アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

387 / 557
時空の歪み発生中(アイ転だとこうなる)


Lesson256 お母さんとは呼ばないで! 3

 

 

 

「いやぁゴメンね静香ちゃん。つい昔なじみのノリで話しちゃったんご」

 

「まだ語尾が呪われてますわよ」

 

 静香ちゃんをほったらかしにしてしまったことを謝罪しつつ、丸椅子を二つ用意して千鶴と共に座る。元々体を起こしていた静香ちゃんも、俺たちと向かい合うように体をこちらに向けてベッドの縁に座った。

 

「ん……このリンゴ、本当に美味しいです!」

 

「わたくしの家で昔から贔屓にしている青果店ですもの、当然ですわ! そんじょそこらのスーパーで売っているリンゴとはモノが違いましてよ!」

 

 まるで自分が褒められたかのように、口元に手の甲を当てるお嬢様ポーズで「おーほっほっほっ!」と高笑いをする千鶴。これもそろそろ堂に入って来たかなぁと思った矢先に「げほっごほっ」と咽ていた。昔からずっとやってる癖にどうして慣れないんだか。

 

 ……うん、確かに美味い。

 

「千鶴の行きつけってことは、駆紋青果店か。最近顔見てないけど、戒斗(かいと)の奴どう? 相変わらずダンス一筋?」

 

「先日足の骨を折ったらしく松葉杖を付いていましたわ」

 

 ダンスが得意な癖に虚弱体質なのも相変わらず、か……。

 

「……あの、リョーさんは千鶴さんと幼馴染なんですよね?」

 

「そうだよ。小学校の低学年の頃から一緒」

 

「昔は今と比べて()()()()()()()()()子だったのに、いつの間にかこんな生意気になってしまって……何処で道を間違えてしまったのか……」

 

 千鶴はヨヨヨッ……と古風な泣き真似をしながら失敬なことを宣ってくれた。コラそこ、静香ちゃんまで「まさかそんな……」みたいな信じられないようなものを見る目でコッチ見ない。小学校中学年までは結構ナイーブだったんだからもうちょっと丁重に扱いたまえ。

 

「そういうお前はある日突然『わたくしはお嬢様になりますわ!』とか言い出したちょっと痛い子だったけどな」

 

「ちょっ、誰が痛い子ですの!?」

 

「寧ろ痛くないと思ってたの?」

 

 あれでイジメとかそーいうのが一切なかったのが奇跡である。今になって思い返してみればウチの小学校の先生たちはかなりの人格者揃いだったから、そのおかげだろうけど。

 

「あ、千鶴さんのその口調、小学校の頃からだったんですね……」

 

「そうそう。もしかしてそれを聞きたかったの?」

 

 コクリと頷く静香ちゃん。まぁ、こんな商店街の精肉店の長女がお嬢様口調で喋ってれば気になるよね。

 

「普段から堂々とされていて、その言葉遣いも凄く似合っていたのですが……どうしてなのかなってずっと気になってしまって」

 

 曰く「事務所内で気にしてる人が誰もいなかったから聞けなかった」らしい。

 

「それに、千鶴さんはお嬢様というよりは、その……」

 

「最後まで言わなくてもいいよ。何を言いたいのか分かったから」

 

 やっぱりお母さんじゃないかという視線を千鶴に向けると、彼女は自身の両手で顔を覆いながら俯いていた。だから諦めろって。

 

「諦めたらそこで試合終了ですわ……!」

 

「ブザーが鳴り終わってから粘られてもなぁ」

 

 審判から促されてるのに整列してないのお前だけだぞ。

 

 そんな俺たちのやり取りを見ながら静香ちゃんがクスクスと笑っていると、コンコンと病室のドアがノックされた。

 

「はい、どうぞ」

 

「失礼します」

 

 静香ちゃんに促されて入室してきたのは俺も良く知っている少女と、そして以前に一度だけ出会ったことがある女性だった。

 

「こんにちは、静香ちゃん」

 

「体の調子はどう?」

 

「星梨花さん! 歌織さん!」

 

 病室の入り口でニッコリと笑っている少女は、かつて恵美ちゃんたちと共に春香ちゃんたちのバックダンサーを務めた星梨花ちゃんだった。

 

 早くも身長の伸びに陰りが見え始めた杏奈ちゃんとは違い、二年前と比べると身長がそれなりに伸びた星梨花ちゃん。元々小柄だった故に手放しに「大きくなった」とは言えないが、それでも昔と比べると落ち着いた雰囲気になって来て「大人になった」とは言ってもいいかもしれない。

 

 ……うん、女性的な体つき云々はまだまだ今後に期待かな!

