アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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主人公不在のクローネのお話。


Lesson201 Please get into pairs 3

 

 

 

 クローネの部屋で談笑していた私たちは、会議室へと集められた。私や加蓮や奈緒、唯に文香さん、そして先ほど初めて顔を合わせたあり……橘さんに、フレデリカさんと周子さん。そして後からやって来た美嘉さんと志希さんと奏さん。先ほど自己紹介を済ませたばかりの人も含め、全員プロジェクトメンバーだった。

 

「適当にかけてくれ」

 

 会議室の上座に座って待っていた常務の言葉に従い、各々適当な場所に腰を下ろす。私と加蓮と奈緒が固まって座ったように、文香さんの両隣に唯と橘さん、そして美嘉さんたちがそれぞれ固まって座った。

 

「……一人不在のようだが、とりあえずそれ以外は揃ったようだな」

 

 常務の言うように、諸事情によりアーニャは不在。しかし、それ以外のプロジェクトクローネのメンバー全員が初めて一堂に会したのだ。……何だろう、揃うのは初めてだというのに、この言いようのない既視感は……特にアーニャだけいないという辺りが……。

 

「さて、それでは改めて……こうして集まってくれたことに感謝する」

 

 それは多分()()()()()()という意味ではないだろう。

 

「そして誇ってもらいたい。……君たちは選ばれた()()()だ」

 

「………………」

 

 選ばれたお姫様。一城の主から王冠(クローネ)を賜った存在。それが、私たち『Project:Krone』ということか。別にそれが嫌とかそういうことはないのだが……それでも、元々シンデレラプロジェクトにいた私にとっては複雑な気分だ。それは多分、他の部署から連れてこられた他の人たちも同じなのではないだろか。

 

「基本的な方針としては、渋谷凛・北条加蓮・神谷奈緒の三人は『Triad Primus』として、城ヶ崎美嘉・速水奏・塩見周子・宮本フレデリカ・一ノ瀬志希の五人は『LiPPS』として、鷺沢文香・橘ありす・大槻唯・アナスタシアの四人はそれぞれソロで活動してもらう」

 

 詳しい話は後日担当の人間から聞いてもらう、と常務。

 

「そして……一つだけ伝えておくべき重要なことがある」

 

「……?」

 

 突然重々しい雰囲気でそんなことを言い出した常務に、その場にいた全員が疑問符を浮かべた。わざわざそう切り出したということは、よほど重要なことなのだろう。

 

「今回、このプロジェクトを進めていくに当たり……とある人物の協力を仰ぐことが出来た。君たちはこの人物の指導を受けることで、間違いなく今まで以上の実力を得ることが出来るだろう」

 

「………………」

 

 ……いや、それって。

 

(……なぁ凛……)

 

(もしかして良太郎さん……?)

 

(もしかしなくても良太郎さんでしょ……)

 

 こそこそっと奈緒と加蓮が尋ねてくるが、それ以外に考えられなかった。いかにも凄そうな雰囲気を醸し出していたので、一体どんな大物が来るのかと思ったら……あ、いや、周藤良太郎なんだからこれ以上ないぐらいの大物だった。如何せん、普段から顔を合わせすぎてるから……。

 

 元々私は良太郎さんから直接そのことを聞いているので、今更驚くようなことでもなかったが……確かにこの場にはそのことを知らない人間も多いだろうから、ここで話しておくことにしたのだろう。

 

 ややタメを作った後、常務は口を開いた。

 

「その人物は、123プロダクションに所属するアイドルの……周藤良太郎だ」

 

 

 

「え、えええぇぇぇ!? ……え?」

 

 

 

 会議室内で驚いたのは、橘さんだけだった。ガタッと音を立てて勢いよく立ち上がったのだが、他のみんなが全く反応をしていなかったので、周りをキョロキョロと見回していた。

 

(あれ……?)

