――さて、CMもあけたし、そろそろ行くか。
協賛企業のCMかと思いきや、まさかの良太郎さんたち123メンバーのCDやDVDのCMだった。いや、間違ってないんだろうけど……何かが間違っているような気がした。
――志希、準備はいいか?
『だから最初から出来てるって言ってるじゃーん』
――悪かったよ。それじゃあ、よろしく頼むぞ。
――『一ノ瀬志希』による『三船美優』の愛の告白です。
次の瞬間、志希ちゃんが纏う空気がスッと変わるのを感じた。
『……あ、あの……』
普段の飄々とした様子は鳴りを潜め、両手の指を胸の前で落ち着かなく弄ぶ。視線もツイッと外れ、それはまるで何かに怯えているようにも見えた。
『……いいえ、なんでもないです』
ふぅ……と小さくため息を吐くと、志希ちゃんは両手を下ろした。お腹の前で組まれた両手は、朗らかになった志希ちゃんの表情とは裏腹にギュッと強く握り締められていた。
『ただ……ご迷惑でなければ』
うっすらと目に涙を浮かべながら――。
『……「貴方のことが好きでした」……という、私の気持ちだけ覚えておいてください』
その言葉に、会場からどよめきが起こった。
『おめでとう、ございます』
――おおっと!? これは予想外!?
――確かにお題は『愛の告白』だから、そのシチュエーションに関しては自由だが。
――まさか『結婚式直前に最後の告白』で来るとは思わなかったな。
何故か歓声よりも拍手が巻き起こる会場の中、翔太君と良太郎さんの感心した様子の声が聞こえてくる。
――これは随分と思いきったことをしたねぇ。
――しかし着眼点は悪くない。
――なんというかこう……美優さん、最後に一歩引いて自分の幸せを掴み損ねそうな雰囲気があるから。
――分かる。
――またの名を未亡人オーラ。
――分かる。
『な、なんですかそれ……!?』
良太郎さんと翔太君からのあんまりな物言いに、珍しく抗議の声を上げる美優さん。彼女の気持ちも分からないでもないが、それ以上に『未亡人』という評価に内心で納得してしまったので私も良太郎さんたち側だった。
――いや、ホントに気を付けてくださいね?
――アイドルとしてもステージで一歩下がりそうなとき結構ありますから。
――それも美徳ですけど、美優さんはもうちょっと……ね?
『……はぃ……』
抗議をしたら逆に年下から注意を受ける形になってしまった美優さん。言われたことに心当たりがあったらしく、先ほどよりも顔を赤くしながら俯いてしまった。
そんな美優さんの横で、見事な演技を見せてくれた志希ちゃんが唇を尖らせる。
『ねーちょっとー。今、あたし結構頑張ったんだけどー』
――あぁ、悪い悪い。
――美優さんのことをよく見てるし、それを演じるだけの技量もある。
――そして何より『告白』というお題でこのシチュエーションを選ぶとは。
――流石だな、志希。
『ふっふ~ん!』
珍しくオチもなく手放しで褒める良太郎さんに、志希ちゃんは自慢げに胸を張った。その様子が飼い主に褒められた猫のようで、思わずホッコリとしてしまった。
――さて、恥ずかしがってる美優さん、次は貴女の出番ですよ。
『この流れで私なんですか……!?』
――だって元々その順番だったし……。
『仕方ないですね……美優さんの心の準備が出来るまで、私が先に――』
――美優さん、このタイミングを逃すと大トリになりますよ。
『やります……!』
『美優さん!?』
流石に大トリは嫌だったらしく、美優さんにしては珍しく志保ちゃんの善意(に見せかけた保身)を断るのだった。
――志保ちゃん、一人だけ逃げようったってそうはいかないよ。
『何が何でも私を道連れにしたいようですね……!?』
見えないはずの天の声を睨む志保ちゃんの傍らで、美優さんはパタパタと自分の顔を手で仰いで熱を払っていた。その仕草がちょっと可愛らしい。
――それで美優さんは、誰の演技だったのかな?
