「あっ! りょーくんだ! なんだろー?」
(またリョウからのメッセージの受信音が新曲に変わってる)
「ちょっとりん、打ち合わせ中なんだから後にしてよ」
「美希ー、スマホ鳴ってるよー」
「今昨日良太郎さんが出た歌番組見返してるから後でー」
「その良太郎さんからみたいだけど」
「それを早く言うの!」
「ただいま。えっと、志保がオレンジジュースで未央がコーラだったね」
「ありがとうございます、凛さん」
「ありがとー! あっ、そうだしぶりん、メッセージ来てたよ」
「ありがと。誰だろ……」
「「「……あ?」」」
「いやぁ、それにしても本当に美波ちゃんはセクシーだよねぇ」
「もう、りょうたろうさんったらー!」
「りっちゃんもまだまだアイドル出来たと思うんだけどなー」
「……ふんだ」
かの有名なバスケの先生も『諦めたら? もうそろそろ試合終了だよ?』って言ってた気がするから、俺も諦めることにした。さっきからスマホの着信音がけたたましく鳴り響いているが、今は美女二人と仲良くお酒を飲むことに忙しいので後回しだ。
(……あの、幸太郎さん、良太郎君の目が据わってるように見えるんですけど)
(追い込まれすぎて自棄になったみたいだな)
(い、いいんですか……? あとが怖いような……)
(……まぁ、なんとかなるだろ)
((ダメだこの人、常識人枠のはずなのに根っこの部分が良太郎君と一緒だ……!?))
「でも、アーニャちゃんは私がそういうお仕事をするのがイヤみたいで……」
「そーなの?」
脳内に「ミナミ~」と笑顔で駆け寄ってくるロシアンハーフ美少女の姿が浮かぶ。可愛い。
「はい……『ミナミはもっと清楚なんです! 水着のお仕事ばかりはおかしいです!』って」
プンプンと怒るアーニャちゃんの真似をする美波ちゃん。可愛い。
「まぁ……そうだねぇ」
シンデレラプロジェクト……厳密に言うとシンデレラプロジェクト
……ちなみにではあるがその武内さんは現在、シンデレラプロジェクト二期生を相手に頑張っているらしいのだが……なかなか一期生にも負けずとも劣らないアクの強いメンバーが集まってしまったらしい。その中の一人に会ったことがある比奈からの目撃証言によると「リアルなんJ民がいたっす」とのこと。どういうことだってばよ……。
逸れてしまっていた話を戻そう。
違う仕事が増えた彼女たちの中でも顕著なのが美波ちゃんだ。恐らく以前はラブライカとして清楚なイメージを前面に推したかった武内さんの意向により少なかったのであろう水着グラビアの仕事が、あからさまに増えていた。
まぁ以前から年齢にそぐわぬ色気があると称されていた美波ちゃんなので、遅かれ早かれそういう仕事は増えるような気はしていたので別に不思議に思ったことはない。寧ろ男の目線的には大変ありがたくもろ手を挙げて歓迎する所存なのだが……どうやら彼女を慕う妹分であるアーニャちゃんにはそれがお気に召さなかったようだ。
「もしかして……私、色気ありませんか?」
「いや、寧ろ色気があるからアーニャちゃんは反対してるんじゃ……」
グイッと身を寄せて下から覗き込みつつ、美波ちゃんが素面のときでは絶対に聞いてこないようなことを口にする。このお酒に酔って顔が赤らみ、ブラウスの上二つのボタンが外されて胸の谷間が覗いている美波ちゃん。この状態の彼女に色気がないと称してしまっては、色気というものの定義そのものが怪しくなってしまうだろう。
「……そーいえば、前々から思ってたことがあるんだけど」
プハーッとカシスオレンジを飲み干したりっちゃんがタンッとグラスをテーブルに音を立てて置いた。
「アンタって性欲あるの?」
「ぶふっ」
質問の内容も勿論のこと、りっちゃんの口から『性欲』という言葉が飛び出したことが衝撃的だった。
「おぉ……! 凄いですりつこさん! 五年間連載してきて一度も触れてこず全文検索をかけても一切ヒットしない『性欲』というキーワードに、鋭く切り込みました……!」
何故か感心した様子の美波ちゃんがパチパチと手を叩いているが、日本酒が鼻に入った俺はそれどころじゃない。いや、どっちも無視できない事柄ではあるのだが。
「なんちゅーことを言い出すのさ、りっちゃん……」
「これでも割と気になってる人、多いのよ? アンタ散々大乳がどーだのこーだの言ってるくせに、全然手ぇ出す様子ないじゃない」
「手ぇ出したらアウトだから出してないんだけど」
「だからってシたくないわけじゃないんでしょ!?」
「今すぐその手をヤメロォ!」
人差し指と中指の間に親指を通すりっちゃんの右手を掴んで隠す。
「ちょ、ちょっと……人前でいきなり手ぇ握んないでよ……」
「今更そんな乙女出されて誰がときめくか!」
顔が真っ赤なのは照れじゃなくて酔いだって分かってるんだからな!
