「えっ、私ですか? 知ってましたよー。高校の授業参観で、お二人仲良く参加されていたのを覚えてます。美波ちゃんは初耳だったんですね」
「初耳だったんです……」
良太郎さんの同級生だった茄子さんに彼の両親のことを聞いてみたら、やはり知っていたようだ。ただなんというか……『周藤良太郎』の授業参観というのがイマイチイメージが湧かなかった。
さて、茄子さんを含め、関係者席にも人が増えてきた。
「ふぅ、間に合ったー!」
「す、すみません、私が遅くなったばかりに……」
「いーのいーの! 気にしない気にしない!」
小柄でグラマラスな女性が、同じくグラマラスな女性と共に関係者席へやって来た。
「早苗ちゃん。その子が、留美ちゃんの友達?」
「これはまた美人さんだね」
「あ、お義母さん、お義父さん。はい、えっと……後輩なんだっけ?」
「はい。
「正確には俺たちじゃなくて、良太郎と幸太郎なんだけどね」
「今日は一緒に楽しみましょうねー」
「は、はい」
どうやら彼女たちも良太郎さんの身内らしい。
良太郎さんや恵美さんたちの両親や高町なのはさんと高町美由希さんといった身内や、765プロや346プロといった彼らの知り合いのアイドルたち。ここにいるのはみんな『アイドル』の関係者なので、少々肩の力を抜いてステージに集中出来そうなのがありがたかった。
「はぁ……ついにここまで来てしまった……」
「楽しみでごぜーますね!」
お仕事のとき以外滅多に見ることのないしっかりと着飾った杏ちゃんが、席に着くなりガックリと肩を落とした。そんな杏ちゃんの肩をゆさゆさと揺する仁奈ちゃん。資料室時代からもそうだったが、こうして見るとやっぱり姉妹感が強かった。
「あら、元気ないわねー。本番前だから、飴でもどーお?」
「飴っ!? ……あっ、えっと……」
「飴でごぜーますか!? 欲しいです!」
杏ちゃんの前の席に座る良子さんが振り返りながら、鞄から飴を取り出して彼女に差し出した。大好物の飴に一瞬目を輝かせた杏ちゃんだが、その相手が良太郎さんの母親ということで流石に躊躇ったようだ。その一方で仁奈ちゃんはそんなことも気にした様子もなく、良子さんから飴を貰っていた。
「ありがとーごぜーます!」
「……ありがとうございます」
仁奈ちゃんと一緒に飴を貰う杏ちゃん。
「はーい。うふふっ、可愛いわねー」
「「………………」」
そしてそんな杏ちゃんと仁奈ちゃんを悔しそうに見つめる
……その、他意はないのだけど、もう少し私も良子さんとお話を……。
「……あら?」
「? 奏さん、どうかしたの?」
まるで誰かを探すかのように、奏さんはキョロキョロと辺りを見回していた。
「いや……ウチの専務がいないと思っただけよ」
「美城専務が?」
奏ちゃんと同じくプロジェクトクローネのメンバーである凛ちゃんから、確か専務も関係者チケットを持っていると聞いていた。確かに言われてみれば、その姿は見られなかった。
「あの熱烈なアイドルオタクの専務のことだから、もっと早くからスタンバイしてるものだとばかり思っていたのだけど……」
「あっ、美城さんですか?」
そんな奏さんの言葉に反応したのは、961プロの詩花さんだった。
「美城さんでしたら、765プロの高木さんのお誘いで貴賓室にいますよ」
「貴賓室?」
「はい。丁度私と入れ違いでした」
えっと、確か詩花さんの話だと、貴賓室には961プロの社長の黒井崇男氏もいたはずだ。ということは、今現在貴賓室には『961』『765』『346』という三つの大物芸能事務所のトップが揃っていることになる。
一体どんな会話がなされているのか……少しだけ気になってしまった。
「お招きいただき、ありがとうございます」
「いえいえ、今日は一緒に楽しみましょう!」
「私は楽しむために貴様をこんなところに呼び寄せたわけじゃないんだぞ……!?」
「そう言うな、黒井。我々は全員良太郎君と幸太郎君に招待された身なんだから」
(な、なんか場違い感が凄いぴよ……)
「ふん……まぁいい。最近調子に乗っている346プロの頭とは、一度話をしてみたいと思っていたところだ」
「私もです。961プロダクションの社長であり、あの『Jupiter』や『黒井詩花』を世に送り出した名プロデューサーでもある貴方の話を、是非聞いてみたかった」
「………………ふんっ」
「ははっ。しかし今日は折角のライブなのだから、話ばかりでは少々勿体ないな」
「それもそうですね。そちらも……
「っ!?」
「ぴよっ!? す、すごい重装備ですね……!?」
「これはこれは……噂には聞いていたが、随分とアイドル好きな専務さんだ」
「はっはっはっ! これは私も負けていられんな! 音無君! 我々も全力でいくぞ!」
「は、はいっ!」
「き、貴様らあああぁぁぁ……!?」
「そろそろだね……」
「き、緊張してきました……!」
「ふぅ……」
「お前は飛ばしすぎだ」
腕時計を覗く未央に、体全体を強張らせる卯月。そして開演前から若干疲れている加蓮と、呆れる奈緒。
見切れ席にも人が増え始め、段々と会場全体のボルテージが上がり始めていることを肌で感じた。
「えっと、何処だろう……」
「んー……あっ! こっちだよ
「ま、待ってなーちゃん……!」
私たちの後ろの席にあずき色の長髪の少女二人がやって来た。どうやら姉妹らしくとてもよく似ていて、快活な姉らしき少女がやや内気そうな妹らしき少女の手を引いている。
「あっ、今日はよろしくお願いしまーす!」
「えっと……こちらこそ、よろしく」
「って、えぇ!?」
「っ」
元気よく挨拶をされたので振り返り挨拶を返すと、目を見開いて驚かれた。
まさかバレた……!? 変装はしっかりとしてたのに……!
