さて、346プロサマーフェスに向けてのシンデレラプロジェクトの夏合宿がついに始まったわけなのだが、朝から晩までユニット曲の練習を続けている内にあっという間の三日目の夜を迎えた。
今日の日程を終え、プロジェクトメンバーは夕食前に汗を流すべく浴場へと向かう。
流石に全員でお湯に浸かることは出来ないが、身体を洗う人とお湯に浸かる人で交代すれば全員で纏めて入ることが出来るぐらいにはこの民宿の浴場は広かった。
「あぁ~いいお湯だぁ~」
「本当ですね~」
「そうだね……」
未央と卯月に挟まれる形で、ニュージェネの三人並んで湯船に浸かる。
昼間から続いたレッスンで疲れ切った身体にほどよい暖かさのお湯が染み渡っていくような感覚が、思わず眠ってしまいそうになるぐらい気持ちが良かった。
しかし、そんな心地よさ以上に私の心は落ち着いていなかった。
「………………」
チラリと左隣の未央を見る。
「いやぁ、やっぱりおっきいお風呂ってのはいいよね~」
ググッと腕と足を大きく伸ばす未央。背中を反らすことでお湯から覗く胸の膨らみが強調される形になり、否応が無しにそこに視線が向いてしまう。
「………………」
チラリと右隣の卯月を見る。
「こうやって足を延ばしてゆっくりとお湯に浸かると疲れが取れますよね」
右の二の腕を左手で揉むようにマッサージをする卯月。本人にその意図は全く無いだろうが、両腕で胸を寄せ挙げるような形で出来上がった谷間にツツッと水滴が伝う。
「………………」
チラリと正面のみくを見る。
「ふにゃあ……寮のお風呂も大きいけど、こっちもなかなかいいにゃ~」
ぐでーっとお湯に浸かりながら上半身を湯船の縁に預けるみく。胸が押しつぶされる形になっているのでこちらに背中を向けているにも関わらずその柔らかそうな丸みが確認出来た。
「――凛ちゃんはどうですか?」
「……うん、そうだね、奴らを根絶するためには致し方ない犠牲だよね」
「『普段から銭湯とか大きいお風呂に行ったりしますか?』っていう話がどうやったらそんなに物騒な話になるんですか!?」
卯月からの質問の返しがいい加減なものになってしまったような気がするが、今はそんなことを気にしている余裕は無かった。
(……この格差は、何……)
一度プロジェクトメンバー全員のプロフィールを見せてもらったことがあり、一度見ただけなのに何故か覚えてしまっていたのだが、未央が84で卯月が83でみくが85だったはず。……ちなみに私は80だ。
数値だけで言えば、3から5という僅かな違い。けれどこうして実物を目の当たりにすると、それが途方もなく広い隔たりがあるようにしか思えない。
というか、三人とも私よりも背が低いのにも関わらず胸が大きいことに苦言を呈したい。みくに至っては私よりも10cm以上背が低い癖にサイズが5も違うせいでFカップだとかふざけているのか。
「おやおや~? しぶりんはさっきからどうしたのかなぁ~? もしかして、未央ちゃんのこのナイスバディーに見惚れちゃったかな?」
「……ふんっ!」
「あ痛っ!?」
スパーンッと高い音が浴場に響く。何処を引っ叩いたかは明言しないが、とりあえず見せつけてきた以上そこを狙うのは当然である。これで少しは縮めばいいのに。
いや、私だってそこまでスタイルが悪いわけではないのだが……。
「………………」
チラリと身体を洗っている美波と蘭子を見る。
「蘭子ちゃん、身体洗ってあげようか?」
「うむ! では我が翼を頼もうか!」
「……え?」
「翼……クルイロー?」
困惑しつつも蘭子の背中を流す美波と首を傾げるアーニャ。お風呂場で女の子同士とはいえ軽くタオルで身体を隠しているが、しっかりと隠しているわけではないのでチラチラと隙間から覗く胸や足が女性視点から見ても大変艶めかしかった。三人とも整った体つきの前では「私もスタイルは悪くない」という言葉がただの負け惜しみにしかならない。
蘭子はアレで中学生というのが信じられない。普段は割と緩やかな服装故に気付きづらいが、最近の中学生は発育がいいという一言で済ませていい問題ではない。
アーニャの胸は私と変わらないものの、透き通るように真っ白な肌はロシアの血か。お風呂で温まったことでほんのりと赤くなった肌に色気を感じる。
美波は一挙手一投足がとにかくアレである。アレなのだ。アレとしか言いようがない。むしろアレと表現することで心の平穏を保っている。
大変失礼と分かりつつもせめてこの場に智絵理や李衣菜がいれば少しは溜飲が下がっただろうが、李衣菜とキャンディーアイランド及び凸レーションの七人はおらず、このメンバーではただただ劣等感を覚えざるを得ないのだ。