「でもそれは私も気になってます! かえでさんとみずきさんも『あれだけ周りに女の子がいるのに身を固めない良太郎君はヘタレ』って言ってましたよ!」
「ほほう」
美波ちゃんからありがたい証言を得てそちらに視線を向けると、勢いよく首を背ける二人の姿が目に入った。いや、そういう周りから評価を受けていることは知っていたけど実際に言われると微妙に腹立つなコレ。
「ヘタレって言われたくないなら正直に答えなさい。アンタ、ちゃんと性的に興奮してるの?」
もうツッコミを入れるのも億劫になるぐらいストレートな物言いだった。本当に酔いから醒めた後に記憶が残っていないことを祈りたい。
「どーなんですか?」
「流石にこの場にいる全員が聞き耳を立ててるこの状況でそれを聞くかぁ……」
はぁ……とため息が出る。
「……そりゃまぁ、これでも健全な成人男性だからな。三大欲求ぐらいは人並にあるよ」
「もっと直接的な言葉をちょーだい」
「そんな濁した言葉じゃ騙されませんよ」
「本当にめんどくせぇなこの二人!」
なんか『これが普段のお前だぞ』って言われたような気がするけど、流石の俺もここまでのセクハラ発言した覚えはない。
「さぁ早く言いなさい!」
「言わないと、先に私が言っちゃいますよ!」
「それ脅してるの!?」
しかし何故か脅し文句として成り立ってしまう現状に疑問を抱かざるを得ない。
「あーはいはい、興奮してるよしてますよ」
「「おぉ~!」」
感心したように目を輝かせるりっちゃんと美波ちゃんにイラッとした。
「はい、この話はこれで終わり。二人とも、そろそろお開きにしよう」
割と時間もいい頃合いになってきた。みんな明日も仕事があるわけだし、これ以上の深酒は明日に支障が出てしまう。……いや、りっちゃんと美波ちゃんの場合は間違いなく出るだろうけど、色々な意味で。
「ちょっと、逃げる気?」
「まだまだこれからですよ~?」
「……しょうがない、この手だけは本当に使いたくなかったんだけど……」
パキパキと拳を鳴らす。
「ちょ、ちょっと良太郎君!? 流石に暴力は……!?」
「安心してください、赤羽根さん。……ちょっとばかり
「え?」
「というわけで、りっちゃんと美波ちゃんをお願いします、赤羽根さん、瑞樹さん」
「お、おう」
「ま、任せておいて」
完璧に
……いや、さっきのは本当に凄かったな……男の俺でも、聞いてて顔が赤くなるかと思った。川島さんを始めとした女性陣が全員顔を赤くしているところを見ると、真正面から
「そ、それにしても少し安心したよ」
「何がですか?」
他のみんながタクシーに乗り込んでいく中、女性陣が離れたことでこっそりと良太郎君に話しかける。普段と変わらない表情の良太郎君だが、お酒に酔って顔が赤くなっている様が少しだけ新鮮だった。
「ほら、良太郎君はなんというか……年齢の割には達観したところがあるからさ」
「『年齢の割には落ち着きがない』とも言われますが」
「いや、君ぐらいの年齢の男なんて普通はまだまだ子どもみたいなものだよ」
大学で遊び呆けていた自分の過去を思い出して苦笑する。社長にプロデューサーとしてスカウトされていなければ、きっと今ほど充実した人生は送れていなかっただろう。
「だからそんな君がちゃんとそういうことに興味があるっていう当たり前のことを知れて、少しだけ親近感が沸いたというかさ……」
「……ほほう? つまり赤羽根さんもちゃんと事務所で無防備に寝ている美希ちゃんや駆け寄ってくるあずささんの胸元に興奮していると……?」
「助け舟を出さなかったことに関しては謝るから、勘弁してくれないか……」
小鳥さんに聞かれたら後が怖い……。
