今日は学校終わりの仕事が軽いインタビューだけでだいぶ時間に余裕があったので、アタシは美嘉と一緒に遊びに行く約束をしていた。アイドルをしているときも勿論楽しいのだが、やっぱりたまにはこういう遊びで息抜きをしたいのだ。
というわけで、駅前のファーストフード店で待ち合わせ。外がよく見える席に座り、コーラを飲みつつスマホを弄って時間潰し中。
ちなみに、今日はまゆと志保は一緒じゃない。今日のまゆはゲストとして出演することになった『高槻やよいのお料理さしすせそ』の収録のお仕事だ。今頃、料理の合間合間に聞かれてもいない周藤良太郎のことを語り続けていることだろう。そして志保は舞台の稽古。なんと未央との同じ舞台に出演することになったらしい。
……二人とも、頑張ってるなぁと思う。勿論アタシも頑張っているが……アタシも、少しだけ違うことを始めてみてもいいかもしれない。
そんなことを考えていると、ピロリンとスマホがメッセージの受信を告げた。送信相手は美嘉で『お待たせー!』という内容。どういうことかと顔を上げてみると、ガラスの向こう……お店の外で笑顔の美嘉が手を振っていた。こちらも手を振り返して……そこでようやく、美嘉が一人じゃないことに気が付いた。いや、元々人数が増えるとは聞いていたが、そのときに聞いてなかった人物がいたのだ。
とりあえず残り少なかったコーラを飲み干してから、店の外に出る。
「おっつー恵美!」
「おっつー美嘉!」
「恵美ちゃーん!」
「わっと」
タタッと駆け寄りながら抱き着いてきた小さな影を、少しだけたたらを踏みながら抱き止める。
「久しぶりー! 恵美ちゃん!」
「おひさー莉嘉ちゃん! 相変わらず元気だねー」
美嘉の妹である莉嘉ちゃんの頭を撫でると、彼女はえへへと笑った。
「ゴメン恵美、事務所出たところで捕まっちゃってさ。着いて行くって言って聞かなくて」
「全然ダイジョーブだよー」
それで……と美嘉の後ろに立っていた三人の女の子に目を向ける。二人は以前にも顔を合わせたことがあった。
「やっほ! 夏フェス以来だね、加蓮」
「うん、恵美ちゃん!」
「恵美でいいってばー! もうアイドル友達じゃん!」
「! ありがとう、恵美!」
「奈緒も久しぶり。今日も眉毛がかわいー!」
「なっ!? 恵美っ!?」
少し照れくさそうに笑う加蓮と顔を赤くする奈緒。今年の夏、未央に誘われ良太郎さんたちと行った346の夏フェスで出会ったときはまだ346プロのアイドル候補だったらしいが、最近ようやくデビューの目途が立ったらしい。
そして、もう一人。
「初めまして。アタシは所恵美。よろしくー」
「……渋谷凛です」
未央と同じニュージェネレーションズに所属し、今は加蓮と奈緒の三人ユニットのトライアドプリムスにも所属している渋谷凛。前はステージの上に立っている彼女を見ただけなので、こうして顔を合わせるのは初めてだった。
「未央からも何回か話は聞いてたから、一回話してみたかったんだよねー!」
「そ……そうなんですか?」
「もー、だからカタいってー! もっと楽にしてよー!」
あからさまに力が入ってたので、ポンポンと凛の肩を叩く。
「それじゃあ、ここで話してるのもなんだから、まずはご飯でも食べに行こうか! この間、美味しいパスタのお店見つけたんだ~!」
前にまゆや志保と遊んでいてたまたま見つけたお店で、是非美嘉たちにもお勧めしたかった。というわけで、五人でそのお店へと向かうのだった。
「……ん?」
「? 凛、どうかしたの?」
「えっ……別に、なんでもないよ」
その途中、凛が何かを見つけたようなそぶりを見せたが、尋ねると彼女はそれを否定した。
(……今、金髪の女子高生らしい二人に挟まれた男の人が良太郎さんに見えたけど……なんかいつも良太郎さんを意識してるみたいで加蓮にからかわれそうだから、黙っておこう)
「アハハッ! リョータローくんやっぱり無表情!」
「そりゃあねぇ。写真撮るだけでも笑えるなら俺だって笑いたいよ」
「ねぇねぇりょーたろーさん! これスマホに貼ってもいい!?」
「誰かに見られるかもしれないから勘弁して」
三人でプリクラを撮り終わり、ゲームセンターの外へ。
最近のプリクラは撮るときに機械から色々と指示が出されるとは聞いていたが……まさかキス顔を要求されるとは思わなかった。二人からはめっちゃ期待された目で見られたが、自分の唇に人差し指を当てるポーズで勘弁してもらった。
