アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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ライブから一週間後のお話。


Episode65 夢から醒めて

 

 

 

「俺が大乳好きな理由は、きっと母性を欲していたんだと思う」

 

 

 

「前話であれだけ劇的に締めておいてからの第一声がそれってお前ぇ……!?」

 

 何故か冬馬が脱力しているが、きっとライブの疲れが残っているのだろう。

 

「いや、初恋コラムを書くにあたって、お前たちにも俺の初恋が自分の母親だということが知れ渡ってしまったわけだろ?」

 

 本当はコラムが収録される円盤発売まで沈黙を貫くつもりだったのだが、打ち上げの際に「結局誰なのか」という話題になってそこでバレた。

 

 当然の流れとしてマザコン疑惑が持ち上がるのだが、事務所のメンバーは全員我が家のリトルマミーを知っているので「……まぁ、あれなら仕方ない……のか?」と微妙な反応をされた。そして何故か「なるほど……社長が片桐さんを選んだのはそういう……」「やはり兄弟……」と何故か兄貴に飛び火した。まぁ確かに早苗ねーちゃんも母上様と同じくスタイルの良い童顔の女性だからなぁ。

 

 そんな兄貴の想定外な事態もあって、ウチの事務所内ではそれほど大事にならなかった俺の初恋問題。転生云々を隠しつつどのようにして他人に読ませてもよい文章にしたものかと頭を捻っている内に、自分の好みについて今一度振り返ってみようと思ったのだ。

 

「何故俺はこれほどまでに女性の豊かな胸部に並々ならぬ関心を抱いているのか……と」

 

「それを真剣に考え始める辺り、何かが間違っているとは思わないのかオメェは……」

 

「冬馬もご存じの通り、我が家のリトルマミーは少女と見紛う見た目と身長にも関わらず、驚くほど胸が大きい」

 

「他人に対して自分の母親のそういうことを言及するな」

 

 気まずそうな顔をする冬馬。まぁ俺も自分の友人がいきなり「自分の母親は胸が大きい」という話をしだしたら「その話、是非詳しく」と……アレ?

 

「そんな見た目麗しい母親に、幼き日の純情な良太郎少年は淡い想いを抱いてしまった……なんと美しい話だろうか」

 

「この話、長くなるか?」

 

 既に興味を失ってスマホを弄ってるくせに野暮なことを聞くんじゃない。俺はそれでも構わず喋るけど。

 

「しかし相手は当然母親、『ぼくおかあさんとけっこんするー』なんて言えるのは子どもだけの特権。成長してそんな考えはすっかり無くなったものの、そんな初恋の影響を受けて俺は女性の大きな胸に強く意識を惹かれるようになってしまったんだ」

 

 そう、これが周藤良太郎という人物を構成する一つの要素である『大乳好き』の真実なのだよ!

 

 

 

「……という設定でコラムを書こうと思う」

 

「設定と言い張るか……」

 

 

 

 興味なさげに「好きにしろ」と言い捨てた冬馬は、本当に興味がなかったようでそのままスマホの画面に視線を戻してしまった。

 

 

 

 

 

 

 さて、感謝祭ライブから早くも一週間が経った。

 

 ありがたいことに俺たち123プロ初の感謝祭ライブは自他ともに認める大成功という結果に終わった。日本のみならず世界中のSNSで話題となり、日本では『#123プロ感謝祭ライブ』のタグがトレンド一位を獲得。生憎『123』のみでは単語として扱われず世界のトレンド一位は逃したが、それでも俺たちは世界中の注目を浴びることとなった。

 

 ……あぁ、注目を浴びるで思い出した。感謝祭ライブに出演した俺たち123プロや麗華たち魔王エンジェル以外で唯一トレンドに乗ってしまったアイドルが一人いる。そう、俺がトークバトルの最中に名前を挙げた346プロの『夢見りあむ』ちゃんだ。

 

 先日、話の流れとはいえ名前を出してしまったことに対して事後報告的な挨拶をしに346の事務所へと向かったのだが、そこで件のりあむちゃんと初の邂逅を果たしたわけなのだが。

