アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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ある意味デレマス編から続く志希のお話の最終話!

そしてついに、良太郎のステージ!


Episode32 Like a flame!! 4

 

 

 

 ――あたし、一ノ瀬志希―。

 

 ――所属は346じゃなくて123なんだけど。

 

 ――まぁ、しばらくよろしくー。

 

 

 

 それが私と……私たちと一ノ瀬志希のファーストコンタクトだった。

 

 美城専務が立ち上げた企画『Project:Krone』内のユニット『LiPPS』。そのメンバーの一人として他事務所である123プロダクションからの出向としてやって来た彼女は、私・美嘉・フレデリカ・周子に対してニヘラと笑いながら手を振った。

 

 『アイドルを知る』ためにアメリカから良太郎先輩を追って海を渡ってきた志希は、彼曰く「一癖も二癖もあるが悪い子ではない」とのこと。確かに悪い子ではなく、ユニットメンバーとしてだけではなく友人としても良い付き合いが出来ていたと思う。

 

 しかし、良太郎先輩の後押しがありつつも最後は自らの意志でアイドルになると決めた志希だったが、サボり癖……というよりは失踪癖が酷かった。ふと目を離すと忽然といなくなり、レッスン中の僅かな隙にも姿を消す。123プロから『とにかく厳しく』と言われていたらしいトレーナーさんたちがやや力づくで連れ戻すという場面もしばしばあった。

 

 それにも関わらず、彼女は決して『不真面目』ではなかった。レッスンの最中は真剣そのものだったし、出来ない箇所や苦手な箇所を居残りして自主練するというストイックさも垣間見えた。……居残りするぐらいなら最初から失踪するんじゃないわよ、と思わないでもないけど。

 

 志希はアイドルに対して真剣だった。

 

 しかし……それはきっと、心のどこかでまだ『アイドルの魅力』を探していたからなのだろう。

 

 

 

 ――んー……まだイマイチ分かんない。

 

 

 

 『LiPPS』として最後の活動を終え、志希が346の事務所へやってくる最後の日。彼女は良太郎先輩から「どっちの事務所で活動してもかまわないんだぞ」と言われたことを明かした上で、私たちにこう告げた。

 

 

 

 ――みんなと一緒のステージに立てて嬉しかったし、これからも続けたいって思ったのもホントだよ。

 

 ――でもね、リョータローはね。

 

 ――『周藤良太郎として、一ノ瀬志希というアイドルを見守りたい』って。

 

 ――だから、あたしはリョータローの側で見つけたい。

 

 ――そして。

 

 

 

 ――こんなにも楽しいことを見付けることが出来たよって。

 

 ――いの一番に、教えてあげたいんだ。

 

 

 

 そんなガラにもなく健気な言動がまるで自分で捕まえた獲物をご主人様に自慢する猫のようで思わずホッコリとしてしまったが、志希は「リョータローにバラしたら、どーなっちゃうか、分かるよねー?」と極彩色の液体が入った試験管を振りながらニッコリと笑った。それも照れ隠しなのだろうが、その手段が人体実験なのは勘弁してもらいたい。

 

 ともあれ、一ノ瀬志希は『LiPPS』を脱退し、123プロへと帰っていった。

 

 交流が全く無くなったわけではないが、それでも同じグループとして活動していたときと比べると顔を合わせる機会が少なくなった志希。

 

 私は()()を見付けられたかどうか、少しだけ気になっていた。

 

 しかし――。

 

 

 

『……アイドルって、楽しいね!』

 

 

 

 ――もう、聞く必要はなさそうだった。

 

「……あれ? 奏ちゃん、泣いてる?」

 

「っ、そんなわけないでしょ……変なこと言わないでちょうだい」

 

 隣でサイリウムを振っていた唯が顔を覗き込んできたので、ちょうど痒くなってしまった目を手の甲で擦る。ニヤニヤと訳知り顔で笑っている唯に少しだけイラッとしつつ……先ほどのステージの上での志希の姿を思い出し、また少しだけ目が痒くなった。

 

 ……本音を言えば、私たちといるときに、それを知って欲しかった。分かって欲しかった。

 

 けれど、オープニングからここまでの僅か二曲の間で、()()()()()()こそ『アイドルとしての志希の居場所』だったのだと納得してしまった。

 

 いつか。いつの日か。『LiPPS』としては勿論のこと。『123プロの一ノ瀬志希』ともステージに立ってみたいと、そう思った。

 

 

 

『ほらほらみんなー! 感極まったり疲れてる場合じゃないよー!』

 

 恵美さんと志希の曲が終わり、感動や興奮などの様々な感情で揺れ動く観客たちの前に続いて現れたのは、『Jupiter』の御手洗翔太さん。『周藤良太郎』という例外を除いた人気ナンバーワン男性アイドルユニットの一人というだけあり、会場は先ほどよりも大きな黄色い歓声に包まれた。

 

 

 

『Dancing on Time!』

 

 

 

 Yeah!!!

