「はぁ~……我が子を見守る母親の気分だよ……」
「私も同じ気分……」
オープニングトークが終わって最初のミニゲームの準備のために休憩に入ると、観覧席の未央と私は心配でため息を吐いた。
ただ未央はかな子たち……特に智絵里が『これからちゃんと番組をやっていけるか』という心配に対し、私は良太郎さんが『これから川島さんたちにどれだけ迷惑をかけるのか』という心配だった。良太郎さんが出演するバラエティー番組はこれまで見てきたが、これまでは純粋に楽しんで見れていたのに、立場や視点が変わるだけでこうも心配になるとは思いもよらなかった。
「でも良太郎さん、楽しそうでしたよ?」
「楽しそうなのが問題なんだって……」
流石に他のアイドルの見せ場全てを奪うなんて真似はしないだろうけど、初バラエティー番組にして要求されるハードルの高さが急に跳ね上がったかな子たちは、本当に大丈夫なのだろうか。
・第一種目『風船早割対決』
「ルールは簡単。空気入れを使って相手チームの頭上にある風船を先に割った方が勝ちです」
「では対決前に、ご褒美をいただくためのポイントを王様から伺いたいと思いまぁす」
両チームが風船の下に置かれた空気入れの前に並ぶ中、先程の休憩中に持ち込まれた玉座に座る良太郎さんへ十時さんがマイクを向けた。
「そうだね。空気入れはハードな上下運動だから、こういい感じに胸揺れが――」
「はいそれじゃあ位置についてー!」
川島さんの賢明な判断で良太郎さんの言葉が遮られた。こういうやり取りはある意味良太郎さんのお約束なので、観覧席からは笑いが起こる。
「――個人的にはかな子ちゃんや友紀に期待したいところで……」
「切ったのに続けてますよこの人!?」
「スタート!」
「って出遅れました!?」
根は真面目故に律儀に良太郎さんに突っ込みを入れていた興水ちゃんが出遅れてしまったためかな子たちCIが少しだけ有利な状態で始まったが、しかしバラエティー慣れしているというか体力的なものもありあっという間にKBYDが逆転し、CIの頭上の風船が先に割れてしまった。
「「きゃあ!?」」
風船の破裂音に驚きへたりこむかな子と智絵理。杏は早い段階で諦め、しゃがみ込んで耳を塞いでいたので全く驚いていなかった。
「そこまで! 勝ったのは……KBYDチームでぇす!」
「勝った
「川島さん、
セットの液晶に表示されたKBYDの横に50と表示される。
「さて、それでは王様! ご褒美ポイントはどちらのチームに差し上げますか?」
「うーん、そうだね……まぁ最初だし、ここは順当にアイドルらしく可愛いリアクションを見せてくれたキャンディーチームに上げようかな」
「おっと敗れたキャンディーチーム、王様からのご褒美を頂けました」
「キャンディーチームに十ポイントが加算されまぁす」
私情というか趣味ではなく客観的に見てアイドルらしさを評価した辺り、お情けポイントに近いものがある気がした。しかし良太郎さんがアイドルらしいと賞してくれたおかげで三人に注目が集まったので、未央的に言えば「これはおいしい」らしい。
「はぁい、それでは罰ゲームでぇす」
そう言いながら何やら飲み物が注がれたコップをお盆に乗せてきた十時さん。
「負けたキャンディーチームにはこの健康茶を飲んでいただきます」
「……え、えっと、味は……」
「一気に飲んだ方がいいよ!」
青褪めるかな子に何やら経験者らしいアドバイスを送る姫川さん。その言葉に従い、かな子と智絵里は一気にお茶を飲み干し、かな子は「苦いですー!?」と叫び智絵里は涙目に。一方で杏は頑なに拒否することで観覧客の笑いを誘っていた。
「ナイスリアクション! いい感じだよ!」
そんな杏たちを称賛する未央。まぁ、バラエティー的にはこれが正解、というやつなのだろう。
