アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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ミリオン要素が増え始める二話目。


Lesson230 新時代、到来 2

 

 

 

「しかし、本当にお前が経営側になるとはな」

 

「意外だとでも言いたいの?」

 

「いや、寧ろなんで今まで手を伸ばさなかったのかが不思議なぐらいだ」

 

 俺のそんな言葉に、麗華は大層な机に向かってパチパチとパソコンを叩きながらフンッと鼻を鳴らした。

 

「そもそも経営自体は私じゃなくて東豪寺財閥よ。私は一つの部門を任されてるだけ」

 

「そうだな、()()()()()()()()()()()()、兼()()()()()()()()

 

「……アンタにそう呼ばれるの、なんか腹立つわね」

 

 個人的には『一国一城の主』的な意味合いで褒めたつもりだったのだが、どうやら麗華はお気に召さなかったようでジロリと睨まれてしまった。

 

「そもそも、なんでアンタが東豪寺の本社(こんなところ)にいるのよ」

 

「いや、ちょっと通りがかったから寄ったんだよ。ちょうど次の現場まで時間があったし」

 

「帰れ」

 

「手土産持参してやったんだから、三時のおやつがてら世間話でもしようぜ。生憎翠屋のシュークリームではないけどな」

 

 前回「トップアイドルは忙しい」みたいなこと言ったような気もするけど、細かいところは気にしない気にしない。

 

「……っはあああぁぁぁ」

 

 すっごい重いため息。

 

「はあああぁぁぁ」

 

 しかも二回。

 

「……なに飲みたい?」

 

「ベンティアドショットヘーゼルナッツバニラアーモンドキャラメルエキストラホイップキャラメルソースモカソースランバチップチョコレートクリームフラペチーノで」

 

「六年も前のネタを持ってくるんじゃないわよ……!」

 

 劇中時間だと二年前ぐらいだけどな。

 

 とりあえず二人揃ってコーヒーを持ってきてもらい、東豪寺本社の麗華の部屋に設けられた応接用のテーブルに向かい合って座る。

 

「改めて、開校おめでとう。悪いな、忙しくてお祝いが遅れた」

 

「別にあの花輪だけで十分よ」

 

 芸能科アイドルコースが四月に開校してから一ヶ月。勿論IEが終わって第三次アイドルブームが始まってから準備を始めていては間に合うはずがないので、IEが始まる前から水面下でずっと動き続けていたらしいのだ。

 

「あれだけ大きな『お祭り』なんだから、こうなるのは目に見えてたわよ。動いてた人は他にも大勢にもいたけど、たまたま私だけ成功したっていうだけの話よ。元々学園の話自体は財閥の方で動いてたわけだし、私はそこに乗っからせてもらっただけ」

 

 麗華は普段のアイドル活動中だと自信満々な姿勢を崩さないが、こういう場面だと結構謙遜するんだよな。

 

「それでどうだ? 良さそうな子はいたか?」

 

「……やっぱりそこを気にするのね」

 

「そりゃあな」

 

 俺はいつだって新しいアイドルと女の子の胸の膨らみには強い関心を寄せていると自負している。だから今の言葉には『アイドルとしての素質がある子』と『麗華が羨むようなスタイルの子』という二つの意味が含まれていて……。

 

「……あんまり他の女の子に気をかけすぎると()()()()わよ?」

 

「……まさかお前の口からそんな言葉が飛び出してくるとは思いもしなかったぞ」

 

「うっさい」

 

 いやマジで。麗華だって女性なのだからそういう感性は俺よりも上だということは理解しているが、わざわざそれを言うタイプではなかったはずだ。

 

「大丈夫。慢心するつもりはないが、俺とアイツはその程度じゃ揺らがないさ」

 

 

 

 何せ()()()()()()()()()()()()()()()()と誓ったのだから。

 

 

 

「惚気なら余所でやりなさい」

 

 先ほどよりも重いため息を吐きながら「ったく、ホントIEの後に何があったのよ……」と頭を抱える麗華。その辺りの話はまたいつか話すから……うん。

 

「まぁ良さそうな子とはいえ、まだ入学して一ヶ月そこそこだろうし。流石にいないか」

 