 

 そしてそんな星梨花ちゃんの隣に佇む女性は、以前駐屯地という特殊な現場で同じステージに立った桜守歌織さんだった。

 

 パンフレットで彼女もアイドルになっていたことは知っていたが、こうして直接顔を合わせるのは一年ぶりである。あのときもアイドルに興味がある素振りを見せていたが、アイドルになるまでが早かったなぁ……。

 

 ……うん、彼女は彼女で相変わらず素晴らしい体つきだな!

 

「星梨花さんと歌織さんもお見舞いに来てくれたんですか!?」

 

「はい、入院したと聞いて心配になっちゃって……」

 

「心配をおかけしてしまって、すみませんでした…」

 

「静香ちゃんが元気なら、それだけで大丈夫ですよ」

 

 心配したという星梨花ちゃんに、静香ちゃんは申し訳なさそうにシュンと俯く。そんな彼女の頭を歌織さんが柔らかく微笑みながら撫でる。うんうん、美女美少女同士のやり取りは見てるだけで心の栄養になるなぁ!

 

 ……先ほどの千鶴の登場時よりも静香ちゃんが喜んでいるように見えるのは、きっとそれよりも俺の存在というインパクトの方が大きかったせいだろう……というか、歌織さんはともかく星梨花ちゃんはまだ俺たちの存在に気付いてないな?

 

「実は千鶴さんもお見舞いにきてくださってまして……」

 

「ご機嫌よう、星梨花、歌織」

 

「あら、千鶴ちゃん、こんにちは」

 

「千鶴さんもお見舞いに……って、えっ!?」

 

 千鶴に挨拶をしたことで、その隣に座っている俺の存在にようやく気付いたらしい星梨花ちゃんは驚いた様子で口に手を当てた。

 

「やーやー星梨花ちゃん久しぶり。遊び人のリョーさんは今日も元気だよ」

 

「っ、はい、お久しぶりです、リョーさん」

 

 星梨花ちゃんはすぐに俺の言いたいことを察して話を合わせてくれた。相変わらず聡明な子である。

 

 一方で桜守さんは俺のことに気付いていないようで「お二人の知り合い?」と首を傾げていた。まぁ桜守さんもまだ知り合い以下ってところだからなぁ。

 

「桜守さんもお久しぶりです」

 

「えっ!? ……申し訳ありません、何処かでお会いしたことが……?」

 

「一度だけでしたから、覚えていなくても仕方がないと思います。去年、駐屯地で一緒にお仕事をさせていただきまして……」

 

「っ!?」

 

 静香ちゃんに見えないようにチラリと眼鏡を下にズラして桜守さんに直接自分の目を見せると、それでようやく彼女も俺のことに気付いてくれたらしい。

 

「あのときは、大変お世話に……!」

 

「してませんしてません。寧ろ俺がお世話になったぐらいですから、その件に関してはお互い様ということにしておきましょう」

 

 「これからもよろしくお願いします」と手を伸ばすと、桜守さんは「……はい! よろしくお願いします!」と両手で手を取ってくれた。美人さんに手を握られるのは大変嬉しいことなんだけど、あんまり畏まられると静香ちゃんに怪しまれるからちょっと抑えめにして欲しいかなーって。

 

「……まさか、星梨花さんや歌織さんまで知り合いだったとは……リョーさん、あと何人765プロに知り合いがいるんですか……?」

 

「何人ぐらいだろうね」

 