「り、凛ちゃん大丈夫ですか……? もしかして湯当たりとか……?」
「……ふんっ!」
「二度目っ!?」
心配そうに顔を覗き込んできた卯月の胸が腕に触れたので、イラッとして思わず未央を引っ叩いてしまった。縮んでしまえ。
これ以上は私の精神が持たないと判断し、撤退ではなく明日への前進なのだという誰に対してなのか全く分からない言い訳を心の中でしながら私は一足先に上がることにする。
「それじゃ、私先に上がるから」
「は、はい……」
「二人とも、余分な脂がお湯に溶けるぐらいゆっくり浸かってくるといいよ」
「脂はお湯に溶けませんよ!?」
「しまむー突っ込むところはそこじゃないと思うよ!?」
軽くタオルで身体を隠しながら、素早くこの敵だらけの戦場から離脱を――。
「もう、お風呂はちゃんと入らなきゃダメだよ、杏ちゃん」
「杏ちゃんの髪の毛はぁ、きらりがワッシャワッシャ洗ってあげるにぃ!」
――脱衣所への戸を開けた途端、杏を伴ったプロジェクトメンバー最高戦力の二人が私の視界を覆った。
「うきゃ? 凛ちゃんはもう上がるのかにぃ?」
「民宿のおじさんとおばさんが、お風呂上りに冷えた麦茶を用意しておいてくれてるらしいよ?」
「………………」
「あ、凛ちゃん、やっぱり私たちも一緒に上がりますよ」
「おっと、しぶりん、理由は一切わかんないけどとりあえず振り上げた右手はゆっくりと下ろして……」
「……ふんっ!」
「二度あることは三度あるっ!?」
この苛立ちを口にすることなく未央を引っ叩くことで堪えた私を誰か褒めてくれてもいいと思う。縮め。
『……っ!』
曲の終わりに合わせて、全員が右腕を上げる最後のポーズを決める。しかしそこに辿り着くまでのステップが揃っていなかったため、腕を持ち上げるタイミングが揃わず、結果ダンスの決めポーズとしては見栄えのよろしくないものになってしまった。
「……うわぁ~疲れたぁ……」
「……電池切れた……」
曲が終わると同時に空気が弛緩し、その場に何人か倒れこむ。先ほどからずっと通しで踊り続けていたため、私も含めて全員が息も絶え絶えだった。
「……また揃わなかったねー……」
そうポツリと呟いたみりあちゃんの言葉が、その場にいた全員の心情を現していた。
――今度のフェスでは各ユニットの曲だけではなく、シンデレラプロジェクト全員での新曲を歌う。
それをプロデューサーさんから教わり、別件により今日の夕方まで不在となる彼の代わりに私がみんなに告げたのが昨日のことである。
合宿も既に三日目を迎え、全員のユニット曲の練習が順調に進む中で告げられたそれは、ついにメンバー全員で歌うチャンスが出来たと喜ぶ一方で、果たして今から練習をして間に合うのかという一抹の不安を抱くものだった。
現に合宿四日目の今日は朝から全体曲の練習を続けているのだが、一度も全員の振付が揃うことは無かった。元々二人や三人の振付のタイミングを揃えるので精一杯だった今の私たちに、いきなり十四人でタイミングを合わせるのはやはり少々難しい話だった。
「ほらしまむー、へばってる場合じゃないよ」
「は、は~い、頑張りま~す……」
未央ちゃんに促されて立ち上がる卯月ちゃんだが、やはり少しフラフラとしている。
「みんなも立って! もう一回頭からいこう!」
しかし未央ちゃんのその言葉に対し、全員の反応は乏しい。
「でもさ……これ、難しくない?」
「みんなバラバラで、全然合ってなかった……」
「だからもっと練習しなきゃ! じゃないとフェスに間に合わないよ!?」
「……このままやっても、エネルギーの無駄遣いな気がする」
「そ、それは……」
アスタリスクの二人の言葉に反論をした未央ちゃんも、杏ちゃんのその一言で閉口してしまう。
「……みんな、待って」
このままではいけないと思った私は、一先ず全員に休憩を告げるのだった。
「……ふぅ」
一人民宿に戻り、洗面所で顔を洗う。顔だけではあるが冷たい水で汗を流すことが出来てすっきりと気持ちよくなるが、それでも心の中には重い何かが残っている。
ふと一昨日の晩、合宿二日目の夜のプロデューサーさんとの会話を思い返す。
――私がみんなのまとめ役……。
――どうでしょうか。
――いえ、それはいいんですけど……全体曲のことが気になって。フェスまで時間が無いですし、今からだと大変じゃないかって……。
――……そうですね、確かに大変だと思います。……ですが、ただ参加するだけでなく、もう一歩、新しい階段を皆さんと登ってみませんか?