その後何故か良太郎さんも健康茶を飲む羽目になり、地の底から響くような低い声でリアクションをしつつ自らのベストアルバム発売日の告知をするというリアクション芸の奥義(未央談)を披露するのだが、どうせ放映時にはバッチリ使われるだろうから私視点ではカットさせてもらう。
ここまでの得点
CI 10 VS KBYD 50
・第二種目『マシュマロキャッチ対決』
「続いての種目は、二人一組で参加してもらいます」
「一人がこのマシュマロバズーカで発射したマシュマロを、もう一人が口でキャッチすることが出来たらオッケー! 十回中何回出来るかを競ってもらいまぁす!」
「マシュマロ……!」
先ほど不味い健康茶を飲んだ時とは正反対に目を輝かせるかな子。良太郎さんほどではないけど、彼女は彼女で相変わらずのブレなささである。
「それでは、今回は特別に王様からデモンストレーションを承りたいと思いまぁす」
「王さんのデモンストレーション?」
「一本足で打ち返さないでキャッチして頂戴」
この物語はフィクションで実在の人物や団体とは関係ありませんと川島さんの注釈はよく分からなかったが、とりあえずまず始めに良太郎さんが実際にキャッチしてみる流れになった。
「それでは僭越ながら、あたしがマシュマロバズーカを発射させていただきまぁす」
「どうせ愛梨ちゃんに食べさせてもらうなら直接アーンをしてもらいたかったなぁ」
などと言いつつ腕を回したり屈伸をしたりと、実はこういうミニゲーム的なことが大好きなのでやる気満々な良太郎さん。
「行きますよぉ? それぇ!」
ポンッ! という音と共に、十時さんのバズーカからマシュマロが高くまで飛び上がった。
「任せろ! これぐらいの内野フライならば菊池ばりの鮮やかな捕球を見せてやろう!」
良太郎さんはそれに反応すると、驚くほど素早くその落下地点を予測して滑り込んだ。
そして頭上から落下してくるマシュマロから目を離さないまま、大きく口を開いて――。
「良太郎! バズーカの反動で愛梨ちゃんのスカートが
「何だって、それは本当かい!?」
――そのままバッと驚くぐらい素早く顔を前に戻した良太郎さんの頭の上に、ポフッと柔らかくマシュマロが落ちてきた。
『………………』
スタジオ内を沈黙が通り抜けた。
「……えっと、良太郎さん、マシュマロキャッチ失敗でぇす」
「……ユッキ貴様あああぁぁぁ!」
「わざわざ菊池の名前をチョイスする良太郎が悪いんでしょ!? 普通にそこはキャッツ的に坂本でいいじゃんか!」
「言い争いは収録後にお願いします」
この物語はフィクションで実在の人物や団体とは関係ありませんと川島さんの注釈はやっぱりよく分からなかったが、とりあえず良太郎さんのセリフが姫川さんのよく分からない逆鱗に触れて邪魔をされてしまったようだった。
「でもこれは不味いよしぶりん」
「良太郎さんの趣味嗜好が全国波に乗ることなら今さらだと思うけど」
「そっちじゃなくて」
未央曰く『良太郎さんというトップアイドルに物怖じせずに絡むことが出来ればそれだけカメラに映るチャンスが増える』とのこと。確かに未央の言うことにも一理あった。良太郎さんが映るところがカットされづらいならば、彼とのやり取りが多い方がカメラに映りやすいのは確かである。
「でも三人に良太郎さんに絡みに行けって言うのはハードルが高そうだよ」
杏はそもそもやる気が乏しいし、かな子と智絵里にもその積極さは微妙なところだ。そんなことが出来るようであれば、最初からバラエティーに苦難することはなかっただろう。
「良太郎さんから絡んでくれることを祈るしかないかぁ……」
そんな未央の心配そうな呟きを余所にゲームは進んでおり、結局マシュマロキャッチ対決は両者十回中二回成功の引き分けに終わり、それぞれのチームに十ポイントが入った。
