アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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さっそくのお便りとアンケートありがとうございました。
他の方も気が向いたらでいいのでよろしくお願いします。


Lesson139 Panic in the muscle castle 2

 

 

 

「ん?」

 

「お」

 

 とある日のテレビ局。番組の打ち合わせを終えて何処かで茶でも飲んでから次の現場に行こうかと廊下を歩いていたら良太郎と出くわした。

 

「なんだ、今日はお前もここで仕事だったんだな」

 

「そういうお前こそ」

 

 所属が同じで事務所にはアイドル全員のスケジュールがホワイトボードに書かれているとはいえ、互いに多忙なアイドル故にそれぞれの仕事を全部把握しているわけではない。

 

 だからこうして知らないうちに仕事の場所が一緒になっていたということは少なくなかった。

 

 別に何も示し合せたわけではないが、何となく並んで歩く。

 

「お前も何か収録?」

 

「いや、俺は打ち合わせだ。お前は収録なのか?」

 

「おう。一応サプライズゲスト的な立ち位置らしいから何の番組に出るのかは知らんが」

 

「そうか。……は? ()()()()?」

 

 サラッと流しそうになったが、こいつ割と凄いこと言ったぞ。

 

「何、お前に対するサプライズなのか?」

 

「いや、俺と番組出演者両方に対するサプライズらしい」

 

「どういうことだよ……」

 

 スタッフが前もってサプライズだと伝えるサプライズが何処にあるというのか。

 

 普通ならば逆にサプライズと知ってしまった上でのリアクションを期待されているかヤラセを疑うかの二択だが、こいつの場合はそのどちらでもないような気がする。寧ろ『周藤良太郎』に対してサプライズを仕掛けることを恐れたスタッフが思わず漏らしてしまった、と言われた方が納得できる。

 

「内容は分からないが、久しぶりにサプライズな仕事。これは気合も入るってものだ」

 

「やめろ気合を入れるな」

 

 グッと拳に力を入れる良太郎は相変わらず無表情なものの目が輝いているような気がして思わずため息が漏れそうになる。

 

 思い出すのは、大体二年ぐらい前の芸能人事務所対抗大運動会。当時はまだフリーアイドルだった良太郎が本当にいきなり現れてゲリラライブを行った時の衝撃はとても忘れられそうにない。

 

 世間一般的に言えば『周藤良太郎』がサプライズで登場することは非常に嬉しいことなのかもしれないが、それは第三者から見た場合であって当事者は全く嬉しくないのがこいつなのだ。

 

「サプライズで内容知らないからリハもねーけど、そろそろ入りの時間だから行くわ」

 

「自重しろよー」

 

 楽しそうに手を振りながら去っていく良太郎の背中を見つつ、まだ見ぬ共演者へ同情してしまうのだった。

 

「きゃっ!?」

 

「っと」

 

 そんなことを考えながら歩いていると、角を曲がったところで人とぶつかってしまった。

 

「ご、ごめんなさい!」

 

「あ、いや、こっちも悪かった……って、島村か?」

 

「あ、天ヶ瀬さん!?」

 

 凄い勢いで頭を下げてきたのでこちらも謝ると、よくよく見たら島村だった。

 

 何故だろう、良太郎の街中でのアイドル遭遇率ほどではないが、俺はこうしてアイドルとぶつかりながらエンカウントする確率が高い気がする。

 

「こうして顔を合わせるのは養成所以来になるか? ……あぁ、一応北沢(アイツ)のデビューステージも顔を合わせたことになるか。目が合っただけだが」

 

「お、お久しぶりです!」

 

 面白いぐらいにペコペコと頭を下げる島村。

 

「一応先生の方から話は聞いてたが、こうしてテレビ局の廊下で鉢合わせるってことは一応デビュー出来たみたいだな」

 

「はい! あの時はお世話になりました!」

 

「そんなこと言われるほど何もしてねーよ」

 

 本当にただ気まぐれに振付のダメ出しをしてやっただけなのに、随分と律儀なものである。

 