――………………。
――私は、その姿を見てみたいと思っています。
「………………」
期待をされている、ということなのだろう。私だけじゃなくて、メンバー全員が、プロデューサーさんから。
「……私がしっかりしなくちゃ」
「みんなー休憩終わり……って、何してるの?」
運動場に戻ってみると、何やら入口付近で莉嘉ちゃんとみりあちゃんが何かに向かってお祈りしていた。
「あ、美波ちゃん!」
「あのね、お祈りしたらみんなの振付が少しでも揃うかなって思ったの!」
二人の指差す先を見れば、そこにあるのは二枚の色紙。
一枚は765プロダクションのアイドル全員のサインが、もう一枚は周藤良太郎と天ヶ瀬冬馬さんのサインがそれぞれ書かれた色紙だった。
民宿の人の話によると、何でも去年の夏に765プロの皆さんもここで合宿を行ったらしく、その際にサインを置いていったそうだ。何故周藤良太郎と天ヶ瀬冬馬さんのサインまであるのかは知らないが、合宿初日にこれを見つけたときは小さな騒ぎになったのを思い出した。
――あれぇ!? これ、765プロのアイドルのサインだよ!?
――横のは周藤良太郎と天ヶ瀬冬馬のサイン!?
――同じ色紙に二人のサインが入ってるのって地味にレアなやつにゃ!
確かに、事務所のアイドル全員が仲睦まじいことで有名な765プロの皆さんのサインなら少しはご利益があってもおかしくはなさそうだった。
私もほんの少し、そんなご利益があればいいなと思いながら手を合わせて――。
「あはは……仲が良いって言ってもらえるのは嬉しいけど、流石にご利益までは無いと思うな」
「……え」
――後ろから聞こえてきたそんな声に、振り返る。
「お久しぶりです、美波さん」
「は、春香さん!?」
そこにいたのは、以前凛ちゃんたちが美嘉さんたちのバックダンサーを務めた際に、ライブ会場で偶然出会ったトップアイドルである天海春香さん。
そして、もう一人。春香さんの隣に立つ青みがかった黒髪の女性――。
「練習中にお邪魔して、ごめんなさい」
――765プロが……日本が誇る『歌姫』如月千早さんだった。
おまけ『隣の芝は青い』
(しぶりんの黒髪いいなぁ……)
(凛ちゃん、綺麗なストレート、羨ましいです……)
(あの髪質は羨ましいにゃ……)
(日本のお人形さん、みたい、です)
(凛ちゃんはどうやってお手入れしてるのかしら……)
(カッコいいなぁ……)
・CPのバストサイズ事情
スリーサイズと身長からカップ数を調べるのはPの嗜み。
まさか身長の関係から、きらりがCでみくがFだとは思いもよらなんだ……。
ちなみに同じく身長の関係でほぼスリーサイズが同じ李衣菜にカップ数で負ける凛ちゃんぇ……。
・「うむ! では我が翼を頼もうか!」
劇場405話より。うなじ及び肩甲骨のラインが実にセクシー。
・日本が誇る『歌姫』如月千早
詳しい解説は次回。
・おまけ『隣の芝は青い』
勿論他にも魅力は満載なのは当然だが、あの黒髪は是非推すべきところだと思う。
Q どうして凛ちゃんはこんなにヤサぐれてるの?
A 昔から兄のように慕っている良太郎の影響により『女性の一番の魅力は胸、次にスタイル』と無意識的に刷り込まれてしまったため。ついでに初恋のお兄さんの気を引きたかった幼い少女の淡い想いの残滓。
Q つまり?
A 全部良太郎のせい。
気が付いたら半分近く凛ちゃんが荒ぶっていた。
本当は後ろから蘭子の胸を揉む未央とかやりたかったけど、そっちはまた別作品かどなたか別の作者様にお任せすることにする(チラッチラッ
そして最後に登場765のレジェンド(一号二号並感)
今回彼女たちが選出された理由を残しつつ、次回合宿編ラスト(予定)です。