 

 

 

「初めまして! 大ファンです! すみませんでした!」

 

 

 

 挨拶とファン宣言と謝罪と土下座を同時にされたのは人生で初の経験である。

 

 一体何事かと尋ねるが、りあむちゃんは額を床に擦り付けたまま女の子が出してはいけないような嗚咽を漏らすばかりで要領を得ない。というか意思疎通が取れそうになかったので、彼女の奇行にまるで動じていないユニットメンバーに事情を聴いてみた。

 

「えっと、状況の説明をお願いしてもいい?」

 

「そ、そのですね……」

 

「あのSNSでの発言は、色々と誤解があったんデスよ」

 

 辻野あかりちゃんと砂塚あきらちゃん曰く、なんでも彼女の普段のSNSでの発言はただのイキリオタクの炎上発言だったらしい。それを俺が文面通りの挑発的な発言だと受け止めてしまったと……。

 

(うーん……これは流石に俺が悪いなぁ……)

 

 俺がりあむちゃんに『興味がある』発言をしてしまったがために彼女へと注目が集まったことで、どうやら心無い人たちにより炎上してしまったようなのだ。

 

「あ、炎上自体はいつものことなのでお気になさらず」

 

「基本的に懲りないりあむさんの責任デスので」

 

「そ、そう……」

 

 ユニットメンバーからの扱いに若干の親近感を抱きつつ、膝を付いてりあむちゃんの肩に手を乗せる。

 

「ごめんね、りあむちゃん。俺のせいで辛い思いをさせちゃったみたいで」

 

「ぶえぇぇぇっ、ぐすっ、りょ、りょうたろうくんのせいじゃ、な、ないんですぅ……!」

 

「そんなことないよ。今回のりあむちゃんは悪くないから……ほら、顔を上げて」

 

 流石にこのまま後頭部と会話を続けるのは忍びなかったので、よいしょと脇の下に手を入れて彼女の上半身を持ち上げる。その際、ゆさっと重量感たっぷりに揺れた胸に一瞬目を奪われそうになるが今は我慢。

 

「ほら、泣き止んでりあむちゃん。君を応援しているのは、本当だから」

 

「……うわあああぁぁぁん!?」

 

「あっれぇ!?」

 

 ガラにもないことをしたがために不自然だったかもしれないが、流石にさらに号泣されるとは思わなかったゾ!?

 

「あかりちゃん! あきらちゃん! 俺どこら辺で選択肢間違えたと思う!?」

 

「え、えぇ!? 選択肢ですか!?」

 

「いえ、多分正解を踏みまくった結果デス」

 

 正解したのに泣かれるのはしんどいんですけどぉ!?

 

「ご安心を。りあむさん喜んでますから」

 

「これで!?」

 

 ファンサービスして感動の涙を流されたことならば何度もあるけど、ここまで顔面グシャグシャにして泣かれた経験はなかった。

 

「りあむさんのことは私たちに任せてください」

 

「今日はわざわざこちらまで足を運んでくださり、ありがとうございました」

 

「……まぁ、そこまで言うなら……」

 

 自分が原因でドン引くぐらい泣いている女の子を残してこの場を去ることがとても心苦しいが、俺よりもりあむちゃんのことをよく分かっている二人がそう言うのであればきっと大丈夫なのだろう。

 

「「あ、でもその前にサインをいただけますか!?」」

 

 この状況のこのタイミングでそれが言える辺り、本当に武内さんは面白い子を揃えたものである。

 

 りあむちゃんの分を含めて三人分のサインを色紙に書いてあげてから、俺は346プロを後にするのだった。

 

 今回の訪問はりあむちゃんのことをメインにしつつも、その他のシンデレラプロジェクト二期生メンバーを見てみたかったのだが、どうやら全員出払ってしまっていたため顔を見ることが出来なかった。話を聞くにりあむちゃんたちに負けず劣らずの愉快なメンバーが揃っているらしいので、また会える日が楽しみである。

 