『あっ、はい……』
翔太君に促され、自分が引いた紙を前に掲げる美優さん。そこに書かれていた『所恵美』の名前に、会場から「おぉっ!?」という歓声が上がった。
――つまり……美優さんがギャルになる、と。
そしてそんな良太郎さんの一言で、会場の歓声がさらに大きくなった。
――全っ然想像できないな……。
――自分とは全く違うギャルというキャラをどう表現するのか。
――美優さんには是非とも期待したいところだ。
『うぅ……』
多分良太郎さんとしては純粋な意味で「期待している」と言ったのだろうが、美優さんにとっては逆にプレッシャーになってしまっている。
『……い、いきます』
だが、そこは曲がりなりにも……いや、
――それでは、お願いします。
――『三船美優』による『所恵美』の愛の告白です。
『……きょ、今日は買い物に付き合ってくれてありがとねー!』
……先ほどはあぁ言ったものの、私も美優さんならば無難な感じにいくと思っていた。
しかし、蓋を開けてみたら意外や意外、なんと初手ウインクからのギャルピースだった。これには会場も「ふうううぅぅぅ!」と盛り上がらざるを得ない。
『いやぁ、思わずいっぱい買っちゃったよー!』
覚悟を決めたにも関わらず、やはり羞恥には勝てなかったらしい美優さんの顔が真っ赤になるが、それでも演技を止めないところは流石だった。
『……それで、その……きょ、今日だけじゃなくて、これからも、一緒に買い物出来たらなーって……』
視線をふいっと逸らしながら人差し指を合わせるのは、演技だけではなく美優さん自身の照れも含まれているのだろう。
『と、友達としてじゃなくて』
そして美優さんは畳みかけるように、チラリとカメラに視線を向けた。
『……こ、恋人として……なんて、どうかな?』
地鳴りのような『うおおおぉぉぉっ!』という大歓声が響き渡った。
――おっ、これもいい告白!
――ドンドン赤面しちゃう辺りが美優さんだけど、雰囲気は頑張って恵美ちゃんらしさを出してたね。
二人続けてやや変化球気味な告白になったが、天の声の二人からは当然のように高評価が聞こえてきた。
――解説のリョータロー君、今のはどういう心境の告白だったのかな?
――うん、そうだな……きっと最初は友達付き合いの一環だったんだろうな。
――しかし買い物という名のお出掛けを繰り返すことで、恵美ちゃん側の好意がライクからラブへと変わってしまった。
――だから彼女の方から一歩を踏み出したわけだ。
――なるほど……でもそうなると、これは男側にも問題がありそうだね。
――そうだな。男だったら是非とも自分からその一歩を踏み出したいところだな。
『あの短い演技でここまで話を膨らませてるよ……』
『……その、申し訳ないんですけど、私そこまで深く考えてなかったです……』
恵美ちゃんが『凄いなぁ』とややズレた感心をする一方で、演技した美優さんは申し訳なさそうに顔を赤くしていた。
――何はともあれ、いい告白でしたよ。
――ギャルな美優さんも見れたし、会場のみんなも大満足。
良太郎さんのその言葉に合わせるように、会場からは歓声と拍手が巻き起こる。
――さて、それじゃあ。
――志保ちゃん、誰の名前が書かれた紙を引いたのかな?
『………………』
最後の一人なのだから分かっているだろうが、全員に確認してもらうために良太郎さんが促すと、志保ちゃんは観念した様子で紙を掲げた。そこに書かれていた名前は当然『佐久間まゆ』。
――おぉ……志保ちゃんが、あの甘々なまゆちゃんの演技をするのか……。
――大トリに相応しい引きをするとは、やっぱり志保ちゃんは持ってるなぁ。
『どうもありがとうございますっ!』
ヤケクソじみた志保ちゃんの感謝の言葉が会場に響く。
「それにしても、志保ちゃんがまゆちゃんの演技かぁ……」
確かに今回のみんなの演技の中で一番興味が湧く組み合わせだった。
123プロの中で『最もクール(当社比)なアイドル』が『最もキュート(当社比)なアイドル』の演技をするのだ。そのギャップを想像するだけで、私もその演技を期待せざるを得ない。
「志保ちゃん、どんな可愛い演技するんだろう……!」
隣の可奈ちゃんも期待を抑えきれない様子だった。
――それじゃあ志保ちゃん、覚悟はいい?
『……はい。……良太郎さん』
――ん? 何?