「先ほども言いましたけど、俺も男ですから。……まぁ――」
――
「……え」
「あ、次のタクシー、お先にどうぞ」
酔い潰れちゃった女の子優先です、とタクシーに乗るように促す良太郎君。
「……あ、あぁ……」
聞き返すことが出来ず、先に小鳥さんが乗っているタクシーの後部座席に律子を乗せる。
「おやすみなさい。次は落ち着いた飲み会が出来るといいですね」
「……うん、おやすみ、良太郎君」
さて、今回は後日談という名のオチを語ることにしよう。
翌日、観念した俺は昨日の弁明をするためにりんと美希ちゃんと凛ちゃんと連絡を取ったのだが……放置していたせいで、例の写真を一緒に目撃してしまっていた他の子たちからも深く追及される始末。三人に加えて真美やまゆちゃん相手に釈明をすることとなり、全員に納得してもらうまで相当な時間を費やすこととなった。
「……その点に関して言えば俺の方が被害者なんだけど……」
「それじゃあ私たちの怒りは!」
「何処にぶつけたらいいんですかぁ!?」
「知らんがな」
というか
「あああどうして昨日の私はあんなことをしちゃったのおおお……!」
「こ、こうなったら、良太郎を亡き者にした後で私も……」
「あーもー落ち着きなって」
本格的に目がやばくなってきた二人を落ち着けるために、備え付けられているポットでお茶を淹れる。
「もうちょっと気楽に考えようよ。あれぐらいなら仲の良い友人とするレベルの話題だって」
かなりのウザ絡みではあったが、仲が良ければ男女でもあれぐらいの話はするだろう。
「それとも、俺が周りに言いふらさないか心配?」
「……それは、別に……」
「……心配してるわけじゃないんですけど……」
「だったらこの話はこれで終わり。折角なんだから、もっと実りのある話をしようぜ」
そう、例えば……。
「先日出た『色気』というキーワードについて、この過去に発売されたりっちゃんの水着写真集とつい先日発売されたばかりの美波ちゃんの水着写真集を眺めながらじっくりと……」
「わざわざオチを用意してくれてありがとうっ!」
「わざわざオチを用意してくれてありがとうございますっ!」
おまけ『りょうたろうくんのふくしゅう(一部抜粋)』
「ねぇ、コウ……この間の飲み会、留美ちゃんと美優ちゃんに挟まれて随分と楽しそうだったらしいじゃない……?」
「川島瑞樹さんと高垣楓さんにお酌されて鼻の下を伸ばしていたそうですねお相手がいたようでなによりですやはり今後は春香に近付かないでください」
「「……良太郎おおおぉぉぉ!!」」
・「「「……あ?」」」
(重低音)
・『諦めたら? もうそろそろ試合終了だよ?』
安西先生も諦めることを促すレベル。
・『ミナミはもっと清楚なんです!』
ボイスドラマ『MAGIC HOUR』参照。
・シンデレラプロジェクト二期生
・「リアルなんJ民がいたっす」
この世界ではあかりたち新アイドル組はCP二期生という設定。
・五年間連載してきて一度も触れてこず全文検索をかけても一切ヒットしない『性欲』というキーワード
作者的にも意外だった。
・嘘なんですけどね。
真面目なシーンでもぶっこまれるネタ。
奴の名は、四天王が一人『空のサクライ』……!
・おまけ『りょうたろうくんのふくしゅう(一部抜粋)』
幸太郎はともかく、冬馬は完全に八つ当たりだったりする。
(なんか番外編のくせに重要そうなシーンが出てましたが、ある意味いつも通りなので深く気にする必要は)ないです。
これにて酒飲み回は終了です。振り回される良太郎が新鮮で、書いてて楽しかったです。
次回からは本格的に、123プロ感謝祭ライブのために動いていきます。