アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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各色の短編集、二週目開始ー!


番外編31 赤色の短編集 その2

 

 

 

・346プロカフェテラスにて(Lesson129後のお話)

 

 

 

「はぁ、今日は色々あったなぁ」

 

 みくちゃんたちと共に方々への謝罪行脚を終え、俺は再びカフェテラスまで戻って来た。お金を払ったものの結局何も口にしていなかったことを思い出したので、改めて注文したコーヒーを飲みに来たのだった。

 

「自業自得な気もするけど」

 

「一応お疲れ様、良太郎君」

 

 友紀と茄子からそんな労いの言葉をいただく。律儀に残っていてくれたのかと若干ジーンと来たが、明らかに先ほどよりも空になったお皿の数が多い。……コイツら、追加注文しやがったな……!?

 

「……っと、おや?」

 

 そこで初めてテーブルに一人増えていることに気が付いた。俺が気付いたことに気付いたその人物は、あせあせと椅子から立ち上がると真っ直ぐと頭を下げてきた。

 

「は、初めまして! みみみ346プロでアイドルをさせていただいてます! し、白菊ほたるです……!」

 

 綺麗な黒髪のボブカットのその少女には見覚えがあった。

 

「君は確か……」

 

「はいっ。私と一緒にユニット『ミス・フォーチュン』を組んでる子です」

 

 やっぱりそうか。茄子を全体的に小さくしたような見た目だったので印象に残っていた。

 

「一応自己紹介、周藤良太郎。茄子とは高校の頃の同級生なんだ」

 

「は、はい! か、茄子さんから度々お話は聞いてます……」

 

「へぇ、どんな?」

 

 何故か頬を赤らめて目線を逸らされた。オイ待て茄子、この子に何を吹き込んだ。

 

「女の子のおっぱいが大好きな男の人って説明しただけですよ?」

 

「なんだ。ならいいや」

 

 周知の事実だし、別に恥ずかしがることではない。

 

「どう考えても羞恥の事実なんだよなぁ……」

 

 友紀が今結構上手いことを言った。

 

「茄子は人のことをおちょくる癖みたいなもんがあるけど、大丈夫? 何か悪戯とかされてない?」

 

「良太郎君は私をなんだと思ってるんですか」

 

「そ、そんなことないですよ! ……寧ろ、茄子さんと一緒にユニットを組むことが出来たおかげで……私、本当に助けてもらったんです」

 

 何やらほたるちゃんの表情に影が入った。

 

 そんなほたるちゃんの肩に、椅子から立ち上がった茄子が後ろからポンッと手を置いた。

 

「実はほたるちゃん、高校の後輩の上条君や綾崎君と同じ体質なんですよ」

 

 上条後輩や綾崎後輩と同じ体質、ということは……!

 

「フラグ体質ってことか!」

 

「どうしてそっちになるのさ!?」

 

 違うらしい。ということは……。

 

「……もしかして、ツイてなかったりする?」

 

 ほたるちゃんだけじゃなく、茄子や友紀も同時に頷いた。

 

「その……私、昔から本当に運が無くて……そのせいで、この事務所に来るまでに所属していた芸能事務所が、三つも倒産してしまって……」

 

「へぇ、凄いじゃないか」

 

「……っ!」

 

「ちょっと良太郎!?」

 

「流石にそれはデリカシーが無さすぎですよ!?」

 

 ん?

 

「いや、凄いだろ。そんなことがあっても、それだけアイドルを続ける熱意があるんだろ? そういう子はお兄さん大歓迎だよ」

 

「「「………………」」」

 

「……何?」

 

 いきなり怒られたかと思ったらいきなり黙られた。

 

「……い、いえ、その……」

 

「ホント、なんでこういうカッコイイことをもっと普段から言えないかねぇ、良太郎は」

 

「全くですね」

 

 とりあえず褒められたということでいいのだろうか。

 

「まぁ、何はともあれ。茄子をよろしくね、ほたるちゃん。コイツもコイツで自分の幸運体質をちょっと疎ましく思ってたときがあるらしいからさ、存分に運気を吸い取ってやってくれ」