「いるわよ」

 

「……一ヶ月だぞ?」

 

「その一ヶ月で()()()()()のお眼鏡にかかったのよ」

 

 なるほど、それだけの逸材……というか、磨けば光る何かを見出したってことか。

 

「どんな子たちなんだ?」

 

 麗華がそれだけの評価をするアイドルが如何なものか気になったが、麗華からの返事は「べー」と突き出された舌ベロだった。

 

「ケチだなぁ」

 

「ケチじゃない。それに、どうせ教えなくてもアンタだったらいずれ顔を合わせることになるわよ」

 

「ん?」

 

 それは一体どういう意味なのだろうか。

 

「……私は蝶よ花よと育てるつもりはないわ。それが磨けば光る原石であるならば猶更」

 

「お前はそういう性格だろうな」

 

「だから学生である内からステージに立たせて実践経験を積ませるつもり。そのためにウチの生徒専用の劇場も造る予定よ」

 

 ふむふむ、劇場か。最近ではスクールアイドルと同じぐらいにアイドルたちによる劇場っていうのも増えてきたからな。

 

「……ん? 造る予定?」

 

 麗華のことだからとっくに造ってあって、早速そこに立たせるとか言い出すものだとばかり思っていた。

 

「苦労自慢をするつもりはないけど、これでも殆ど一人で芸能科の基盤を作ったのよ? 流石にそこまでは手が回せなかったわ」

 

「誰かに手伝ってもらえばよかったじゃねぇか」

 

「最初はマネージャーに手伝わせてたんだけどね」

 

 あぁ、優秀な麗華に殆ど仕事を奪われた結果、マネージャーというか小間使いみたいなことしか出来ないって嘆いてたあの女性か。最後に登場したのっていつだっけ……?

 

 しかしそんな重要な仕事を手伝わせるとなると、実はかなり優秀だったのだろうか……と思いきや、麗華が露骨に目線を逸らしたのでどうやらそういうことらしい。これは今回の章でも出番は無いかもしれない。

 

「あの子にはまた別の仕事が……って、話が逸れたわ。そんなわけで専用劇場はまだ未着工。だからそれまでの間、()()()()()()()に立ってもらうわ」

 

「……それって」

 

「そう。アンタたちのやり方を真似させてもらおうってわけ」

 

 なるほど、事務所に入りたての頃の恵美ちゃんやまゆちゃんのように、内部での準備が整うまでは外部の経験を積ませるってわけか。

 

 ……話が見えてきたぞ。1054以外のプロダクションで、劇場を持っていて、麗華が信頼を寄せていそうで、さらに俺ならばいずれ顔を合わせるってことは……。

 

 

 

「765だな?」

 

「そういうこと」

 

 

 

 

 

 

「麗華が、ですか?」

 

「あぁ、1054プロダクションからの直々の依頼だよ」

 

 事務所の社長室で社長から聞かされたのは、765プロが1054プロからとある依頼を受けたという話だった。

 

「……UTX学園の生徒をウチの劇場で、ねぇ」

 

 話を簡単にまとめると、この春から麗華が開校したアイドル学校の生徒を三人ほど765プロライブ劇場(シアター)に立たせて欲しいというものだった。

 

「要するに二年前の良太郎たちと同じってことですね」

 

「まぁ、そういいうことだろうね」

 

 ふむ、とそれがウチのシアターにもたらす影響を考える。

 

 私たちの765プロライブ劇場(シアター)は去年の冬にその幕を上げた。今にして思えばIE直前という何とも間の悪いタイミングではあったものの、こうして第三次アイドルブームの真っ只中で盤石の状態を期すことが出来たのだから結果オーライだった。

 

 そんな私たちのシアターは、現在()()()()のアイドルを抱えている。以前アリーナライブでバックダンサーを務めてくれた『シアター組一期生』が六人、そして劇場が開いてから新たに迎え入れた『シアター組二期生』が三十人、という内訳である。……ホント、少数精鋭の事務所だと言われていた頃が懐かしいぐらいの増えっぷりだ。

 

 そんな中、新たにアイドルが増えるとなると……。

 