「なにそのTシャツ凄い! 良太郎君のサインだらけ!」
「えっ……あ、うん。色々頑張ったんだ」
どうやら私が着ていたTシャツに反応しただけのようで、内心でホッと胸を撫で下ろす。
そのまま後ろの少女との会話が始まると思いきや……次の瞬間、会場が薄暗くなった。
『おおおぉぉぉ!?』
会場全体にどよめきが走り、ボルテージが一気に跳ね上がった。
「ライブ前のこの感じいいよな。なんかこう……血が冷たくなるっていうかさ」
「どっかで聞いたことあるぞそのセリフ」
会場では留美さんによる本番前の諸注意が始まり、俺たちもそれぞれの待機場所へと移動を開始する。
「おっ! 見ろ冬馬! カメラだカメラ! いえーい!」
「ただただうぜぇ」
ステージ裏へと続く通路にカメラマンが待ち受けていたので冬馬の肩に腕を回しながらピースサインを繰り出したのが、冬馬から肘を貰ってしまった。
「ってて……んだよー、こういうカメラにもファンサービスするのが醍醐味だろー?」
「そうだぞ冬馬、これぐらいは……やってあげないと」
俺の言葉に同意した北斗さんが、撮影中のカメラに向かってウインクと投げキッスをした。それを見ていた女性スタッフが「きゃーっ!」と黄色い声を上げる。
「ほら冬馬も」
「……やんねーよ」
「それじゃあ俺が」
無表情ゆえに効果は薄いかもしれないが、人差し指と中指で唇を抑えてから軽くチュッとする。どうやらそれでも十分だったようで、北斗さんと同じぐらいの黄色い声をいただくことが出来た。
「僕もやるー! 冬馬君も恥ずかしがってないで!」
「……ちっ! 分かったよ!」
それに続いてノリノリの翔太と、渋々冬馬もカメラに向かって投げキッスをする。これも映像特典として収録されるだろうから、十分すぎるファンサービスになっただろう。
「ねーねーまゆ! あれアタシたちもやろーよー!」
「ちょっと待って恵美ちゃん! ちょっと今の映像をすぐに見せてもらえないかどうか交渉中なの!」
「そーいうの後で!」
恵美ちゃんに引っ張られ、まゆちゃんもカメラの前へ。そして二人並んで両手で口元を抑えて……。
「「んー……チュッ」」
パチっとウインクをしながら両手で投げキッス。これは俺たち男連中では決して敵わない破壊力だ……!