 

「は、はいっ!」

 

 自分の友人とユニットを組む子なのだから、これからも是非仲良くやっていきたい。

 

 お近づきの印ということで右手を差し出すと、ほたるちゃんはワタワタとわざわざハンカチで自分の手を拭ってから俺に手を握ってくれた。

 

「よ、よろしくお願いしま……あっ!」

 

「ん?」

 

 すると何故か「しまった」という顔をするほたるちゃん。

 

 おや、何やら頭上から風切り音が……。

 

「うがっ!?」

 

「あぁ!? 何処からか落ちてきたか全く分からないプラスチック製だから当たっても痛いだろうけど怪我はしなさそうな空の植木鉢が良太郎の頭に直撃した!?」

 

 ……成程、こういうレベルの不幸度か……。

 

 ほたるちゃんから「自分のせいで」と必死に謝られてしまったが、とりあえず女子中学生の柔らかい手を握ることが出来た代償ということにしておこう。

 

 

 

 

 

 

・車修理工場にて(Lesson137後のお話)

 

 

 

 ブリュンヒルデを蝕む淀んだ魔力を浄化せし儀式を瞳を持つ者へと託し、再び太陽が昇った(訳:蘭子ちゃんの悩みの解決を武内さんに任せた翌日)

 

 修理が終わったと連絡があったので、知り合いの修理工場へと車を引き取りにやって来た。割と何処にでもある普通の修理工場である。

 

「こんちわー」

 

 ガレージが開いていたので挨拶をしながら中を覗く。そこには数台の修理中と思われる車の他に、俺の愛車の姿もあった。壊れていたのはブレーキランプだったので外見上は全く判断できないが、直ったらしい。

 

「誰かいませんかー? おーい、ダチャーン?」

 

「だからダチャーンはヤメてってばー」

 

 姿は見えずに声だけ聞こえてきた。

 

 はて何処から? と首を傾げていると、一台の車の下から台車(クリーパーと言うらしい)に乗って彼女は姿を見せた。

 

「いらっしゃーい、周藤君」

 

 元同級生で、ここの工場長の一人娘の原田美世である。どうやら修理作業中だったらしく、顔が少しだけ黒く汚れており、額には汗が浮かんでいる。

 

「おっす原田。ご馳走様です」

 

「?」

 

 仰向けの状態でガーッと滑り出てきたので、その茄子には及ばないものの中々立派な大乳が縦に揺れるのを俺は見逃さなかった。ちゃんと眼鏡をかけておいて良かった。

 

「あ、ご苦労様ですってこと? いいよいいよー、あたしも好きでやってることだから。寧ろあたしに任せてくれてありがとねー」

 

「まぁ一応約束だったからな」

 

 修理工場を営んでいる家の影響だろうが、原田は並々ならぬ車好きだ。ウチの高校を選んだのだって「在学中に免許が取れるから」という理由だけらしいし、高校卒業と共にこうして実家の修理工場に就職した辺り、相当な筋金入りである。

 

 というわけで、在学中に「将来車を買ったら修理や点検はあたしに任せて!」と約束をしていたので、こうして早速車の修理を頼んだというわけである。

 

 とりあえず原田に手を貸して起き上らせる。作業ツナギの上を肌蹴て腰に巻いているので、Tシャツ一枚に包まれた大乳が大変素晴らしい。

 

「周藤君はもうちょっと視線を取り繕う努力をした方がいいと思う」

 

「それもう散々色々な人から言われてるから」

 

「でも治すつもりはないのね……」

 

「修理できる?」

 

「流石に人は畑が違うけど、相良(さがら)君辺りに頼めば性格矯正してくれるかもしれないよ」

 

「『二子玉川の悪夢』を忘れてはいけない!」

 

 この辺りの軽口は同級生特有の安定感である。

 

 雑談もそこそこに、話題は修理してもらった俺の車に。

 

「ブレーキランプだけだったから、修理自体はすぐに終わったよ。ついでだから丸ごと点検しておいたけど、全部問題無し!」

 

 一応新古車だから、そうそうあったら困るけどな。

 

「それで相談はここからなんだけど」

 

「相談?」

 

 え、修理が終わったから引き取りに来てくれってことじゃないの?

