それは、あり得るかもしれない可能性の話。
それはとある休日のこと。遊びに来た良太郎の部屋で、彼のベッドに寝そべりながら雑誌を読んでいたときのことだった。
「イエスっ! パーティータイムだコラアアアァァァ!!」
「きゃあああぁぁぁっ!?」
先ほど「ちょっとコンビニに行ってくる」と言って部屋を出ていった良太郎が、突然ドアを蹴破りながら戻ってきた。いくら自分の部屋だからとはいえ、流石に開け方が乱暴すぎやしないだろうか。
「……なんか未央にしては随分と可愛らしい驚き方だったな」
「それは流石に酷い暴言じゃないかな!?」
曰く「なんか『うおぉぉぉ!?』ってイメージだった」とのこと。失礼な!
「りょ、良太郎の前だと……け、結構女の子らしくしてたつもりなんだけどなー……」
自分で言っておいて少し照れくさくて、最近伸ばしている髪の毛の先を指で弄る。
「
すると何故か、突然良太郎が謝罪の言葉を口にしながらその場に崩れ落ちた。本当に一体なんなのだろうか……。
「それで? 結局なんなの?」
「あぁ、実は帰ってくる途中でポストを覗いたら、こんなものが入っててな」
良太郎がコンビニの袋を机に置きながら雑に放り投げてきた封筒を受け取る。しかし封筒と言ってもなにやら高級感が溢れるデザインで、どうやら蝋で封がされていた形跡もあった。
「何コレ」
「359プロ社長の婚約パーティーへの招待状」
「へぇ、どーりで高級感が溢れて……359プロの社長っ!?」
『アジア最大』と呼ばれる中国の芸能事務所の社長ともなると、それこそ世界レベルのセレブであり有名人だ。
「……ん? ヘレンさんからメッセージ……『今、世界レベルの話をしたわね?』……?」
良太郎がなにやら首を傾げているが、一体良太郎がどうしてそんな大物の婚約パーティーに招待されるのかと私も首を傾げる。しかしよくよく考えたら『周藤良太郎』も世界レベルの有名人だった。
「またヘレンさん……だから世界レベルの話はしてないですって」
「いやーすっごいねぇ、流石周藤良太郎……こんなセレブのパーティーだったら、きっと料理とか凄いんだろうね。羨ましいなー」
「お前も行くんだぞ?」
「……え?」
スマホで誰かにメッセージを送っている良太郎にしれっとトンデモナイことを言われた。
「なんで!?」
「読んでみなって」
良太郎に促され、封筒の中から招待状を取り出して内容を確認する。
「……ゴメン、読めないデス」
「あ、スマン」
英語ですら怪しいというのに、中国語で書かれた招待状を読めるはずがなかった。
「まぁ簡単に言うと『是非パートナーと一緒にご参加ください』みたいなことが書かれてたんだよ」
「ぱ、パートナー」
婚約パーティーに連れていくパートナーというのは、勿論そういう意味のパートナーということだろう。私は良太郎の恋人なのだからパートナーとしては適切なんだろうけど……なんというか、少しだけ気恥ずかしかった。
「というわけで来月だ。来てくれるよな?」
「う、うん」
そして『私がパートナーとして一緒に来てくれる』と信じて疑っていない良太郎に思わず嬉しくなってしまう辺り、本当に私は良太郎のことが大好きなんだなぁと自覚してしまって恥ずかしくなった。
「よし。……ちなみに、パーティー用のドレスとかは?」
「……無いデス」
「そろそろ十八にもなる芸能人が、ドレス持ってないっていうのもどうなのよ」
いや……そういうの着るときって大体撮影のときだし、そういうときは衣装さんが用意してくれるし……。
「よし、それじゃあ今から予定変更だ。お前のドレス買いに行くぞ」
「えっ、今から!?」
先ほどのコンビニに行くときと同じような気軽さで言われてしまったが、そんなに簡単に買えるようなものなのだろうか。
「寧ろ今からオーダーしないと、来月までに間に合わないだろ」
コンビニで買ってきたものを冷蔵庫にしまいながら「ほらほら準備する」と促してくる良太郎。……久しぶりにオフが重なったんだし、今日はのんびりと家デートするつもりだったんだけどなぁ……。
(……でも、これは今後のためだよね)
『周藤良太郎』のパートナーとしてパーティーに出席する以上、良太郎に恥をかかせないようにしっかりとしないと。……川島さん辺りに、セレブなパーティーに出席する上で心がけるべきことを聞いておいた方がいいかもしれない。
「折角だから、未央の胸が零れんばかりのセクシーなドレスにしないとな」
「しないよ!? 絶対にしないよ!?」
「冗談だって」
無表情のままHAHAHAとアメリカンナイズな笑い声をあげる良太郎に一抹の不安を抱えたまま、私のドレスを買いに出かけるのだった。
「冗談だって言ったじゃん!」
「サイズを測った日から今日までの間に成長したんじゃないか?」