 ちなみに、後にシンデレラプロジェクト二期生の中で『魂の妹(ソウルシスター)』とも呼べる仲になる少女と出会うことになるのだが、また別の話である。

 

 

 

 

 

 

「ぐすっ……良太郎君優しすぎるよぉ……ますます推しになっちゃうよぉ……」

 

「その推しに汚い泣き顔をしっかりと見られたわけデスが」

 

「ボクのことは問題ないんだよぉ! 良太郎君がカッコいいことが問題なんだよぉ!」

 

「りあむさんの周藤良太郎さん推しに拍車がかかってますね……」

 

「そんなりあむさんに悲報ですが」

 

「なに!? 今のボクはちょっとやそっとのことじゃ動じないよ! 神様にだって今のボクは揺るがせないよ!」

 

 

 

「これ外伝ですから、この辺りのやり取り全部なかったことにされます」

 

「本当に神様から介入じゃないかよヤダー!?」

 

 

 

 

 

 

「……よし、こんなものかな」

 

 先日346プロを訪問したときのことを思い返しつつコラムを書き上げることができた。

 

 元々文章を考えることが得意ではなかったことに加え、色々と言葉を選びながらだったために時間がかかってしまった。事務所ラウンジの壁にかけられた時計で確認すると三時間ほど経っていたらしく、仕事の合間の時間潰しをしていた冬馬もいつの間にかいなくなっていた。

 

「アンニャロウ、こちとら一応先輩なんだから敬えとは言わないが一言ぐらい挨拶していかんかい」

 

「冬馬君、出ていかれるときに声をかけてらっしゃいましたけど、良太郎君は目を瞑って何かに集中されていたようなので……」

 

 お疲れ様でしたと目の前にコーヒーが淹れられたマグカップを置いてくれる美優さん。

 

 多分それ、結構な御手前なものをお持ちだったりあむちゃんの乳揺れを脳内で反芻してるときだった可能性がある。

 

「……あれ、どうしたんですか美優さん、そんな事務員みたいな服を着て」

 

「元々事務員でしたよ……!?」

 

 いや、元事務員で現アイドルの美優さんが事務員の制服を着ているから聞いたんですが。

 

「そもそも美優さん、今日お休みじゃなかったですか?」

 

「えっと、少し事務所でやることがあったから出社したんですが……皆さんがお仕事をされているところを見てたら、その……」

 

「申し訳なさが先に立って思わず事務仕事を始めてしまった、と」

 

 無表情ながらも「そういうところですよ」と目で訴えると、通じたらしい美優さんは「うっ……」と怯んだ。

 

「その、アイドルは勿論楽しいのですが……やっぱり自分はこちらの方が性に合っているようなので……」

 

 まぁ、その辺りは簡単に抜けないのだろう。

 

 

 

「そう、俺の大乳好きもそれと同じなのですよ」

 

「それと同じに括られるのは大変不本意なのですが」

 

 いつもの三点リーダーが無くなるほど本気の口調だった。

 

 

 




・俺が大乳好きな理由
※諸説あります。

・マザコン疑惑
良太郎切腹の覚悟とは裏腹にそんなに大事にならなかった模様。そして兄貴に飛び火。

・りあむたちとの邂逅
外伝時空とはいえ、初対面。
やっぱりりあむは良太郎を崇め讃えるムーブをすると思う。

・「ほら、泣き止んでりあむちゃん」
このラスボス系主人公、基本的にトラブルメーカーのくせして最初から困っている人に対しては普通に優しく接するからタチが悪い。

・『魂の妹』
???「一体誰なのでしょうか……このジョインジョインナギィの目をもってしても全く読めません」

・「これ外伝ですから」
『大変申し訳ない』



 ライブ後の日常編です。若干尻すぼみ的になるかもしれませんが、こういうのも大事(メイビー)



『どうでもよくない小話』

 第九回シンデレラガール総選挙始まりましたね!

 自分は今回、加蓮を全力で応援します!

 というわけでそんな彼女を応援するための短編『34日後にお姫様になる少女』をツイッターにて毎日更新中です!

 北条加蓮に、清き一票を!

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