 

「うん! どこまでカスタムとチューンアップをしていいかっていう相談! やっぱり男の子が乗る車だし、馬力は欲しいよね!?」

 

「もしかしてあの約束の主目的ってそれかよ!?」

 

 流石に普段使いする普通の車に馬力は必要ないと必死に説得をする羽目になった。

 

 しかし原田は不満そうだったので、最近車を買ったという同級生を何人か紹介することで落ち着いた。可愛くて胸が大きい女の子に車を弄ってもらえるのならばと納得してくれる奴はいるだろう、きっと。

 

 

 

 

 

 

・テレビ局の廊下にて その2(Lesson142後のお話)

 

 

 

 346プロのバラエティー番組『筋肉でドン! Muscle Castle!!』の収録を終え、さらに後日収録予定のバンジージャンプに胸を躍らせながらウキウキと自分の楽屋へと戻る。

 

 ……そういえば忘れてたけど、もしかして幸子ちゃんって二年前ぐらいに「どっちが可愛いか尋常に勝負です!」って言いながらウチの高校に乗り込んできた子だったのか……?

 

 そんなことを考えながら歩いていると、廊下で見覚えのある後姿の少女を発見した。

 

 あのウェーブがかった明るい茶髪、俺の胸辺りぐらいまでしかなさそうな身長、そしてテレビ局の楽屋前廊下を堂々と歩く貫禄を見せる背中。となるともう一人しか考えられなかった。

 

「お疲れ様でーす! 桃子センパーイ!」

 

 俺がそう呼びかけると、その小さな背中はビクッと跳ね上がった。そしてそのまま恐る恐る後ろを振り返って肩越しにこちらを向いた周防(すおう)桃子(ももこ)先輩の表情は、それはもうあからさまに嫌そうな表情をしていた。

 

「……どうもオツカレサマデス、良太郎さん。あの、いい加減にその先輩呼びヤメてもらえない……?」

 

「えー、だって一番最初に『上下関係はしっかりとしなさい!』って言ったの桃子先輩じゃん」

 

「そ、そんなこと! ……い、言ったけど……」

 

 なんとこの少女、十歳にして芸歴が俺よりも長いという芸能界の先輩なのだ。知り合ったのは俺の役者としてのデビュー作となる覆面ライダーの撮影現場で、その際「ももこの方がセンパイなんだから!」とまだ小学校入学前の先輩にエッヘンと胸を張りながら言われてしまった。これには従わざるを得ない。

 

 それ以来彼女のことは『先輩』と呼んでいるのだが、最近になって「先輩呼びはヤメてください」と言われるようになってしまった。

 

 ちなみに俺が頑なに彼女のことを『先輩』と呼ぶのは、桃子という名前を呼ぶ度に翠屋のあのお方が頭を過ってしまいちゃん付けで呼ぶのが大変躊躇われるからだ。なんかこう……呼んだら二人ほど飛んできそうな人物に心当たりがあるので。

 

「はぁ……もういいよ。話を聞いてくれない良太郎さんに言った桃子が馬鹿だったよ」

 

「自分を卑下するのはよくないぞ」

 

 脛を蹴っ飛ばされた。痛い。

 

 特に何かあるわけではないが、なんとなく隣に並んで歩いている。

 

「今日もドラマの収録?」

 

「うん。って言っても、脇役だけどね。良太郎さんは?」

 

「俺はバラエティー番組のゲスト。いやぁスタッフから好き勝手やっていいっていうお達しが出てたから楽しかったよ」

 

「良太郎さんにそんなこと言うとか、そのスタッフは番組潰したかったのかな?」

 

「失敬な。流石に大乳な女の人二人の番組を潰すような真似を俺がするわけないだろう!」

 

「さいてー」

 

 ありがとうございます!