 静香ちゃんからの疑問に首を傾げる。俺が一方的に知ってるとか、俺の変装に気付けるとか、その辺りの基準が曖昧だから厳密な知り合いが何人になるのかはよく分からない。

 

 えーっと、俺こと『遊び人のリョーさん』が『周藤良太郎』だと知っているのは一期生組以外だとジュリア、桃子パイセン、このみさん、白石紬ちゃん。

 

 そして『周藤良太郎』として顔を合わせたことがあるのは高坂海美ちゃん、豊川風花さん。この二人はアイドルになる前に一度だけ会っている。案外俺が覚えていない(まだ描写されてない)だけで、会ったことある人がいたりして。

 

「まぁ今後は俺のお仕事の関係でアイドルのみんなと顔を合わせることも増えるだろうから、知り合いは増えていくかもね」

 

「……ずっと気になっていたのですが、結局リョーさんってなんのお仕事をされてるんですか? 亜利沙さんからは『テレビ関係のお仕事』とは聞いているのですが……」

 

「静香ちゃんがもっと人気アイドルになったら、嫌でも顔を合わせることになるような仕事だよ」

 

「……?」

 

 それとなく匂わせたつもりだったが、それでも静香ちゃんには難しかったらしく首を傾げていた。

 

「俺のアイドル知り合い事情は今は置いておこう。折角お見舞いに来てくれたんだから、星梨花ちゃんと桜守さんもリンゴ食いねぇ! 美味しいよ!」

 

「そのセリフはお見舞いされる側の静香か、持参したわたくしが言うべきものですわ」

 

「え、えっと、お二人も良かったら……」

 

「わぁ、ありがとうございます! ……っとそうだった、わたしたちからもお見舞いが」

 

「私と星梨花ちゃんの二人からです」

 

 そう言って桜守さんは手にした紙袋を静香ちゃんに渡す。静香ちゃんがお礼を言いつつ受けとって中身を出すと、それは見るからに高級そうなフルーツが盛られた籠だった。

 

「THEお見舞いって感じだな」

 

(……りょ、良太郎……こ、この赤いやつはなんですの……!?)

 

(マンゴーぐらい分かるだろ……)

 

 いくら高級そうだからって、たかがフルーツの盛り合わせぐらいで圧倒されるんじゃないよ。庶民ってレベルじゃないぞ。

 

(この薄緑色で網目が付いた大きい奴は!?)

 

(メロンだバカタレ)

 

「これはすぐに食べられませんね……また今度、ゆっくり召し上がってくださいね」

 

「ありがとうございます、星梨花さん、歌織さん」

 

「お、お二人もこのわたしく行きつけの青果店で買った庶民的なお買い得リンゴを食すとよろしいですことよ!?」

 

「……えっと、千鶴さん……?」

 

「ちょっと混乱してるだけなんで、そっとしておいてやってください」

 

 はーい千鶴ちゃんはちょっと落ち着こうねー。はい座ってー、大人しくリンゴ食べてようねー。

 

 

 




・駆紋青果店
名前の登場はLesson91以来。正直自分でも良く覚えてたなっていうレベルのネタ。

・戒斗
初代中の人虚弱二号ライダー(二代目はバンジョー)

・星梨花さん
静香(14)と星梨花(15)なのでこうなった。この改変の仕方は我ながらかなり珍しいものだと思う。

・歌織さん
番外編31以来の登場となります。彼女も既にアイドルデビュー済。



 ついに登場! 星梨花(15)! 静香と年齢的立場が逆転しております故、こんな感じになりました。でも身長は変わらず静香の方が上。

 そして歌織さんも再登場。漫画連載中はまだ未登場だったので、つむつむ共々色々なところで介入させていきたいですね。



『どうでもいい小話』

 『アイドルマスター ポップリンクス』がついに正式稼働!

 楓さんも唯ちゃんも加蓮もおらず、逆に志保と志希とジュピターがいたので疑似123プロロールプレイで楽しんでおります。

 志保志希冬馬の三人によるオリジナルユニット、名付けて『ヒートディザイア』!

 今後何処かでこのネタ使いたいなぁ……。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。