「ほーら! 志保も恥ずかしがらずに!」
「えっ、わ、私もですか!?」
「志希ちゃんと美優さんもやりましょうねぇ」
「おっけー」
「え、えぇ……!?」
志希は照れた様子もなく、チュッと軽く投げキッス。志保ちゃんはやや照れたように頬が赤かったが、それでも投げキッスの後に可愛いキス待ち顔を披露してくれた。そして決心がつかなかったことでオオトリになってしまった美優さんは、それはもう顔を真っ赤にしてプルプルと震えながらも、しっかりとノルマをこなしてくれた。
「本番前なのに、美優さんが憔悴してます……」
「その代わり俺はかなり絶好調になったよ」
真っ赤になった顔を両手で覆いながら、志保ちゃんに背中を撫でられる美優さん。その姿までもが可愛らしくて、先程から俺のテンションは最高潮だ。
「……ちょっといいですか」
ふと思い付いたことがあり、チョイチョイと近くにいたスタッフを呼び、小声で指示を出す。最終的には兄貴か留美さんを通すことになるだろうが、それでもこの
(映像特典のみっていうのも勿体ないしね)
「それではお先に」
「いってきまーす!」
「い、いってきます……!」
「いってらっしゃーい」
ガラガラと簡易トロッコで運ばれていく志保ちゃんと志希と美優さんを見送る。
センターステージやバックステージへの移動はそれぞれを繋ぐ花道の下を通るのだが、天井が圧倒的に低いため中腰でなければ通ることが出来ず、ガッツリ衣装を着込んでいる状態での移動は困難を極める。そこで簡易的なトロッコを設置して演者を運んでもらうのだ。これもポップアップと同じようにスタッフさんの人力。いつもお世話になっております。
バックステージから登場する三人を一先ずセンターステージに送り届けたトロッコが戻ってきたので、今度はセンターステージから登場する俺と恵美ちゃんとまゆちゃんがトロッコに乗り込む。
「それじゃあ三人とも、また後で」
「あぁ」
「ステージの上でね」
「チャオ」
なんか久しぶりに北斗さんの「チャオ」を聞いたなーと思いつつ、メインステージから登場するジュピター三人を残してガタガタとトロッコに揺られる。
「「………………」」
狭いトロッコ故に、三人で乗るとそれなりに距離が近くなる。しかし俺を含め恵美ちゃんもまゆちゃんも『本番モード』に入りつつあるので口数は少ない。
普段のほわほわしたまゆちゃんの笑顔や、ニパーッとした恵美ちゃんの笑顔も好きだが、こうした真剣なアイドルの表情も大好きである。
やがてトロッコはゆっくりとセンターステージ下に到着。志保ちゃんたちは既にバックステージ行きのトロッコに乗っていったのでいなかった。
薄暗いステージの下をスタッフさんたちのペンライトの明かりを頼りに移動し、それぞれが登場するポップアップに辿り着く。
「……二人とも、覚悟出来てる?」
「……もっちろん!」
「……出来てますよぉ」
それは重畳。
「いよいよですね」
「にゃはは、美優はだいじょーぶ?」
「正直に言うと大丈夫じゃないですけど……大丈夫、です」
「やるぞテメェら」
「うん!」
「主役は良太郎君だけじゃないってこと、証明しないとね」
「さぁ……行こうか」
――ご来場の皆様、大変長らくお待たせしました。
『123production PREMIUM LIVE -Days of Glory!!-』
――今宵限りの奇跡のステージ、開演です!!!
――それは、後のアイドル史において『伝説』と語り継がれる奇跡の三時間。
――夢のような時間が、始まった。
・茄子と周藤両親
高校の授業参観で顔合わせ済み。仲睦まじく参加していた模様。
・桑山千雪
『アイドルマスターシャイニーカラーズ』の登場キャラ。デレマス的に言えば多分キュート。
母性という名のお母さんヂカラに溢れる23歳。
『アルストロメリア』のお母さん(断言)そしてPの妹(四月一日脳)
・美城専務in貴賓室
重役はこの部屋に全員放り込んでおけばいいかなと(雑)
その結果、黒井社長が不憫枠に……。
・甜花ちゃん
『
『アイドルマスターシャイニーカラーズ』の登場キャラ。デレマス的に言えば多分キュート。
大崎姉妹のダウナーな
毛布被ってる姿が超キュート。お世話したい(甘奈並感)
・なーちゃん
『
『アイドルマスターシャイニーカラーズ』の登場キャラ。デレマス的に言えば多分キュート。
大崎姉妹のギャルな
ようやく出せたシャニマスでの作者の担当! アマナァァァ!
・「ライブ前のこの感じいいよな。なんかこう……血が冷たくなるっていうかさ」
ジミー・イシマール
・投げキッスタイム
今回のライブ編でやりたかったことの一つ。こういう舞台裏でのおふざけ好き。
・簡易トロッコ
トロッコと言いつつ台車に近い。
4th神戸ではうつ伏せに倒れた状態で運ばれるウサミンの姿があった(映像特典)
・「チャオ」
ガチで忘れてた。
だってこのセリフは既に例の宇宙人が脳に刷り込まれてて……。
・『123production PREMIUM LIVE -Days of Glory!!-』
ようやく明かされた今回のライブの名称。まぁ例の当落抽選のときにツイッターでは明かしてたけど。
ちなみに今回の特殊タグをバラすと
《xbig》《b》《i》《bgcolor:#000000》《color:#ff00ff》『《gold》1《/gold 》《green》2《/green 》《red》3《/red 》production PREMIUM LIVE -Days of Glory!!-』《/color 》《/bgcolor 》《/i 》《/b 》《/xbig 》
こんな感じになる。めっさなげぇ。
1(良太郎)2(ジュピター)3(五人娘)見たいなカラーイメージ。
それはさておき、1月に外伝が始まってほぼ七ヶ月。ようやく……ようやく、本番前編が終了です! いやぁ我ながらよくもまぁここまで引き伸ばしたもんだ。
次回からはいよいよ、いよいよ本番! 盛り上がっていくぞー!!