引き分けなので両者ともに罰ゲーム無しと喜んだのは束の間、王様のご褒美ポイントが『先程転んだ時のヘソチラが可愛かった』という理由でキャンディーチームに十ポイントが入り、ヘソチラした本人であるかな子は大変恥ずかしそうにしていた。これはこれでアイドル的にはアリ……なんだと思う。
「………………」
ここまでの得点
CI 30 VS KBYD 60
・第三種目『ファッション対決』
さて、アイドルの私服をチェックしてより可愛らしい方が勝ちなこの対決。この対決にはご褒美ポイントが無く、良太郎さんが審査員となって勝敗を決めるのだが……。
「はい、小早川紗枝ちゃんの勝ちー」
(だろうと思った)
KBYDから選ばれた小早川紗枝ちゃんが着て来た私服は、彼女の学校のセーラー服だった。普段着物ばかり着ている彼女の洋服姿がとても新鮮で、「今日は学校から直接現場に来たから」と顔を手で覆って恥ずかしがる様が大変可愛らしかった。
一方、CIから何故か選ばれた杏の私服は、まさしく普段から彼女が事務所でも着ている私服。つまり『働いたら負け』Tシャツとスパッツという格好だった。こんな格好でカメラの前に出てきてあまつさえドヤ顔さえ浮かべる杏には鉄の意志と鋼の強さを感じた。
「いやまぁネタ的には間違いなく杏ちゃんなんだけど、だからといってここで杏ちゃんを選ぶのは色々と間違ってる気がしたから」
というか君も俺並みにブレないねと良太郎さんも感心した様子だった。
「よし! これはおいしい! 良太郎さんの興味を引けたよ! これは試合に負けて勝負に勝ったよ!」
それにしても今日の未央は本当に何ポジションなのだろうか。
ちなみにここまで卯月の台詞がほとんど無いが。
「わー! 紗枝ちゃんの制服可愛かったですけど、杏ちゃんも可愛かったですよー!」
先程から普通に観覧客になっていたりする。
ここまでの得点
CI 30 VS KBYD 110
「さて、次の種目が今回のラストゲームになります」
「キャンディーチームが大きく引き離されてしまいましたが、次の種目では一発逆転のチャンスがありまぁす!」
「勝てばアピールタイムをゲット! 但し負けたチームには罰ゲームとして……こちら!」
そう川島さんが合図を出すと、スタジオのモニターに綺麗な渓谷と……その間から空に飛び出す人影が映し出された。
「美しい自然の景色を楽しみながら、バンジージャンプ をしていただきぁす!」
『うわぁ……!?』
そんな過酷な罰ゲームの発表に、両チームとも嫌そうなリアクションが上がる。
「おぉ、楽しそう」
一方の王様はそんな罰ゲームに興味津々だった。なんか罰ゲームの時にまで付いてきて一人で勝手に飛びそうである。
「勝負は大詰め! 果たして栄光のアピールタイムを手にするのはどちらのチームか!?」
・「こういい感じに胸揺れが――」
良太郎@生き生き。こいつこんなキャラだったなぁと再認識。
・「王さんのデモンストレーション?」
・「一本足で打ち返さないでキャッチして頂戴」
スーパースターな背番号一の凄い奴(サウスポー並感)
・菊池
・坂本
この作品はフィクションなのでノーコメントで。
・「ToLOVEるな感じに!」
ララヒロイン時代しか知らない作者。今はお母さんがエロいことぐらいしか分からない。
・「何だって、それは本当かい!?」
これも全部、乾巧って奴の(ry
・鉄の意志と鋼の強さ
クロワッサンのデュエルはもうないんだろうなぁ……。
ところで決闘者の皆さん、次元箱は予約できましたか……?(震え声)
仕事中死にかけてましたが、何とか帰ってこれました(白目)
頭痛&腹痛&熱&吐き気で一時間も高速道路なのでリアルで死を覚悟しました。
それはそうと、また予定内に終わりませんでした……次回は三周年記念するつもりだったのに……。
予定はずれ込んでしまいましたが、次回終了予定です。