 

「……そーいえば丁度いいからちょっと聞きたいんだけどさ」

 

「何?」

 

「……えっと……その……あ、アイドルって……楽しい?」

 

 突然、桃子先輩からそんなことを尋ねられた。

 

 正直意外な質問内容に驚いて桃子先輩を見ると、彼女は視線を逸らしながら自身の毛先を弄っていた。髪の毛の隙間から見える耳が微妙に赤くなっている。

 

「……そりゃあ楽しいさ。今の俺を見てみなって。何処からどう見てもアイドルを楽しんでるようにしか見えないでしょ?」

 

「……別に良太郎さんが『おきらくごくらくー』なのは性格の問題だと思うけど」

 

 『ウゴウゴルーガ』って、先輩生まれてないでしょ。

 

「それより何? 先輩アイドルになるの?」

 

「き、聞いてみただけだから! 別にそんなつもりはないから!」

 

「ふーん。……まぁ、少しでも興味を持ってくれるだけでも嬉しいよ」

 

「だから、別に興味なんて持ってないもん!」

 

 本当に興味を持っていないことに対してそんなことを尋ねないと思う。それに、なんだか先輩もアイドルになるような予感がするから、今は黙っておこう。

 

 いつか彼女ともアイドルとして共演できる日が来るのを楽しみにしておこう。

 

 

 

「ところで先輩、ちゃんと背ぇ伸びてる? 前会った時とそんなに変わってないけど」

 

 先ほどよりも強く脛を蹴っ飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

・渋谷生花店にて(Lesson163後のお話)

 

 

 

 さて、志希が突然アメリカからやって来たり、そのままウチの事務所に所属するようになったり、色々とゴタゴタしていたためすっかりと忘れていたが、そういえば凛ちゃんから相談を受けていたんだった。

 

 確か武内さんに幽霊が取り憑いているかもしれない……ということらしいので346プロに所属している霊能系アイドルを紹介しておいたのだが、果たしてどうなったのだろうか。

 

 というわけで本人に直接聞きに来た。

 

「……うん、本当に幽霊だったよ……」

 

 そうやや引き攣った笑みを浮かべるのは、今ではすっかりアイドルらしくなったにも関わらずお店のお手伝いは欠かさないとても良い子な凛ちゃんである。

 

「おぉ、ということは小梅ちゃんを紹介しておいて正解だったかな」

 

「それは本当にありがとう……幽霊って分かった途端みんな軽くパニックになって、事務所にいた巫女さんを呼んでお祓いまでしてもらおうとしちゃったけど、結局しばらく何事もなく成仏したって……」

 

 当然凛ちゃんたちに幽霊は見えないだろうから、しばらく小梅ちゃんが様子を見に来てくれていたらしい。これは今度俺からも何かお礼をしておかないと。

 

「って、巫女さん? 何、346の事務所には巫女さんもいるの?」

 

「うん、いる……っていうかいた。そういう方向で売り出してるのかどうかは知らないけど、巫女服着てたしあの白い紙が付いたお祓いの棒も持ってた」

 

 えっと、多分大幣(おおぬさ)のことかな。

 

 色々なアイドルがいるっていう方向で最近有名な346プロだけど、現役の巫女さんもいるのか。本当に隙の無いラインナップだなぁ……宇宙人とか人外系は流石にいないよね?

 

「でも……祝詞って言うんだっけ? それが曖昧だったから本物かどうかは若干怪しいけど」

 

「それは怪しいな……」

 

 これは李衣菜ちゃんに続き、新たなにわかキャラか?