「そんなわけあるかー!?」
未央が今日のためにオーダーメイドしたドレスに身を包みながら怒っていた。キッと目を釣り上げて全力でこちらを睨んでくるが、涙目な上に隠そうとしている腕で胸がムニュっとなっているので、残念ながら俺にとっては目の保養にしかなっていなかった。
というわけで、俺は未央とともに359プロ社長の婚約パーティーへと参加することになった。
あの超巨大な芸能事務所をまとめ上げ、自身もアイドルと見紛うほどの美女でありながら大の女好きというなんとも曲者な女社長、曹華琳。そんな華琳の心を射止めたのは、なんと我が元級友であり中国へ渡った途端に何故かアイドルのプロデューサーとして華琳本人から直々にスカウトされた北郷一刀だった。
世間一般的にも意外な組み合わせで、華琳の性格や性癖を知っている人ならば尚更驚くこと間違いなしだ。勿論俺も驚いたが、それと同時に「
ちなみに何故日本で開くのかというと一応北郷への配慮らしく、正確には『日本での婚約パーティー』が正しい。中国でも後で盛大に開催するらしいので、元庶民である北郷はこれからしばらく大変だろう。
そんなことを考えつつ、未央とともに会場となるホテルにタクシーでやってきた。
「ほらお姫様、お手を」
「…ふ、ふーんだ! そんな王子様ムーブしても誤魔化されないんだからね!」
やや胸の部分が強調されたオレンジ色のドレスの未央は、そう言いつつちゃんと俺の手を取ってタクシーから降りる。未央は未央で今日のために色々と勉強してきたらしく、タクシーから降りるとそのまま俺の左腕に自身の右腕を軽く絡めた。
芸能事務所の社長の癖にマスコミ嫌いな華琳のおかげで、取材のカメラのフラッシュなどが一切なく快適な状態でホテルへ入ると、中で待機していたボーイが一礼とともに声をかけてきた。
『お待ちしておりました、周藤様』
「え?」
中国語だったから何事かと思ったら、ボーイじゃなくてガールだった。というか、ホテルの制服着てから気付くのが遅れたけど、確かこの子は以前北郷の直属の部下だと紹介された子である。
『
『はい。周藤様は一刀様の大切なお客様なので、私が直々にご案内させていただきます』
『そいつはどうも。ゴメンね、手間かけさせちゃったみたいで』
『いえ、お気になさらず』
それではこちらへ、と言って先導してくれる凪ちゃんに付いて行く。
「……はぁ〜……中国語読めるのは知ってたけど、やっぱり喋れもするんだね」
広いロビーを歩きながら、未央が感心した様子で顔を覗き込んでくる。その際、身体をこちらに寄せてくるので左腕が大変幸せなことになった。
「昔から語学系は得意だったからな。英語と中国語の他には、フランスドイツスペイングロンギオンドゥルetc……」
「絶対に使いどころがない言語が混ざってたような気がするんだけど」
「
「なんて!?」
「よう北郷。一足先に人生の墓場に足を突っ込むお前を激励に来てやったぞ。まじザマァ」
「久しぶりに会った友人が辛辣な件について」
挨拶もそこそこにコンッと拳を付き合わせる。
「その子がお前の恋人?」
「あぁ」
「ほ、本田未央です!」
一応社長の伴侶になる相手でありこのパーティーの主賓ということで、割と緊張している様子の未央。ここは一つお尻を撫でるぐらいのセクハラでもして緊張を取り除いてやろうか。
「っ、きゃあぁっ!?」
「ふふっ、いい声で鳴くのね」
しかしもう一人の主賓に先を越されてしまった。
「おいコラ華琳、俺のスイートハニーに何してくれてんだ」
怯える未央を女好きの魔の手から抱き寄せるように遠ざける。
「軽い冗談よ。あの『周藤良太郎』が選んだ女がどんなものか確かめたかっただけ」
その確認に尻を撫でる必要はないんじゃないだろうか。結果として未央の緊張は解れたようなのだが、なんか納得がいかない。
「ちくしょう、俺も後で絶対に撫でるからな!」
「そんな宣言を今しなくていいから!」
顔を真っ赤にした未央にポカポカと殴られるのだった。
「………………」
「どうしたんだ、こんなところで」
パーティーが始まり、『周藤良太郎』に気付いて話しかけてくる他の招待客と適当な会話をしていると、いつの間に未央がいなくなっていた。一体何処へ行ったのかと探してみたら、彼女はソフトドリンクのグラスを片手に壁の花と化していた。
いつも元気で人の中心にいることが多いムードメーカータイプな未央にしては珍しいそんな様子が少々気になった。
「……ううん、人が多くてちょっと疲れちゃっただけ」
「本当のこと言わないとここでベロチューするぞ」
「ここで!?」
俺としては全然問題ないのだが、流石にそれは避けたい未央は白状し始めた。
「別に、良太郎は人気者だなって思っただけだよ」