 

 私は勿論のこと、既に面識のある美嘉さんや加蓮や奈緒、同じ事務所に所属している志希さんが驚かないのは分かるのだが、その他の人たちが驚かないのは意外だった。正直またいつものアレが起こるかと思っていたのだが。

 

「……ず、随分と落ち着いているのだな」

 

 私たちが驚かないことに対して驚いていたらしく、常務は表情が固まっていた。恐らく彼女的にはとっておきの情報だったのだろう。

 

「同じ事務所に所属している一ノ瀬志希、既に知り合いと聞いている渋谷凛・城ヶ崎美嘉は分かるのだが……」

 

「あー……えっと、アタシと加蓮は凛に紹介してもらってるから……」

 

「まぁもっとその前に知り合ってはいたんだけどね」

 

「アタシはこの前アーニャちゃんと一緒にいたところを紹介してもらったしー、文香も前から知り合いだったんだよねー?」

 

「その……はい……一応……」

 

「実は私、周藤先輩の高校の後輩なの。だからそういう話は少し聞いていたわ」

 

「私もその場にいたから知ってるー」

 

「フレちゃんもー! ケーキご馳走してもらったんだー!」

 

 なんと。昔から顔が広いことで有名な良太郎さんだが、まさかほぼ全てのクローネメンバーと既に知り合っていたとは思いもしなかった。特に文香さんと奏さんはプライベートでの知り合いだったとは……。

 

「そ、そうだったのか……な、ならば改めて顔合わせの場を設ける必要もないか……うん」

 

 よほど自信があるネタだったのだろう、微妙に常務が落ち込んでいた。それだけでイメージが全て覆るほどではないが、それでも少しだけ常務に対する印象が変わった気がする。

 

「………………」

 

 そんな常務以上にダメージを負っていたのが橘さんだった。あれほど大きな反応をしたのが自分一人だったのが恥ずかしかったらしく、顔を真っ赤にしながら座り直した椅子の上で小さくなっていた。

 

「……コホン」

 

 仕切り直すように常務が咳払いをした。

 

「周藤良太郎は不定期ではあるものの、こちらの事務所に出向いてくれると約束してくれた。しかし彼の日程と諸君らの日程を全て合わせるのは当然難しい。出来るだけ合わせるように調整はするが、それでも無理な場合はその日程が合う人間のみが周藤良太郎の指導を受けてもらうことになる」

 

 一応、私たちも普通にアイドルとして活動していくわけなのだから、毎日レッスンを受け続けるわけではない。良太郎さんが来てくれる日に仕事が無い人間は、良太郎さんのレッスンを優先することになるのだろう。

 

 つまりこれでようやく、私も良太郎さんのレッスンを受けることが出来るようになった。以前からそれを受けてみたいとは思っていた。良太郎さんに直接お願いしたこともあったが、結局時間が取れずに実現していなかった。

 

 ……本当だったら、シンデレラプロジェクトのみんなの指導もしてもらいたかったんだけど……流石にそれは贅沢すぎるお願いだろう。タダでさえ、私たちのためにわざわざ時間を割いてくれているというのに、さらに別の人たちの指導をお願いするのは流石に躊躇われた。私は、自分が他の子たちよりも良太郎さんにお願い事をしやすい立ち位置にいることを理解しているが、だからこそそれは出来なかった。

 

 私とアーニャがプロジェクトクローネとして参加する秋のライブ。そこで結果を残すことが出来なければ、シンデレラプロジェクトは解散となってしまう。だからこそ良太郎さんの指導を受けたかったのだが……。

 

(……信じよう、みんなを)

 

 きっとみんなならば、この苦難を乗り越えてくれると。

 

「さて、ここからが本題だ」

 

「えっ」

 

 割と今のが本題だったような気もするのだが、それ以上の話がまだあったのか。

 

「こんな質問を投げかけるのは、君たちに対する侮辱になるかもしれない。しかし、あえて問わせてもらおう」

 

 

 

 ――君たちは、周藤良太郎のことを十分に理解しているのか?

 

 

 

「……それは」

 

 どういうことなのだろうか。

 

 長年付き合っていても掴みどころが全くない良太郎さんのこと全てを理解しているとは流石に言えないが、それでも恐らくここにいるメンバーの中で一番『周藤良太郎』という人物について知っているのは私だろう。

 

 それとも……常務は私も知らない周藤良太郎の何かを、理解することが出来たということなのだろうか。

 

「勿論、私とて周藤良太郎の全てを知っているわけではない。ただ、彼から指導を受ける以上、周藤良太郎というアイドルに対する理解が浅くては彼に失礼だろう」

 

 それは……そうなのだろうか。

 