 そんな島村の後ろから、茶髪のセミロングの少女が飛び出してきた。先ほどから島村の後ろにいた二人の内、ずっと目をキラキラとさせていた方である。

 

「はいはい! 私しまむーのユニットメンバーで『new generations』のリーダーをやらせてもらってます! 本田未央と言います! よろしくお願いします!」

 

「お、おう」

 

 わー本物の天ヶ瀬冬馬さんだーと握手を懇願されたので右手を差し出すと、ギュッと両手で握られた。スキンシップに躊躇がない感じが、ウチの事務所の所を彷彿とさせた。

 

「えっと、同じくユニットメンバーの渋谷凛です。よろしくお願いします」

 

「あぁ」

 

 さらにもう一人、島村の後ろにいた二人の内、驚いた様子で目を丸くしていた方がペコリと頭を下げた。こちらはウチの事務所の北沢を彷彿とさせたが、アイツよりは少し柔らかい印象を受ける。

 

(……この人が、天ヶ瀬冬馬さん)

 

 そんな渋谷の目を、俺は見たことがあった。

 

 そう、その目はまるで――。

 

 

 

(……良太郎さんの話を聞くに、色々と大変なんだろうなぁ……)

 

 ――可哀想なものを見る目だった。

 

 

 

 何故だ。何故こいつは『初対面の時にいきなり「お前も苦労しているんだな」と肩に手を置いてきた恭也』と同じ目をしているんだ。

 

 ……まぁ、今は気にしないでおこう。

 

「それで、こんなところにいるってことはテレビの出演でも決まったか?」

 

「あ、いえ、今日はお仕事じゃなくて、同じ事務所に所属している同期の子が初テレビなので、その応援なんです」

 

 話を聞くに、今こいつらが所属している346プロダクションのシンデレラプロジェクトという企画のメンバーが今日初めてテレビ番組に出演するらしく、特別に関係者フロアにある楽屋へと向かう途中だったらしい。

 

「ふーん……まあいい。折角デビューしたんだ、お前も早くテレビデビュー出来るといいな」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 再び頭をペコペコと下げる島村。……他のユニットメンバーが所と北沢に似てる一方、こいつと佐久間は似ているどころか完全に俺に対する態度が真逆だった。

 

 というか、佐久間が良太郎以外に対して塩対応なのがそもそも問題な気もするが、よくよく話を聞いてみると他の奴らには割と普通の態度なのが全く解せない。あれ、もしかして俺だけ?

 

 そんな疑問を抱きつつ、失礼しますと去っていく島村たちの背中を見送るのだった。

 

「……あ、周藤良太郎がこのテレビ局にいるぞって教えてやった方が良かったか……?」

 

 ……まぁ、いいか。別にあいつらと関わりがあるわけじゃねーし。

 

 

 

 

 

 

「え、えっと、徳川十五代将軍は、家康、秀忠、家光、家綱……」

 

「カエルさん、カエルさん、カエルさん……」

 

(……ベクトルは違うけど、二人とも緊張してるなぁ)

 

 ブツブツと呟くかな子ちゃんと智絵里ちゃんを横目に見つつ、そんなに緊張することないと思うけどなぁとまるで他人事のように考えてしまう自分がいた。

 

 今日はついに不本意ながら迎えてしまった杏たちキャンディーアイランドの初テレビ出演の日。早くから楽屋入りした私たち……というかかな子ちゃんと智絵里ちゃんは、それぞれクイズに出てきそうな一般教養の復習と昨日未央が言っていた「お客さんはかぼちゃだと思えばいい」という言葉を元にアレンジされた緊張しないおまじないを繰り返し呟いていた。

 

 ……かな子ちゃんはともかくとして、智絵里ちゃんの四つ葉のクローバーを両手で持ってただひたすら「カエルさん」を連呼している様は、正直怖かったりする。あの、せめて瞬きしない?