 

 

 

『Dancing on Time!』

 

 

 

 Yeah!!!

 

 

 

 コールと共にサイリウムの光が上下する。

 

 先ほどの志希と恵美さんのステージの余韻に浸るのは後回しだ。アイドルのライブに来た以上、今は目の前のステージに集中することにしよう。

 

 私も周りとサイリウムの色を合わせ、ささやかながら上下に振るのだった。

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

 佐久間まゆさんの『エブリデイドリーム』、北沢志保さんの『ライアー・ルージュ』と立て続けに振った赤いサイリウムを下ろしながら一息つく。

 

 オープニングMCを終えてここまで四曲が披露された。恵美さんと志希さんのデュエット、翔太さん、まゆさん、志保さんのソロ。どれもトップアイドルとして名を馳せている人たちのステージに、会場のテンションは常に最高潮の頭打ち状態だ。

 

 けれど、みんな心のどこかで()()()()を待ち望んでいる。

 

 私も、なんとなくそろそろ来るのではないかという予感があった。もしかしたらそれは予感でもなんでもなくて、ただの願望だったのかもしれない。

 

 しかし、その願望は実現することとなった。

 

 

 

『死して尚、獅子の如く、四肢を振る志士となりて――!』

 

 

 

 わあああぁぁぁあああぁぁぁ!!!

 

 

 

 待ち望んだ声。待ち望んだ姿。誰も他の出演者を蔑ろにするつもりはないだろうが、それでも自然と先ほどよりも熱の籠った歓声が怒号のように響き渡った。

 

 メインステージの左右に開いたスクリーンの中央から現れた良太郎さんが、歌いながら歩いてくる。

 

 そしてステージの中央へと辿り着くと、右手でマントの左肩部分を掴み……そのまま一気にマントを脱ぎ捨てた。

 

 

 

 きゃあああぁぁぁあああぁぁぁ!!!

 

 

 

 下の衣装がタンクトップだったため、突然良太郎さんの二の腕が露になり、会場全体が黄色い声に包まれる。その中に若干野太い黄色い声が含まれているのも流石である。

 

「ちょ、加蓮っ!?」

 

 そしてそんな歓声の中で微かに奈緒の焦ったような声が聞こえてきた。横を見ると、加蓮が呆然とした表情でその場に座り込んでいた。

 

「ど、どうした!? 気分悪くなったのか!?」

 

 焦った様子で加蓮の肩を揺する奈緒。

 

「こ……」

 

「こっ!?」

 

「……腰、抜けた……」

 

「はぁっ!?」

 

 どうやら今のに()()()()ようである。いくらりょーいん患者である加蓮とはいえ、良太郎さんの普段の姿を知っているはずだ。それでも思わず腰が抜けて座り込むほどの衝撃が、あのマントを脱ぎ捨てるワンアクションにはあったということだ。

 

 それはつまり……貴重ながらも未だに存在している『周藤良太郎に夢を見ているファン』相手にはどれほどの威力だったかというのは……周りやモニターに映る観客席に、その答えがあった。流石にライブを中断するほどのではないが、被害は少なくなさそうだった。

 

 

 

『――今ここに、俺がいることを示そうっ!』

 

 

 

 そんな人たちがいることを知ってか知らずか……いや、知っているはずにも関わらず、良太郎さんは「ボサッとしてると置いてくぞ!」と言わんばかりに観客たちを煽り始める。

 

 色々と衝撃が強すぎて頭が真っ白になっていたが、これは『Dangerous DEAD LiON(死んだライオン)』。良太郎さんの曲の中でもかなり激しい曲で、このままボーッとしてたら置いて行かれてしまう。観客たちのリアクションを見るのも面白いが、それにかまけて良太郎さんのステージを見逃すのは本末転倒だ。

