問で恐縮なのですが」とヤバい教授が手を挙げたとき』みたいな目をして。自分で表現しておいて訳わからん目だぞ。

 

「でもジュリア、ギターは違うよな? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()いいんだもんな?」

 

「……分かりやすい挑発すんじゃねぇよリョーさん。んなわけねーだろ」

 

 ククッと笑いながら、ジュリアはグリグリと拳を肩に押し付けてきた。リングが当たって痛いっつーの。

 

「二人とも! 次はあっちのゲーム!」

 

「はいはい」

 

「走るな走るな」

 

 別のゲームに興味が移ったらしい翼ちゃんの背中をジュリアと二人並んで追う。

 

「……だから『フェアリー』の三人は、翼にあんなこと言ったんだな」

 

「あの子たちだって日本を代表するトップアイドルの一角だ。分からないわけないさ」

 

「そしてアンタもホントに何でも分かるんだな」

 

「何でもは分からんよ」

 

 今回のこれも、あらかじめ佐竹飯店で翼ちゃんの話を聞いていたからなんとなく予想を立てていただけの話。実際、コレが正解なのかは答え合わせをしていないので分からない。

 

 それでも、数少ない彼女との交流でなんとなく彼女のタイプが見えてきた。

 

 最初の邂逅で抱いた感想は少々生意気でまだ現実を完全に見えていない『アイドルに憧れる女の子』だった。彼女のステージを初めて見た感想は『大言壮語を口にするだけのことはあるアイドルの卵』だった。

 

 そして気になって美奈子ちゃんたちに見せてもらった過去の彼女のステージと、今回耳にしたオーディションでの様子。自分の目指すものへと全力で走り、その一方でやる気がないように見えるその態度。

 

 

 

 彼女は()()()()()()のではない。

 

 ()()()()()()()()()()好きなものへの原動力という名の()()で形作られているんだ。

 

 

 

「アイドルとしてのレッスンやトレーニングはさぼることが多いのかもしれないし、それを疎かにしていい理由にもならない」

 

 でも翼ちゃんのエンジンのスイッチはそこにはないんだ。

 

「お前なら分かるだろ?」

 

 なぁ、街中ロック不良娘。ロックってのは『(まつろ)わねぇこと』なんだろ?

 

「……ほんっと自信無くすぜ。確かにあたしも翼と関わり殆どなかったけどよ、なんで他事務所のアンタの方が理解出来てるんだよ」

 

「ウチにもいるんだよ。そういう変なところにスイッチがある面倒くさい小娘が」

 

 最近はマシになったけど。

 

 

 

 

 

 

「へぇっぷしょぉぉぉい!」

 

「ちょっ!? あっぶなっ!? ちょっと今試験管の中身零れたよー!?」

 

「それもそうですけど……志希ちゃん、アイドルなんですからもう少し可愛らしいクシャミを……」

 

 

 

 

 

 

「えー!? リョーさんもう帰っちゃうのー!? まだまだこれからなのにー!?」

 

「いや帰るんじゃなくてお仕事ね。寧ろ君たちの方が帰った方がいいんじゃないの?」

 

 すっかり夕暮れに染まる街中で、俺は翼ちゃんとジュリアの二人に別れを告げる。俺はこれからラジオ番組出演があるのだ。

 

「だから最後に一つだけ。本当に一つだけ付き合うよ」

 

「それじゃあ締めにカラオケ! 最後にバーッと歌いたい気分だから、一曲だけ一緒に歌いましょー!」

 

「……なら、カラオケより()()()()()()を教えてやろうか?」

 

 そう言って肩にかけたギターケースを揺らすジュリアは、それはもう悪い笑顔を浮かべていた。おー極悪だなぁ、この不良娘は。

 

「えっ!? なになにー!?」

 

「……なるほどね。俺が言うのもアレだけど、あんまり派手にやりすぎて怒られるなよ」

 

「本当にアンタが言うのもアレだけどな。見たぞあの動画」

 

 フィアッセさんと千早ちゃんの三人で撮ったあれね。俺もこの間久しぶりに覗いたら百億再生越えてて草生えた。

 

「ま、怒られるのは多分俺だけだろうけど」

 

「……えっ、本当にアンタもやんの?」

 

「何のために今回ギターケース背負って登場したと思ってるんだよ」

 

 一応三話前からの伏線なんだぞ。

 