『こうなったからには、全力で挑ませていただきます』
――ほほう。
――楽しみにしてるよ。
『はい』
それは、普段の良太郎さんと志保ちゃんを見慣れている私たちにとっては、割とありふれた二人のやり取り。
しかし、その僅かなやり取りに、この二人だからこそ紡がれた信頼のような何かが見えたような気がした。
――それじゃあ最後、決めてもらおうか。
――『北沢志保』による『佐久間まゆ』の愛の告白です。
『……好きです』
「っ!?」
いきなり放たれたその告白の言葉に、会場全体が騒然とする。
先ほどまでの流れであればここで終了となる場面だが、天の声の二人は演技を止めようとせず、また志保ちゃんも演技を続ける。
『……分かっています。貴方が、私のこの想いを受け取ってくれないということは』
手をお腹の前で組み、目を伏せてポツリポツリと独白するように言葉を紡ぐ志保ちゃん。まゆちゃんに似せた普段の彼女よりも少々高い声だが、不思議と可愛らしいという感想は浮かんでこなかった。
『これは貴方の重しになってしまうかもしれない。けれど……どうか、この想いを口にすることを許してください』
顔を上げた志保ちゃんの目元が光る。口元は必死に笑おうとしつつも……その目からは静かに涙が零れ落ちていた。
『貴方を愛しています。世界の誰よりも……なんて言葉は使いません。私の愛は、他の誰のものでもない確かな
スッと自分の人差し指で涙を拭う志保ちゃん。
『立ち止まらないでください。……ただ、貴方が振り返ったとき。そこには、貴方を愛する一人の少女がいることを……覚えていてください』
そして志保ちゃんはニコリと微笑み――。
『私は、貴方を愛しています』
――次の瞬間、会場が爆発した。それは良太郎さんがマントを脱ぎ捨てた瞬間に匹敵すると言っても過言ではないほどの大歓声だった。
『佐久間まゆ』の告白であり『北沢志保』の告白でもあるそれは、なんというか言葉では言い表わせられない衝撃となって私たちの心を揺さぶり、思わず私も「きゃーっ!?」と叫んでしまった。
志保ちゃんは『告白の相手』の名前は口にしなかった。けれど私には……いや、きっとこの会場にいる誰もが、一体その相手が誰だったのか気付いていることだろう。
『………………』
何せ、先ほどの美優さん以上に真っ赤になった顔を両手で覆い、その場に座り込んでしまった
――いやはや、これは僕なんかが下手にコメントしていいもんじゃないね。
――はい、リョータロー君、任せたよ。
――……まぁ、俺も余計なことは言わないよ。
――ただ一言。
――……参った。俺の負けだよ、志保ちゃん。
『当然です』
あの『周藤良太郎』の口から敗北宣言を引きずり出した少女は、先ほどとは打って変わりいつもの様子で自身の髪を背後に払った。
――さて、これで全員の告白が出揃った。
――この『123チャンピオン! 炎の告白王選手権!』の勝者は果たして誰なのか。
『名前変わってますよ』
『ついでに趣旨も変わってます……』
――勝者を決めるのは……。
――『アナタ』だ!
・『一ノ瀬志希』による『三船美優』
実は気合いを入れれば意外と演技派。取り繕うのが上手いとも言う。
奇才だけあって着眼点は他とは違うものの、美優さんらしさはあると思う。
・未亡人オーラ
朝霞リョウマ、美優さんに悲恋属性付けすぎ問題(楓一緒含む)
・『三船美優』による『所恵美』
ギャル美優爆誕の巻。
真っ赤になってギャルギャルしてる美優さん、いいですわぞ^~。
・『北沢志保』による『佐久間まゆ』
Q 演技ガチ派の志保が『自分に素直になったまゆ』の演技をしたらどうなる?
A 王 道 の 暴 力
・『123チャンピオン! 炎の告白王選手権!』
テレビチャンピオンは作者の青春。
アイドル五人による告白シーンをお届けしました。
そして五人の順位は……読者の皆様に決めていただきたいと思います!
というわけで、公式の機能を利用しての初アンケートです! 外伝だし、こういうお遊びを入れていきたい!
皆様が一番『これだ!』と感じた組み合わせにご投票をお願いします!
『I love you』選手権 アナタは誰を選ぶ?
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『所恵美』による『北沢志保』
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『佐久間まゆ』による『一ノ瀬志希』
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『一ノ瀬志希』による『三船美優』
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『三船美優』による『所恵美』
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『北沢志保』による『佐久間まゆ』