 

「……くわぁ……」

 

 本当だったら自分の部屋に籠ってバックレるつもりだったのだが、合鍵を渡してしまったきらりによって強制的に連れ出されてしまった。寝ていたところをそのまま担いで連れてこられたのでまだ眠い。

 

 まだ時間はありそうだし、一眠りしよう。そう思って目を瞑ろうとしたが、突然楽屋の扉が開かれた。

 

 

 

「遅ればせながら、カワイイボクの到着ですよ!」

 

 

 

「「……えっ?」」

 

「……何事?」

 

 目を開けて入口に目を向けると、そこには白いワンピースに白い帽子を被ったサングラスの少女。

 

「いやぁ、前の現場が押しちゃって。これもボクがカワイイおかげですねぇ」

 

 などと言いながらサングラスを外したその少女は、まぁ言動から何となく予想がついてたけど事務所の先輩である輿水幸子ちゃんだった。

 

「興水幸子ちゃんだ……!」

 

 それまでブツブツと集中していたかな子ちゃんと智絵里ちゃんも顔を上げる。

 

「……あ、あれ?」

 

 そんな幸子ちゃんは、楽屋にいる杏たちの姿を確認すると何故か狼狽えていた。

 

 ……あ、もしかして入ってくる楽屋を間違えた?

 

「何してはるんどすか、幸子はん?」

 

「もしかして、楽屋間違えちゃったー?」

 

 そんな幸子ちゃんに続いて楽屋に入ってくる影が二つ。確かに今日の番組で共演する幸子ちゃんが所属するバラエティーユニットのメンバーで、小早川(こばやかわ)紗枝(さえ)ちゃんと姫川友紀さんだったっけ。

 

 千客万来だなー寝かせてよー。

 

「そそそ、そんなわけないじゃないですか! こ、これはあれですよ、今回共演する新人さんたちにアドバイスをしてあげようと思っただけで……!」

 

「ふふ、そういうことにしときましょ」

 

「ぐぬぬ……!」

 

 はいはい分かってますよと優しい目の紗枝ちゃんに、恥ずかしさからぐぬる幸子ちゃん。まぁ、知り合いのいる部屋へ自信満々に入ったと思ったら別の人の部屋だったのだから無理もない。小学生の頃に間違えて別の教室に入っちゃった時のことを思い出したよ。

 

「えっと、今日一緒に出演する新人さんだよね? 今日はハードな収録になるだろうから、気合い入れていこーね!」

 

 そう言いながらガッツポーズをする友紀さん。

 

「……え、ハード?」

 

「く、クイズ番組なのにですか?」

 

 そんな友紀さんの言葉に、かな子ちゃんと智絵里ちゃんが首を傾げる。

 

 確かによくよく見てみれば、先程到着したばかりらしい幸子ちゃんは別として、紗枝ちゃんと友紀さんは『KBYD』という名札を付けた体操服を着ていた。

 

 ……紗枝ちゃんはともかく、紛いなりにも二十歳(はたち)の友紀さんに違和感がない辺り、やっぱり童顔だよなぁと思う。まぁきらりと同い年のくせしてみりあや莉嘉と同年代に見られてた杏が言えた話ではないけど。

 

「あれ、聞いてないんですか?」

 

「今回から体を使ったアクションバラエティに変更になったんだよ?」

 

「「……えぇっ!?」」

 

 友紀さんの口から告げられた割と重要な事実に、かな子ちゃんと智絵里ちゃんは驚愕の声を上げた。

 

(……はぁ、めんどーなことになった……)

 

 一方杏は寝て覚めたら全てが終わっていることに一縷の望みを賭けて、いつものウサギを枕にして目を閉じるのだった。

 

 

 




・サプライズと知ってしまった上でのリアクションを期待されているか
???「ドッキリ100連発かよ~!」

・小早川紗枝
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。キュート。
京言葉と着物が似合う(意味深)純和風黒髪お嬢様な15歳。
方言って可愛いんだけど難しいんだよなぁ(書き手並感)



 今回多くは語らず。

 次回、良太郎の暴走が始まる。

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