「アンタの場合、怒られるだけで済むのか……?」

 

「バレなきゃいいんだよ」

 

「バレる奴の常套句じゃねぇか。……まぁいいや、一度アンタともヤッてみたいと思ってたとこなんだ」

 

 ニヤリと笑うジュリアに、なんだかよく分からないけど楽しいことが始まりそうだとワクワクする翼ちゃん。

 

 ……それじゃあ、一つ街中にブチかましに行きましょうかね。

 

 

 

 

 

 

 さて、今回の事の顛末と言う名のオチを語ることにしよう。

 

 翼ちゃんが一体どういう少女なのかということを掴んだジュリアは、彼女の中の光を見出しなんと一日で新曲を作り出し、それを翼ちゃんやもう一人のコーラスの子と徹夜で仕上げ、次の日の公演で即興で披露するという大勝負に出た。

 

 翼ちゃんとその子をコーラスにして歌うジュリアの曲ではなく、ジュリアとその子という()()を従えて世界へと羽ばたく翼ちゃんの曲、『アイル』。英語だと『通路』とかそういう意味だけど……ラテン語の『翼』ともかけてる辺り、なかなか分かってるネーミングセンスである。

 

 そう、翼ちゃんはコーラスやバックダンサーなんて枠組みに捕らわれるような子じゃない。彼女はその名が示す通り、もっと広い空へと羽ばたく翼だったのだ。

 

 まぁ、アイドルである以上、もうちょっと周りとの協調性は身に着けた方がいいかもしれないけどね。その後で予定通りに披露したジュリアの後ろでのコーラスは結構お粗末な仕上がりだったし。

 

 ……え? ハマるアソビってのはなんだったのかって? 所謂路上ライブだよ、俺とジュリアのギターを小型アンプに繋いで、翼ちゃんが歌うって言うゲリラ路上ライブ。ギター勉強してから一度やってみたかったんだけど、確かに楽しかったよハッハッハ。

 

 

 

 そのとき、ふと閃いた!

 

「このアイディアは、ゴールドシップとのトレーニングに活かせるかもしれない!」

 

「お前はさっさとトレセン学園から帰って来い。そしてこのポリバケツを抱えて立ってろ」

 

 後日当然のようにバレた。

 

 

 

 

 

 

 そして。

 

 

 

「……ようやく、様になったわね」

 

「「「はぁ……はぁ……はぁ……」」」

 

「これなら予定通り、()()()()()()()()()()()わ」

 

「っ、ホントですか、麗華先生!?」

 

「えぇ。……だからそれまでに、より完璧に仕上げてやるわ。覚悟しなさい――」

 

 

 

 ――ツバサ、英玲奈、あんじゅ。

 

 

 

 夏が、始まる。

 

 

 




・もう一人のアイドル
今回頑なに名前出さなかったけど、また出番作るから許して!
あの子、ある意味良太郎と絡ませると面白そうだから!

・「素人質問で恐縮なのですが」
自分の卒研では回避出来ました(隙自語)

・『アイル』
滅茶苦茶名曲なのに漫画版オリジナル曲とかいうスゲェ曲。
今は配信されてるけど、一時期は漫画特典限定だったんだぜ……?

・ラテン語で翼
正確にはちょっと違うらしいけど。
ちなみに作曲者はこちらは意図していなかったらしい。

・そのとき、ふと閃いた!
そろそろスピ9因子が欲しいです(願望)

・ツバサ、英玲奈、あんじゅ
いずれ、まだ見ぬ少女たちに前に立ちはだかる者たち。


 というわけでアイル編でしたとさ。良太郎介入によりアッサリ答えが出ちゃいましたが、この辺のやり取り原作めっちゃ好きなのでみんなちゃんとした流れは漫画読んでね!(ダイマ)

 そして次話からはクレッシェンドブルー編に入りつつ、いよいよ、ようやく、アイ転オリジナルストーリーへと足を踏み入れていきます。



『どうでもよくない小話』

 第十回シンデレラガールズ総選挙が始まりました!

 今回自分は高垣楓を二冠シンデレラガールにするために応援していきます!

 つきましては、毎日『高垣楓怪文書』なるものをツイッターにて投稿していきますので、こちらもよろしければ是非。

 面白かったならば、是非とも高垣楓に一票をよろしくお願いします!

 二度目の頂き、いただきます!

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