「……面倒見切れますかね?」

 

「そこはホラ、ウチの子たちはみんな優秀だからね」

 

 それは果たして答えとして成り立っているのだろうか。

 

 なんというか、良い言い方をすれば信頼されているのだろうが、悪い言い方をすれば体良く使われているような気がしてならない。

 

 

 

「ちなみに見返りとしてこれぐらい用意してくれるらしいのだが……」

 

「やりましょう!」

 

 

 

 私たちはアイドル事務所。ファンのみんなに夢を見せるのも仕事の内だが、アイドルを志す少女たちを導くのも立派な仕事だ。そのためならば学生アイドルの一人や二人や三人ぐらい、喜んでステージに立たせてあげるのが『大人』の役目だ。

 

 ……いや、正直な話、この劇場の建設運営土地代その他諸々で金庫の中身はスッカラカンなのよね。

 

「いやぁ、まるで昔みたいだよねぇ、律子君!」

 

「そこで楽しそうにしないでくださいよ社長……」

 

 基本的には尊敬している社長ではあるものの、未だに(経営者としてはちょっと……)という思いが脳内を過ることが多い。確かに常に仕事に困っていた昔のような状況であるが、それを楽しまないでくださいよ……。

 

「とにかく、今回の話は受けるつもりだよ。もっとも麗華君曰く『アイドルとしての最低限を叩きこんでからそちらに送る』とも言っていたから、すぐにというわけではないだろうがね」

 

「……となると、早くても夏ですかね」

 

 あの麗華が『最低限』と称したのであれば、求められるレベルはかなり高いはずだ。彼女が見初めた以上、かなりの逸材なのだろうが、それでも時間はかかることだろう。

 

 ……スクールアイドル、か。

 

 

 

「今年の夏も……また、暑くなりそうだな、律子君」

 

「……えぇ。一段と暑い夏になりそうです」

 

 

 

 

 

 

「まぁ、まだ春先なんだけど」

 

「いきなり何を言い出してるのよアンタは」

 

 なに、いつもの電波だ。

 

「しかし、765プロライブ劇場か……そういえば、あんまり顔を出せてなかったな」

 

「……意外ね。アンタのことだからいつも通り入り浸ってるもんだと思ってたわ」

 

「それが全然」

 

 劇場が出来た頃っていうと、まだ346プロで凛ちゃんたちのアレコレで色々と忙しかった時期だから。具体的に言うと凛ちゃんビンタ事件辺り。痛かったなぁアレ。

 

「そうだな……これを機にまた765プロの方にも足を伸ばすことにするか」

 

 IEも終わって一段落したことだし、そろそろ俺も平常運航に戻っていきたいところだ。

 

「……私の生徒は勿論だけど、律子たちにも迷惑かけるんじゃないわよ」

 

「……()()()()、か。お前も変わったな」

 

「一番変わったアンタに言われたくないわよ」

 

 文面はいつもの皮肉ではあったが、コーヒーカップを傾ける麗華はニヤリと笑っていた。

 

「しかし、一つだけ気になることがある」

 

「……なによ」

 

 

 

「……俺たちのこの会話、二十一歳と二十歳のそれじゃねぇよな」

 

「何を今更」

 

 

 




・UTX学園秋葉原分校校長
・芸能部門統括部長
分校とか芸能科とかその辺りはオリジナル設定。まぁそこまで深い意味はない。

・六年も前のネタ
Lesson50参照。

・俺の秘密を同じ墓場まで持っていく
前回の「好きな人」発言が大分スルーされてたけど、多分いつもの軽口だと思われてたんだろうな(ニッコリ)

・魔王エンジェルのマネージャー
作者が発見したのはLesson52が最後だった。他にあったっけ……?

・アイドル学校の生徒を三人
『UTX学園』の『アイドル三人』です。

・三十六人
いないのは恵美と志保と……あと一人は誰かなー?(ヒント:ゲッサン版漫画)

・二十一歳と二十歳のそれ
良太郎(21)と麗華(20)



 おそらくミリマス編としてのお話が見え始めたのではないだろうかという二話目でした。

 次話はようやくミリのアイドルたち出演予定です。

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