そしてそれだけならばまだいいのだが……一方で二人はなんと俺に向かって両側からキスするフリのポーズをするものだから、完全に他の人にはお見せ出来ないプリクラになってしまった。まぁ多分、これをりっちゃんに見られて怒られるのがオチなんだろなぁ……。
「ゆい、美希ちゃんともっとお喋りしたい! このまま三人で何処かお店入ろーよ!」
「オッケーなの! りょーたろーさんは……まだ大丈夫?」
下から覗き込むようにして首を傾げる唯ちゃんと美希ちゃん。美少女二人からの懇願に脊髄反射で頷きそうになったが、グッと堪えながら腕時計を覗いて時間を確認する。
……んーあと三十分ぐらいなら大丈夫だが、この二人は多分それぐらいじゃ済まないよな……となると、一緒に何処かのお店に入って、俺は途中で伝票を持って離席する形になるかな。
「少しぐらいなら大丈夫かな」
「へへっ、やりぃ! なの!」
パチンと指を鳴らして真ちゃんの真似をしながら喜ぶ美希ちゃん。
「それじゃあ……」
次は何処がいい? と唯ちゃんに尋ねようとしたのだが。
「………………」
何かを見上げる唯ちゃんに、思わず言葉が止まる。
一体何を見上げているのかとその視線を追ってみると、そこにあったのは――。
「? ……えーっと、346プロダクションの……『LiPPS』……だったっけ?」
――美希ちゃんが言う通り、リップスの面々が映った映像広告で、彼女たちのデビューシングルとなる『Tulip』の宣伝だった。こうして見ると、まさに『女性が憧れるカッコイイ女性』といった印象を受ける雰囲気ではあるのだが……実際に会ってみると、その中身がアレなんだよなぁ。
映像が終わり、再び視線を唯ちゃんに戻す。宣伝が終わって次の宣伝に移ってもなお、彼女の視線はそこから動いていなかった。
――『LiPPS』のメンバーには補欠がいるんだってよ。
コーヒーショップで耳にした、そんな噂が脳裏を過る。
もし……本当に彼女がリップスの補欠として選ばれていたら?
もし……本当に志希が選ばれたことにより彼女がリップスから外れていたら?
もし……本当は彼女もリップスとして活動したかったら?
「……唯ちゃんはさ、リップスに入りたいって思ったこと……ある?」
それは聞くべきではなかったのかもしれない。けれど、気が付いたら俺はそれを尋ねていた。
「ほえ? リップスに?」
「うん。同じプロジェクトのメンバーなわけだしさ。もしかしたら、唯ちゃんがリップスの一人でも違和感ないと思うんだけどな」
「……うーん、そうだなー」
むむむっと唯ちゃんは腕を組んで眉を潜めた。今は真面目な空気なので、その際に胸がむにゅりと押し上げられたところには意識的に意識しないようにする。だから何故か対抗するように胸を強調する美希ちゃんにも意識を向けない。
「……カッコいいなーって思うよ。もしあの中にゆいがいたらって考えたこともある……うん、入りたいって思ったこと、あるかな。……『どーしてゆいは選ばれなかったんだろう』って、思ったこともあるよ」
そう言った唯ちゃんは、少しだけ寂しそうに笑った。
「……その気持ち、すっごく分かるの!」
「え?」
「美希ちゃん……?」
突然、美希ちゃんが唯ちゃんの手を取った。
「ミキもね、昔おんなじこと考えたんだ! 『どーしてミキは竜宮小町に入れなかったのかな?』って!」
先ほども少しだけ思い出した二年前のりんとのデートした日。その日、偶然出会った美希ちゃんはりっちゃんから竜宮小町への参加を断られたことに対してショックを受けていた。
「美希ちゃんも? 『あのユニットに入ったらもっと楽しそう』って思った?」
「思った思った! おんなじなの!」
キャイキャイとはしゃぐ二人。年齢や見た目が似ている二人ではあったが、まさかこんなところにまで共通点があるとは思わなかった。
(……しかし)
笑顔で美希ちゃんと話す唯ちゃんを見ていると、どうやら俺の心配は杞憂だったようだ。あの笑顔は、自分がユニットメンバーに選ばれなかったことに対して不服を抱いているようには見えなかった。ならば、今はもう俺が彼女にかけなければいけない言葉はないだろう。
全てのアイドルに手を差し伸べるつもりではあったが……こうして手を差し伸べる必要がないアイドルもいるのが、嬉しいようで……少しだけ寂しい気もした。
「あー! 良太郎さんだー!」
「っ!?」
突然名前を呼ばれ、思わず帽子と眼鏡を抑える。勿論しっかりと変装中なので身バレするはずがなく……つまり、誰か知り合いということだ。というか、今の声には聞き覚えがあった。
「莉嘉ちゃん?」
てててーっと駆け寄ってきた三人目の金髪娘は「唯ちゃんと……わっ!? 765プロの美希ちゃんまでいる!?」と二人の姿を見るなり驚いていた。