 

 ペンライトを良太郎さんの黄色と曲の赤に変えると、モニターの中の良太郎さんはメインステージの中央でダンサー顔負けのダンスを披露していた。先ほどまで志保さんたちのステージを華やかにしていたバックダンサーは捌けており、そこは『周藤良太郎』の独壇場と化していた。

 

 これだけのダンスを披露しつつ、ヘッドセットマイクが拾う良太郎さんの歌声はまるで平常時に歌っているような安定感だった。ダンスと歌のための呼吸を僅かなワンブレスだけで済ませるとは、一体どんな肺活量をしているのだろうか。きっとこれが、良太郎さんがいつもこなしているという徹底的な基礎トレーニングの果てに得られるものの一端なのだろう。

 

(………………)

 

 良太郎さんのパフォーマンスを堪能しながらペンライトを振りつつ……頭の片隅では、少しだけ別のことを考えていた。

 

 ()()()()()を越える歌唱力を持つアイドル『歌姫』。彼女たちは良太郎さんが自分でも「勝てない」と負けを認めるほどの実力を持ったアイドルたち。

 

 では、ダンスの分野で良太郎さんを越えるアイドルはいるのだろうか?

 

 気になった私はそれを尋ねたことがあった。

 

 

 

 ――んー……()()()()()()いないかな?

 

 ――勿論、ヘレンさんみたいなトップダンサーなら勝てない人はたくさんいるよ。

 

 ――でも『アイドル』相手だったら()()負けない。

 

 

 

 そもそも男性アイドルと女性アイドルでは『性差』がある故に、体力や筋力的な問題が関わってくるこの分野では良太郎さんに分があるのは当然である。

 

 それを踏まえた上で彼を越えるためには、()()()()()()()()()()()()を覆すほどの良太郎さんの得意分野である『表現力』で大きく上回らなければいけないのだ。杏の言葉を借りるならば「それなんて無理ゲー?」である。

 

 でも、良太郎さんは『まだ』と称したのだ。

 

 きっと……良太郎さんの目には見えているのだろう。

 

 

 

 ――『周藤良太郎』が負けを認める『舞姫(まいひめ)』が現れる未来が。

 

 

 

『――死して尚、喰らえっ!』

 

 

 

 わあああぁぁぁあああぁぁぁ!!!

 

 

 

 果たして何度目になるか分からないが、割れんばかりの歓声が会場に響き渡った。

 

 

 




・志希ちゃんのお話
デレマス編で語られることがなかった、アイドル『一ノ瀬志希』のお話。
外伝ではあるものの本編時空という少々ややこしい時系列ですが、ここで決着です。
ここのお話(というか設定)は今後の本編内でも有効となります。

・いの一番に、教えてあげたいんだ。
オクスリを良太郎に試そうとしたのもの、実は無意識の中で真っ先に自分の研究成果を知ってもらいたかった。まさに獲物を自慢する猫。

・『LiPPS』を脱退
Lesson228で常務は「解散」と発言しましたが、その後志希を含めた五人の要望により存続が決定。今は四人で活動している設定。

・『死して尚、獅子の如く、四肢を振る志士となりて――!』
??「っ!」ガタッ

・黄色い声
・「……腰、抜けた……」
物語の関係上普段の良太郎ばかりが描写されてますが、ちゃんとアイドルをやってるときのコイツは凄いんだよってことを描写したかったんや……!

・『舞姫』
『歌姫』がいるんだから、いてもおかしくないよねっていう話。
ただダンスが超得意ってキャラの知識がイマイチ……。
なお『既存キャラの中から』生まれる予定。



 キャーリョータローサンカッコイー!

 おいおい……ちゃんとライブシーン書くの、もしかして運動会以来とか言わないよな……!?(未確認)

 というわけでひとブロック終わったところで一旦区切りです。

 普段ならばこの辺りで番外編を挟むところですが、今回はライブのテンポを大事にしたいので(出来ているとは言っていない)このまま続きまーす。



『どうでもいい小話』

 そういえば今更ですが、7th幕張間近ですね! 自分は仕事の関係上初日だけLV参加です!

 そして名古屋公演は無事に両日現地! ヒャッホー! 絶対にこれ銀のイルカやるぞー! ウルトラブルーめちゃくちゃ配布しまくってやるー!

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