 

「それと凄いドジで、何回かコケてた」

 

「ならそれは本物の巫女だな!」

 

「いきなり何!?」

 

 ドジは本物の巫女の証拠。俺は詳しいんだ。

 

「わ、わわ、きゃあ!?」

 

 ちょうどその時、店先でそんな声が聞こえてきた。見ると、一人の少女がお尻を突き出した状態で道に倒れていた。もう少しでスカートが捲りあがって下着が見えそうである。

 

「ドジってのはあんな感じ?」

 

「あんな感じ……って、アレ? 本人?」

 

「え? 本人?」

 

 一体どういうことなのかと尋ねる前に、凛ちゃんは小走りに近付いてその少女を助け起こした。

 

「大丈夫?」

 

「いたた……あ、ありがとうございます……って、あ、あれ? 貴女は確か……?」

 

「346プロの渋谷凛。あぁ、膝擦り剥いてる。ほら手当てするからこっち」

 

 どうやら膝を怪我したらしい少女の手を取り、凛ちゃんは店の中に戻って来た。

 

「ほらここ座って。今救急箱持ってくるから」

 

 レジ近くに置いてあったお客さん用の椅子に座らせると、凛ちゃんは店の奥の自宅へ入って行ってしまい、店内には俺と少女だけが取り残されてしまった。お客さん来たらどうするのさ。……いやまぁ、軽い応対ぐらいなら出来るけどさ。

 

「っと、君が346プロでアイドルをやってる巫女さん?」

 

「え、え? ……えっと、い、一応実家が神社で、お手伝いすることもありますけど……」

 

 実家が神社ということは、どうやら本当に巫女さんらしい。にわかとか言ってごめんなさい。

 

「さっき凛ちゃんと話をしてたら丁度君の話が出てきてね」

 

 とりえあず眼鏡と帽子を外して自己紹介をすると、いつも通り驚かれたので省略。

 

「え、えっと、は、ははは、初めまして! 道明寺(どうみょうじ)歌鈴(かりん)です! よよよよろしくお願いしまアイタッ!?」

 

 勢いよく立ち上がるもんだからガツンと腕をカウンターにぶつけ、更によろけて椅子に足を取られ、彼女はそのまま流れるように二度目の転倒をした。春香ちゃんレベルのコケ具合だった。

 

「いたたた……はっ!? みみみ、見て……!?」

 

「ませんよー。早くスカート抑えてねー」

 

 転ぶ際の姿勢的に多分尻もちをついてスカートの中身が丸見えになることが目に見えていたので、咄嗟に後ろを向いた自分の状況判断力を褒めてもらいたい。

 

 しかし、想像以上にドジだぞこの子。那美ちゃんもそうだったし、やっぱり巫女ってのはみんなドジなのだろうか……。

 

 今度こそ落ち着いて椅子に座った辺りで救急箱を手に戻って来た凛ちゃん。まず濡れたタオルで傷口を拭いてから手当てを始めた。

 

「歌鈴……だったよね? この間はありがとう。わざわざお祓いなんてものに来てもらっちゃって」

 

「俺からもお礼を言っておくよ。ありがとう」

 

「い、いえいえ! 結局何も出来ませんでしたし! そもそも幽霊のお祓いとかしたことなかったので、け、結構無茶苦茶でしたし!」

 

「うん、流石に『なんたらかんたらー!』ってお祓いしてたら素人でも無茶苦茶だって分かるよ」

 

 顔を真っ赤にして俯いてしまったので「それはひどい」という言葉をすんでのところで飲み込んだ。

 

「うぅ……アイドルになったら、少しは変われるかもって思ったのに、全然ダメダメなままです……」

 

 あ、なんか今の雪歩ちゃんっぽかった。

 

 しかしそうか、この子も『自分を変えたいから一歩踏み出した』タイプか。

 

「ゆっくりでいいさ。急ぎ足になると誰だって足がもつれる」

 

 ただでさえ『アイドル』の道は凸凹どころか山あり谷ありばかりで歩きづらいというのに、そんな中を走ろうと考えること自体が間違っているのだ。

 

「普段歩く時も同じ。転ぶのが怖いからって足元を見てると余計に危ないから、しっかりと顔を上げた方が安全だよ。あとは焦らなければ、それでいいさ。……あ、凛ちゃん『どうして普段からそう出来ないんだ』的なことは分かってるから言わなくていいよ」

 

「その注釈がなければ素直に『いいこと言った』って思ったのに……」

 