「コラ莉嘉! いきなり走るな! それと大声で名前を呼んじゃダメでしょ!」
「……やっぱり見間違えじゃなかったのか……」
「良太郎さんだー! こんにちわー!」
「こ、こんにちは」
「やっほーリョータローさーん!」
その後ろからは「そういう君も大声だよー」と言いたくなる声量の美嘉ちゃんの姿もあり、さらに凛ちゃんと奈緒ちゃんと加蓮ちゃんのトライアドプリムスに加え、なんと恵美ちゃんの姿までもあった。
これは一体どういう組み合わせなのだろうか……と思ったが、恵美ちゃんと美嘉ちゃんの繋がりで、他の四人も知り合ったということだろう。……って、そういえば恵美ちゃんと加蓮ちゃんと奈緒ちゃんは夏フェスのときのも会ってたっけ。
「やぁ、美嘉ちゃん。随分と華やかなご一行だねぇ」
見た目麗しいJKの集団(一人JC)は、その一団の中にいるだけでも幸福感と優越感に心が満たされるようだった。だから一人だけ「女子高生二人を侍らせて、良い身分だね?」と言いたげな凛ちゃんの冷たい目線も全然気にならなかった。
「あっ! そうだ、アタシ、唯ちゃんに聞きたいことがあったんだった!」
「んー? ゆいに?」
「うん! あのね、唯ちゃんがリップスの補欠って本当?」
(((((どストレートに聞いたー!?)))))
莉嘉ちゃんも噂を聞いていたのだろうが、まさか張本人に直接問いただすとは思いもよらなかった。流石の俺も、躊躇ったというのに……。
そんな莉嘉ちゃんからの質問に対し、唯ちゃんは――。
「え? 何それ、ゆい知らないよ?」
――キョトンとした表情で首を傾げた。
(((((……えっ)))))
「えっとね、リップスには補欠がいるっていう噂を聞いたんだけど、もしかして唯ちゃんなのかなーって思ったの」
「へーそんな噂があったんだ」
莉嘉ちゃんから聞かされた噂に感心する素振りを見せる唯ちゃん。その様子はとても知らないフリをしているようには見えなかった。
……つまり、これは……。
(((((……か、勘違い……?)))))
……なんだよそのオチ!? あの無駄に長かった考察パートはなんだったんだよ!? というか、今回のお話の根本的な部分を全否定じゃねぇかよ! ついでにこの勘違いオチもりんとのデートの焼き直しだし!
「……ん? りょーたろーさん、どーかしたの?」
「美嘉たちも、どーしたのさ」
両手で顔を覆う俺の背中をさする美希ちゃん。そして何故か俺と同じようなリアクションをしている美嘉ちゃんと凛ちゃんと加蓮ちゃんと奈緒ちゃんに首を傾げる恵美ちゃん。なんというかもう、色々とそっとしておいてほしかった……。
「良太郎さんたち、どうしたんだろうね?」
「んー、よく分かんないけど……これだけ揃ったんだから、またみんなでプリクラでも撮ろっか!」
「ん? 私が『LiPPS』の補欠を用意していたという噂が流れていたって? そんなわけないだろう。『LiPPS』は私が選んだあの五人だからこそのユニットだ。確かに、一ノ瀬志希や城ヶ崎美嘉がプロジェクトに参加しなかった場合も考えたが……その場合、きっと別ユニットや単独デビューといった形になっていただろうな。……それで周藤君、いきなりどうしたのかね?」
「……いえ、なんでもないです……」
・志保は舞台の稽古
・なんと未央との同じ舞台に出演
流石にあの舞台、役者全員346ってわけじゃないだろうから、多分いける。
・「初めまして。アタシは所恵美。よろしくー」
・「……渋谷凛です」
実は地味に顔を合わせたのは初めての二人だったりする。
・両側からキスするフリのポーズ
感想でも散々言われてたけど……願望ですが、なにか(開き直り)
・「え? 何それ、ゆい知らないよ?」
m9(^Д^)
……というオチでしたとさー!
噂を信じちゃいけないってことですよ!(どうにもとまらない並感)
というか、今回のお話が散々匂わせてきたように過去のりんとのデート回のセルフオマージュだということに気が付けば、今回のお話のオチも読めたのでは……。
そしてついでにASデレミリ越境で美希・美嘉・莉嘉・加蓮・唯・恵美とギャルキャラオンパレード! 後はりなぽよだけだな! ……だから趣味だって言ってるでしょ!
というわけで、念願の唯回だったわけですが……延長戦入りまーす!
次回! 恋仲○○復刻編!
『どうでもいい小話』
ついに恵美の恒常SSR来ましたね! 勿論お迎えしましたとも(マネーイズパワー)
今回はお迎え記念短編は書かないけど、その分次回更新の『ころめぐといっしょ』の水着回に気合入れるよー!