「? 人気者具合でいったら、お前も負けてないだろ?」
『本田未央』といえば、学年に一人はいるであろう男女問わない人気者の典型例と言っても過言ではないだろう。既にお互い卒業している身ではあるが、学校内という限られた範囲ならば俺よりも未央の方が人気者だったはずだ。
「そーいうのじゃなくて……」
要領得ないなぁと思いつつ、小さくなっていく未央の声を聞き取ろうと彼女の口元に耳を近付ける。
「……さっき褐色チャイナドレス美人にデレデレしてた」
どうやら先ほどまで話をしていた
「デレデレはしてないって」
しかしいくら彼女が褐色大乳美女とはいえ、いつもみたいにじっくりと胸を見たりしていないぞ。いや本当に。
蓮華と話をする際は緊張感を持って細心の注意を払っている。なにせいつもの調子で接しようものならば、また鈴の音とともに
「俺と蓮華の関係は……」
そうだなぁ……。
「ちょっとした誤解からお互いの護衛が殺し合いを始めてしまった程度の仲だ」
「ちょっと想像の斜め上だし、それは本当にどういう関係なの!?」
冗談抜きでそれが間違っていない辺り、俺と蓮華は割と奇特な友人関係なんだろう。この詳細はいずれ語ることになる俺の春休みの話を参考にしてくれ。
しかしそうか……未央は俺が蓮華と話をしているところを見て嫉妬してくれたのか。
普段から自分の想いを言葉にして伝えているつもりなのだが、それでもなお不安が拭いきれないところを見ると、普段は明るく振舞っている未央も本当は色んな不安や葛藤を抱えているのだろう。
……あのシンデレラガール総選挙のときのように……。
「わっ、何々!?」
普段明るい元気娘な未央がしょげている姿が可愛くて、思わず側に寄ってグイッと腰を抱き寄せた。手にした飲み物が溢れない程度ではあるものの、急な出来事に驚いた未央も俺に身体を預ける形になり、結果として未央と抱き合う形になった。
「心配させてごめんな。俺は未央以外の女の子に目移りなんてしないから」
「……ゴメン、もう一回言って?」
「……えっと、女の子の胸とかに目移りはするかもしれない」
ジト目の未央に「分かってたけどさー」と頬を抓られた。
「そこはせめて『出来るだけ見ないように努力する』ぐらいのことは言って欲しかったなー」
「生憎と嘘がつけない性分なんだ」
だから、とより一層未央の身体を抱き寄せる。
「俺は一生未央を愛するよ」
打たれ弱い未央をこれ以上悲しませることがないように、これだけは絶対に破らない誓い。
「普段の行いから、イマイチ信じきれないのは自覚してるけど」
「……分かってるなら、もうちょっとだけ気を使って欲しいなぁ……――」
――だ、旦那様?
「……そ、それで、私たちはいつまで抱き合ってるのかな? 割と注目集めてるから、そろそろ離れたいんだけど……」
「やわっこくて気持ちいいからもうちょっとこのままで」
「こらっ!!」
・周藤良太郎(23)
なんやかんやで世界一になったトップアイドル(雑)
級友が一足先に結婚したが、こちらは相手の年齢的なものを加味してお預け中。
たぶんBぐらいは行ってる(昭和的表現)
・本田未央(18)
なんやかんやで良太郎の心を射止めた元ニュージェネリーダー(雑)
多分歴代の恋仲○○シリーズの中でも、一番『彼女』っぽい気がする。
なおこの世界線では既にシンデレラガールに選ばれている(第何回かは未定)
・「イエスっ! パーティータイムだコラアアアァァァ!!」
正直セトリの一番最初にYPTが来るとこんな感じだと思う。
・359プロ
この辺りはLesson210を参照。
・『今、世界レベルの話をしたわね?』
世界レベルとなると、エスパーレベルの察知をする(確信)
・桃香
・雪蓮
・凪
・蓮華
恋姫無双の登場キャラで、それぞれ『劉備』『孫策』『楽進』『孫権』。
・グロンギ
・オンドゥル
ケンジャキさんは最近出演しましたね。五代さんは……まぁ、無理だろうなぁ……。
・ちょっとした誤解からお互いの護衛が殺し合い
Lesson164で触れられたことと併せて考えると、まぁ大体何が起こったのかは分かると思う。
というわけで、総選挙本田未央応援支援での恋仲○○でした!
正直、楓さんにもう一度総選挙楽曲を歌ってもらいたいですし、唯ちゃんにもガラスの靴を履いてもらいたいです。それでも、今回は未央を応援すると決めました! 頑張れ未央!
ちなみにこれとは別に支援短編も公開していますので、もしよろしければ作者ページからどうぞ。アイ転などとは一切繋がりのない短編ですので、ご注意を。
そして次回は本編に戻ります。いよいよ感謝祭ライブ当日です!(ライブが始まるとは言っていない)
それでは皆様、令和でお会いしましょう!