「今日この場に集まってもらったのは、それが主な理由だ」

 

 そう言うと、常務は何やらリモコンで操作をし始めた。部屋が暗くなり、カーテンが自動で閉まり、スクリーンが天井から降りてくる。スクリーンは常務の背後の壁際に降りてきたので、私たちに対しての妨げにならないように常務は場所を移動した。

 

「周藤良太郎についての映像資料を用意した。これを観て、諸君らの周藤良太郎に対する理解を深めてもらいたい」

 

「良太郎さんの、映像資料……?」

 

 それは一体なんなのだろうか……少しばかり興味が湧いてきた。もしかして、美城財閥という強大な力を利用してかき集めた重要な秘密だったり……!?

 

「それでは再生する」

 

 スクリーンに映像が映し出された。

 

 それは、何やらライブ会場のようなところだった。恐らくアリーナほどの大きな会場で、満員の観客たちが手にするサイリウムによりカラフルに彩られていた。まるでライブの開始直前のような雰囲気で……あれ?

 

 そこでようやく、()()に見覚えがあることに気が付いた。()()ではなく、その映像そのものに見覚えがある。

 

(っていうか、これって――)

 

『準備はいいかお前ら!?』

 

 聞こえてきたそんな声に、映像の中の観客たちは一斉に盛り上がりを見せた。そしてそんな盛り上がる声を、更に掻き消すような大きな声で……()()()()()はそれを宣言した。

 

 

 

 ――さぁ、盛大に祝ってくれよ!

 

 ――『アイドル』周藤良太郎! 生誕四周年だ!

 

 

 

「やっぱりだー!?」

 

 良太郎さんのアイドル四周年を記念して行われた記念ライブ、その円盤(BD)だった。私も持っている。通りで見覚えがあると思った……。

 

「おぉー! リョータローくんのライブだー!」

 

「私もこれ持ってるよー!」

 

 突然始まった周藤良太郎のライブ映像に盛り上がっているのは唯と加蓮だけで、他のメンバーは私と同じように呆然としていた。

 

「……あの、常務?」

 

「何かね? 手短に頼む」

 

 常務はこちらに視線を向けることなくそう返してきた。というか、視線が先ほどからスクリーンに釘づけだった。

 

「……これが周藤良太郎への理解を深めるための映像資料ですか?」

 

「うむ。伝説の始まりと名高いファーストライブも良かったのだが、やはり一番新しいセトリを揃えている四周年ライブの方が今の周藤良太郎に近いと判断させてもらった。このライブでは『Re:birthday』や『頑張る君に捧ぐ歌』といった往年の名曲は勿論のこと、一昨年のジュピターとのコラボの際に歌った『Alice or Guilty』も――」

 

「あ、いや、やっぱりいいです……」

 

「……そうか」

 

 求めていた答えが返ってこないことを悟って話を遮ると、常務は露骨に残念そうに口を閉じた。たぶん語り足りないのだろう。

 

 ……いやまぁ、確かに周藤良太郎がどんなアイドルなのかは分かるかもしれないけど。

 

(まさか、事務所の常務が他事務所のアイドルの熱狂的なファンだったとは……)

 

 腑に落ちないが、それでも良太郎さんのライブ自体は何度見ても楽しいものだ。折角なので、今は私もライブ映像を楽しむことにしよう。

 

 

 

 ……別に、現実逃避とかはしていない。

 

 

 




・この言いようのない既視感は
・特にアーニャだけいないという辺り
クローネ会議……アーニャが不在……苦労人事務所……うっ、頭が……!?

・「え、えええぇぇぇ!? ……え?」
一人だけ驚くありす。まだ良太郎と会ってないから……。

・映像資料
『Ryotaro Sudo 4th Anniversary LIVE TOUR』初回限定特装版\14,980

・『Re:birthday』や『頑張る君に捧ぐ歌』
最近忘れられがちな良太郎の持ち歌。後者はLesson36参照



 最近大人しかったけど、やはり一番キャラがぶっとんでしまったのはこの人だった。

 次回で恐らくいったん区切りです。



『どうでもよくない小話』

 5月7日は唯ちゃんの誕生日でした! ハピバ!

 記念短編はまだ書けてないけど、書きあがったらツイッターに挙げようと思います。

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