 どうやら俺が選ぶ選択肢はいつも間違っているようだ。解せぬ。

 

「……あ、ありがとうございます!」

 

 しかし歌鈴ちゃんは元気になってくれたようだ。そのまま勢いよく立ち上がり――。

 

「って、うわわっ!?」

 

 ――はぁ、ダメだこりゃ。

 

 

 

 

 

 

・駐屯地にて(Lesson168後のお話)

 

 

 

 この間、美城さんとの会話で名前が挙がった……というかその最中に見たバラエティー番組に出演していた大和亜季さんのことが気になっていた。あのときに身に付けていた迷彩柄の衣装の下の隠しきれない大乳の気配を、液晶越しに俺は感じたのだ。圧倒的な存在感を放っていたのが俺には分かった。

 

 ……ということを事務所で冬馬たちに話したのだが、全く興味を持ってもらえなかった。お前ら本当に男かよ! もうちょっと大乳に興味持てよ!

 

 早苗ねーちゃんと結婚した兄貴なら分かってくれるよな!? いいよね! なんかこう、張りのある丸みを帯びた大きい胸!

 

 

 

 殴られた。

 

 フーンだ! いいもんねー! 俺一人でその大乳を直接見に行くもんねー!

 

 

 

 そんなわけで、今日の俺の仕事は駐屯地のお祭りのゲストである。なんとこのお祭りにはミリタリー系アイドルとして有名な亜季さんもゲストとして呼ばれているのだ。いやぁすげぇ偶然。

 

 そうして楽屋として宛がわれた部屋に挨拶しに来てくれたのだが、やはり俺の目に狂いは無かった。おそらく衣装ではなく私服のタンクトップは、それはもう素晴らしいことになっていたとだけ語っておこう。

 

 これだけで今日の目的の半分は完遂したと言っても過言ではないが、勿論任された仕事はキッチリとこなす。当然です、プロですから。

 

 しかし折角駐屯地のお祭りという珍しいイベントなので、普通の客としても参加したくなった。そこで亜季さんを誘って一緒に……と思った矢先に既に彼女の姿は無かった。やはりミリタリー系アイドルなだけあって、あっという間に一人で行ってしまったらしい。テンション高かったもんなぁ……。

 

 仕方がないのでいつもの変装をしてお祭りへと俺も一人で繰り出そうとしたのだが、イベントスタッフのご厚意により一人案内を付けてもらえることになった。

 

桜守(さくらもり)歌織(かおり)です。今日はよろしくお願いします」

 

「周藤良太郎です、よろしくお願いします……って、あれ?」

 

 しかしその人物は、先ほど俺や亜季さんと同じように今日ステージに立つゲストの女性だった。確か自衛隊の音楽隊と共演する歌手……だったはずでは?

 

「えっと、桜守さんもゲスト……ですよね?」

 

「はい。実は父が自衛官で、今日はそのお手伝い……みたいなものなのです」

 

 会場を並んで歩きながら尋ねると、そんな答えが返って来た。

 

「とはいえ、ただステージの上で歌うだけの素人ですので、本業の周藤さんたちと同じステージの上に立つのが少し恥ずかしいですが……」

 

「え、素人さんですか」

 

 さっきリハーサルでワンコーラスだけ歌うのを聞いたけど、正直素人レベルとは思えず「名前聞いたことないけど歌上手いなぁ」などと思ってしまった。

 

「普段はボランティアで近所の幼稚園などで歌を歌わせてもらっています」

 

 なるほど、確かにそんな雰囲気を感じる。あずささんほどではないがおっとりとした優しい感じは、保母さんみたいだった。

 

 この俗にいう『童○を殺す服』みたいな恰好をしているのにも関わらず清楚さが滲み出ている辺り、きっと良いところの生まれなのだろう。

 

「そういう職業には興味ないんですか?」

 

「そういう、というと……保母さんですか?」

 

「そっちじゃなくて、歌う職業です。歌手もそうですし、なんなら俺や亜季さんみたいなアイドルっていう手もありますよ」

 

 凄い美人さんだし、人気は出そうだと思うけどなぁ。……現に会場のあちらこちらで、既に彼女の顔写真が印刷された団扇を手にした固定ファンのような人物が何人かいるみたいだし。

 

 そう提案すると、桜守さんは頬に手を当ててテレテレと赤くなった。

 

「そ、そんな、私がアイドルだなんて……恥ずかしいです……」

 

 なにこのひとちょーカワイイ。

 

「それに私はもう二十二ですし、アイドルを始めるには遅すぎる気も……」

 

「逆にまだ二十二じゃないですか。もっと年上でアイドルをやっている人も――はっ!?」

 

 その瞬間、不特定多数の殺気を感じて背筋が凍り付いた。俺の本能がこの話題をこれ以上続けてはダメだと警鐘を鳴らしている。

 

「と、とにかく、今日俺がアイドルのステージをお見せします。それで少しでもアイドルに興味を持ってくれたら嬉しいです」

 

「……私でも、アイドルになれるのでしょうか?」

 

「勿論ですよ」

 

 『アイドルになりたくない』って考える人以外は、みんな『アイドルになれる』んだから。

 

 

 

(いやぁ、それにしても、この人も胸が……はっ!?)

 

「? どうかしましたか?」

 

(い、今、何処からかレーザーサイトが……き、気のせいだよな? なっ!?)

 

 

 




・白菊ほたる
Lesson117以来の再登場。デレステの3Dモデル見たときから声無し組の中でもお気に入り上位。もうそろそろSSR来てくれてもいいんじゃよ?(チラッチラッ

・「植木鉢が良太郎の頭に直撃した!?」
ノ ル マ 達 成 !(やったぜ)

・原田美世
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。キュート。
車大好きドライバー系アイドルな20歳。デレマス二十歳組の一人。
こちらもLesson127からの再登場。この小説を書き始めた当初は彼女のことをよく知らなかったため、同級生として登場させられなかったという裏話。

・相良君
・『二子玉川の悪夢』
ふもっふ!

・周防桃子
『アイドルマスターミリオンライブ』の登場キャラ。Visual。ミリシタのタイプはFairy。デレマス的に言えば多分キュート。
年少組なれど芸歴最年長な先輩系11歳。時系列的は10歳。
低身長故に愛用の踏み台があるらしいのだが、ミリシタでそれが再現されている辺りに愛を感じた。

・おきらくごくらくー
・ウゴウゴルーガ
知らない人はお父さんかお母さんかウサミンに聞いてみよう! ちなみにリアルタイムは流石に作者も知らないぞ!

・道明寺歌鈴
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。キュート。
巫女+ドジっ子=大正義な17歳。茄子と同じく元旦生まれ。
本当はほたるとコンビで登場させるつもりだったのだが、これは本当に良太郎がタダでは済まなくなりそうだったので却下に。

・桜守歌織
『アイドルマスターミリオンライブ シアターデイズ』の登場キャラ。Angel。デレマス的に言えば多分キュート。
とても優雅で落ち着いた雰囲気漂う23歳。時系列的にはまだ22歳。
ついに稼働したシアターデイズより新たに加入した新キャラの内の一人。意外と子供っぽいところが見え隠れするところがチャームポイント。

・『童○を殺す服』
B88でこの服は、あーダメダメ、エッチすぎます。

・(い、今、何処からかレーザーサイトが……)
自衛官の父……ということで、二次界隈ではさっそくマジ恋のクリスのような扱いをされてしまうことに。



 というわけで各色の短編集二週目、トップバッターは赤色でした!

 二週目は声無組及びミリマス組をメインに書いていくことになります。

 ……まぁ、全部青と黄色を書く頃には、何人か実装されそうな雰囲気ですが。

 次回は本編に戻ります。楓さん回……にはならないかもなぁ……(主に常務のせいで)



『どうでもいい小話』

 大逆転! 友人の同伴で5thSSA初日参加決定! ヤッフー!

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